業務への組み込み例

仕込み量をAIで毎晩読んで、飲食店の食材ロスを減らす方法

この記事では、過去の出数と明日の予約・天気から、飲食店の仕込み量の目安を毎晩店長に届ける仕組みを、組み方・費用・必要な人・結果の見込みまで説明します。一言でいうと、店長の勘に頼っていた仕込みの読みを、表計算の式で出した基本の数と、AIが読む例外(雨、近くの催し、団体予約)の補正に分け、最後は店長が決めるという話です。その結果、作りすぎて捨てる食材と、足りずに品切れになる機会の両方が減り、店長が休みの日も仕込みが回ります。飲食店でAIが効く業務の全体像は、飲食店の人手不足をAIで補い、ロスを減らして利益を残す方法で説明しています。

AIの価値は、数を言い当てることではありません。店長の頭の中にあった「この条件ならこのくらい」を、毎晩、理由つきで書き出してくれることです。

今は店長が毎晩20分かけて、勘で仕込みを決めている

この記事は、ある想定の会社で話を通します。定食と居酒屋を兼ねた店を3店舗持つ会社で、1店の月の食材費が300万円ほど、主な仕込みの品目が20ほどあるとします。数字はすべてこの想定の値なので、御社の店の数と金額に置き換えて読んでください。

店長は、閉店後か翌朝に、次のことを考えて仕込みの量を決めています。

  1. 明日は何曜日か、先週の同じ曜日はどのくらい出たか
  2. 予約は何組、何人入っているか
  3. 天気はどうか、雨なら客足が落ちるか
  4. 近くで催しや給料日など、人が増える理由があるか

1店で20分ほど、3店で毎日1時間です。店長が休みの日は、副店長が同じ判断をしますが、読みが外れやすくなります。外れれば、余った分は廃棄、足りなければ品切れです。

想定の会社で、仮に廃棄が食材費の5%なら、1店で月15万円、3店で月45万円の食材が捨てられている計算です。廃棄の割合を測っていない店は、まずここを測るところからになります。

仕込みの読み違いは、毎日少しずつ利益を削っている

ここで、AIの話の前に、お金の話をしておきます。

環境省と農林水産省の推計では、令和5年度の日本の食品ロスのうち、外食産業から出たものは約66万トンでした。食べ残しのほかに、作りすぎた仕込みの廃棄も原因に挙げられています。

飲食店の利益は薄く、食材費は売上の中で大きな割合を占めます。仕込みの読みが少し外れるたびに、その分の食材費がそのまま消えます。逆に品切れは、注文の機会そのものを失います。どちらも1日あたりは小さな額でも、30日、3店舗で積み上がると、利益の大きな部分になります。

仕込みの読みを正確にしたほうがいいことは、どの店長も分かっています。過去の出数を曜日ごとに並べ、予約と天気を照らせば、読みは良くなります。それをしないのは、閉店後の疲れた時間に、毎晩それをやる余力がないからです。

基本の数は表計算で出し、AIは例外を読んで補正の理由を書く

仕込みの目安を出す仕組み。レジから品目ごとの出数を毎晩表にため、表計算の式で同じ曜日の過去の平均から基本の数を出す。AIが予約・天気・催しを読んで補正の候補と理由を書き、範囲の点検を通った目安を店長が見て決める
仕込みの目安を出す仕組み。レジから品目ごとの出数を毎晩表にため、表計算の式で同じ曜日の過去の平均から基本の数を出す。AIが予約・天気・催しを読んで補正の候補と理由を書き、範囲の点検を通った目安を店長が見て決める

この仕組みで、作る側として一番大事なのは、数を出す計算そのものをAIに任せないことです。AIは文章を読んで考えるのが得意な一方、表の数字を毎回同じように計算するのは、表計算の式のほうが確実です。そこで、次のように分けます。

