業務への組み込み例

介護記録を話すだけで下書きにする。職員の残業を減らすAIの仕組み

この記事で変わる経営指標

この記事では、介護職員がケアの合間にスマホに話したメモから、AIが介護記録を下書きし、職員が確かめて記録に入れる仕組みを、組み方・費用・必要な人・結果の見込みまで説明します。一言でいうと、夕方に机でまとめて書いていた記録を、ケアの合間の一言と、確かめる1分に置き換え、記録のための残業をなくしていくという話です。その結果、職員の負担が減って辞めにくくなり、記録の書き方もそろいます。介護の事業所でAIが効く業務の全体像は、介護の人手不足をAIで補う方法。記録の時間を減らし、利用者と過ごす時間を増やすで説明しています。

AIの価値は、記録を自動で作ることではありません。職員が見たことを、見たその場で声に残せるようにし、文章にする手間だけを引き取ることです。

今は送迎のあとに、1人分ずつ記録を書いて残業になる

この記事は、ある想定の事業所で話を通します。定員30人ほどのデイサービスで、1日に約25人の利用者が来て、職員は約10人。介護記録は記録のソフトに、職員が1人分ずつ文章で入れているとします。数字はすべてこの想定の値なので、御社の利用者の数と職員の数に置き換えて読んでください。

今の記録は、次の流れです。

  1. ケアの合間に、気づいたことを手書きのメモに残す。忙しいと、メモも取れない
  2. 送迎のあと、夕方に記録のソフトを開く
  3. メモと記憶をもとに、利用者1人ずつ、食事・入浴・排せつ・体調・様子を文章にする
  4. 書き方が職員によって違うので、ほかの職員が読むと分かりにくいことがある

1人分に3分かかるとすると、25人で75分です。これが毎日、夕方に集中し、そのまま残業になります。

時間以上に問題なのは、記録が夕方になるほど、記憶があいまいになることです。午前中に気づいた小さな変化が、夕方には思い出せません。記録は、あとから利用者の変化に気づくための材料なので、あいまいな記録は、気づくべき変化を見落とすことにつながります。

記録の時間を減らすことは、職員が辞めないことにつながる

ここで、AIの話の前に、なぜ記録の時間が経営の問題なのかを確かめておきます。

厚生労働省が2024年7月に公表した推計では、2026年度に必要な介護職員は約240万人で、2022年度の約215万人から約25万人の増加が必要です。人を増やすのが難しい中で、今いる職員に辞められないことが、事業所を続けるための一番の条件になります。

記録のための残業は、ケアそのものではない仕事のために、職員の時間と体力を削ります。夕方に毎日1時間の記録が続けば、職員は疲れ、辞めていきます。1人辞めれば、残った職員の記録とケアがさらに増えます。

国も、記録の効率化を後押ししています。2024年度の介護報酬の改定で新しくできた「生産性向上推進体制加算」では、介護記録の作成を効率化するICT機器が、対象のテクノロジーの1つとされています(要件と、この仕組みが当てはまるかは、2026年10月時点で自治体の最新の通知で確かめてください)。

職員が話した声をAIが記録の文章にし、職員が確かめる

介護記録を下書きする仕組み。職員がケアの合間に利用者ごとに一言ずつスマホに話し、AIが事業所の書き方に合わせて記録の文章を下書きする。話したメモにない言葉や数字を別の決まりで点検し、職員が確かめて記録のソフトに入れる
介護記録を下書きする仕組み。職員がケアの合間に利用者ごとに一言ずつスマホに話し、AIが事業所の書き方に合わせて記録の文章を下書きする。話したメモにない言葉や数字を別の決まりで点検し、職員が確かめて記録のソフトに入れる

1. 話す:ケアの合間に、利用者ごとに一言ずつスマホに話す。 職員は、事業所のスマホの音声入力(話した言葉を文字にする機能。多くのスマホに最初から付いています)で、利用者ごとに一言ずつ残します。「Aさん、昼食は主食8割、副食全量。午後の体操で右肩が上がりにくそう。本人は痛みはないと」。利用者の名前は、決めた記号(Aさん、Bさんなど)で話します。

