運送会社の人手不足をAIで補い、同じ台数で運べる量を増やす方法
この記事で変わる経営指標
この記事では、トラック10〜50台ほどの運送会社で、AIが効く業務を4つ挙げ、それぞれが経営の何に効くかを説明します。一言でいうと、ドライバーの働ける時間に上限がある中で、配車担当と事務の方が毎日かけている「組む・答える・集計する・計算する」仕事をAIに下ごしらえさせ、同じ台数と人数で運べる量を増やすという話です。その結果、人を増やさずに受けられる仕事が増え、上限を超える働き方も事前に止められます。点呼そのものや、本格的な配車の自動化は、今はまだ後回しでかまいません。
AIの価値は、トラックを走らせることではありません。配車担当の頭の中と、紙の日報と、荷主とのやりとりに散らばっている情報を、毎日すぐに使える形にそろえることです。
経営への効果は、同じ台数で運べる量が増えること
4つの業務と、それぞれが経営の何に効くかを先にまとめます。
| 業務 | AIで変わること | 経営効果 | 始めやすさ |
|---|---|---|---|
| 荷主からの問い合わせ | 到着の見込み、空き状況、見積の依頼への返事を、AIが下書きする | 売上(返事が早い会社に仕事が来る) | 始めやすい |
| 運転日報と拘束時間の集計 | 紙やスマホの日報をAIが表にし、上限に近いドライバーを知らせる | 業務の無駄(集計の手間)/人手不足(上限を守って働ける) | 始めやすい |
| 配車の下書き | 翌日の荷物と車両とドライバーの時間から、配車の案をAIが作る | 人手不足(同じ台数で運べる量が増える) | 少し準備が要る |
| 運賃の見積と改定の資料 | 距離・時間・荷物から見積を下書きし、運賃の改定をお願いする資料を作る | 売上・利益(運賃が上がる) | 少し準備が要る |
| 点呼そのもの | 乗務の前後の確認 | 法令の決まり | 後回しでいい |
効果の大きさは、次の式で考えられます。
月に浮く時間 =(配車担当の1日の配車の時間の減り幅 + 事務の1日の集計の時間の減り幅)× 月の稼働日数
仮に、配車担当が毎日2時間かけている翌日の配車が1時間に、事務の方が毎日1時間かけている日報の集計が15分になるとします。22日で、月に40時間ほどが浮きます。時給2,000円と置くと、月8万円ほどです。
ただし、運送会社でいちばん大きいのは、浮いた事務の時間よりも、同じドライバーの働ける時間の中で、運べる荷物が増えることです。空で走る区間や、待ち時間の長い組み方が減れば、売上はトラックを増やさずに伸びます。
ドライバーの時間に上限ができ、人を増やすのも難しい
2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用されました。同じときに、ドライバーの働き方の基準(改善基準告示)も改正され、1年の拘束時間は原則3,300時間(改正前は3,516時間)、1日の休息は継続11時間を基本とし9時間を下回らないこととされています(国土交通省・厚生労働省の資料による)。いわゆる物流の2024年問題です。
一方で、ドライバーを増やすのも簡単ではありません。NX総合研究所の試算では、何も対策をしなければ、2030年度には営業用トラックの輸送能力が34.1%不足するおそれがあるとされ、国の検討会や経団連の資料でもこの数字が使われています。
つまり、中小の運送会社は、1人のドライバーが働ける時間が減り、ドライバーも増やしにくいという状態にいます。売上を守るには、同じ時間でより多く運べるように組むことと、ドライバー以外の仕事の時間を減らすことの両方が要ります。
その組む仕事は、多くの会社で、ベテランの配車担当1人の頭の中にあります。その人が休めば配車が回らず、その人が辞めれば会社が回りません。
荷主からの問い合わせは、AIが下書きして当日中に返す
今のやり方。 荷主からの「何時に着くか」「来週この量を運べるか」「この区間はいくらか」という電話やメールに、配車担当や事務の方が、配車表と運行の状況を見ながら1件ずつ答えています。配車が忙しい夕方ほど、返事が遅れます。
AIを使うと。 問い合わせのメールと、今日の配車表・運行の状況をAIに渡します。AIは、問い合わせに答えるための情報を拾って、返事の下書きを作ります。答えられない部分(新しい区間の運賃、確約できない空き)は、「確認して折り返します」と書いて、人に回します。人は下書きを確かめて送るだけです。
何が変わるか。 返事が早い会社に、次の仕事が来ます。問い合わせへの返事を早くする考え方は、問い合わせに1時間以内に返す会社が商談を取る。AIで返事を速くする方法で詳しく説明しています。
