業務への組み込み例

工事の必要性が伝わる見積にする。現地調査の写真からAIで説明書

この記事で変わる経営指標

この記事では、電気・水道・空調の工事店の事務をAIで減らす。職人が現場に出られる時間を増やすの「見積の説明と現地調査の報告は、写真とメモからAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、職人が現地調査の写真と、その場で話したメモをスマホから送る。AIがお客様向けの工事の説明書と調査の報告を下書きし、金額は見積のソフトから決まった欄に差し込む。職人と社長が中身と言い方を確かめて、見積と一緒にお客様に渡すという形です。AIの価値は文章を速く書くことより、職人の頭の中にある「なぜこの工事が要るのか」を、お客様に伝わる言葉にして、夕方の事務所で書く時間をなくすことにあります。

今は見積の説明が、職人の夕方の書き仕事になっている

親の記事でも触れたとおり、帝国データバンクが2026年4月に行った調査では、正社員が不足していると答えた建設の企業は65.7%で、全体の50.6%を大きく上回りました(PR TIMES、財経新聞に掲載された同社の発表)。職人が増えにくいなかで、職人が書く時間はそのまま現場に出られない時間です。

ところが多くの小さな設備工事店では、現地調査から見積を渡すまでが、次のように進んでいます。

  1. 職人が現地を見て、写真を撮り、メモ帳に気づいたことを書く
  2. 夕方、事務所に戻ってから、見積のソフトで金額を出す
  3. 「なぜこの工事が要るのか」を、見積の備考欄や別紙に書く。慣れない文章に30分かかることもある
  4. 忙しい時期は説明が短くなり、「分電盤交換一式」のような一行だけで渡してしまう

お客様から見ると、金額だけが並び、なぜその工事が要るのかが分からない見積は、決めにくいものです。相見積もりの相手が丁寧な説明を付けていれば、そちらに傾くこともあります。説明を書く手間が、受注の決め手を弱くしている形です。

写真とメモから、AIが説明書と調査の報告を下書きする

職人が現地調査の写真と話したメモをスマホから送り、AIがお客様向けの説明と調査の報告を下書きする。金額は見積のソフトから決まった欄に差し込み、職人と社長が中身と言い方を確かめてから、見積と一緒にお客様へ渡す
職人が現地調査の写真と話したメモをスマホから送り、AIがお客様向けの説明と調査の報告を下書きする。金額は見積のソフトから決まった欄に差し込み、職人と社長が中身と言い方を確かめてから、見積と一緒にお客様へ渡す

仕組みは4つの段でできています。

1. 送る:現場で写真と話したメモを送る。 職人は現地調査の最後に、スマホから次のものを送ります。

  • 写真(今の設備、古くなった部分、工事をする場所)
  • その場で話したメモ(「分電盤が古く、容量が足りない。コンセントを3か所増やすなら交換が必要。築30年」)。話した声を文字にする機能を使えば、手で打たなくて済みます
  • 工事の種類と、お客様の名前と困りごと(事務の担当者が受付のときに入れておく)

2. 書く:AIが説明書と調査の報告を下書きする。 AIが写真とメモを読み、お客様向けの説明書を下書きします。今の状態、なぜ工事が要るのか、工事をしないとどうなりそうか、工事の中身、工事の日にお客様にお願いすること(停電の時間、立ち会いなど)を、専門用語を言い換えて書きます(「分電盤=家の電気を各部屋に分ける箱」)。あわせて、社内に残す調査の報告(気づいたこと、写真の説明、次に来るときの注意)も下書きします。

3. 差し込む:金額は見積のソフトから入れる。 金額、部材の型番、数量は、AIに書かせません。見積のソフトで出した金額と部材を、説明書の決まった欄に差し込みます。説明書の中で金額に触れるところは「見積書のとおり」と書かせ、数字そのものはAIの文に入れません。

4. 確かめる:職人と社長が確かめてから渡す。 職人が、写真の説明と工事の中身が合っているかを確かめます。社長か見積の責任者が、言い方と、書いてはいけないことが入っていないかを確かめ、見積と一緒にお客様に渡します。

