介護の人手不足をAIで補う方法。記録の時間を減らし、利用者と過ごす時間を増やす
この記事で変わる経営指標
この記事では、利用者が数十人ほどの小規模なデイサービスや訪問介護の事業所で、AIが効く業務を4つ挙げ、それぞれが経営の何に効くかを説明します。一言でいうと、職員が利用者の前から離れて書いている記録や連絡の文章をAIに下書きさせ、少ない職員の時間を利用者と過ごすことに戻すという話です。その結果、職員の残業と負担が減って辞めにくくなり、同じ人数で今の利用者を支え続けられます。ケアの判断や、ケアプランそのものをAIに作らせることは、すすめません。
AIの価値は、介護をすることではありません。介護をした人が、そのあと机で過ごしている「書く時間」を短くすることです。
経営への効果は、職員が辞めず、同じ人数で回し続けられること
4つの業務と、それぞれが経営の何に効くかを先にまとめます。
| 業務 | AIで変わること | 経営効果 | 始めやすさ |
|---|---|---|---|
| 介護記録 | 職員が話したメモや声から、AIが記録の文章を下書きする | 業務の無駄(記録の時間が減る)/人手不足(残業が減り辞めにくい) | 始めやすい |
| 申し送り | 1日の記録から、次の担当に伝えることをAIがまとめる | 業務の無駄(伝え漏れが減る) | 始めやすい |
| ご家族への連絡 | 記録から、連絡帳やお便りの文をAIが下書きする | 売上(ご家族の安心が利用の継続と紹介につながる) | 始めやすい |
| 求人と新人の教育 | 求人票と、新人の質問への答えをAIが手伝う | 人手不足(採用と定着) | 少し準備が要る |
| ケアの判断・ケアプラン | 利用者の状態からケアを決める | 判断は人の仕事 | 任せない |
効果の大きさは、次の式で考えます。
月に浮く時間 = 職員の人数 × 1日の記録と連絡の時間の減り幅 × 月の勤務日数
仮に、職員が10人、それぞれ1日に記録と連絡の文を書く時間が40分あり、AIでそれが25分になるとします。20日で、10人合わせて月50時間が浮きます。1人あたり月5時間です。時給1,500円と置くと、月7万5千円ほどの残業代にあたります。
ただ、介護の事業所でいちばん大きいのは、残業代よりも、職員が辞めないことです。記録のための残業が続けば、職員は疲れて辞めていきます。1人辞めれば、残った職員の負担がさらに増え、受けられる利用者の数が減ります。
2026年度には、2022年度より約25万人多い介護職員が要る
厚生労働省が2024年7月に公表した推計では、2026年度に必要な介護職員の数は約240万人です。2022年度の約215万人から、約25万人の増加が必要になります。高齢者が増える一方で、働く世代は減っていくので、この人数を新しく採用だけで埋めるのは簡単ではありません。
国も、介護の事業所が少ない人数で回せるよう、テクノロジーの活用を後押ししています。2024年度の介護報酬の改定では、見守り機器や、職員の間の連絡のためのICT機器、介護記録のソフトなどを使って業務の改善に取り組む事業所を評価する「生産性向上推進体制加算」が新しくできました(加算(Ⅰ)は月100単位、(Ⅱ)は月10単位)。取るには、委員会を開くこと、改善の効果のデータを年1回出すことなどの要件があります(2026年10月時点で、要件と単位は自治体の最新の通知で確かめてください)。
つまり、人を増やすのが難しいなら、今いる職員の時間を、利用者のための時間に戻すしかないというのが、多くの小規模な事業所の現実です。
介護記録は、職員が話したことをAIが文章にする
今のやり方。 職員は、利用者の様子、食事や入浴の状況、気になったことを、手書きのメモや記憶をもとに、送迎のあとや夕方に記録のソフトや紙に書いています。1人分ずつ文章にするので、利用者が多い日ほど時間がかかり、残業になります。
AIを使うと。 職員は、ケアの合間にスマホに向かって、利用者ごとに一言ずつ話します(「〇〇さん、昼食は全量、午後の体操では右手が上がりにくそうだった」)。AIがそれを、事業所の記録の書き方に合わせた文章に下書きします。職員は下書きを読み、違うところを直して記録に入れます。
