AIを使ったことがない社長が、最初の1週間でやること
この記事では、生成AIを使ったことがない中小企業の社長が、最初の1週間で何をすればいいかを、1日ずつの手順で説明します。一言でいうと、いきなり社員に使わせたり、仕組みを作ったりする前に、社長自身が1週間、自分のメールと書類でAIを使ってみて、「何ができて、何ができないか」を手で知り、そのうえで社内で最初に任せる業務を1つ決めるという話です。その結果、高い買い物や的外れな導入をせずに、月数千円から、会社に合った使い方を見つけられます。
AIの価値は、使い方を学ぶことそのものではありません。社長が自分の仕事で一度試しておくことで、社員や外の会社にどこまで任せられるかを、自分で判断できるようになることです。
経営への効果は、遠回りせずに最初の1業務が決まること
最初の1週間を社長自身が使うのは、遠回りに見えて、いちばんの近道です。
| 社長が試さずに始める | 社長が1週間試してから始める | |
|---|---|---|
| 最初に任せる業務 | 売り込まれた道具に合わせて決まる | 自社でいちばん効く業務を、社長が選べる |
| 社員への渡し方 | 「使っておいて」で止まる | 社長が自分の使い方を見せて渡せる |
| 外の会社に頼むとき | 言われるままに見積もりをもらう | 何を頼み、何を社内に残すかを決められる |
| 費用 | いきなり数十万円の道具や開発 | 月数千円のプランから |
効果の大きさは、次の式で考えます。
最初の1業務で浮く時間 = その業務に毎週かかっている時間 × AIで減る割合
仮に、社長自身がメールの返信と書類の作成に週5時間使っていて、AIでその半分が減れば、週2.5時間、月10時間が戻ります。その時間を営業や社員と話すことに回せます。最初に社長自身の時間で効果を確かめておけば、社員の業務に広げるときにも、どれくらい効くかの見当がつきます。
人の1時間の値段が上がり、人手不足の倒産も増えている
なぜ今なのかも、確かめておきます。
最低賃金の全国の加重平均は、2025年度の1,121円から、2026年度は1,177円に上がりました。人の1時間の値段は、毎年上がり続けています(詳しくは最低賃金が上がっても利益を守る、AIで事務の時間を減らす方法)。
同時に、人を増やすことも難しくなっています。東京商工リサーチの集計では、2025年度の人手不足による倒産は442件で、過去最多でした。
人を増やせず、人の時間の値段は上がる。そうなると、今いる人の時間を、人にしかできない仕事に寄せるしかありません。AIは、そのための一番安い道具の1つです。月数千円で試せるので、まず社長自身が使ってみるのが、もっとも手堅い始め方です。
1日目は、会社として法人向けのプランを1つ契約する
最初にやることは、どのAIを使うかを決めて、会社として契約することです。
- 入力した内容をAIの学習に使わないプランを選ぶ。 多くのAIのサービスには、個人向けの無料版と、会社向けの有料プランがあります。会社向けのプランには、入力した内容をAIの学習に使わないと規約に書かれているものがあります。社長のメールや会社の書類を入れるので、規約を確かめて、会社向けのプランを選びます
- 1つに決める。 道具の比べ方で悩むより、1つに決めて1週間使うほうが、分かることが多いです。AnthropicのClaude、OpenAIのChatGPT、GoogleのGeminiなど、主なものはどれも、この記事の使い方ができます
- 費用は、1人あたり月数千円。 最初は社長1人分で十分です。費用の全体の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています
契約したら、スマホにもアプリを入れておきます。移動中に試せると、1週間で使う回数が増えます。
2〜3日目は、自分のメールの返信と、届いた長い文書で試す
最初に試すのは、社長自身が毎日やっている仕事です。
2日目:メールの返信を下書きしてもらう。 届いたメールを貼り付けて、「この取引先に、来週の打ち合わせの日程を2つ提案する返信を、ていねいに、短く書いて」と頼みます。返ってきた下書きを読み、自分の言葉に直して送ります。5通ほど試すと、どこまで使えて、どこを直す必要があるかが分かります。
3日目:長い文書を要約してもらう。 取引先からの提案書、業界団体の通知、契約書の案など、読むのに時間がかかる文書を渡して、「社長として判断が要るところだけを、3行で教えて」と頼みます。要約を読んだあと、元の文書の該当の箇所を自分で確かめます。
この2日で分かることは、次の3つです。
- AIは、文章の下書きと、長い文書の要点の抜き出しが速い
- AIは、もっともらしい間違いを書くことがある。日付、金額、相手の名前は、必ず元の情報で確かめる必要がある
- 頼み方を具体的にするほど、返ってくるものが良くなる
社長自身の事務をAIで減らす方法は、社長の仕事を週10時間減らすAIの使い方。事務から先に手放すで詳しく説明しています。
4日目は、会社の決まりごとの文章で、AIに会社の言葉を覚えさせる