AIへの頼み方は、写真の見えることとメモだけで書かせる

AIに渡す指示の見本です(内容は架空です)。

下の写真とメモから、お客様に渡す工事の説明書を下書きしてください。読み手は電気に詳しくない一般の方です。専門用語は言い換えてください。書くのは、今の状態、工事が要る理由、工事をしないと起きそうなこと、工事の中身、工事の日にお願いすることの5つです。理由はメモに書かれたことだけを使い、写真から読み取れないことや、メモにないことは書かないでください。金額、型番、数量は書かず、「見積書のとおり」と書いてください。「必ず」「危険です」のように不安をあおる言い方は避けてください。最後に、説明の中で使った事実と、それがメモと写真のどこから来たかを表にしてください。 メモ:分電盤が古く、容量が足りない。コンセントを3か所増やすなら交換が必要。築30年。台所で電子レンジとケトルを同時に使うとブレーカーが落ちると、お客様の話

返ってくる下書きの一部の見本です。

今の分電盤(家の電気を各部屋に分ける箱)は、建てたときのものと思われます。お客様から伺った、台所で電子レンジとケトルを同時に使うとブレーカーが落ちるというお話は、今の分電盤で使える電気の量が、今の暮らし方に足りていないことが原因の一つと考えられます。ご希望のコンセントを3か所増やすには、分電盤の交換が必要です……

AIが付けた「事実の出どころの表」を見れば、職人はメモにないことが書かれていないかをすぐ確かめられます。

説明の型と社内の言い換えをスキルにし、金額はAIの外で持つ

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

説明の型と言い換えの辞書を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 説明書の型:今の状態、工事が要る理由、しないと起きそうなこと、工事の中身、お願いすることの順番
  • 言い換えの辞書:分電盤、漏電遮断器、配管の勾配、冷媒など、よく出る言葉の、お客様向けの言い方
  • 書いてはいけないこと:金額と型番、メモにない故障の原因、「今すぐ交換しないと火事になる」のような根拠のない断定、ほかの業者の悪口
  • 見本:お客様に「分かりやすかった」と言われた過去の説明書(名前と住所は消したもの)

金額と型番は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、金額と部材を見積のソフトから決まった欄に差し込むこと、下書きの中に金額らしい数字や型番が混ざっていないかを機械的に探して印を付けること、説明書の5つの項目がそろっているかを確かめることがそれに当たります。お客様に伝える金額は、AIの文から取りません。

職人の仕事は、現場で話して送り、下書きを確かめることになる

仕組みが入ると、現地調査から見積を渡すまでが次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
記録 メモ帳に書き、夕方に思い出す 現場で写真と話したメモを送る
説明の文章 夕方の事務所で職人が書く AIの下書きを確かめて直す
金額 見積のソフトで出す 同じ。決まった欄に差し込む
渡すまで 翌日以降になることがある 早ければ調査の日のうちに
社内の記録 職人の頭の中に残る 調査の報告として残り、次の担当も読める

職人は、現場で話して送り、届いた下書きを確かめるだけです。社内に調査の報告が残るので、工事の日に別の職人が行くときも、気をつけることを引き継げます。

経営への効果は、見積を早く分かりやすく渡し、頼まれやすくなること

効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の説明と調査の報告を書くのに30分かかっていたものが、確かめて直す10分になれば、1件20分が浮きます。月40件の現地調査がある会社なら月約13時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約3万3,000円分です。月20件なら月約7時間、月約1万7,000円分です。

ただ、この仕組みの価値は時間よりも、見積の中身にあります。工事が要る理由がお客様に伝わり、見積が早く届けば、お客様は決めやすくなります。説明が丁寧かどうかで受注がどれだけ変わるかは、会社や工事によって違うので、下の「見込み」の節のとおり、自社の見積の通り方で確かめます。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月40件で160円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 説明書の型と言い換えの辞書を作る(社内:社長とベテランの職人、1日)。過去の見積から、お客様に通った説明を集めます。ここがいちばん大事です
  2. 写真とメモの送り方を決める(社内:事務、半日)。今使っているチャットや共有のフォルダで足ります
  3. AIの下書きと、金額の差し込み、数字と型番の点検を作る(作る人、2人日)
  4. 1か月、過去の現地調査の写真とメモで試して直す(作る人、1人日)。ベテランが書いた説明と比べ、足りないところを型と辞書に足します