つまずきどころ。 到着時刻や空きを、AIが確約するような書き方をしないようにします。「見込み」と書き、確約は配車担当がします。
日報はAIが表にし、上限に近いドライバーを先に知らせる
今のやり方。 ドライバーが書いた紙の日報やスマホのメモを、事務の方が月末にまとめて表に打ち込み、拘束時間や休息を集計しています。上限を超えそうだと分かるのは、月の終わりになってからです。
AIを使うと。 毎日の日報の写真やメモをAIに渡すと、出庫・入庫・休憩・荷待ちの時刻を読み取って表にします。表になった時刻から、拘束時間と休息の時間を計算するのは、AIではなく表計算の決まった式に任せます。月の途中で、上限に近づいているドライバーを配車担当に知らせます。
何が変わるか。 月末の集計の手間が減ることに加えて、上限を超えそうなドライバーに、月の途中で配車を調整できます。組み方・費用・必要な人は、拘束時間の超過を月の途中で止める。運転日報をAIで毎日表にする方法で説明しています。日報を毎朝まとめる仕組みは、日報をAIで毎朝まとめ、社長が5分で現場の困りごとをつかむ方法で、製造業の例で説明しています。
つまずきどころ。 時刻の読み違いは、そのまま拘束時間の計算の間違いになります。AIが読めなかった時刻は空欄にさせ、人が日報の原本で埋めます。
配車はAIが案を出し、配車担当が決める
今のやり方。 翌日の荷物の一覧を見ながら、配車担当が「どの車に、どのドライバーで、どの順番で積んで回るか」を組みます。荷物の大きさ、車の大きさ、荷主ごとの時間の指定、ドライバーの今月の拘束時間。これを頭の中で組み合わせるので、1日2時間ほどかかることも珍しくありません。
AIを使うと。 翌日の荷物の一覧、車両の一覧、ドライバーの今月の拘束時間の表、荷主ごとの決まり(時間の指定、入れない車の大きさ)をAIに渡し、配車の案を出してもらいます。案ごとに「なぜこの組み方か」も書かせます。配車担当は案を見て、自分の経験で直して決めます。
何が変わるか。 配車担当が一から組む時間が減り、案を直す仕事になります。案と理由が文章で残るので、配車担当が休む日に、ほかの人が配車を引き継ぎやすくなります。
つまずきどころ。 AIが出した案が、ドライバーの拘束時間や休息の決まりを守っているかは、AIに確かめさせず、表計算の式で別に確かめます。決まりを破る案は、どれだけ効率がよくても使いません。
運賃の見積と改定の資料は、AIが下書きする
今のやり方。 新しい荷主からの見積の依頼に、社長や配車担当が、距離・時間・車の大きさ・待ち時間を考えて運賃を出しています。燃料費や人件費が上がっても、既存の荷主への運賃の改定のお願いは、資料を作る時間がなく後回しになりがちです。
AIを使うと。 過去の見積の一覧と、自社の運賃の決め方をAIに渡し、新しい依頼の見積を下書きしてもらいます。既存の荷主には、燃料費や最低賃金の推移などの公表資料と自社の数字から、運賃の改定をお願いする資料を下書きしてもらいます。
何が変わるか。 見積が早く出せ、改定のお願いを荷主ごとに用意できるようになります。改定の資料の作り方は、取引先に値上げを受け入れてもらう方法。根拠の資料をAIで作るで詳しく説明しています。
つまずきどころ。 運賃の金額は、AIに決めさせません。AIが出すのは下書きと根拠の整理までで、金額は社長が決めます。
点呼そのものと、本格的な配車の自動化は後回しでいい
AIで何でもできそうに見えても、次の3つは後回しをすすめます。
- 点呼そのもの。 乗務の前後の点呼は、方法が法令で決まっています。点呼の記録を表にまとめる手伝いはできても、点呼そのものをAIに任せることはできません。点呼の方法を変えたいなら、国が認めた方法と機器の条件を、運輸局の案内で確かめます
- 本格的な配車の自動化。 地図と道路の情報を使って、何十台もの配車を自動で最適に組むのは、専用の配車システムの領域です。汎用のAIで同じことをしようとすると、作る手間が大きく、確かめる手間も減りません。まずは「案を出して人が決める」形で始めます
- 運行中のドライバーへのAIからの指示。 運転中の判断は、ドライバーと配車担当がします。AIからの指示で運転中の注意をそらさないようにします
まずは、間違えても人がすぐに気づけて直せる、書く・まとめる仕事から始めます。
頼み方をスキルにし、時間の決まりは別の仕組みで守る
ここまでの使い方は、1回ずつ頼んだ場合です。毎日使うなら、もう一段の工夫で、誰が使っても同じ質の結果が出るようにします。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