1. ためる:レジから、品目ごとの出数を毎晩表にためる。 多くのレジには、日ごと・品目ごとの売上を書き出す機能があります。閉店後に自動で書き出し、表計算に1日1行ずつ足していきます。過去1年分を最初にまとめて入れておきます。

2. 基本の数:表計算の式で、同じ曜日の過去4週の平均を出す。 品目ごとに、明日と同じ曜日の過去4週の出数の平均を出し、これを基本の数にします。ここはAIを使わず、式で出します。

3. 読む:AIが、明日の予約・天気・催しを読んで補正の候補を書く。 基本の数と一緒に、明日の予約の一覧(組数、人数、コースの有無)、天気予報、店長が入れた予定(近くの祭り、給料日、学校の行事)をAIに渡します。AIへの指示文には「基本の数を出発点に、予約と天気と予定から、増やす・減らすべき品目と、その理由を一言で書く。過去に似た条件の日があれば、その日の出数も添える」と書いておきます。

4. 点検:AIとは別の決まりで、外れた数字に印を付ける。 AIの補正後の数が、過去1年のその品目の最大より多い、最小より少ない、基本の数から5割以上離れている。どれかに当てはまれば印を付けます。

5. 決める:店長が、印の付いた品目から見て決める。 目安は毎晩、店長のスマホに届きます。店長は印の付いた品目と、自分の感覚と違う品目だけを見て、最後の量を決めます。

閉店から翌朝まで、店長が触るのは目安を見る5分だけ

想定の会社の、ある店の1日です。

  • 22:30 閉店。レジから今日の品目ごとの出数が自動で書き出され、表に1行足される
  • 22:35 表計算の式が、明日(土曜)の基本の数を品目ごとに出す
  • 22:36 AIに基本の数、明日の予約(12名の宴会コースが1組)、天気予報(午後から雨)、店長が入れた予定(近くで秋祭り)が渡される。AIが補正の候補を返す。「唐揚げ:基本40→55。宴会コースに含まれるため。過去に宴会が入った土曜の出数は52と58」「刺身盛り:基本25→20。午後から雨。過去の雨の土曜は平均19」
  • 22:37 点検で、唐揚げの55が過去1年の土曜の最大より多いことに印が付く
  • 22:40 店長のスマホに目安が届く。店長は唐揚げの印を見て、祭りの客も考えて55のままにする。刺身盛りは20に決める。5分ほど
  • 翌 9:00 仕込み担当が、店長が決めた量で仕込みを始める

今までなら閉店後に20分かけていた判断が、目安を見る5分になります。店長が休みの日も、副店長が同じ目安を見て決められます。

レジの書き出しから始め、1か月で3店舗に広げる

  1. レジから品目ごとの出数を書き出す(本部の担当、半日)。過去1年分を表にまとめます。品目の名前が途中で変わっているものは、ここでそろえます
  2. 主な品目を20に絞る(社長と店長、1時間)。廃棄が多い品目と、品切れで困る品目から選びます。全部の品目をやろうとしないことが大事です
  3. 基本の数の式と、AIへの頼み方を作る(作る人、3〜4人日)。過去のデータで、基本の数だけの場合と、AIの補正を加えた場合で、どちらが実際の出数に近かったかを試します
  4. 1店で2週間、店長の判断と並べて動かす(店長は今どおり決め、目安と見比べる。作る人は1〜2人日)
  5. 点検の決まりと届け方を足して、3店舗に広げる(作る人、1〜2人日)
  6. 毎週、目安と実際の出数のずれを見る(本部の担当、30分)。ずれの大きかった日の理由を、AIへの指示文と見本に足します

頼み方をスキルにし、範囲の点検を置くと目安がそろう

店が3つあれば、店長の読み方も3通りあります。毎晩の仕組みにするなら、どの店でも同じ考え方で目安が出る工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

読み方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。仕込みなら、「基本の数から出発する」「補正には必ず理由と過去の似た日を添える」「店ごとの癖(この店は雨でも客足が落ちにくい、など)」を、店長が良いと言った目安の見本と一緒にスキルにしておきます。Anthropic 社の説明では、Claude のアプリ(Pro・Max・Team・Enterprise)や、システム同士をつなぐ口からの利用で使えます。

