業務への組み込み例

アレルゲン表示の抜けを出す前に止める。規格書をAIで読み配合表と照らす

この記事で変わる経営指標

この記事では、小さな食品工場の記録と表示をAIで回す。人を増やさず品質を守る方法の「表示の点検は、配合表と規格書をAIが読み、表で照らす」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、新商品や配合の変更のたびに、使う原材料の規格書のPDFからAIが原材料とアレルゲンを読み取り、社内の特定原材料等の表と、表示の案を計算で照らして、食い違いに印を付ける。品質の担当者は、印の付いたところを規格書の原本で確かめて、表示を決めるという形です。規格書を1枚ずつめくって見比べる時間が減り、見落としを出す前に止める確認が1つ増えます。

今は表示の点検が、品質の担当者の頭の中で行われている

消費者庁のハンドブック(2026年4月版)によると、容器包装された加工食品などは、特定原材料9品目(えび、カシューナッツ、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生)を含む場合の表示が義務で、ほかに20品目(特定原材料に準ずるもの)の表示が勧められています(群馬県の案内でも同じ品目と数が示されています)。2026年4月1日からはカシューナッツが義務の品目に加わり、表示の切り替えには2028年3月31日までの経過措置の期間があります(名古屋市、群馬県の案内)。

ハンドブックが示す表示の作り方は、次のような手順です。

  1. 原材料を配合量の多い順に並べた表を作る
  2. 原料メーカーから入手した規格書などから、複数の原材料でできた原材料(複合原材料)を抜き出す
  3. 原材料ごとに、含まれる特定原材料等を書き出す
  4. 表示の方法(原則は原材料ごとに書く個別表示)を決めて、表示を作る

多くの小さな工場では、この手順を品質の担当者や工場長が1人で行っています。新商品や配合の変更があるたびに、規格書を1枚ずつ読み、手元の表に書き写し、表示の案と見比べます。親の記事では、仮に1件60分、月10件で月10時間と見積もりました。

手間に加えて、見落としが起きやすい理由があります。ハンドブックは、名前だけでは分からない特定原材料等があることを例で示しています。粒状にするために小麦グルテンが加えられた粒状植物性たんぱく、大豆が含まれていることがある乳化剤(グリセリン脂肪酸エステルなど)です。ハンドブックは、複合原材料の中の特定原材料等の有無は「規格書等で必ず確認する習慣をつけてください」としています。

規格書を集め、AIが読み、計算で照らし、人が決める

配合表と原材料の規格書のPDFを1つのフォルダに集め、AIが原材料ごとに含まれるアレルゲンを抜き出す。社内の特定原材料等の表と表示の案を計算で照らし、食い違いは赤くなる。品質の担当者が赤い行から規格書の原本で確かめ、確認済みの表示だけが版下やラベルに進む
配合表と原材料の規格書のPDFを1つのフォルダに集め、AIが原材料ごとに含まれるアレルゲンを抜き出す。社内の特定原材料等の表と表示の案を計算で照らし、食い違いは赤くなる。品質の担当者が赤い行から規格書の原本で確かめ、確認済みの表示だけが版下やラベルに進む

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:配合表と規格書を1つの場所に置く。 商品ごとのフォルダに、配合表(原材料と配合量の表)と、使う原材料すべての規格書のPDFを置きます。規格書は、原材料ごとに1つの保存場所で管理し、仕入れ先から新しい版が届いたら差し替えます。古い版は消さずに、受け取った日を付けて残します。

2. 読む:AIが規格書から原材料とアレルゲンを抜き出す。 AIが規格書を1つずつ読み、「原材料の名前」「その中に使われている原材料(複合原材料の中身)」「含まれる特定原材料等」「規格書の版と日付」を表にします。規格書に書かれていないことは「記載なし」とし、読み取りに自信がない箇所には「要確認」と付けます。

3. 照らす:社内の表と、表示の案を計算で照らす。 ここから先は計算です。社内で持つ特定原材料等の一覧(義務の9品目と、表示が勧められている20品目。自社で表示する範囲も決めておく)と、AIが読み取った表を照らし、商品に含まれる特定原材料等を集めます。それを表示の案と比べ、次のものを赤くします。

  • 規格書にあって、表示の案にないもの
  • 表示の案にあって、どの規格書にもないもの
  • 規格書が「記載なし」や「要確認」のもの
  • 規格書の日付が古く、仕入れ先に新しい版を確かめるべきもの

