社員が使っているAIの棚卸し|聞き取りから会社の契約へ移す手順
この記事で変わる経営指標
この記事では、生成AIの法人契約で確かめる5つのこと|会社の情報を学習に使わせないの「明日からは、社員が今使っているAIを聞いてみる」を、聞き取りから会社の契約への移し替えまで進める方法を説明します。
一言でいうと、名前を書かない聞き取りの紙で、社員が仕事でどのAIをどう使っているかを聞く。AIが、使っている道具、業務、入れている情報の一覧にまとめる。社長が、会社の契約に移す業務と、止める使い方を決める。推進役が1か月以内に、会社のプランと頼み方の見本を配る。使っていたことは責めないという形です。
経営への効果は、情報を守りながら、社員の工夫を会社の力にすること
社員が自分のアカウントでAIを使っているなら、それは仕事を早くしようとする工夫です。止めるだけでは、その工夫も消えてしまいます。会社の契約に移せば、情報の扱いを会社として確かめたうえで、社員の工夫をほかの社員にも広げられます。
棚卸しをすると、「どの業務でAIが役に立っているか」も分かります。AIを会社で入れるときに、どの業務から始めるかを決める材料にもなります。
社員はすでに、会社が用意していないAIを使っていることがある
Microsoft の発表と The Decoder の紹介によると、MicrosoftとLinkedInが2024年に31か国3万1,000人に行った調査では、仕事でAIを使う人の78%が、会社が用意していない自分のAIの道具を持ち込んでいました。大事な仕事でAIを使っていることを認めたがらない人も52%いたとされています。海外の大企業を含む調査なので、日本の中小企業にそのまま当てはめることはできません。それでも、聞いてみなければ分からない、ということは言えます。
Anthropic のプライバシーセンターの説明では、個人向けのプランと商用向けのプランで、入力がAIの学習に使われるかの扱いが分かれています。社員が個人向けのプランで仕事の情報を入れていれば、その扱いは社員が選んだ設定次第になります。2026年10月時点の情報です。
今は、誰が何に使っているかを社長が知らない
小さな会社では、AIの使い方を社員に聞いたことがない社長もいます。聞いても、「使っていない」と答える社員がいるかもしれません。会社のルールがない中で使っていると、言い出しにくいからです。
使い方を知らないまま会社の契約を始めると、社員は自分のアカウントを使い続け、会社のプランが使われません。先に今の使い方を聞き、会社の契約に移す道を作ることが大事です。
聞き、AIがまとめ、社長が決め、推進役が移す
1 聞く(社長)。 「使っていたことは責めない。会社として安全に使えるようにしたい」と先に伝え、名前を書かない聞き取りの紙を配ります。
2 まとめる(AI)。 集まった答えをAIに渡し、使っている道具、業務、入れている情報の一覧にまとめてもらいます。
3 決める(社長)。 会社の契約に移す業務と、止める使い方を決めます。
4 移す(推進役)。 1か月以内に、会社のプランを用意し、頼み方の見本と社内の決まりを配ります。
聞き取りの紙は、この5つを聞く
| 質問 | 答えの例(想定) |
|---|---|
| 仕事でAIを使っていますか | 週に数回 |
| どのサービスの、どのプランですか | 個人の無料プラン、個人の有料プラン、分からない |
| どの業務に使っていますか | メールの下書き、議事録の要約、表計算の式 |
| どんな情報を入れていますか | 社内の文書、取引先の名前、数字 |
| 会社で用意してほしいことは | 使ってよい範囲を知りたい |
名前を書かない紙にすると、正直に答えてもらいやすくなります。「分からない」と答えた人のプランは、推進役が後で一緒に確かめます。
AIへの頼み方と、返ってくる一覧はこうなる
AIに渡す指示(見本):
下は、社員への聞き取りの答え(名前なし)です。「使っているサービスとプラン」「使っている業務」「入れている情報」の3つの欄で一覧にまとめ、それぞれ何人が答えたかを数えてください。入れている情報は、「社内の文書」「取引先や顧客の名前」「金額や数字」「個人の情報」に分けてください。どの使い方を止めるかの判断は書かないでください。
返ってくる一覧(見本の一部。内容は架空です):
業務 人数 入れている情報 メールの下書き 5 取引先の名前 議事録の要約 3 社内の文書 表計算の式 2 数字(表の中身)
人数は、集めた紙の数と照らして確かめます。
移す業務と、止める使い方を決める
