業務への組み込み例

不満の声をその日のうちに社長へ。届いた声をAIが自動で仕分ける仕組み

この記事で変わる経営指標

この記事では、アンケートの回答や問い合わせのメールが届くたびに、AIが決めた分類と「離れる兆し」の印を付けて1つの表に1行ずつため、兆しのある声は毎朝、担当者と社長に知らせる仕組みの作り方を説明します。一言でいうと、月末にまとめて読もうとして読まれずに終わっていたお客様の声を、「届いたら仕分ける、毎朝知らせる、月末に数える」という3つの時点で自動で回し、不満の声にその日のうちに手を打てるようにするという話です。お客様の声をAIで全部読む考え方は、黙って離れるお客様を減らす。アンケートの声をAIで全部読む方法にまとめています。この記事は、その中の「本格的にやるなら」を、実際に動く仕組みにする話です。

AIの価値は、声をきれいに分類することではありません。届いた不満の声が、誰にも読まれないまま1か月たつことをなくし、その日のうちに人の目に届けることです。

今はお客様の声が、ばらばらの場所で月末を待っている

前の記事で、手元のアンケートを50件、AIに仕分けさせる試し方を紹介しました。試してみて効果が分かっても、手で続けようとすると、次のことが起きます。

  1. アンケートの回答は表計算に、問い合わせはメールに、口コミは地図のページに、営業のメモは担当者の手元にあり、毎月集めるだけで手間がかかる
  2. 集めてAIに貼る作業を月末にまとめてやるので、月初めに届いた不満の声は、読まれるまで1か月近くかかる
  3. 担当者が忙しい月は、集める作業そのものが止まる
  4. 分類の決まりが毎月少しずつ変わり、先月と今月の件数が比べられない

不満の声は、届いたときがいちばん手を打ちやすい時です。1か月たってから「先月、こんな声がありました」と分かっても、そのお客様はもう次の発注先を決めているかもしれません。

ここで足りないのは、読む気持ちではありません。声が届いたときに、自動で仕分けが始まる流れです。

言ってくれた声は貴重だから、その日のうちに読む

声が届いたその日に読むことには、理由があります。

消費者庁の消費者意識基本調査では、商品やサービスで被害やトラブルにあった人のうち、**誰にも相談や申出をしなかった人が、2020年度で46.4%**でした(令和3年版消費者白書)。山口県の資料に引かれた同じ調査の数字でも、2022年度から2024年度まで、毎年4割を超えています。消費者のはっきりした不満の数字で、会社どうしの取引や小さな不満にそのまま当てはまるわけではありませんが、不満を持っても、言ってくれる人は一部だということは分かります。

言ってくれた声は、黙って離れていく多くのお客様の代わりに届いた知らせです。その知らせを1か月寝かせるのは、もったいないことです。この記事の仕組みは、言ってくれた声に、その日のうちに人の目が届くことを目指します。

届いたら仕分け、毎朝知らせ、月末に数える

お客様の声を届くたびに仕分ける仕組み。届いたときにAIが分類と種類を付け、離れる兆しに印を付けて表に1行足す。毎朝、兆しありの声を担当者と社長に知らせ、誰が連絡するかをその日に決める。月末に件数と前の月との差を計算で出し、まとめの文はAIが書く
お客様の声を届くたびに仕分ける仕組み。届いたときにAIが分類と種類を付け、離れる兆しに印を付けて表に1行足す。毎朝、兆しありの声を担当者と社長に知らせ、誰が連絡するかをその日に決める。月末に件数と前の月との差を計算で出し、まとめの文はAIが書く

仕組みは、3つの時点で動きます。

1. 届いたとき(AI)。 アンケートの回答フォームに回答が入ったとき、問い合わせ用のメールアドレスにメールが届いたとき、営業がメモの入力フォームに一言を送ったときに、自動でAIの仕分けが始まります。AIは、決めた分類(品質、納期、価格、担当者の対応、返事の速さ、そのほか)、種類(褒め、不満、要望)、離れる兆し(あり、なし)、一行の要約を付けます。結果は、お客様の名前、届いた日、元の文と一緒に、1つの表に1行ずつ足されます。