4日目は、会社の中の文章を使います。
社員への連絡、取引先への案内、求人票など、会社としてよく書く文章の、過去の良い見本を2〜3本、AIに渡します。そのうえで、「この見本と同じ書き方で、来月の休業日のお知らせを書いて」と頼みます。
見本を渡すと、AIは会社の言い回しや長さに合わせて書くようになります。会社として毎日使うなら、こうした見本と決まりを、Skills(スキル)として1つにまとめておく方法もあります。Skills は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたもので、頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、同じ質の文章が出るようになります。最初の1週間では、見本を貼るだけで十分です。
5日目は、社内でいちばん時間がかかっている書く仕事を1つ選ぶ
5日目は、社長の仕事から離れて、会社の仕事を見ます。
社員に、「毎週、同じ形で書いたり、打ち込んだり、まとめたりしている仕事で、時間がかかっているものは何か」を聞きます。たとえば、次のようなものです。
- 問い合わせのメールへの返事
- 注文書や請求書の打ち込み
- 日報や会議のまとめ
- 見積書や報告書の下書き
- 求人票や、お客様への案内
その中から、次の4つに当てはまるものを1つ選びます。
- 毎週の量が多い:時間が長いほど、浮く時間が大きい
- 間違えても、送る前に人が直せる:お客様や取引先に出す前に、人が確かめられる仕事から
- 材料がそろっている:メールや書類など、AIに渡すものがすでに手元にある
- 担当者が面倒だと思っている:面倒な仕事ほど、使ってもらえる
業務ごとの具体的な使い方は、AI図鑑の業務への組み込み例の記事で説明しています。
6日目は、社員に渡す前に、入れてよい情報の決まりを作る
社員に使ってもらう前に、決まりを1つ作ります。決まりがないまま始めると、お客様の個人情報や社外秘の書類が、個人向けの無料版に入れられてしまうことがあります。
決めることは、多くありません。
- 使ってよいプラン:会社で契約したプランだけを使う。個人の無料版に会社の情報を入れない
- 入れてよい情報と、入れない情報:お客様の個人情報、社員の個人情報、取引の条件などは、入れてよいかを先に決める
- AIが書いたものの扱い:お客様や取引先に出す前に、必ず人が読んで確かめる。日付・金額・名前は元の情報と照らす
- 困ったときに聞く人:社長か、担当を決めておく
A4で1枚にまとめる方法は、社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールで説明しています。
7日目は、選んだ業務の担当者1人に、自分の使い方を見せて渡す
最後の日は、5日目に選んだ業務の担当者1人に、AIを渡します。
- 担当者の分のプランを用意する
- 社長が、2〜4日目に自分で試した使い方を、画面を見せながら伝える
- 担当者の業務の文章を1つ、一緒にAIに頼んでみる
- 「1か月、この業務だけで使ってみて、かかった時間を記録して」と頼む
- 1か月後に、始める前と比べて時間がどれだけ変わったかを一緒に見る
大事なのは、社長が自分で使ってから渡すことと、業務を1つに絞ることです。「何にでも使っていいから」と渡すと、何に使えばいいか分からず、使われないまま終わることがよくあります。
AIに決めさせず、間違いを前提に確かめる習慣を最初に作る
- AIの答えを、確かめずに使わない。 AIは、もっともらしい間違いを書きます。社長自身が最初の1週間でそれを体験しておくと、社員に「必ず確かめて」と言う理由を、自分の言葉で伝えられます
- 判断はAIに任せない。 値段、採用、取引の条件など、会社としての判断は人がします。AIに頼むのは、下書きと要約と整理までです
- いきなり大きな仕組みを作らない。 最初の1か月は、チャットの画面で使うだけで十分です。効果が分かってから、仕組みにするかを考えます。仕組みにするときに使える補助金は、AIの導入に補助金は使える?対象になるもの・ならないものを先に知るにまとめています
- 使わない社員を責めない。 慣れるまでは、手で書いたほうが早いと感じる人もいます。1つの業務で、時間が減ることを数字で見せるほうが、広がるのは早いです
まとめ
- 最初の1週間を社長自身が使うと、自社でいちばん効く最初の1業務を、遠回りせずに選べる。費用は月数千円から
- 人の1時間の値段は上がり続け、2025年度の人手不足による倒産は442件で過去最多。今いる人の時間を、人にしかできない仕事に寄せるための道具として、AIは安く試せる
- 1日目に会社向けのプランを契約し、2〜4日目に自分のメール・長い文書・会社の文章で試す
- 5日目に社内で最初に任せる書く仕事を1つ選び、6日目に入れてよい情報の決まりを作る
- 7日目に、選んだ業務の担当者1人に、自分の使い方を見せて渡す。1か月後に時間を比べる
- AIの答えは必ず確かめ、判断はAIに任せない