プテラノドン

プテラノドンは、白亜紀後期（約8,500万〜7,000万年前）に北アメリカ大陸を中心に生息していた翼竜の一種です。名前の由来はギリシャ語で「翼（pteron）」と「歯がない（anodon）」を意味し、「歯のない翼」という意味を持ちます。その名の通り、他の翼竜と異なり歯がなく、魚を主食として海岸や浅瀬の上空を滑空していたと考えられています。

翼を広げると最大で7メートルにも達し、現代の鳥類と比べても圧倒的な大きさを誇りました。頭には後方に長く伸びた「トサカ（頭冠）」があり、これは飛行時のバランスを取るため、あるいはオス同士の誇示行動に使われたとされています。プテラノドンは恐竜ではなく、恐竜と同時代に生きていた「翼竜類」に分類される爬虫類の仲間です。

プテラノドンは白亜紀後期の温暖な沿岸地域に生息し、主に魚を食べて暮らしていたと考えられています。軽量な骨格と大きな翼を持ち、滑空によって効率的に長距離を移動していました。現代のアホウドリやペリカンのように、上昇気流を利用して海上を長時間飛び回り、海面近くで魚を捕らえていたと推測されています。

歯のない長いクチバシは魚をつかむのに適しており、空中から急降下して獲物をついばむ行動が想定されています。また、頭部の後ろに伸びた特徴的なトサカ（頭冠）は、飛行時のバランスを取るための役割のほか、性別や個体識別、求愛行動にも関係していた可能性があります。

繁殖については、崖や海岸線に巣を作り、卵を産んでいたと考えられていますが、直接的な化石証拠はまだ見つかっていません。地上では四足歩行をしていたとされ、翼をたたんで前肢を支えにしながら移動していたと推定されています。

プテラノドンは、約2億3000万年前に登場した最初期の翼竜から進化したグループの一種で、白亜紀後期に繁栄しました。初期の翼竜である「ランフォリンクス」などの種は、尾が長く、歯を持っていましたが、プテラノドンの時代にはこれらの特徴が失われ、より効率的な飛行に適応していきました。

長い尾が退化し、代わりに頭部に大きなトサカを持つようになったのは、飛行中のバランスを取るための進化的変化だと考えられています。また、歯を失うことでクチバシが軽量化し、滑空能力が向上しました。このように、プテラノドンは空を支配するための「究極の軽量化」を遂げた翼竜の完成形といわれています。

白亜紀末の大量絶滅（約6600万年前）によって翼竜全体が絶滅しますが、その後の時代に鳥類が進化し、空の支配者の座を引き継ぎました。したがって、プテラノドンは現代の鳥の遠い“空の先祖”とも言える存在です。

① プテラノドン・ロングケプス（Pteranodon longiceps）

最も代表的な種で、現在「プテラノドン」と言えばこの種を指します。翼開長は約7メートル。後方に長く伸びた大きなトサカを持ち、オスでは特に顕著でした。主に北アメリカ・カンザス州の白亜紀後期の地層から多くの化石が見つかっています。

② プテラノドン・ステルンベルギ（Pteranodon sternbergi）

ロングケプスに近い種ですが、トサカが上方に伸びており、形状が大きく異なります。発見当初は同属とされましたが、後に一部の研究者によって「ゲオステルンベルギア（Geosternbergia）」という別属に分類されることもあります。

③ ゲオステルンベルギア・ステルンベルギ（Geosternbergia sternbergi）

「プテラノドン属」から分けて独立させる分類が現在主流になりつつあります。翼竜の多様化の一例であり、地域や年代によって形態に差があることがわかっています。

④ 他の近縁種

プテラノドンに近い翼竜として「ニクタザウルス（Nyctosaurus）」が知られています。こちらも白亜紀後期の北アメリカに生息し、より長い頭部の突起を持つなど独特な姿をしていました。