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜4で、作る側の目安は合計3人日です。見積のソフトが金額の書き出しに対応していれば、差し込みは早く作れます。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 1件の説明書の下書きごとにかかる 月40件で160円ほど(下の計算)
見積のソフト・チャット すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 言い換えの辞書とスキルの見直し 月2時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。写真は、公式の説明では縦と横の画素数を掛けて750で割った量が目安で、1枚1,000トークンほどに縮めて送るとします。1件あたり写真6枚とメモとスキルで8,000トークンを読ませ、1,000トークンを書かせると見積もると、約0.026ドル、1ドル150円で約3.9円です。月40件で160円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が20万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を5,000円とすると、月40件の会社(月約3万3,000円分)ではおよそ7か月、月20件の会社(月約1万7,000円分)ではおよそ17か月です。現地調査が月に数件の会社なら、まず説明書の型と言い換えの辞書だけを作り、親の記事のやり方(会社で契約したAIのチャットに写真とメモを貼って下書き)で回すほうが合うことが多いはずです。

必要な人は3役で、渡すのは社長か見積の責任者

役 誰が すること 時間
送って確かめる人 現地調査をした職人 写真と話したメモを送る。下書きの事実を確かめる 1件10分
渡す人 社長か見積の責任者 言い方と書いてはいけないことを確かめ、見積と一緒に渡す 1件5分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 下書き、差し込み、点検を作る 最初の3人日

いちばん大事なのは、職人が現場でメモを話すことです。メモが「交換が必要」だけだと、AIは理由を書けません。「なぜ」を一言添える癖を、最初の1か月で付けます。

1か月で調査の日に渡せ、半年で見積の通り方の変化が分かる見込み

どこまでいけるかは、職人が話すメモの中身と、言い換えの辞書がどれだけ育つかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 件数の多い工事(分電盤、エアコン、給湯器など)から試す。ベテランの説明と比べて型を直す
3か月 多くの工事に広がる。早ければ調査の日のうちに見積と説明書を渡せる
半年 見積を渡した件数のうち、頼まれた件数の割合を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 現地調査から見積を渡すまでの日数:調査の日と渡した日から数えます
  • 職人が説明を書くのに使った時間:1週間だけ記録を取ります
  • 見積を渡した件数のうち、頼まれた件数:見積の記録から数えます

AIに原因を決めさせたり、金額を書かせたりすると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • AIに故障の原因を決めさせる。 写真から「〇〇が原因です」と書かせると、外れたときにお客様の信頼を失います。原因はメモに書かれた職人の見立てだけを使います
  • 金額や型番をAIに書かせる。 AIは、もっともらしい数字や型番を作ってしまうことがあります。見積のソフトから差し込み、下書きに数字が混ざっていないかを機械的に確かめます
  • 不安をあおって工事を勧める。 「すぐに交換しないと危険」のような根拠のない書き方は、お客様の信頼を失い、後で説明がつかなくなります。スキルの「書いてはいけないこと」に入れておきます
  • 確かめずに渡す。 写真の取り違えや、別のお客様のメモが混ざることがあります。職人が事実を、社長が言い方を確かめてから渡します

お客様の家の写真や住所は、大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。工事の途中の写真からお客様への報告を作る方法は、工務店の例ですが現場写真からAIが施主への報告を書き、監督の残業を減らす方法で説明しています。

まとめ

  • 職人が現地調査の写真と話したメモを送り、AIがお客様向けの説明書と社内の調査の報告を下書きする
  • 金額、型番、数量はAIに書かせず、見積のソフトから決まった欄に差し込む。下書きに数字が混ざっていないかは機械的に確かめる
  • 説明書の型、言い換えの辞書、書いてはいけないこと、通った説明の見本をスキルにする
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は3人日。AIの利用料は月40件で160円ほど。月に数件の会社は型と辞書だけ作り、チャットで回す
  • 効果は、見積を渡すまでの日数、職人が書く時間、見積の通り方を前と後で比べて確かめる

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