飲食店の人手不足をAIで補い、ロスを減らして利益を残す方法
この記事で変わる経営指標
この記事では、2〜5店ほどを持つ中小の飲食企業で、AIが効く業務を4つ挙げ、それぞれが経営の何に効くかを説明します。一言でいうと、店長が営業の合間や閉店後に抱えている、返事を書く・数を読む・文章を整える仕事をAIに手伝わせ、少ない人数で店を回しながら、捨てる食材と取りこぼす予約を減らすという話です。その結果、人を増やさずに営業を続けられ、食材費と機会損失の両方で利益が残りやすくなります。発注をAIに任せきる仕組みは、今はまだ後回しでかまいません。
AIの価値は、料理や接客を代わりにすることではありません。店長の頭の中にある「この曜日はこのくらい出る」「この質問にはこう答える」を、毎日同じ質で回せる形にすることです。
経営への効果は、少ない人数でロスと取りこぼしが減ること
4つの業務と、それぞれが経営の何に効くかを先にまとめます。
| 業務 | AIで変わること | 経営効果 | 始めやすさ |
|---|---|---|---|
| 予約と問い合わせの返事 | よくある質問への返事をAIが下書きし、営業中でも早く返せる | 売上(予約の取りこぼしが減る)/業務の無駄 | 始めやすい |
| 仕込み量の見当 | 過去の売上・予約・曜日から、AIが仕込みの目安を出す | コスト(食材のロスが減る) | 少し準備が要る |
| 口コミの返信 | 一件ずつ中身に触れた返信をAIが下書きする | 売上(選ばれやすくなる) | 始めやすい |
| 求人票 | 店の1日の流れからAIが求人の文章を書き起こす | 人手不足(応募が集まりやすくなる) | 始めやすい |
| 発注の自動化 | 発注をAIに任せきる | コスト | 後回しでいい |
飲食店の利益は、もともと薄い商売です。売上が少し増えることと同じくらい、捨てる食材が少し減ること、予約を1件取りこぼさないことが、最後に残る利益を左右します。AIが効くのは、この少しずつの積み重ねです。
飲食店では、店長が営業の合間に事務を抱え込んでいる
中小の飲食店の店長の1日は、仕込み、営業、締め、片付けで埋まります。その合間に、次の仕事が入り込みます。
- 予約の電話やメッセージ、「駐車場はありますか」「子ども連れでも大丈夫ですか」といった問い合わせへの返事
- 明日の仕込みをどれだけにするかの見当
- 予約サイトやGoogleマップの口コミへの返信
- アルバイトの求人票の書き直し
どれも店長がやらないと回らないと思われている仕事で、営業中は手が回らず、閉店後に回ります。忙しい日ほど、問い合わせへの返事が遅れ、仕込みは勘に頼り、口コミは放置されます。
食材のロスと取りこぼしは、少しずつでも利益を削っている
ここで、AIの話の前に、お金の話をしておきます。
環境省と農林水産省の推計では、令和5年度の日本の食品ロスのうち、外食産業から出たものは約66万トンでした。食べ残しのほかに、作りすぎた仕込みの廃棄も原因に挙げられています。一つの店で見れば小さな量でも、仕込みの読み違いは毎日起き、その分の食材費がそのまま消えます。
もう一つは取りこぼしです。予約や問い合わせのメッセージへの返事が翌日になれば、その間にお客様は別の店に決めます。電話に出られなかった1件が、4人分の売上だったかもしれません。
仕込みの読みを少し正確にし、返事を少し速くする。どちらも、やったほうがいいことは分かっていました。できなかったのは、店長の手が足りなかったからです。
予約と問い合わせの返事は、AIの下書きで営業中でも早く返せる
今のやり方。 予約サイトやLINE、メールに届いた問い合わせに、店長が営業の合間か閉店後に返事を書きます。同じような質問(駐車場、個室、子ども連れ、貸切)に、毎回同じような返事を書いています。
AIを入れたあと。 店の基本情報(営業時間、席数、個室、駐車場、貸切の条件、よくある質問と答え)をまとめた資料を用意し、届いた問い合わせと一緒にAIに渡して返事の下書きを作らせます。スタッフが下書きを確かめて送ります。店長でなくても、決まった答えのある質問には返せるようになります。
経営への効果。 返事が早くなり、比べている間に予約を決めてもらえる機会が増えます。店長の閉店後の作業も減ります。
