導入とお金

AIの開発を外に頼む前に、A4で1枚にまとめること。見積がぶれない頼み方

この記事で変わる経営指標

この記事では、AIを使った仕組みの開発を外の会社に頼むときに、頼む前に社内で決めておくことと、頼み方を説明します。一言でいうと、「どの業務の、どこを、どれだけの量、どこまでの正確さで」をA4で1枚にまとめ、入力と出力の見本を10件つけて渡し、まず見本50件で試す段階から頼むという話です。その結果、会社ごとに見積が大きくぶれることが減り、作ってから「思っていたのと違う」と作り直す無駄を防げます。

外注の成否を決めるのは、開発会社の腕だけではありません。頼む側が、自社の業務の中で「何が正解か」を見本で示せるかどうかで、見積の確かさも、出来上がりの質も決まります。

経営への効果は、見積のぶれと作り直しの費用を防げること

AIの開発の頼み方は、準備をすると次のように変わります。

準備なしで頼む A4と見本をそろえて頼む
頼み方 「AIで見積を楽にしたい」と口頭で伝える 業務・量・見本・許せる間違い・予算をA4で渡す
見積 会社ごとに大きくぶれる。何が入っているか比べられない 同じ前提で出るので比べられる
進め方 いきなり本番を作る 見本50件で試し、使えると分かってから作る
作ったあと 「思っていたのと違う」で作り直し 試しの段階で外れが分かり、止められる

効果は、作り直しにかかる日数で考えます。

防げる費用 = 作り直しにかかる人日 × 1日あたりの単価

仮に、試しの段階に5人日、本番の開発に15人日かかるとします。準備なしで本番から作り、使ってみて精度が足りないと分かれば、15人日分を払ったあとで作り直しになります。見本50件で試す段階を先に置けば、5人日で「この方法では使えない」と分かり、15人日を払う前に止めるか、方法を変えられます。

AIの開発は、やってみないと精度が分からない

AIを使った仕組みの開発は、ふつうのシステムの開発と違うところがあります。作る前に、どれだけ正しく動くかを約束できないことです。

経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」では、AIの開発を、アセスメント(できそうかを見る)、PoC(試しに作って確かめる)、開発、追加学習(動かしながら良くする)の段階に分けて進め、段階ごとに契約を結ぶ「探索的段階型」の考え方が示されていると、モノリス法律事務所が解説しています。同じ解説では、要件を最初に全部決めてから作る従来のやり方は、AIの開発には当てはまらないと指摘されています。特許庁と経済産業省が公開しているモデル契約書(AI編)にも、PoC契約書などの例が含まれています(ASCII STARTUP の記事でも紹介されています)。

このガイドラインは、AIに学習をさせて作る開発を主に想定したものです。この図鑑で紹介しているような、既製のAIに指示書と見本を渡して業務に組み込む仕組みでも、考え方は同じです。見本で試すまで、何割が正しく出るかは分からないのです。だからこそ、試す段階を先に置き、試すための見本を頼む側がそろえておくことが大事になります。

頼む前に、7つのことをA4で1枚にまとめる

AIの開発を外に頼むときの進め方。まず見本50件で2〜4週の試しをして、使える精度かを決める。使えると分かってから今の道具につないで本番を作り、動かし始めたら間違いを指示書に足して育てる
AIの開発を外に頼むときの進め方。まず見本50件で2〜4週の試しをして、使える精度かを決める。使えると分かってから今の道具につないで本番を作り、動かし始めたら間違いを指示書に足して育てる

開発会社に声をかける前に、次の7つをA4で1枚にまとめます。

  1. どの業務の、どこをAIにするか。 「見積を楽にしたい」ではなく、「図面とお客様のメールから、見積の下書きを作るところまで」のように、始まりと終わりを決めます
  2. 今の量と時間。 月に何件あるか、1件に何分かかっているか、誰がしているか
  3. 入力と出力の見本。 AIに渡すもの(メール、PDF、写真、表)と、出てきてほしいもの(下書き、表の1行)を、実物で10件。社外秘の部分は消してかまいません
  4. どこまで間違いを許すか、誰が確かめるか。 「金額は必ず人が確かめる」「宛先の間違いは1件も許さない」「言い回しは直せばよい」のように、項目ごとに決めます
  5. つなぐ道具。 今使っている表計算、メール、会計や販売のソフト。AIの出力をどこに入れたいか
  6. 予算の上限と、毎月の費用の上限。 作る費用と、動かし続ける費用(AIの利用料、置き場所、保守)を分けて書きます
  7. いつまでに、何の数字で効果を見るか。 「3か月後に、見積1件の時間が30分から10分になっているか」のように

このうち、いちばん効くのは3つ目の見本です。見本があると、開発会社は「この入力からこの出力を作る」と具体的に考えられ、見積がぶれにくくなります。見本がないと、開発会社は分からない部分を安全側に見積もるか、楽観的に見積もるかのどちらかになり、会社ごとに金額が大きく違ってきます。