一覧ができたら、社長が決めます。
- 役に立っている業務は、会社の契約に移す。 人数の多い業務から、会社のプランで同じことができるようにします
- 入れてはいけない情報を入れている使い方は、止める。 個人の情報や、取引先から預かった資料を個人のプランに入れている使い方は、会社のプランに移すまで止めてもらいます
- 個人のアカウントに残っている情報を確かめる。 仕事の情報が個人のアカウントの履歴に残っていれば、削除してもらうかを決めます
会社のプランで確かめることは、親の記事の5つの項目で確かめます。
移すときは、見本と決まりを一緒に配る
会社のプランを用意するだけでは、社員は慣れた自分のアカウントを使い続けます。移すときは、次の3つを一緒に配ります。
- 頼み方の見本。 一覧で人数の多かった業務について、会社のプランでの頼み方の見本を配ります
- A4で1枚の決まり。 入れてよい情報と、入れない情報を書いた社内の決まりを配ります
- 困ったときの聞き先。 推進役の名前と、聞き方を書いておきます
見本の配り方は、生成AIは研修だけでは社員に広がらない|先に配る頼み方の見本で説明しています。
役に立っていた使い方は、ほかの社員にも広げる
棚卸しで見つかるのは、心配な使い方だけではありません。社員が自分で工夫した、役に立つ使い方も見つかります。
- よい使い方を聞きに行く。 一覧で人数が多かった業務や、時間が減ったと答えた使い方は、推進役が使っている社員に話を聞きます。名前なしの紙なので、社内で「話を聞かせてほしい」と呼びかけます
- 頼み方を見本にする。 聞いた頼み方を、会社のプランで同じように使える見本に直します
- 工夫した人を認める。 見本のもとになった社員の工夫は、社内で紹介します。隠れて使っていた工夫が、会社の力になります
型をスキルにし、止めるかの判断はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「聞き取りの5つの質問」「一覧のまとめ方」「入れている情報の分け方」をスキルにしておくと、半年後の2回目の棚卸しも同じ形で比べられます。
止めるかの判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、聞き取りを名前なしで行うこと、人数を紙の数と照らすこと、移す業務と止める使い方を社長が決めることがそれに当たります。
費用はAIの利用料が1回2円ほど
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| 一覧のまとめ | 聞き取りの答え(入力3千トークンほど)から一覧(出力800トークンほど)を作ると、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1回2円ほど |
| 会社のプラン | 1人あたり月数千円 |
| 社長の時間 | 聞き取りの紙を作って配り、一覧を見て決めるのに半日ほど(想定) |
| 推進役の時間 | 見本を作り、移す手伝いに数日ほど(想定) |
必要な人は2役で、止めるかを決めるのは社長
- 社長:聞き取りの紙を配り、責めないことを伝え、移す業務と止める使い方を決める
- 推進役:会社のプランを用意し、見本と決まりを配り、「分からない」と答えた人のプランを一緒に確かめる
1か月で会社の契約に移り、半年で2回目の棚卸しをする見込み
- 1週目:社長が責めないことを伝え、聞き取りの紙を配る
- 2週目:AIで一覧にまとめ、社長が移す業務と止める使い方を決める
- 3〜4週目:推進役が会社のプランと見本と決まりを配る
- 半年後:同じ紙で2回目の棚卸しをし、会社のプランに移ったかを確かめる
責めると、正直な答えが返ってこない
よくある失敗は次の3つです。
- 使っていた社員を責める。 責めると、次から隠れて使うようになります。先に「責めない」と伝えます
- 止めるだけで代わりを用意しない。 代わりの会社のプランがないと、仕事が遅くなり、隠れて使う人が残ります
- 一度で終える。 新しいAIの道具は次々に出てきます。半年に1回、同じ紙で聞き直します
まとめ
- 社員が自分のアカウントで仕事にAIを使っていることがあるので、名前を書かない紙で聞く
- AIに、使っている道具、業務、入れている情報の一覧にまとめさせ、人数は紙と照らす
- 役に立っている業務は会社の契約に移し、入れてはいけない情報を入れている使い方は止める
- 会社のプランと一緒に、頼み方の見本と社内の決まりを配る
- 使っていたことは責めず、半年に1回、同じ紙で聞き直す