つまずきどころ。 アレルギーの質問と、予約の可否は、AIに答えさせません。 アレルギーは命に関わり、予約の可否は当日の状況で変わります。この2つが含まれる問い合わせは、必ず店長かスタッフが確かめてから返す決まりにします。問い合わせへの返事を速くする考え方は、問い合わせに1時間以内に返す会社が商談を取る。AIで返事を速くする方法で詳しく説明しています。
仕込み量は、過去の売上と予約からAIが目安を出す
今のやり方。 店長が、曜日、天気、予約の数、近くの催しを頭に入れて、明日の仕込みの量を決めています。読みが外れれば、余った分は廃棄、足りなければ品切れです。店長が休みの日は、読みがさらに外れます。
AIを入れたあと。 過去1年ほどの日ごとの売上(品目ごとの出数)、曜日、天気、予約の数を表計算にまとめておきます。毎日、明日の予約の数と天気予報を足してAIに渡し、「過去の似た日の出数から、主な仕込みの目安を出して、なぜそう考えたかを一言添えて」と頼みます。店長は目安を見て、最後の量を決めます。
経営への効果。 読みの外れが減り、廃棄と品切れの両方が減ります。店長が休みの日も、目安があれば副店長が決めやすくなります。
つまずきどころ。 過去の売上が品目ごとに残っていないと、AIは目安を出せません。レジの記録から品目ごとの出数を書き出すところが最初の作業です。AIの目安は過去の傾向にすぎず、急な団体予約や天気の急変は読めません。最後の量は店長が決めます。
口コミの返信は、一件ずつ中身に触れた下書きをAIが作る
今のやり方。 口コミへの返信が止まっている店は少なくありません。返すにしても、忙しいと「ご来店ありがとうございました」の決まり文句になります。
AIを入れたあと。 口コミの本文と店の雰囲気をAIに渡し、料理やスタッフなど、口コミに書かれた具体的なことに触れた返信を下書きさせます。低い評価の口コミには、言い訳をしない下書きを用意させ、店長が読んで判断します。
経営への効果。 店を探している人に、口コミに向き合う店だと伝わり、選ばれやすくなります。月ごとに口コミをまとめさせれば、直すべき点も見えます。詳しくは口コミへの返信をAIに任せると、来店が増える理由と始め方で説明しています。
つまずきどころ。 自分たちで口コミを書くこと、AIに口コミを書かせることは、2023年10月からのステルスマーケティングの規制の対象になり得ます。AIに任せるのは返信の下書きまでです。
求人票は、店の1日の流れからAIが書き起こす
今のやり方。 アルバイトの求人票が「ホールスタッフ募集、時給〇円」で終わっていて、応募が来ない。書き直したいが、店長に時間がありません。
AIを入れたあと。 今いるスタッフに5分だけ、出勤から退勤までの流れ、最初の1週間で覚えること、まかないや休みの取りやすさを聞き、そのメモをAIに渡して求人票の仕事内容を書き起こさせます。
経営への効果。 働く姿が想像できる求人票になり、応募が集まりやすくなります。人が足りずに営業時間を短くしていた店なら、それを戻せる可能性があります。詳しくは求人の応募をAIで増やす方法。現場の1日を求人票に書くだけで変わるで説明しています。
つまずきどころ。 時給や勤務時間、休みの条件は、AIに書かせず店が実態の数字を入れます。メモにない「アットホーム」のような言葉は消します。
発注をAIに任せきる仕組みは、今はまだ後回しでいい
仕込みの目安が出せるなら、発注もAIに任せられないかと考える社長もいるはずです。ここは後回しにすることをすすめます。
- 間違えたときの損が大きい。 発注を一度読み違えれば、食材がまとめて余るか、営業中に品切れになります。目安を人が見て決めるのとは、間違えたときの重さが違います
- 取引先とのやり取りがからむ。 発注先ごとの締め時間、最低ロット、欠品の連絡は、店ごとの事情が多く、仕組みにするのに手間がかかります
- まず目安で手応えをつかむほうが早い。 仕込みの目安が当たるようになってから、発注の下書きに広げても遅くありません
頼み方をスキルにし、アレルギーを人に回す点検を置くと質がそろう
店が複数あると、返事や口コミの返信の書き方が店ごとにばらつきます。毎日使うなら、誰が頼んでも同じ質で出る工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
