子育てと介護の説明を漏らさない。対象の社員と説明資料が毎月1日に届く仕組み
この記事で変わる経営指標
この記事では、子育てや介護の社員を辞めさせない。制度の説明と意向の確認をAIで準備するの「毎月1日に、対象の社員の一覧を出す」と「面談の記録を残す」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、社員の一覧に、子の生年月日と介護の申し出を入れておく。毎月1日に、個別の説明と意向の確認が要る社員を計算で出す。AIが、就業規則から作った制度の一覧をもとに、社員ごとの説明資料と面談で聞くことを下書きする。面談のあとは、メモから記録と次にすることを下書きし、説明と面談をした日を残して、まだの人を一覧にし続けるという形です。担当者の記憶に頼らず、対象の社員に漏れなく、早めに伝えます。
改正で増えた説明の義務は、時期と相手を外しやすい
2025年に施行された育児・介護休業法の改正で、会社は次のことをするようになりました(社会保険労務士による解説、かいけつ!人事労務、仙台市雇用労働相談センター、オフィスステーションの記事による)。
- 家族の介護に直面したと申し出た社員に、使える制度を個別に知らせ、使う意向を確かめる(2025年4月から)
- 介護に直面する前の早い段階で、両立の制度について情報を提供する(2025年4月から)
- 3歳から小学校に入る前の子を育てる社員のために、5つの働き方から2つ以上を設け、子が3歳になる前の社員に個別に説明し、使う意向を確かめる(2025年10月から)
どれも、「誰に」「いつ」が決まっている義務です。小さな会社では、社長か総務の担当者が1人で、ほかの仕事と一緒に対応しています。子の誕生日を覚えておくことも、介護の申し出をいつ受けたかを追うことも、記憶に頼っていると漏れます。
細かい時期と対象の決まりは、厚生労働省の資料と就業規則で確かめ、社会保険労務士に見てもらいます。2026年10月時点の内容です。
今は申し出があってから慌てて、記録も残らない
多くの小さな会社では、次のように対応しています。
- 社員から申し出があって、初めて対応が要ることに気づく
- 就業規則を探し、どの制度が使えるかを調べる。説明の資料は作らず、口頭で伝える
- 面談をしても、何を話したか、本人がどうしたいかの記録が残らない
- 子が3歳になる前の説明は、そもそも誰が対象かを把握していない
説明が遅れたり、伝わらなかったりすると、社員は制度を知らないまま、「続けられない」と考えてしまうことがあります。
一覧に入れ、時期を計算し、AIが資料を書き、担当者が面談する
仕組みは4つの段でできています。
1. 入れる:社員の一覧に、届け出の情報を入れる。 社員の一覧に、社員が届けた範囲で、子の生年月日、介護の申し出の日、説明をした日、面談をした日の欄を作ります。介護に直面する前の情報提供をした日の欄も作ります。
2. 選ぶ:毎月1日に、対象の社員を計算で出す。 ここはAIの仕事ではありません。
- 子の生年月日から、子が3歳になる前の説明の時期に入った社員を出す(時期の決め方は、厚生労働省の資料と社会保険労務士の助言で、会社として決めておく)
- 介護の申し出があり、説明と意向の確認がまだの社員を出す
- 介護に直面する前の情報提供をまだしていない社員を出す
- 前の月に出したのに、まだ説明していない社員には印を付ける
3. 下書きする:AIが説明資料と面談で聞くことを書く。 AIに、対象の種類(子育て、介護の申し出、介護の前の情報提供)と、就業規則から人が作った制度の一覧を渡し、社員ごとに次の2つを下書きさせます。
- 説明資料:使える制度、申し出の方法と期限、相談の窓口を、A4で1〜2枚
- 面談で聞くことの一覧:使いたい制度、働き方の希望、時期、仕事で心配なこと
社員の名前は渡さず、「対象者A」のように伏せて頼みます。
4. 面談して残す:担当者が面談し、メモから記録を残す。 担当者が説明資料を確かめて渡し、面談をします。面談のあとのメモをAIに渡し、記録と次にすること(申し出の書類、仕事の分担の相談、次の面談の日)を下書きさせます。担当者が確かめて保存し、一覧に説明と面談をした日を入れます。
説明の型をスキルにし、対象者と時期の計算はAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
説明資料と面談と記録の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 説明資料の型:子育て用、介護の申し出用、介護の前の情報提供用の3つ
- 面談で聞くことの型と面談の記録の型
- 会社の言葉:制度の呼び方、窓口の名前、やわらかい言葉づかいの見本
- 書いてはいけないこと:制度の一覧にない制度、給付金の金額や条件の断定、制度を使うと不利になるかのような言い方、本人を引き止めたり休みを控えさせたりする言い方
対象者と時期の計算、実施の記録は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、社員の一覧から対象者と時期を計算すること、就業規則から人が作った制度の一覧だけをAIに渡すこと、説明と面談をした日を記録してまだの人に印を付けることがそれに当たります。法律の時期の決まりや日付の計算を、AIに判断させません。
まだの人の一覧が、説明の漏れを防ぐ
この仕組みでいちばん効くのは、説明と面談をした日の記録と、まだの人の一覧です。
- 毎月1日の一覧には、今月新しく対象になった人と、前の月から残っている人が並びます
- 残っている人には印が付くので、後回しにしたままになりません
- 面談の記録に本人の希望と次にすることが残るので、担当者が替わっても続きから対応できます
制度を使うことになった社員の仕事の分担は、早めに考えます。引き継ぎの考え方は、社員が休んでも仕事が止まらない会社にする。休む前の引き継ぎをAIで5分にで説明しています。
担当者の仕事は、資料を確かめて面談することになる
仕組みが入ると、子育てと介護の社員への説明は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 対象の社員 | 申し出があってから気づく | 毎月1日に一覧で届く |