2. 毎朝(AIの外と人)。 毎朝決まった時間に、前の日に届いた声のうち「離れる兆し:あり」の行だけを表から抜き出し、担当者と社長にメッセージで知らせます。抜き出すのは表の絞り込みで、AIには任せません。知らせを受けた人は、誰がいつ連絡するかを決め、表の「対応」の欄に書きます。

3. 月末(計算とAI)。 月末に、分類ごと・種類ごとの件数と、前の月との差を、表計算の集計で出します。AIには、その件数と、兆しのあった声の要約を渡し、「今月増えた不満」「よく褒められていること」「手を打った声と、その後」を1枚にまとめさせます。社長と幹部は、それを読んで翌月に何を直すかを決めます。

AIへの指示の見本は次のとおりです(見本。内容は架空です)。

あなたは、お客様の声を仕分ける担当です。下の1件を読み、次の形で答えてください。分類:品質/納期/価格/担当者の対応/返事の速さ/そのほか、のどれか1つ。種類:褒め/不満/要望、のどれか1つ。離れる兆し:スキルの「兆しとみなす言い方」に当てはまれば「あり」、なければ「なし」。要約:30字以内。書かれていないことは推測で足さず、分からなければ「判断できない」と書いてください。決めた形以外の文は書かないでください。

返ってくる1行(見本):

分類:返事の速さ/種類:不満/離れる兆し:あり(以前との比較)/要約:見積の回答が以前より遅く、他社も検討中

分類の決まりをスキルにし、数えるのと知らせるのはAIの外でする

AIに仕分けさせるだけなら、指示の見本で今日からでも試せます。毎日自動で、何か月も同じ物差しで仕分けるには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

分類の決まりと見本を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「分類の一覧と、それぞれに入る声の例」「離れる兆しとみなす言い方の例(ほかの会社との比較、以前との比較、同じことの繰り返しの指摘、取引をやめることへの言及)」「2つの分類にまたがるときの決まり」をスキルにします。分類が月ごとにぶれると、前の月との差が意味を持たなくなります。決まりを1か所にまとめておくのは、そのためです。

AIの答えの形を決め、外れたら止める。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、AIの答えが決めた形(分類が6つのどれか、種類が3つのどれか)に当てはまるかを、表に足す前にプログラムで確かめ、当てはまらなければ「要確認」として人に回すこと、件数と前の月との差を表計算で出すこと、毎朝の知らせを表の絞り込みで出すことがそれに当たります。AIが数えたり、知らせる相手を選んだりはしません。担当者が「この仕分けはおかしい」と思った声は、表に印を付けてもらい、月に一度スキルの見本に足します。

仕分けは自動で始まり、人は兆しのある声だけを読む

仕組みが動くと、仕事の分け方はこうなります。

手でAIに貼る形 届くたびに仕分ける形
声を集める 月末に、表計算とメールと手元から集める 届いたときに自動で表に入る
仕分け 月末にまとめてAIに貼る 届いたときに1件ずつ
不満に気づく時点 月末 届いた翌朝
件数 その月だけ 毎月同じ物差しで、前の月と比べられる

時間の目安は、前の記事と同じ前提で計算します。仮に月300件の声が届くとして、人が全部を1件1分で読むと月5時間です。仕組みのあとは、毎朝の知らせで兆しのある声だけを読み、月に30件ほどを1件2分で読むとして月1時間です。月末のまとめを読むのに15分かかります。

経営への効果は、不満の声に翌朝手を打てること

効果の中心は、離れそうなお客様に、離れる前に手を打てることです。前の記事では、仮に取引先が100社、1社あたりの年間の取引額が平均300万円の会社で、不満の声に早く気づいて2社を引き止められれば、年600万円の売上、粗利率25%なら150万円の粗利が残るという計算を紹介しました。月にならすと、粗利で約12万5,000円です。

手でAIに貼る形でもこの効果は狙えますが、月末まで気づかない分、手遅れになる声が出ます。届くたびに仕分ける形にすると、気づくまでの時間が1か月から翌朝に縮むので、同じ声でも引き止められる見込みが上がります。どれだけ上がるかは会社ごとに違うので、下の「見込み」で自社の数字を測ります。

