毎回会社の説明をしない。AIに会社の資料と決まりを一度だけ渡す方法
この記事で変わる経営指標
この記事では、AIに頼むたびに会社の説明を書く手間をなくし、社員の誰が頼んでも会社に合った下書きが出るようにする方法を説明します。一言でいうと、会社の概要、文書の見本、言葉づかい、書いてはいけないことを、AIの「プロジェクト」などの機能に一度だけ入れておく。業務ごとに1つずつ作り、管理する人を決め、古くなった資料は入れ替えるという話です。
AIの価値は、賢い答えを出すことだけではありません。会社のことを毎回説明しなくても、会社の言い方と決まりに沿った下書きが、誰が頼んでも同じ質で出てくることです。
経営への効果は、頼む手間が減り、社員ごとの出来の差が縮むこと
AIへの頼み方は、会社の資料と決まりを一度入れておくと、次のように変わります。
| 今まで | 資料と決まりを一度入れたあと | |
|---|---|---|
| 頼むとき | 会社の説明、お客様の呼び方、文書の形を毎回書く | 頼みたいことだけを書く |
| 出来 | 説明が上手な人と下手な人で、出来がばらばら | 誰が頼んでも、会社の見本に近い下書きが出る |
| 間違い | 説明を書き忘れると、会社に合わない答えが出る | 書いてはいけないことを、毎回守らせやすい |
| 新しい社員 | 頼み方を一から覚える | 用意されたプロジェクトで頼むだけ |
効果の大きさは、前提を置いて考えます。仮に、社員10人が1日3回AIに頼み、そのたびに会社の説明を書くのに3分かかっていたなら、1日90分、月20日で月30時間です。1時間あたりの人件費を仮に2,500円とすると、月7万5,000円分の時間が、会社の説明を書くことに使われている計算になります。
ただ、大きいのは時間よりも、出来がそろうことです。説明を書くのが苦手な社員でも、会社に合った下書きが出るようになれば、AIを使う人が増え、社内に広がります。
企業の懸念で最も多いのは、AIの答えの正確さだった
帝国データバンクが2026年3月に行った調査では、業務で生成AIを使っている企業は34.5%で、使い道で最も多いのは文章の作成・要約・校正の45.1%でした。一方で、懸念の最多は「情報の正確性」の50.4%でした(ITmedia NEWS、ビジネス+ITの報道)。
AIの答えが会社に合わない、間違っている、と感じる理由の一つは、AIが会社のことを知らないまま答えていることです。会社の資料や決まりを渡さずに「お客様への返事を書いて」と頼めば、AIは一般的な返事を書きます。会社の商品の名前、お客様の呼び方、言ってはいけないことを知らないので、もっともらしいけれど会社に合わない答えになります。
会社の資料と決まりを先に渡しておくことは、正確さへの懸念を減らす手の一つです。それでも間違いはなくならないので、確かめ方は別に決めます。確かめ方はAIの答えの間違いを社員が見つける。仕事で使う前に決める確かめ方にまとめています。
AIの「プロジェクト」に、資料と決まりをまとめて入れておく
多くのAIのサービスには、資料と指示をまとめておき、その中で何度でも頼める機能があります。たとえば、Anthropic社のClaudeでは「プロジェクト」と呼ばれています。Claudeの公式のヘルプ(2026年10月13日に確認)によると、次のことができます。
- 資料を入れておける。 プロジェクトに、文書や文章などの資料を入れておくと、そのプロジェクトの中の会話でClaudeがそれを前提に答えます
- 指示を決めておける。 プロジェクトごとに、「丁寧な言葉で」「この業種の立場で」といった指示を決めておけます
- 無料でも使える。 無料のアカウントでも使え、無料の場合は5つまで作れます
- 社内で分け合える。 TeamとEnterpriseのプランでは、社内のメンバーとプロジェクトを分け合え、見るだけの人と直せる人を分けられます
ほかのAIのサービスにも、同じような機能があります。名前や使える範囲はサービスとプランで違い、変わることもあるので、使っているサービスの公式のヘルプで確かめます。
入れるのは、会社の概要と文書の見本と言葉づかい
プロジェクトに入れるものは、次の5つから始めます。
- 会社の概要:何を、誰に、どう売っているか。商品やサービスの名前の正しい書き方
- 文書の見本:お客様に「分かりやすい」と言われた返事、通った見積の説明、評判の良かった案内文(名前や住所は消したもの)
- 言葉づかい:お客様の呼び方、社内で使う言葉と社外で使う言葉の違い、敬語の度合い
- 書いてはいけないこと:値引きの約束、確かめていない納期、ほかの会社の悪口、断定してはいけないこと
- よく聞かれる質問と答え:社長や先輩が何度も答えてきたこと
指示の欄には、たとえば次のように書きます(見本。内容は架空です)。
あなたは〇〇工業のお客様への返事を下書きする担当です。資料の「会社の概要」と「言葉づかい」に沿って書いてください。お客様は「〇〇様」と呼びます。金額、納期、在庫の数は書かず、「担当者から改めてお知らせします」と書いてください。資料にないことは推測で書かず、「確認が必要」と書いてください。最後に、資料のどこを使ったかを一行で書いてください。
入れないのは、個人の情報と、数字が変わる表
入れないほうがよいものもあります。