| 説明資料 | 作らず、口頭で伝える | 制度の一覧から社員ごとに下書き |
| 面談 | 何を聞くか決まっていない | 聞くことの一覧がある |
| 記録 | 残らない | 本人の希望と次にすることが残る |
| 漏れ | 気づかない | まだの人に印が付く |
経営への効果は、経験のある社員を辞めさせないこと
効果は、前提を置いて計算します。仮に、社員50人ほどの会社で、説明と面談の対象が月に1〜2人あり、1人あたり説明資料と面談の準備と記録に90分かかっていたものが、下書きを確かめる20分になれば、1人70分が浮きます。月1.5人で約1.75時間、1時間あたりの人件費を仮に2,000円として月約3,500円分です。
時間だけを見ると、大きな額ではありません。この仕組みの価値は、時間より、経験のある社員を辞めさせないことにあります。
1人辞めたときの損 = 代わりの人の採用の費用 + 育つまでの期間の人件費 + その間に失う仕事
仮にこれが1人100万円の会社なら、説明の漏れで1人の離職を防げれば、それだけで仕組みを作る費用を上回ります。法律で決まった説明を漏らさないことは、会社を守ることにもつながります。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は1人5円ほど
作る順番と、かかる日数
- 就業規則から制度の一覧を作り、説明資料と面談の型と、書いてはいけないことを決める(会社:社長と担当者、半日。社会保険労務士に見てもらうと確かです)
- 社員の一覧に欄を足し、対象者と時期の決め方を決める(会社:担当者、1時間)
- 毎月1日に対象者を計算し、まだの人に印を付ける仕組みを作る(作る人、0.5人日。表計算でも作れます)
- AIの説明資料と記録の下書きを作る(作る人、0.5人日)
- 2か月、実際の対象者で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計1.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 説明資料と面談の記録の下書きにかかる | 1人あたり約5円(下の計算) |
| 表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 制度の一覧と型の更新 | 就業規則を変えたとき |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。説明資料の下書きに、制度の一覧とスキルで4,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると約3.5円、面談の記録の下書きに2,000トークンを読ませ、600トークンを書かせると約1.5円、1人あたり約5円です。
何か月で取り戻せるか
時間だけで取り戻すものではありません。社員が少ない会社なら、仕組みを作らず、社員の一覧で対象者を計算する表と、制度の一覧と型だけを作り、会社で契約したAIのチャットに制度の一覧を貼って説明資料を下書きさせるやり方で十分です。社員が多く、毎月の対象者が多い会社ほど、毎月1日に一覧と資料が届く仕組みにする意味が大きくなります。
必要な人は3役で、制度の判断は社長と専門家
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 面談する人 | 総務の担当者か社長 | 説明資料を確かめて渡し、面談し、記録を確かめる | 1人20分と面談 |
| 決まりを保つ人 | 社長と社会保険労務士 | 制度の一覧と、対象者と時期の決め方を保つ | 就業規則を変えたとき |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 対象者の計算、資料と記録の下書き、まだの人の一覧を作る | 最初の1.5人日 |
いちばん大事なのは、制度の一覧を就業規則と合わせておくことです。一覧が古いと、AIは古い制度で説明資料を書きます。
2か月で型がそろい、1年で漏れがなくなる見込み
どこまでいけるかは、社員の一覧に届け出の情報がどれだけそろうかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の2か月 | 実際の対象者で試す。説明資料で分かりにくかったところを型に直す |
| 半年 | 毎月1日の一覧から、説明と面談が月のうちに終わるようになる |
| 1年 | まだの人の印が残らなくなり、面談の記録から本人の希望が分かる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 対象になってから説明までの日数:月ごとにまとめます
- 月末にまだの人の数:漏れを見る材料にします
- 子育てや介護を理由にした退職の数:年ごとに数えます
法律の時期の判断や面談をAIに任せると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- AIに時期や対象を判断させる。 対象者と時期は、会社として決めた計算で出します
- 制度の一覧にない制度をAIが書く。 就業規則から人が作った一覧だけを渡し、「書いてはいけないこと」に入れます
- 説明資料を渡すだけで、面談をしない。 本人の事情や希望は、面談で聞きます
- 社員の家族の情報を、そのままAIに渡す。 名前を伏せ、AIに渡す情報を最小限にします
子の生年月日や家族の介護の状況は、とても大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、AIに渡すときは名前を伏せ、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 社員の一覧に、子の生年月日、介護の申し出、説明と面談をした日の欄を作る
- 毎月1日に、説明と意向の確認が要る社員を計算で出し、まだの人に印を付ける
- AIが、就業規則から作った制度の一覧をもとに、社員ごとの説明資料と面談で聞くことを下書きする。名前は伏せる
- 担当者が面談し、メモから記録と次にすることを残す
- 作る側の目安は1.5人日。AIの利用料は1人5円ほど。社員が少ない会社は表とAIのチャットで十分