費用の大半は作る費用で、AIの利用料は月300円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 分類の決まりと、兆しとみなす言い方を決める(社内:社長と営業の責任者、半日)。前の記事の試しで仕分けた50件を見ながら決めます。ここがいちばん効きます
  2. 声の入り口をそろえる(社内:事務、半日)。アンケートのフォーム、問い合わせのメールアドレス、営業のメモのフォームを決め、表の形を決めます
  3. 届いたら仕分けて表に足す流れを作る(作る人、1.5人日)。答えの形の確かめを含みます
  4. 毎朝の知らせと、月末の集計とまとめを作る(作る人、1.5人日)
  5. 1か月、実際の声で試して直す(作る人、1人日)。担当者が印を付けた仕分けを、スキルの見本に足します

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計4人日です。すでに使っている顧客管理のソフトに、問い合わせを取り込む機能があれば、そこに仕分けだけを足す形にすると早く作れます。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 1件の仕分けと月末のまとめ 月300件で300円ほど(下の計算)
表・フォーム・知らせ すでに使っている表計算、フォーム、社内のメッセージ 追加0円の想定
保守 スキルの見本の追加、分類の見直し 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件の仕分けで、スキルと指示と声を合わせて約2,200トークンを読ませ、約150トークンを書かせると、月300件で約270円です。月末のまとめが約20円で、合わせて月300円ほどです(1ドル150円で計算)。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に増える粗利 − 毎月の費用)

仮に作る費用が25万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)が3,000円とすると、上の月約12万5,000円の効果で、およそ2か月で取り戻す計算です。引き止められたお客様が1社でも、半年ほどで取り戻せます。

必要な人は3役で、お客様に連絡するのは担当者がする

役 誰が すること 時間
知らせを受けて動く人 担当の営業と社長 毎朝の兆しの声を読み、誰が連絡するか決めて表に書く 1日5分ほど
決まりを育てる人 営業の責任者 おかしな仕分けを見本に足し、月末のまとめを読んで翌月の手を決める 月1時間
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 入り口、仕分け、知らせ、集計を作る 最初の4人日

お客様への連絡は、AIに任せません。不満を書いてくれたお客様には、担当者か社長が自分の言葉で連絡します。AIの役目は、その声を翌朝、人の前に出すところまでです。

1か月で翌朝に届き、半年で何が増えたかが分かる見込み

どこまでいけるかは、声の入り口がどれだけ1つの表に集まるかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 アンケートと問い合わせのメールから始める。担当者がおかしな仕分けに印を付け、スキルに足す
3か月 営業のメモや口コミも同じ表に入る。兆しのある声に、翌日までに連絡するのが習慣になる
半年 前の月と比べて何の不満が増えたかが分かり、直したことで件数が減ったかも見える

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 不満の声が届いてから、連絡するまでの日数:表の「届いた日」と「対応」の欄から出します
  • 兆しのあった取引先が、その後も取引を続けた割合:半年後に確かめます
  • 分類ごとの不満の件数の推移:直したところの件数が減っているか

連絡までAIに任せたり、分類を毎月変えたりすると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • お客様への連絡までAIに任せる。 不満を書いた人に、AIが作った決まり文句のお詫びが自動で届くと、「読んでいない」と思われます。連絡は人がします
  • 分類を毎月変える。 気になる声が出るたびに分類を足すと、前の月と比べられなくなります。分類の変更は3か月に一度などと決め、変えたときは記録します
  • 知らせが多すぎる。 兆しの決まりが広すぎると、毎朝何十件も届き、誰も読まなくなります。最初の1か月で、本当に連絡すべき声だけが残るように決まりを絞ります
  • 声の扱いを決めない。 お客様の声には、名前や会社名、連絡先が入っています。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • アンケートの回答や問い合わせが届くたびに、AIが分類と離れる兆しの印を付けて1つの表にため、兆しのある声は毎朝担当者と社長に知らせる。月末の件数は計算で、まとめはAIで
  • 不満を持っても言ってくれる人は一部(消費者庁の調査では、トラブルにあっても誰にも相談・申出しない人が毎年4割を超える)。言ってくれた声は、その日のうちに読む
  • 気づくまでの時間が1か月から翌朝に縮む。仮に年2社を引き止められれば粗利で月約12万5,000円、作る費用25万円ならおよそ2か月で取り戻す
  • 分類の決まりはスキルにまとめ、答えの形の確かめ、件数、知らせる相手の絞り込みはAIの外でする。お客様への連絡は人がする

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