- 個人の情報:お客様や社員の名前、住所、電話番号、健康のこと。見本に使うときは消してから入れます
- パスワードや口座の情報:どんな場合も入れません
- 数字が日々変わる表:単価表、在庫の表、納期の表は、入れた時点から古くなります。AIが古い数字をもっともらしく書いてしまうので、金額や数量は表から人が入れる決まりにします
- 取引先との約束で外に出せないもの:契約で決まっている秘密の情報
会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで使うことが前提です。社内ルールの決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
プロジェクトは、全社で1つではなく業務ごとに作る
全部の資料を1つのプロジェクトに入れると、関係のない資料をAIが混ぜて使い、答えがぶれます。業務ごとに分けて作ります。
| プロジェクト | 入れるもの | 使う人 |
|---|---|---|
| お客様への返事 | 会社の概要、返事の見本、言葉づかい、よくある質問 | 営業、事務 |
| 見積の説明 | 商品の説明、通った見積の説明の見本、書いてはいけないこと | 社長、営業 |
| 求人と採用 | 会社の概要、現場の1日、過去の求人票、面接の案内の見本 | 社長、採用の担当 |
| 社内の文書 | 社内の決まり、手順書、会議の記録の書き方 | 全員 |
まずは、毎日の量が多く、間違えても人が気づいて直せる業務から1つ作ります。多くの会社では、お客様への返事か社内の文書です。
資料と決まりをスキルにすると、さらに自動で読み込まれる
プロジェクトは、チャットの画面で使う人のための仕組みです。作る側から見ると、その先にもう一段あります。ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
手順書と見本を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。プロジェクトに入れた「書いてはいけないこと」や「文書の見本」を、業務の手順と一緒にスキルにしておくと、問い合わせの返事を自動で下書きする仕組みなどを作るときに、そのまま使えます。
数字と確かめは、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、金額や数量を表から差し込むこと、AIの下書きに数字が混ざっていないかを機械的に確かめること、送る前に人が確かめることがそれに当たります。プロジェクトに資料を入れても、数字の正しさまでは守れません。
管理する人を1人決め、古い資料は月1回入れ替える
プロジェクトは、作って終わりではありません。資料が古くなると、AIは古い情報で答えます。
- 管理する人を1人決める。 社内で分け合う場合、直せる人は1〜2人にし、ほかの人は見るだけにします。誰でも資料を足せると、古い資料や間違った資料が混ざります
- 月1回、資料を見直す。 商品の名前が変わった、決まりが変わった、新しい見本ができた、といったときに入れ替えます
- 社員の声を集める。 「この答えは会社に合わない」と感じた例を集め、指示や見本を直します
頼み方の見本を社員に配って広げる方法は、契約したAIを社員が使わない会社にしない。研修より先に頼み方の見本を配るで説明しています。社内の資料からAIが質問に答える仕組みは、先輩が同じ質問に答える時間を減らす。社内の資料からAIが答える仕組みで説明しています。
明日からは、お客様への返事のプロジェクトを1つ作る
- 会社で契約したAIのサービスで、「お客様への返事」という名前のプロジェクトを1つ作る
- 会社の概要を、A4で1枚ほど書いて入れる(商品やサービスの名前、お客様の呼び方)
- 評判の良かった過去の返事を3〜5通、名前を消して入れる
- 指示の欄に、上の見本を会社に合わせて書く
- 1週間、社長と事務の担当者が使い、プロジェクトなしで頼んだときと出来を比べる
1週間で「毎回の説明がいらない」「出来がそろう」が分かれば、ほかの業務にも広げます。
プロジェクトに入れても、AIの答えは確かめる
- 資料に入れたことでも、間違えることがある。 AIは、資料を読み違えたり、資料にないことを付け足したりすることがあります。送る前に人が確かめます
- 数字は表から入れる。 金額、数量、日付は、AIの文から取りません
- 機能と料金は変わる。 プロジェクトのような機能の名前、使えるプラン、作れる数は、サービスごとに違い、変わります。公式のヘルプで確かめます
- 資料を入れすぎない。 関係のない資料が多いと、答えがぶれます。業務ごとに必要なものだけを入れます
まとめ
- AIに頼むたびに会社の説明を書く手間は、社員10人なら月30時間ほどになりうる(仮の計算)。出来も人によってばらばらになる
- 会社の概要、文書の見本、言葉づかい、書いてはいけないこと、よくある質問を、AIの「プロジェクト」などの機能に一度だけ入れる
- 個人の情報、パスワード、数字が日々変わる表は入れない。金額や数量は表から人が入れる
- プロジェクトは業務ごとに作り、管理する人を1人決め、資料は月1回見直す
- 明日からは、お客様への返事のプロジェクトを1つ作り、1週間使って出来を比べる