2. 下書きする:AIが、事業所の書き方に合わせて文章にする。 1日分のメモをAIに渡すと、利用者ごとに、食事・入浴・排せつ・体調・様子の項目に分けた記録の文章を下書きします。

3. 点検する:AIとは別の決まりで、メモにない言葉を見つける。 下書きに出てくる数字(食事の割合、体温、時刻)が、元のメモと一致するかを照らします。メモにない体調の言葉(「笑顔で過ごされた」「元気そうだった」など)が書き足されていないかも見ます。当てはまる箇所には印を付けます。

4. 確かめて入れる:職員が読み、直して記録のソフトに入れる。 職員は印の付いた箇所から読み、メモにない言葉は消し、足りないことを足して、記録のソフトに入れます。記号を利用者の名前に戻すのは、記録のソフトに入れるときです。

5. 気づきを分ける:体調の変化は、記録とは別に看護職に伝える。 メモに「痛い」「熱っぽい」「食べない」などの言葉があれば、AIは記録とは別に「看護職に伝えること」の一覧を作ります。職員はこれを見て、口頭でも看護職に伝えます。

この流れで大事なのは、AIに記録を完成させず、職員が見たことだけが記録に残るようにすることです。

AIへの指示の要点(見本。内容は架空です):

次は、介護職員がケアの合間に話したメモです。利用者ごとに、食事・入浴・排せつ・体調・様子の項目に分けて、介護記録の文章にしてください。メモにないことは書かないでください。数字(食事の割合、体温、時刻)はメモのとおりに書き、変えないでください。メモにない項目は「記載なし」と書いてください。様子の項目では、職員が見たことと、本人が言ったことを分けて書いてください。痛み・熱・食欲の低下・転倒・ふらつきに関わる言葉があれば、記録とは別に「看護職に伝えること」として一覧にしてください。

記録の書き方をスキルにし、メモにない言葉はAIの外で止める

AIに記録を下書きさせるだけなら、今日からでもできます。職員10人が毎日、同じ質で使うには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「仕組みにする」の差です。

事業所の記録の書き方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。介護記録なら、「項目の並びと書き方」「事業所で使う言葉(『全量』『8割』など)」「使わない表現(決めつけ、利用者を子ども扱いする言い方)」「見たことと本人の言葉の分け方」を、良い記録の見本と一緒にスキルにしておきます。新人とベテランの記録の書き方がそろってきます。

メモにない言葉は、AIの外の点検で止める。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。この仕組みでは、下書きの数字がメモと一致するかを計算で照らし、メモにない体調の言葉に印を付けることがそれに当たります。AIは、文章を自然にしようとして、それらしい様子を書き足すことがあります。記録はあとで事業所を守る証拠にもなるので、見ていないことは一言も残しません。職員が消した言葉は、点検の決まりに足していきます。

職員が記録に触るのは、夕方の確認の15分ほどになる

想定の事業所の、ある1日です。

  • 9:30〜12:00 入浴と体操の合間に、職員が利用者ごとに一言ずつスマホに話す(1人あたり10〜20秒)
  • 12:30〜13:30 昼食のあと、食事の量を利用者ごとに話す
  • 14:00 Cさんのメモに「立ち上がるときにふらついた」と入る。AIの「看護職に伝えること」にCさんが出て、職員が看護職に口頭で伝える
  • 16:30 送迎のあと、職員が1日分のメモをAIに渡す。25人分の下書きが出る。3人分に印が付いている(1人は食事の割合がメモと違う、2人は「穏やかに過ごされた」がメモにない)
  • 16:35〜17:00 職員が印の付いた箇所から確かめ、直して記録のソフトに入れる。印のない人は、読んで違いがなければそのまま入れる

職員が記録に使うのは、日中に話す時間と、夕方の確かめる25分ほどです。夕方に75分かけて一から書く作業がなくなります。

経営への効果は、記録のための残業が減り、職員が辞めにくくなること

経営効果 何が変わるか 利益へのつながり
人手不足に効く 記録のための残業が減り、職員の負担が軽くなる 職員が辞めにくくなり、採用し直す費用と手間が減る
業務の無駄が減る 1人分ずつ一から書く作業が、話して確かめる作業に変わる 夕方の時間を、翌日の準備や利用者との時間に回せる