何が変わるか。 文章を一から書く時間が、話して確かめる時間に変わります。記録の書き方がそろうので、ほかの職員が読んでも分かりやすくなります。組み方・費用・必要な人は、介護記録を話すだけで下書きにする。職員の残業を減らすAIの仕組みで説明しています。
つまずきどころ。 AIは、話していないことを書き足すことがあります(「笑顔で過ごされた」など)。記録は事実を残すものなので、話していないことは消します。体調の変化に関わることは、AIの文章ではなく、職員が自分の言葉で確かめて残します。
申し送りは、1日の記録からAIがまとめる
今のやり方。 夕方や交代のときに、その日の担当が、次の担当に口頭やメモで伝えています。急いでいると、大事なことが抜けます。
AIを使うと。 その日の記録をAIに渡し、「次の担当が気をつけること」「ご家族に伝えること」「明日やること」に分けて、利用者ごとに短くまとめてもらいます。担当は読んで足りないことを足し、申し送りに使います。
何が変わるか。 伝え漏れが減ります。申し送りの時間も短くなります。
つまずきどころ。 体調の変化や転倒など、命に関わることは、まとめに頼らず、必ず口頭でも伝えます。AIのまとめは、話す前の確認表として使います。
ご家族への連絡は、記録からAIが下書きする
今のやり方。 デイサービスなら連絡帳、訪問介護なら報告の文を、職員が利用者ごとに書いています。毎日のことなので、決まり文句になりがちです。
AIを使うと。 その日の記録をAIに渡し、ご家族向けに、やわらかい言葉で、その日の様子が分かる文を下書きしてもらいます。職員は、事実と違うところを直し、一言足して渡します。
何が変わるか。 ご家族が、毎日の様子を具体的に知れるので、安心して利用を続けられます。ご家族の安心は、ほかの家族への紹介にもつながります。
つまずきどころ。 体調の変化やけがなど、ご家族に大事なことを伝えるときは、文ではなく電話か直接で伝えます。AIの下書きを使うのは、毎日のふだんの様子の連絡だけにします。
求人と新人の教育は、ほかの業種と同じ形で使える
人が足りない事業所ほど、求人票を書き直す時間も、新人に教える時間もありません。ここは、ほかの業種と同じ方法が使えます。
- 求人票は、1日の流れを書く。 職員に1日の流れを話してもらい、AIに求人票の下書きを作らせます。書き方は求人の応募をAIで増やす方法。現場の1日を求人票に書くだけで変わるで説明しています
- 新人の質問は、AIが資料から答える。 事業所の決まりや手順の資料をAIに読ませ、新人の小さな質問に答えさせます。考え方は小さな会社の新人の離職を減らす方法。聞きにくい質問はAIが受けるで説明しています
ケアの判断とケアプランそのものは、AIに任せない
AIで何でもできそうに見えても、次のことはAIに任せません。
- ケアの判断。 利用者の体調の変化をどう受け止め、何をするかは、職員と看護職と、必要なら医師が決めます。AIに「この状態ならどうするか」を聞いて、そのとおりに動くことはしません
- ケアプランそのもの。 ケアプランは、ケアマネジャーが利用者とご家族の話を聞いて作るものです。文章の整理を手伝わせることはあっても、中身を決めさせません
- 見守りのカメラやセンサーを、AIを目当てに急いで入れること。 見守り機器は、加算の要件にも関わり、効果のある事業所もありますが、費用も準備も大きくなります。まずは、今ある記録と連絡の時間を減らすことから始めます
まずは、間違えても人がすぐに気づけて直せる、書く仕事から始めます。
書き方をスキルにし、話していないことは記録に入れない
ここまでの使い方は、1回ずつ頼んだ場合です。職員みんなが毎日使うなら、もう一段の工夫で、誰が使っても同じ質の文章が出るようにします。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
事業所の書き方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。介護の事業所なら、「記録の書き方と使う言葉」「申し送りのまとめ方」「ご家族への連絡のやわらかい言い方」「使わない表現(決めつけや、利用者を子ども扱いする言い方)」を、良い見本と一緒にスキルにしておきます。