店の答え方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。飲食店なら、「店の基本情報とよくある質問」「店の口調」「使わない言葉」「アレルギーと予約の可否は答えない」という決まりに、良い返事の見本を加えておきます。どの店舗のスタッフが頼んでも、同じ会社の声で返せます。Anthropic 社の説明では、Claude のアプリ(Pro・Max・Team・Enterprise)などで使えます。
危ない質問は、AIの外の点検で必ず人に回す。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。飲食店では、問い合わせに「アレルギー」「卵」「小麦」「えび」などの言葉や、日時の指定が入っていたら、AIの下書きに必ず印を付け、店長が確かめるまで送れない決まりにします。AIへの指示文だけに頼らず、言葉で引っかける点検を別に置くのが大事です。
始める順番は、毎日の量が多く、間違えても直せる仕事から決める
4つのうち、どれから始めるかは、次の基準で決めます。
- 毎日の量が多いか:店長が毎日やっている仕事ほど、浮く時間が大きい
- 間違えても直せるか:お客様に届く前に、人が確かめて直せる仕事から
- 材料がそろっているか:店の基本情報、過去の売上、口コミなど、AIに渡すものが手元にあるか
- 命や安全に関わらないか:アレルギーなどは、AIに任せる範囲から外す
多くの店では、口コミの返信と求人票がこの4つを満たします。次に問い合わせの返事、最後に過去の売上を整えてから仕込みの目安、の順が無理がありません。
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
最初は、AIのチャットの画面に口コミやメモを渡して使うだけで試せます。費用は、入力した内容をAIの学習に使わない法人向けプランの利用料で、1人あたり月数千円です。店長と本部の担当者の分だけ用意すれば足ります。
問い合わせが届いたら自動で下書きができる、毎晩仕込みの目安が届く、といった仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。お客様の名前や連絡先を扱うので、社内のルールは社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールを参考に、先に決めておきます。
効果は、店ごとの廃棄の量と、返事までの時間で測る
業務ごとに、次の数字を始める前と後で比べます。
| 業務 | 測る数字 |
|---|---|
| 予約と問い合わせの返事 | 問い合わせから返事までの時間、問い合わせから予約になった件数 |
| 仕込み量の見当 | 主な食材の廃棄の量、品切れの回数 |
| 口コミの返信 | 返信した割合、新しい口コミの件数 |
| 求人票 | 求人の閲覧数と応募数 |
| 全体 | 店長の閉店後の作業時間 |
仕込みの効果は、次の式で見当をつけられます。
月に残る食材費 = 月の食材費 × 今の廃棄の割合 × 廃棄が減る割合
仮に、1店の月の食材費が300万円、廃棄が5%、仕込みの目安で廃棄が2割減れば、月3万円が残ります。3店なら月9万円です。廃棄の割合を測っていない店は、まず2週間、主な食材の廃棄を量るところから始めてください。
最初の1か月は、口コミの返信と求人票だけ試す
- 店長と本部の担当者に、法人向けプランを用意する
- 1週目は、返していない口コミ10件に、AIの下書きで返信する
- 2週目は、いちばん人が欲しい職種の求人票を、スタッフのメモからAIに書き起こさせて差し替える
- 3〜4週目は、主な食材の廃棄の量を毎日記録し、仕込みの目安を始める準備をする
- 1か月の終わりに、口コミの返信率、求人の応募数、店長の閉店後の作業時間を、始める前と比べる
まとめ
- 飲食店のAI活用は、店長が抱える返事・数の読み・文章の仕事を手伝わせ、少ない人数で回しながら、食材のロスと予約の取りこぼしを減らすことに効く
- 令和5年度の外食産業の食品ロスは約66万トン(環境省・農林水産省の推計)。仕込みの読み違いは、毎日少しずつ利益を削っている
- AIが効くのは、予約と問い合わせの返事、仕込み量の見当、口コミの返信、求人票の4つ。発注をAIに任せきるのは後回しでいい
- アレルギーと予約の可否は、AIに答えさせない。言葉で引っかける点検を置き、必ず人に回す
- 店の答え方をスキルにまとめると、どの店舗のスタッフが頼んでも同じ質で返せる
- まずは口コミの返信と求人票から、1か月試す