時間の効果は、次の式で見積もれます。

月に浮く時間 =(今の1日の記録の時間 − この仕組みでの1日の確かめる時間)× 月の営業日数

想定の事業所では、今の記録が1日75分、この仕組みでの確かめる時間が1人1分として25分なら、1日50分、月22日で18時間ほどが浮きます。仮に時給1,500円とすると、月2万7千円ほどにあたります。

今のやり方 この仕組み
記録を書く時間 夕方に75分ほど 日中に話す時間と、夕方に確かめる25分ほど
記録の正確さ 夕方の記憶に頼る 見たその場の言葉が残る
書き方 職員によって違う スキルでそろう
体調の変化に気づくこと 記録を書くときに思い出せば 話した時点で「看護職に伝えること」に出る

この計算には、職員が辞めずに済む効果を入れていません。介護職員を1人採用し直すには、求人の費用と、新人に教える時間がかかります。1人でも辞めずに済めば、その費用が丸ごと残ります。逆に、利用者が1日10人に満たない事業所なら、浮く時間は小さく、まずはAIのチャットにメモを貼って下書きさせるだけで十分です。

費用の大半は作る費用で、AIの利用料は月500円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 利用者の名前を記号に置き換える決まりを作る(社内:管理者、1時間)。誰がどの記号かの対応表は、事業所の中だけで持ちます
  2. 事業所の記録の書き方を集める(社内:管理者と職員2人、半日)。良い記録の見本を10人分ほど選び、使う言葉と使わない言葉を書き出します。これがスキルの中身になります
  3. メモ → AI → 点検 → 職員の確認の流れを作る(作る人、3〜4人日)。過去のメモで試し、書き足しが出やすいところを点検の決まりに足します
  4. 2週間、職員2〜3人で今の記録と並べて試す(作る人は1〜2人日)。直した箇所を記録し、スキルと点検に足します
  5. 全職員に広げる(作る人、1人日。管理者が職員に使い方を伝える)

今使っている介護記録のソフトに、AIで文章を作る機能や、声で入力する機能が付いていることもあります。付いていれば、まずそれを試し、足りないところ(点検や、看護職に伝えることの一覧)だけを足すほうが早いです。

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計5〜7人日です。記録のソフトに下書きを直接入れるか、職員が貼り付けるかで日数は変わります。

毎月の費用

費用 中身 想定の事業所での目安
AIの利用料 利用者1人分の記録の下書きごとにかかる 月約550人分で500円ほど(下の計算)
スマホ 事業所のスマホを使う 今あるものを使う想定
保守 スキルと点検の決まりの見直し 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万単位あたり2ドル、書かせる量100万単位あたり10ドルです。1人分あたり、メモとスキルと指示を合わせて1,500、書かせる記録を300と見積もると、約0.006ドル、1ドル150円で約1円です。1日25人、月22日で約550人分、500円ほどです。

つまり、費用の本体は作る費用と、職員が確かめる時間です。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が25万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)が3,000円とすると、時間の効果だけで、およそ10か月で取り戻す計算です。職員が1人でも辞めずに済めば、その時点で取り戻せます。

必要な人は3役で、記録に残すことは職員が決める

役割 社内の誰か やること 時間の目安
決まりの持ち主 管理者 記録の書き方、記号の決まり、点検の決まりを決めて守る 最初に半日、そのあと月1時間
話して確かめる人 介護職員 ケアの合間に話し、夕方に下書きを確かめて記録に入れる 1日20〜30分ほど(事業所全体で)
作る人 社内で自動処理を作れる人、または外の会社 流れと点検を作り、試しの期間に直す 最初に5〜7人日、そのあと月1時間

外に頼む場合は、「作る人」の役だけを頼みます。記録の書き方を決めることと、記録に何を残すかを決めることは、事業所に残します。 利用者の様子を見たのは職員だけです。

