業務への組み込み例

配車をベテラン1人の頭から出す。AIが案と理由を出し、配車担当が決める

この記事で変わる経営指標

この記事では、運送会社の人手不足をAIで補い、同じ台数で運べる量を増やす方法の「配車はAIが案を出し、配車担当が決める」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、前の日の夕方に、翌日の荷物、車両、ドライバーの残りの拘束時間、荷主ごとの決まりを集める。残りの時間と積める量は表計算で出す。AIが配車の案と理由を下書きし、案が時間の決まりを守っているかを式で点検する。配車担当が案を見て、経験で直して決めるという形です。ベテランの配車担当1人の頭の中にあった組み方を、案と理由の形で外に出します。

ドライバーの時間に上限があり、組み方で運べる量が決まる

親の記事で触れたとおり、2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用されました。同じときに改正された働き方の基準(改善基準告示)では、1年の拘束時間は原則3,300時間、1日の休息は継続11時間を基本とし9時間を下回らないこととされています(国土交通省・厚生労働省の資料による)。

ドライバーを増やすのも簡単ではありません。NX総合研究所の試算では、何も対策をしなければ、2030年度に営業用トラックの輸送能力が34.1%不足するおそれがあるとされ、経団連の資料でもこの数字が使われています。

1人のドライバーが働ける時間が決まっているなかで、運べる量を守るには、どの車に、どのドライバーで、どの順番で回るかの組み方が大事になります。

今は配車が、ベテラン1人の頭の中にある

多くの中小の運送会社では、配車が次のように組まれています。

  1. 前の日の夕方、配車担当が翌日の荷物の一覧を見る
  2. 荷物の大きさ、車の大きさ、荷主ごとの時間の指定、ドライバーの今月の拘束時間を、頭の中で組み合わせる
  3. 長年の経験で「この荷主は朝が混む」「この道は夕方に詰まる」を足して決める
  4. 配車担当が休む日は、ほかの人が組めず、社長が代わるか、無理のある配車になる

配車担当の経験は、会社の大事な財産です。ただ、それが1人の頭の中にしかないと、その人が休めず、辞めれば会社が回らなくなります。

集め、表で数え、AIが案を出し、配車担当が決める

前の日の夕方に、翌日の荷物、車両、ドライバーの残りの拘束時間、荷主ごとの決まりを集め、残りの時間と積める量は表計算で出す。AIが配車の案と理由を下書きし、案が時間の決まりを守っているかを式で点検したうえで、配車担当が直して決める
前の日の夕方に、翌日の荷物、車両、ドライバーの残りの拘束時間、荷主ごとの決まりを集め、残りの時間と積める量は表計算で出す。AIが配車の案と理由を下書きし、案が時間の決まりを守っているかを式で点検したうえで、配車担当が直して決める

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:翌日の荷物と、車両と、荷主の決まりを集める。 前の日の夕方に、次のものを表にまとめます。

  • 翌日の荷物の一覧(荷主、積む場所、降ろす場所、量、時間の指定)
  • 車両の一覧(大きさ、積める量、使えない日)
  • ドライバーの一覧(今月ここまでの拘束時間、前の日の終わりの時刻)
  • 荷主ごとの決まり(入れない車の大きさ、待ち時間の目安、受け付けの時間)

2. 計算する:残りの拘束時間と、積める量を表で出す。 ここは計算の仕事です。

  • ドライバーごとに、今月の残りの拘束時間と、前の日の終わりの時刻から休息を取ったうえで翌日に出られる時刻を、表計算の式で出します
  • 荷物ごとに、どの車なら積めるかを、量と車の大きさから出します

3. 案を出す:AIが配車の案を2〜3通り、理由をつけて出す。 AIが、表をもとに配車の案を2〜3通り下書きします。案ごとに「なぜこの組み方か」(「A社の荷物は朝の指定なので、早く出られる佐藤さんの車に」)を書かせます。配車担当がふだん気にしていること(「この荷主は朝が混む」)は、スキルに入れておきます。

4. 決める:時間の決まりを式で点検し、配車担当が直して決める。 AIの案が、ドライバーの拘束時間と休息の決まりを守っているかを、表計算の式でもう一度点検します。決まりを破る案には印をつけ、使いません。配車担当が、点検を通った案を見て、自分の経験で直して決めます。

会社の組み方をスキルにし、時間の決まりはAIの外で守る

この仕組みが毎日同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

会社の組み方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 配車担当の経験:荷主ごとの混む時間、道の詰まりやすい時間、ドライバーごとの得意な荷主
  • 案の型:車ごとの回る順番、出発と終わりの見込みの時刻、理由
  • 優先の順番:時間の決まりを守る、荷主の指定を守る、空で走る距離を減らす、の順
  • 書いてはいけないこと:時間の決まりを超える組み方、表にない車やドライバー