数の範囲は、AIの外で点検する。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。この仕組みでは、計算を表計算の式に任せることと、AIの補正後の数が過去の範囲から外れていないかを別の決まりで確かめることが、それに当たります。点検で印が付いた日の理由を毎週見て、指示文と見本に書き足していきます。

経営への効果は、食材のロスと店長の時間が減ること

経営効果 何が変わるか 利益へのつながり
コストが下がる 作りすぎて捨てる食材が減る 食材費がそのまま利益に残る
業務の無駄が減る 店長が毎晩20分かけていた判断が、目安を見る5分になる 店長の時間が接客や人の育成に回る
利益が増える 品切れが減り、注文の機会を逃さない 売上の取りこぼしが減る

効果の大きさは、次の式で見積もれます。

月に残る食材費 = 店の数 × 1店の月の食材費 × 今の廃棄の割合 × 廃棄が減る割合

想定の会社で、仮に廃棄が5%、目安を使って廃棄が2割減れば、3店 × 300万円 × 5% × 20%で、月9万円の食材費が残ります。これに、店長の時間が1店で1日15分、3店で月22時間ほど浮く分(仮に時給1,800円で月4万円ほど)が加わり、月13万円ほどの効果になります。

人の手だけ AIを使う
仕込みの判断にかかる時間 店長が毎晩20分ほど 目安を見て5分ほど
判断の材料 店長の記憶と勘 過去の出数、予約、天気、予定を理由つきで
店長が休みの日 副店長の読みが外れやすい 同じ目安を見て決められる
読みの見直し されない 毎週、目安と実際のずれを見る

効果が出にくい条件もあります。レジに品目ごとの出数が残っていない店は、まずレジの設定から始める必要があります。日替わりのメニューが多く、毎日品目が変わる店では、基本の数が出しにくく、効果は小さくなります。

費用の大半は作る費用で、AIの利用料は月数百円

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計6〜9人日です。レジから品目ごとの出数を自動で書き出せない場合は、その分が増えます。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 毎晩1店ごとに、基本の数と予約・天気を読ませて補正を書かせる 3店で月400円ほど(下の計算)
表計算・天気予報 すでに使っている表計算と、無料の天気予報 追加0円の想定
保守 品目の入れ替え、週1回のずれの見直し 月2時間ほど

2026年10月8日時点の Anthropic 社の Claude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万単位あたり2ドル、書かせる量100万単位あたり10ドルです。1店の1晩分で、基本の数と過去の似た日の表と指示文を9,500単位、書かせる目安を1,000単位と多めに見積もると、1回あたり約0.029ドル、1ドル150円で約4円です。3店で30日なら、400円ほどです。

つまり、費用の本体は作る費用と、最初にレジの記録を整える手間です。AIの利用料は、ほぼ気にしなくてかまいません。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が45万円、毎月の費用(AIの利用料と保守の時間)が3,000円とすると、想定の会社の月13万円の効果で、およそ4か月で取り戻す計算です。

必要な人のうち、最後の量を決めるのは店長にする

役割 社内の誰か やること 時間の目安
決める人 各店の店長 目安を見て、印の付いた品目から最後の量を決める。店の予定を入れる 毎晩5分ほど
表を守る人 本部の担当 レジの書き出しを確かめ、毎週目安と実際のずれを見る 週30分ほど
品目を選ぶ人 社長 主な品目を選び、店ごとの癖をスキルに入れる 最初に1時間、そのあと月30分
作る人 表計算や自動処理が分かる社員、または外の会社 式とAIへの頼み方と点検の仕組みを作り、直す 最初に6〜9人日、そのあと月2時間