4. 確かめる:品質の担当者が赤い行を原本で確かめ、表示を決める。 品質の担当者が、赤い行から規格書の原本を見て、表示を直すか、仕入れ先に問い合わせるかを決めます。確認済みにした表示だけが、版下やラベルの作成に進みます。

規格書の読み方をスキルにし、照らすのはAIの外で行う

この仕組みが正しく動くかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の照らし合わせで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

規格書の読み方と表示の決まりを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 規格書の読み方。 仕入れ先ごとに形が違う規格書の、どの欄にアレルゲンが書かれているか。過去に読み違えた規格書の例
  • 名前から分からない原材料の例。 粒状植物性たんぱく、乳化剤、調味料など、中身を規格書で確かめる原材料の一覧
  • 書いてはいけないこと。 規格書に書かれていないアレルゲンを、名前から推測して足さない。ハンドブックによると、「入っているかもしれない」といった単なる可能性を表示することは禁止されています。AIの推測が表示に入らないよう、推測は「要確認」として人に回します

品目の一覧と、照らし合わせは、AIに持たせない。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは次の3つがそれに当たります。

  • 特定原材料等の一覧を、社内の表として持つ。カシューナッツのような追加があれば、その日に表を直す。AIの記憶に頼らない
  • 規格書の読み取りと表示の案を、表と計算で照らす。食い違いを見つけるのは計算で、AIではない
  • 原材料ごとに、どの商品で使っているかを表で持つ。ある原材料の規格書が変わったら、その原材料を使う商品をすべて計算で洗い出し、点検に回す

最後の点は、カシューナッツの追加のような制度の変更のときに効きます。社内の一覧に1品目を足せば、規格書にその品目がある原材料と、それを使う商品の一覧が、計算ですぐに出ます。

品質の担当者の仕事は、赤い行を原本で確かめることになる

仕組みが入ると、新商品や配合の変更のときの流れは次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
規格書を読む 1枚ずつ開いて、手元の表に書き写す AIが読み、原材料とアレルゲンを表にする
見比べる 表示の案と、頭の中や手元の表で見比べる 計算で照らし、食い違いが赤くなる
見落とし 疲れているときや急ぎのときに起きやすい 赤い行を原本で確かめる。赤くない行も一覧で見直せる
仕入れ先の変更 どの商品に関わるかを思い出して探す 原材料からその商品の一覧が計算で出る
記録 担当者の手元に残る 規格書の版と、確かめた人と日付が表に残る

ハンドブックによると、保健所などは、原材料や製品の仕入れのときに販売元から特定原材料等の有無の情報を受けているかを、関係する書類から確かめることがあります。規格書の版と、表示を確かめた記録が1つの表に残っていれば、そのときにすぐに出せます。

経営への効果は、点検が速くなり確認が1つ増えること

効果は、前提を置いて計算します。親の記事と同じく、仮に新商品と配合の変更が月10件あり、1件の点検が60分から20分になるとします。浮く時間は月約6.7時間です。1時間あたりの人件費を仮に2,500円とすると、月約1万7,000円分です。

ただ、この仕組みの価値は、時間よりも見落としの手前に確認が1つ増えることにあります。表示の誤りが出荷後に見つかれば、商品の回収や、取引先への説明、お客様の健康被害につながりかねません。ハンドブックも、ラベルの貼り間違いの事例を挙げ、表示を何度か確かめる機会を設けることや、正しい知識を持つ人が確かめる体制が事故の防止につながるとしています。人の確認を1回から、計算の照らし合わせと人の確認の2回にするのが、この仕組みの役目です。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は1商品20円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 原材料ごとの規格書を集めて、保存場所を決める(社内:品質の担当者、1〜2日。仕入れ先に新しい版を頼むと数週間かかることがあります)
  2. 社内の特定原材料等の一覧と、原材料と商品の対応表を作る(社内:品質の担当者、1日)。ここがいちばん効きます
  3. 規格書の読み取りと、表への書き出しを作る(作る人、1.5人日)
  4. 照らし合わせと赤い行の印、原材料の変更からの商品の洗い出しを作る(作る人、1.5人日)
  5. 過去の商品10件ほどで試して直す(作る人、1人日)。表示がすでに正しいと分かっている商品で、赤い行が正しく出るかを確かめます