時間の決まりは、AIの外で守る。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、残りの拘束時間と休息を式で出すこと、AIの案を式でもう一度点検すること、決まりを破る案に印をつけて使わないことがそれに当たります。AIは計算を間違えることがあるので、時間の決まりを守っているかの判断をAIに任せることはしません。

配車担当の仕事は、案を直して決めることになる

仕組みが入ると、配車は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
組み始め 一覧を見て一から頭の中で組む 理由つきの案が2〜3通り出ている
時間の決まり 頭の中と手元の表で確かめる 式で点検され、破る案に印がつく
経験 配車担当の頭の中だけにある スキルと理由の文に残る
配車担当が休む日 社長が代わるか、無理のある配車 ほかの人が案を見て決められる
新しい配車担当 何年もかけて覚える 案と理由を読みながら覚える

経営への効果は、運べる量を守り、配車担当が休めること

効果は、前提を置いて計算します。仮に、配車担当が翌日の配車を組むのに1日2時間かけていたものが、案を直して決める1時間になれば、1日1時間が浮きます。月26日なら月26時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月6万5,000円分です。

ただ、この仕組みの価値は時間だけではありません。ドライバーの時間に上限があるなかで、組み方が運べる量を決めます。理由つきの案を比べて選べば、空で走る距離や待ち時間を減らす組み方に気づきやすくなります。そして、配車の経験が案と理由の形で残れば、配車担当が休めるようになり、次の配車担当も育てやすくなります。ドライバーの拘束時間を日々表にする仕組みは、拘束時間の超過を月の途中で止める。運転日報をAIで毎日表にする方法で説明しています。この記事の仕組みは、その表を使います。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月230円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 配車担当の経験と、優先の順番を書き出す(会社:配車担当と社長、1日)。配車担当が気にしていることを、聞き取りながら書き出します。ここがいちばん大事です
  2. 荷物、車両、ドライバー、荷主の決まりの表をそろえる(会社:事務、1日)
  3. 残りの拘束時間と積める量を出し、案を点検する式を作る(作る人、1.5人日)
  4. AIの案と理由の下書き、配車担当への届け方を作る(作る人、1.5人日)
  5. 1か月、配車担当と並べて試して直す(作る人、1人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計4人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 毎日1回、翌日の配車の案を出す 月26回で230円ほど(下の計算)
表計算 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 スキルと荷主の決まりの更新 月3時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1回あたり表とスキルで15,000トークンを読ませ、3,000トークンを書かせると見積もると、0.06ドル、1ドル150円で約9円です。月26回で230円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が24万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を7,700円とすると、月6万5,000円分が浮く会社でおよそ4か月です。車が数台の会社なら、表と式だけ作り、配車担当が会社で契約したAIのチャットに表を貼って案を出させるやり方で十分です。その場合も、時間の決まりの点検は式で行います。

必要な人は3役で、決めるのは配車担当

役 誰が すること 時間
表を整える人 事務 荷物とドライバーの表を毎日更新する 1日15分
決める人 配車担当 点検を通った案を見て、直して決める 1日1時間
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 表、式、案の下書き、点検を作る 最初の4人日

いちばん大事なのは、配車担当の経験をスキルに書き出すことです。配車担当が案を直したところと、その理由を残していけば、スキルが育ちます。

1か月で案が使える形になり、半年で運べる量の変化が分かる見込み

どこまでいけるかは、表がどれだけそろうかと、スキルがどれだけ育つかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 配車担当がいつもどおり組み、AIの案と並べて比べる。違いの理由をスキルに足す
3か月 AIの案を直して決める形に移る。配車担当が休む日に、ほかの人が決められる
半年 1台あたりの運んだ量と、空で走った距離と、拘束時間を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 配車を組む時間:配車担当の時間を記録します
  • 1台あたりの売上と運んだ量:月ごとに集計します
  • ドライバーの拘束時間:決まりに近いドライバーの数を数えます

時間の決まりをAIに任せると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 時間の決まりの点検をAIに任せる。 AIは計算を間違えることがあります。拘束時間と休息は式で点検し、破る案は使いません
  • 配車担当の経験を書き出さずに始める。 経験がスキルにないと、AIの案は机の上の理屈になります
  • AIの案をそのまま使う。 案は材料で、決めるのは配車担当です。荷主の急な変更や道の事情は、配車担当しか知りません
  • 表が古いまま案を出す。 ドライバーの休みや車の点検の日が表に入っていないと、使えない案が出ます

荷主やドライバーの情報は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 前の日の夕方に、翌日の荷物、車両、ドライバーの残りの拘束時間、荷主ごとの決まりを集める
  • 残りの拘束時間と積める量は表計算で出し、AIが配車の案を2〜3通り、理由をつけて下書きする
  • 案が時間の決まりを守っているかは式で点検し、破る案は使わない。配車担当が経験で直して決める
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は4人日。AIの利用料は月230円ほど。車が数台の会社は表と式とチャットで十分
  • 効果は、配車を組む時間、1台あたりの運んだ量、ドライバーの拘束時間で確かめる

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