自社の決まりを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。運送会社なら、「荷主ごとの時間の指定と入れる車の大きさ」「荷主への返事の書き方」「運賃の決め方」「ベテランの配車担当がいつも気をつけていること」をスキルにしておきます。ベテランの頭の中にあった決まりが、会社に残ります。
拘束時間と休息の決まりは、AIの外で守る。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。運送会社では、AIが出した配車の案を、拘束時間と休息の決まりの式で確かめ、守れない案を止めることがそれに当たります。AIに「決まりを守って」と頼むだけでは、いつか破る案が出ます。法令の決まりは、AIではなく決まった計算で守ります。
始める順番は、毎日の量が多く、間違えても直せる仕事から決める
4つのうち、どれから始めるかは、次の基準で決めます。
- 毎日の量が多いか:毎日繰り返す仕事ほど、浮く時間が大きい
- 間違えても直せるか:荷主やドライバーに伝える前に、人が確かめて直せる仕事から
- 材料がそろっているか:日報、配車表、過去の見積など、AIに渡すものがすでに手元にあるか
- 担当者が嫌がっていないか:担当者が面倒だと感じている仕事ほど、使ってもらえる
多くの運送会社では、荷主からの問い合わせへの返事と、日報の集計が、この4つを満たします。配車の下書きは、荷主ごとの決まりをスキルにまとめてから進めます。
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
最初は、AIのチャットの画面に日報の写真や問い合わせのメールを渡して使うだけで試せます。費用は、入力した内容をAIの学習に使わない法人向けプランの利用料で、1人あたり月数千円です。配車担当と事務の方の分だけ用意すれば足ります。
日報が届いたら自動で表にする、問い合わせが届いたら自動で下書きを作る、といった仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。
荷主の情報、ドライバーの勤務の記録は社外秘と個人情報です。社内のルールは先に決めておきます。社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールが参考になります。
効果は、1台あたりの売上とドライバーの拘束時間で測る
業務ごとに、次の数字を始める前と後で比べます。
| 業務 | 測る数字 |
|---|---|
| 荷主からの問い合わせ | 返事までの時間、問い合わせから受注に進んだ件数 |
| 日報と拘束時間の集計 | 月の集計にかかる時間、上限に近づいたドライバーに気づいた日 |
| 配車の下書き | 翌日の配車にかかる時間、空で走った距離 |
| 運賃の見積と改定の資料 | 見積を出すまでの日数、改定をお願いできた荷主の数 |
| 全体 | 1台あたりの月の売上、ドライバー1人あたりの月の拘束時間 |
いちばん大事なのは、最後の2つです。ドライバーの拘束時間を増やさずに、1台あたりの売上が上がっていれば、同じ台数で運べる量が増えています。
最初の1か月は、問い合わせの返事と日報の集計だけ試す
- 配車担当と事務の方に、法人向けプランを用意する
- 1週目は、荷主からの問い合わせのメールを、AIに下書きさせて返す
- 2週目からは、ドライバー3人分の日報を毎日AIで表にし、拘束時間を表計算で集計する
- 1か月の終わりに、返事と集計にかかった時間を、始める前と比べる
- 効果があれば、荷主ごとの決まりを集めてスキルにし、配車の下書きに進む
まとめ
- 運送会社のAI活用は、配車担当と事務の時間を減らし、同じ台数とドライバーの時間で運べる量を増やすことに効く
- 2024年4月から時間外労働は年960時間、拘束時間は年3,300時間が原則。何も対策をしなければ2030年度に輸送能力が34.1%不足するという試算もある
- AIが効くのは、荷主からの問い合わせへの返事、日報と拘束時間の集計、配車の下書き、運賃の見積と改定の資料の4つ。仮の前提で月40時間ほど浮く
- 点呼そのもの、本格的な配車の自動化、運行中の指示は後回しでいい
- 拘束時間と休息の決まりは、AIではなく決まった計算で守る。運賃の金額は社長が決める
- 自社の決まりをスキルにまとめると、ベテランの配車担当の頭の中が会社に残る
- まずは問い合わせの返事と日報の集計を1か月試す