A4の見本と、AIに下書きさせる方法

A4の1枚は、次のような形になります(見本。内容は架空です)。

頼みたいこと:お客様からの見積の依頼(メールと図面のPDF)から、見積書の下書きを作る。金額の計算と、送るのは人がする 量と時間:月80件。今は1件40分、担当は営業2人 見本:依頼のメールと図面、実際に出した見積書のセットを10件(別ファイル) 許せる間違い:品名・数量・納期の読み違いは、人が直せる範囲なら可。単価と金額はAIに出させず、単価表から計算する つなぐ道具:見積は表計算で作っている。下書きは表計算の決まった形で出てほしい 予算:作る費用は〇〇万円まで。毎月の費用は〇万円まで 効果の見方:3か月後に、見積1件の時間が40分から15分以下になっているか。下書きを直した割合

このA4は、AIに下書きさせることもできます。社長が10分ほど、頼みたいことを話したメモをAIに渡し、「次の7つの見出しで、開発会社に渡す1枚にまとめてください。分からないところは【要確認】と書いてください」と頼みます。返ってきた下書きの【要確認】を、担当者と埋めれば完成です。

試しの段階は、見本50件で当たる割合を測る

開発会社には、まず試しの段階だけを頼みます。期間は2〜4週、範囲は見本50件ほどです。

  • 見本50件を、正解つきで渡す。 過去の実際の依頼と、実際に出した見積のように、「正しい答え」が分かっているものを使います
  • 当たる割合を、項目ごとに測ってもらう。 品名は何割合っていたか、数量は何割か、というように。全体で「8割うまくいった」では、どこを人が確かめればよいかが分かりません
  • 使えるかどうかの線を、先に決めておく。 「品名と数量が9割以上合っていて、外れたものに印が付くなら、本番に進む」のように、試しの前に決めておきます。決めておかないと、試したあとで判断がぶれます
  • 使えなければ、ここで止める。 止めることは失敗ではありません。15人日を払う前に分かったことが成果です

見積では、人日と毎月の費用と含まれないものを確かめる

試しの結果を見て本番に進むときは、見積で次のことを確かめます。

確かめること なぜ
作る人日と1日あたりの単価 会社ごとの比べ方がそろう
毎月の費用の内訳(AIの利用料、置き場所、保守) 作ったあとにかかり続ける費用が分かる
見積に含まれないもの 「つなぐ作業は別料金」などのずれを防ぐ
動かし始めてからの直しの扱い 間違いが見つかったとき、誰がいくらで直すか
入力したデータと、作ったものの権利 自社のデータが開発会社の別の仕事に使われないか。指示書や見本を自社で持てるか

費用の内訳と考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。補助金を使う場合は、交付が決まる前に契約しないなど、順番の決まりがあります。AIの導入に補助金は使える?対象になるもの・ならないものを先に知るを先に読んでおくと安心です。

指示書を自社で持て、点検がAIの外にある作りを頼む

作る側から見ると、AIの仕組みの出来を左右するのは、AIそのものより、その周りの作りです。開発会社に頼むときは、次の2つが入っているかを確かめます。ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

指示書と見本を、自社で読めて直せる形にしてもらう。 AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものを Skills(スキル)と呼ぶことがあります。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。自社の言い回しや決まりは、動かしながら変わっていきます。指示書と見本が、開発会社しか触れない場所にあると、言い回し1つ直すにも費用がかかります。自社の担当者が読めて、見本を足せる形にしてもらいます。

数字と宛先の点検を、AIの外に置いてもらう。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。金額の計算、日付、宛先、在庫の有無のような、間違えると困るものは、AIに書かせず計算や元の記録から差し込み、AIの出力を元の記録と照らす点検を入れてもらいます。間違いが見つかったら、その例を指示書と点検に足す流れも、最初から決めておきます。

丸投げせず、データの扱いと止める基準を自社で決める

  • 丸投げしない。 見本をそろえ、正解を決め、試しの結果を判断するのは、頼む側の仕事です。ここを開発会社に任せると、自社の業務に合わないものができあがります
  • データの扱いを決める。 見本にお客様の名前や金額が入るなら、消すか置き換えるか、秘密を守る約束を先に結ぶかを決めます。社内のルールは社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールが参考になります
  • 一社に縛られない作りにする。 指示書、見本、点検の決まりを自社で持っていれば、開発会社を変えても、AIのサービスを変えても、続けられます
  • 最初から全部を頼まない。 最初に頼む業務は1つに絞ります。何から選ぶかは、AIを使ったことがない社長が、最初の1週間でやることで説明しています

まとめ

  • AIの開発を外に頼む前に、業務・量・入力と出力の見本・許せる間違い・つなぐ道具・予算・効果の見方の7つをA4で1枚にまとめる。見本が見積のぶれをいちばん減らす
  • AIの開発は、やってみないと精度が分からない。経済産業省のガイドラインでも、段階に分けて進める考え方が示されている
  • まず見本50件で2〜4週の試しを頼み、当たる割合を項目ごとに測る。使えるかどうかの線は試しの前に決め、使えなければ止める
  • 見積では、人日と単価、毎月の費用、含まれないもの、直しの扱い、データと作ったものの権利を確かめる
  • 指示書と見本を自社で読めて直せる形にし、数字と宛先の点検はAIの外に置いてもらう

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