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計4人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 規格書の読み取りごとにかかる 1商品20円ほど、月10件で200円ほど(下の計算)
保存場所 すでに使っているクラウドの保存場所 追加0円の想定
保守 品目の一覧と対応表の更新、スキルの見直し 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1商品あたり、規格書15枚とスキルを合わせて4万8,000トークンを読ませ、3,000トークンを書かせると見積もると、約0.126ドル、1ドル150円で約19円です。月10件で200円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が25万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)が3,000円とすると、上の月約1万7,000円の効果では、およそ18か月です。時間だけで見ると長めです。商品の数や配合の変更が多い工場ほど短くなります。それに加えて、見落としを止める確認が1つ増えることを、費用に見合うかの判断に入れてください。

必要な人は3役で、表示を決めるのは品質の担当者

役 誰が すること 時間
規格書をそろえる人 仕入れの担当者 仕入れ先から規格書の最新の版を受け取り、保存場所に置く 1件5分
確かめて決める人 品質の担当者 赤い行を原本で確かめ、表示を決める。仕入れ先に問い合わせる 1商品20分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 読み取り、照らし合わせ、洗い出しを作る 最初の4人日

いちばん大事なのは、規格書が最新の版でそろっていることです。仕入れ先が原材料の作り方を変えたのに、古い規格書のままだと、計算も人も正しく確かめられません。仕入れの担当者には、「原材料の仕入れ先や品番が変わったら、規格書を先にもらう」と決めておきます。

1か月で新商品の点検に使え、半年で全商品の表がそろう見込み

どこまでいけるかは、規格書がどれだけそろっているかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 新商品と配合の変更の点検に使い始める。規格書の形の違いで「要確認」が多く、スキルに読み方を足していく
3か月 主な原材料の規格書と、原材料と商品の対応表がそろう。仕入れ先の変更のときに、関わる商品がすぐに出る
半年 今ある全商品の表示を、表で一度見直し終える。制度の変更があっても、一覧を直せば関わる商品が分かる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 1件の点検にかかった時間:1か月だけ、点検にかかった時間を書き留めます
  • 出す前に見つかった食い違いの件数と、その理由:規格書の読み違い、表示の案の書き漏れ、規格書の古さに分けて数えます
  • 規格書が最新の版でそろっている原材料の割合:対応表で数えます

推測を表示に入れたり、確かめずに版下へ流すと失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • AIの推測を表示に入れる。 「〇〇には小麦が入っていることが多い」というAIの推測を表示に入れると、規格書の裏付けのない表示になります。推測は「要確認」として人に回し、仕入れ先に確かめます
  • 確かめずに版下やラベルに流す。 赤い行がなくても、新商品の表示は品質の担当者が一度目を通してから進めます。計算で見つかるのは、表に入った情報の食い違いだけです
  • 品目の一覧を更新しない。 制度の変更があったのに社内の一覧が古いままだと、計算は古い決まりで照らし続けます。消費者庁の発表を見て、その日に一覧を直します
  • 製造の現場の混入を、表示の点検で済ませる。 製造ラインの洗浄や、同じラインで作る商品からの混入を防ぐことは、表示の点検とは別の、衛生管理の仕事です。この仕組みは、規格書と表示の食い違いを見つけるためのものです

規格書には、仕入れ先の配合など、取引先から預かった情報が入っています。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 新商品や配合の変更のたびに、規格書のPDFからAIが原材料とアレルゲンを読み取り、社内の特定原材料等の表と表示の案を計算で照らし、食い違いを赤くする。品質の担当者は赤い行を原本で確かめ、表示を決める
  • 表示が義務の特定原材料は9品目、表示が勧められているものは20品目。2026年4月からカシューナッツが義務に加わった。名前だけでは分からない特定原材料等があり、規格書で必ず確かめる
  • 品目の一覧と、原材料と商品の対応表はAIに持たせず、社内の表で持つ。制度の変更や仕入れ先の変更のとき、関わる商品が計算ですぐに出る
  • 作る費用の目安は4人日、AIの利用料は1商品20円ほど。時間だけで見ると取り戻すのに約18か月かかるが、見落としの手前に確認が1つ増える
  • AIの推測を表示に入れない。可能性だけの表示は禁止されている

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