職員には、始める前に「監視するため」ではなく「夕方の記録の時間を減らすため」だと伝えます。話すことに慣れない職員には、最初の1週間、管理者が一緒に話してみせると定着しやすくなります。

3か月で記録の残業が減り、半年で書き方がそろう見込み

導入後の見込み。1か月目は話し方と点検を整える期間、3か月目には夕方の記録が確かめる時間だけになり残業が減る、半年後には職員の記録の書き方がそろい、新人も同じ質で書ける
導入後の見込み。1か月目は話し方と点検を整える期間、3か月目には夕方の記録が確かめる時間だけになり残業が減る、半年後には職員の記録の書き方がそろい、新人も同じ質で書ける

ここからは見込みです。職員の人数と、話すことへの慣れで変わります。

1か月目:話し方と点検を整える期間。 職員によって、話す長さや言葉が違います。下書きのどこを直したかを集め、スキルと点検の決まりに足します。この時期は、今の記録と並べるので、手間は減りません。

3か月目:夕方の記録が、確かめる時間だけになる。 話すことに慣れ、下書きの直しが少なくなります。想定の事業所なら、夕方の記録は75分から25分ほどになり、記録のための残業が減ります。

半年後:記録の書き方がそろい、新人も同じ質で書ける。 スキルに良い見本がたまり、ベテランと新人の記録の書き方がそろいます。新人は、話すことさえできれば、事業所の書き方の記録を残せるようになります。

うまくいっていない兆し。 3か月たっても、職員が夕方にまとめて話しているなら、日中に話す時間が取れていない可能性があります。「入浴のあと」「昼食のあと」など、話す時を決めます。下書きの直しが減らないなら、スキルの見本が事業所の書き方に合っていない可能性があります。直した記録を見本に足していきます。

見込みどおりかは、始める前に測った数字で確かめる

測る数字 測り方 導入後に期待する変化
1日の記録にかかる時間 職員が夕方に記録に使った時間の合計 75分ほど → 25分ほど
記録のための残業時間 職員1人あたりの月の残業時間 減る
職員の離職の数 年ごとに数える 減る

下書きをそのまま入れたり、名前を出したまま使ったりすると失敗する

  • 下書きを確かめずに記録に入れる。 AIが書き足した様子が、そのまま記録に残ります。記録はあとで事業所を守る証拠にもなるので、職員が読んで確かめてから入れます
  • 利用者の名前や病名をそのままAIに渡す。 利用者の心身の状態は、とくに慎重に扱う個人情報です。名前は記号に置き換え、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。何を入れてよいかは、社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールを参考に、先に決めます
  • 体調の変化を、AIの一覧だけで伝える。 「看護職に伝えること」の一覧は、伝え漏れを防ぐためのものです。ふらつきや熱など、気になることは必ず口頭で看護職に伝えます
  • AIにケアの判断をさせる。 記録から「どうすればいいか」をAIに聞いて、そのとおりに動くことはしません。判断は職員と看護職と、必要なら医師がします
  • 話す時間を決めずに始める。 日中に話す時を決めないと、結局夕方にまとめて話すことになり、記憶に頼る記録のままです

まとめ

  • 経営への効果は、記録のための残業が減り、職員が辞めにくくなること(人手不足)と、一から書く作業が話して確かめる作業に変わること(業務の無駄)。1日25人の想定で、夕方の記録は75分から25分ほどになる
  • 2026年度には約240万人の介護職員が要る。今いる職員に辞められないことが、事業所を続ける条件になる
  • 職員はケアの合間に利用者ごとに一言ずつ話し、AIが事業所の書き方で記録を下書きする。メモにない言葉と数字はAIの外の点検で印を付け、職員が確かめて記録に入れる
  • 記録の書き方はスキルにまとめ、利用者の名前は記号に置き換えてから渡す。体調の変化は口頭で看護職に伝える
  • 費用の本体は作る費用(目安5〜7人日)と職員が確かめる時間。AIの利用料は月約550人分で500円ほど
  • 1か月目は話し方と点検を整える期間、3か月目から記録の残業が減り、半年後には職員の書き方がそろう見込み

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