AIを契約する前に確かめること。会社の情報が学習に使われない契約を選ぶ
この記事で変わる経営指標
この記事では、会社でAIを契約する前に確かめることを説明します。一言でいうと、入力が学習に使われるか、管理する人がアカウントを止められるか、社内で分け合う範囲、料金の単位、つなぐ先の範囲の5つを、そのサービスの公式の説明で確かめてから選ぶ。個人向けのプランを社員に使わせるのではなく、会社として契約し、社内の決まりのもとで使うという話です。
AIの価値は、契約すれば自然に出てくるものではありません。会社の情報の行き先がはっきりした契約を選ぶことで、社員が安心して仕事に使えるようになり、使う人が増えて初めて、効果が出ることです。
経営への効果は、情報の事故を防ぎ、社員が安心して使えること
AIの使い方は、契約前に確かめて会社として契約すると、次のように変わります。
| 今まで | 確かめて会社として契約したあと | |
|---|---|---|
| 使うAI | 社員がそれぞれ、自分のアカウントで使う | 会社が契約したものを使う |
| 入力した情報 | 学習に使われるかどうか、誰も把握していない | 公式の説明で、使われない形を確かめてある |
| 誰が使っているか | 分からない | 管理する人が一覧で分かる |
| 辞めた人 | アカウントに会社の情報が残ったまま | 管理する人が止められる |
| 社員の気持ち | 「使っていいのか分からない」 | 決まりのもとで、安心して使える |
経営への効果は2つあります。1つは、お客様や取引先の情報が、思わぬ形で外に出る事故を防ぐことです。もう1つは、社員が安心して使えるようになり、使う人が増えることです。どれだけよいAIを契約しても、社員が「使っていいのか分からない」と思っていれば、効果は出ません。
社員はすでに、会社が用意していないAIを使っている
Microsoft と LinkedIn が2024年に行った調査(31か国3万1,000人)では、仕事でAIを使う人の78%が、会社が用意していない自分のAIの道具を持ち込んでいたと報告されています(Microsoft の発表、The Decoder の紹介)。海外の大企業を含む調査なので、日本の中小企業にそのまま当てはめることはできません。それでも、「会社がAIを用意していない=社員はAIを使っていない」とは限らない、ということは言えます。
社員が自分のアカウントで仕事の文書をAIに貼っていれば、その情報がどう扱われるかは、社員が選んだプランと設定次第です。会社が先に契約を用意し、確かめた形で使ってもらうほうが、情報を守れます。
入力が学習に使われるかは、個人向けと法人向けで違う
AIのサービスでは、多くの場合、個人向けのプランと法人向けのプランで、入力した情報の扱いが違います。Anthropic社のClaudeを例にすると、公式の説明(2026年10月13日に確認)では次のようになっています。
- 法人向け(Claude for Work や API など):既定では、入力と出力をモデルの学習に使わない。ただし、利用者がよい・悪いの評価ボタンなどでフィードバックを送った場合は、その会話が保存され、学習に使われることがある。TeamとEnterpriseのプランでは、管理者が組織全体でこの評価ボタンを使えないようにできる
- 個人向け(Free、Pro、Max):利用者が「Claudeの改善に使ってよい」と選んだ場合などに、会話を学習に使う。選ぶかどうかは利用者の設定次第
つまり、同じClaudeでも、社員が個人向けのプランで使うか、会社が法人向けを契約するかで、扱いが変わります。ほかのAIのサービスでも、プランごとの扱いは公式の説明に書かれています。契約の前に、使う予定のプランの説明を読みます。
管理する人が、誰が使っているかを見て、止められるか
確かめること。 会社として契約するなら、管理する人(社長か、総務の担当者)が次のことをできるかを確かめます。
- 誰がアカウントを持っているかを一覧で見られる
- 社員が辞めたときに、その人のアカウントを止められる
- 会社のメールアドレスでしか参加できないようにできる
- フィードバックの送信など、情報が外に出る機能を組織で止められる
個人向けのプランを社員がそれぞれ契約している形では、これらはできません。社員が辞めたあとも、その人のアカウントに会社の情報が残ったままになります。
社内で分け合える範囲を、業務に合わせて決める
確かめること。 会社の資料や頼み方の見本を、社内で分け合えるかを確かめます。Claudeの公式のヘルプ(2026年10月13日に確認)によると、TeamとEnterpriseのプランでは、資料と指示をまとめた「プロジェクト」を社内のメンバーと分け合え、見るだけの人と直せる人を分けられます。