話していないことは、AIの外の点検で止める。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。介護の記録では、AIの下書きにある食事の量や時刻、体調の言葉が、職員が話したメモに本当にあるかを照らすことがそれに当たります。最初は職員の目で、慣れてきたら仕組みで照らし、メモにない言葉には印を付けます。記録は、あとから事業所を守る証拠にもなるので、事実だけを残します。
始める順番は、毎日の量が多く、間違えても直せる仕事から決める
4つのうち、どれから始めるかは、次の基準で決めます。
- 毎日の量が多いか:毎日、全職員が書いている文章ほど、浮く時間が大きい
- 間違えても直せるか:記録に入れる前、ご家族に渡す前に、職員が確かめて直せる仕事から
- 体調や安全に直接関わらないか:命に関わる判断には使わない
- 職員が嫌がっていないか:職員が面倒だと感じている仕事ほど、使ってもらえる
多くの事業所では、介護記録の下書きと、ご家族への連絡の下書きが、この4つを満たします。
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
最初は、AIのチャットの画面に職員のメモを渡して使うだけで試せます。費用は、入力した内容をAIの学習に使わない法人向けプランの利用料で、1人あたり月数千円です。まずは記録の多い職員2〜3人の分で試せます。
今使っている介護記録のソフトに、AIで文章を作る機能が付いていることもあります。付いていれば、まずそれを試します。職員が話した声から自動で記録の下書きを作る仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。
利用者の心身の状態は、とくに慎重に扱う個人情報です。利用者の名前は記号に置き換えて渡す、入れてよい情報を決める、といった社内のルールを先に決めます。社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールが参考になります。
効果は、職員1人あたりの残業と、記録にかかる時間で測る
業務ごとに、次の数字を始める前と後で比べます。
| 業務 | 測る数字 |
|---|---|
| 介護記録 | 1日の記録にかかる時間、記録のための残業時間 |
| 申し送り | 申し送りにかかる時間、伝え漏れによる手戻りの件数 |
| ご家族への連絡 | 連絡を書く時間、ご家族からの問い合わせの件数 |
| 求人と新人の教育 | 応募の数、新人が先輩に聞く質問の数 |
| 全体 | 職員1人あたりの月の残業時間、職員の離職の数 |
いちばん大事なのは、最後の「職員1人あたりの月の残業時間」と「職員の離職の数」です。残業が減り、辞める人が減っていれば、同じ人数で回し続けられる事業所になっています。
最初の1か月は、記録の下書きとご家族への連絡だけ試す
- 記録を多く書く職員2〜3人に、法人向けプランを用意する
- 利用者の名前を記号に置き換える決まりを決める
- 1週目は、毎日5人分の記録を、話したメモからAIに下書きさせて作る
- 2週目からは、ご家族への連絡も、記録からAIに下書きさせる
- 1か月の終わりに、記録と連絡にかかった時間を、始める前と比べる
効果があれば、事業所の書き方をスキルにまとめ、ほかの職員に広げます。
まとめ
- 介護の事業所のAI活用は、職員が書く時間を減らし、利用者と過ごす時間に戻すことに効く。職員が辞めず、同じ人数で回し続けられる
- 2026年度には、2022年度より約25万人多い約240万人の介護職員が要る。2024年度の改定では、テクノロジーで業務を改善する事業所を評価する加算もできた
- AIが効くのは、介護記録の下書き、申し送りのまとめ、ご家族への連絡の下書き、求人と新人の教育の4つ。職員10人で月50時間ほど浮く計算(仮の前提)
- ケアの判断とケアプランそのものはAIに任せない。体調の変化や転倒は口頭と電話で伝える
- 事業所の書き方をスキルにまとめ、話していないことは記録に入れない
- まずは記録の下書きとご家族への連絡を、職員2〜3人で1か月試す