外に頼む場合も、最後の量を決めるのは店長にします。 常連の団体が来そうな日、仕入れの質がいつもと違う日など、表には出ない事情を知っているのは店長だけです。

結果の見込みは、3か月で廃棄の量が目に見えて減ること

導入後の見込み。1か月目はレジの記録を整えて1店で試す期間、3か月目には3店舗で毎晩目安が届いて廃棄が減り、半年後には曜日や天気ごとの出方が分かって仕入れの見直しに使える
導入後の見込み。1か月目はレジの記録を整えて1店で試す期間、3か月目には3店舗で毎晩目安が届いて廃棄が減り、半年後には曜日や天気ごとの出方が分かって仕入れの見直しに使える

ここからは見込みです。レジの記録の質と、メニューの変わり方で変わります。

1か月目:レジの記録を整え、1店で試す期間。 品目の名前のゆれを直し、2週間は店長の判断と並べて動かすので、手間はむしろ増えます。AIの補正が当たりやすい品目と、当たりにくい品目が見えてきます。

3か月目:3店舗で毎晩目安が届き、廃棄が減り始める。 店長が目安を見て決めることに慣れ、副店長も同じ目安で決められるようになります。

半年後:曜日や天気ごとの出方が分かり、仕入れの見直しに使える。 目安と実際の出数がたまり、「この品目は雨の日に半分になる」「この店は月末の金曜に唐揚げが増える」が見えてきます。仕入れの量や、メニューの見直しの材料になります。

うまくいっていない兆し。 3か月たっても廃棄が減らないなら、店長が目安を見ずに今までどおり決めているか、主な品目の選び方がずれています。本部の担当が店長と、目安と実際の出数のずれを並べ、どこで外れたかを話し合います。

見込みどおりかは、始める前に測った数字で確かめる

測る数字 測り方 導入後に期待する変化
主な食材の廃棄の量 2週間ほど、品目ごとに捨てた量を記録する 減る
品切れの回数 営業中に品切れになった品目と時刻を記録する 減る
店長が仕込みの判断にかける時間 毎晩の時間を記録する 20分前後 → 5分前後

品目を広げすぎたり、目安を鵜呑みにすると失敗する

  • 全部の品目でやろうとする。 品目が多いと、レジの記録を整えるだけで止まります。廃棄と品切れで困っている20品目から始めます
  • AIに計算をさせる。 表の数字の計算は、表計算の式のほうが確実です。AIには、例外を読んで理由を書くところを任せます
  • 目安をそのまま仕込む。 目安は過去の傾向にすぎず、急な団体予約や仕入れの事情は入っていません。最後の量は店長が決めます
  • レジの品目の名前がばらばら。 「唐揚げ定食」「唐揚げ単品」「から揚げ」がばらばらだと、出数が正しく集まりません。最初にそろえます
  • ずれを見直さない。 目安と実際の出数のずれを毎週見ないと、読みは良くなりません。本部の担当が週30分、ずれの大きかった日を見ます

まとめ

  • 経営への効果は、作りすぎて捨てる食材が減ること(コスト)と、店長の仕込みの判断の時間が減ること(業務の無駄)。3店舗の想定で、月13万円ほどの効果
  • 令和5年度の外食産業の食品ロスは約66万トン(環境省・農林水産省の推計)。仕込みの読み違いは、毎日少しずつ利益を削っている
  • 基本の数は表計算の式で出し、AIは予約・天気・催しを読んで補正の候補と理由を書く。決めるのは店長
  • 読み方をスキルにまとめ、補正後の数が過去の範囲から外れていないかをAIの外で点検すると、目安がそろう
  • 費用の本体は作る費用(目安6〜9人日)とレジの記録を整える手間。AIの利用料は3店で月400円ほど。仮に作る費用45万円なら約4か月で取り戻す
  • まずはレジから過去1年の出数を書き出し、主な20品目で1店から試す

CONTACT

自社の業務にも、AIを組み込めるか

記事のような組み込みを、御社の業務と予算に合わせて設計・実装しています。何から手を付ければいいか分からない段階でも大丈夫です。

AI活用を相談する