分け合えると便利ですが、全員に全部を見せる必要はありません。お客様への返事のプロジェクトは営業と事務、給与や人事の資料は社長と総務、のように、業務ごとに見られる人を決めます。資料と決まりを一度入れておく方法は、毎回会社の説明をしない。AIに会社の資料と決まりを一度だけ渡す方法で説明しています。
料金は1人あたりで決まることが多く、使う人から始める
確かめること。 料金がどの単位で決まるか(1人あたりの月額か、使った量か)、最低の人数や契約の期間があるかを確かめます。法人向けのプランは、1人あたり月数千円の形が多くあります。
全員分をいきなり契約する必要はありません。まずは社長と、毎日書く仕事の多い2〜3人から始め、使われることを確かめてから広げます。費用の考え方はAI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。
つなぐ先の範囲を、最初は狭くしておく
確かめること。 多くのAIのサービスは、メール、共有のフォルダ、予定表などとつないで使えます。つなぐと便利ですが、AIが読める情報の範囲も広がります。どの情報につなぐかを、管理する人が決められるか、社員が勝手につなげるかを確かめます。
最初は、つなぐ先を決めずに、社員がチャットに貼った内容だけで使うところから始めます。慣れてきたら、業務ごとに必要なものだけをつなぎます。
契約したら、A4で1枚の決まりを先に配る
契約しただけでは、社員は何を入れてよいか分かりません。契約と同時に、次のことを決めて配ります。
- 使ってよいのは、会社が契約したAIだけ
- 入れてよい情報と、入れてはいけない情報(パスワード、マイナンバー、取引先と約束した秘密の情報など)
- AIの答えは、送る前に人が確かめる
- 困ったときに聞く人
決まりの作り方は、社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
契約のあとは、頼み方をスキルにし、確かめる仕組みを足す
契約は入口です。作る側から見ると、そのあとに「AIを使う」と「使いこなす」の差が出ます。
頼み方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。会社の言葉づかい、文書の型、書いてはいけないことをスキルにしておくと、契約したAIを誰が使っても、同じ質の下書きが出やすくなります。
確かめる仕組みを、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、金額や日付を表から差し込むこと、送る前に人が確かめること、入れてはいけない情報が貼られていないかを確かめることがそれに当たります。契約で守れるのは情報の扱いまでで、答えの正しさは守れません。
契約でつまずくのは、全員分の契約と、決まりの後回し
作る側から見て、契約のときによくあるつまずきは次の4つです。
- 全員分を一度に契約する。 使われないアカウントの料金が続きます。使う人から始め、使われることを確かめてから広げます
- 個人向けのプランを会社の費用で払う。 料金は安く見えても、管理する人がアカウントを止められず、入力の扱いも社員の設定次第になります
- 決まりを後回しにする。 決まりがないまま使い始めると、何かあったときに「使用禁止」に戻ってしまいます
- 公式の説明を読まずに、評判で決める。 プランの中身や入力の扱いは変わることがあります。契約の前と、その後も年に一度は、公式の説明を読み直します
明日からは、社員が今使っているAIを聞いてみる
- 社員に、仕事でAIを使っているか、どのサービスのどのプランかを聞く(責めないことを先に伝える)
- 使われているサービスについて、そのプランの公式の説明で、入力が学習に使われるかを確かめる
- 会社として契約するサービスとプランを1つ決め、上の5つを確かめる
- 社長と2〜3人で契約し、A4で1枚の決まりを配る
- 1か月使って、使われ方と困りごとを聞き、広げるかを決める
まとめ
- 社員はすでに、会社が用意していないAIを仕事に使っているかもしれない。会社が先に契約を用意するほうが情報を守れる
- 入力が学習に使われるかは、個人向けと法人向けで違う。Claudeの場合、法人向けは既定で学習に使わないが、評価ボタンなどのフィードバックは別の扱い
- 管理する人が、誰が使っているかを見て、辞めた人のアカウントを止められるかを確かめる
- 社内で分け合う範囲、料金の単位、つなぐ先の範囲を確かめ、最初は狭く始める
- 契約と同時にA4で1枚の決まりを配り、頼み方のスキルと確かめる仕組みを足していく