荷主の問い合わせに当日中に返す。配車表と運行の状況からAIが返事を下書き
この記事では、運送会社の人手不足をAIで補い、同じ台数で運べる量を増やす方法の「荷主からの問い合わせは、AIが下書きして当日中に返す」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、荷主からの問い合わせを1つの一覧に集め、到着の見込み、来週の空き、運賃などの種類に分ける。到着の見込みは運行の状況から、空きは配車表から計算で出す。AIがその数字を使って返事を下書きし、空きの確約と運賃は配車担当と社長が決めて、当日中に送るという形です。夕方の忙しい時間に、配車担当が電話とメールに手を止められる時間を減らします。
運べる量が足りなくなるなかで、荷主に選ばれる会社になる
2024年4月から、トラックの運転者の時間外労働に年960時間の上限がかかり、年の拘束時間は原則3,300時間になりました(近畿運輸局の資料による)。NX総合研究所の試算では、何も対策をしなければ、2030年度に営業用トラックの輸送能力が34.1%不足するおそれがあるとされています(LOGISTICS TODAYの報道、経団連の2025年10月の資料が引用)。
運べる量が限られるなかで、荷主は、安心して頼める運送会社を選ぶようになります。問い合わせへの返事が早く正確な会社は、その候補になりやすくなります。一方で、小さな運送会社では、配車担当が配車と運転者への連絡と荷主の問い合わせを一人で抱えていることが多く、問い合わせに答える時間が配車の質を下げることもあります。
今は配車担当が、配車表を見ながら1件ずつ答えている
多くの小さな運送会社では、荷主からの問い合わせへの返事が次のように行われています。
- 荷主から電話やメールで「何時に着きますか」「来週この量を運べますか」と問い合わせが来る
- 配車担当が、配車表と運転者への連絡を確かめて、1件ずつ答える
- 配車が忙しい夕方ほど、返事が遅れる
- 「来週の空き」の質問に、その場で答えきれず、折り返しを忘れることがある
返事が遅れれば、荷主はほかの運送会社に声をかけます。急いで答えて、確約できない空きを約束してしまうと、あとで運転者の時間が足りなくなります。
集め、分け、数字を出し、AIが書き、配車担当が送る
仕組みは4つの段でできています。
1. 集めて分ける:問い合わせを一覧に集め、種類に分ける。 メールやFAXで届いた問い合わせを1つの一覧に集めます。電話で受けたものは、受けた人が一言で入れます。問い合わせを、次の種類に分けます。
- 到着の見込み(「今日の便は何時に着くか」)
- 空きの確認(「来週の火曜に10トン車1台を頼めるか」)
- 運賃の問い合わせ(「この区間はいくらか」)
- そのほか(書類の再発行、事故や破損の連絡)
2. 数字を出す:到着の見込みと空きを、表から計算する。 ここはAIの仕事ではありません。
- 到着の見込みは、運行の状況(出発時刻、今いる場所の連絡、次の届け先の数)と、その区間のふだんの所要時間から出します
- 空きは、配車表から、その日のその車の大きさで空いている車と運転者を数えます。運転者の今週の拘束時間が上限に近い場合は、空きに数えません
3. 下書きする:AIが数字を使って返事を書く。 AIに、問い合わせと、計算で出した数字を渡し、返事を下書きさせます。
- 到着の見込みは「〇時ごろの見込みです」と書き、確約の言い方はしない
- 空きは「空きがある見込みです。確定のお返事は〇時までにします」と書く
- 運賃と、事故や破損の連絡は、「担当から折り返します」とだけ書き、配車担当と社長に回す
4. 確かめて送る:配車担当が確かめて送る。 配車担当が下書きを確かめ、空きを確約できるなら確約に書き換えて送ります。運賃は、自社の運賃表で計算して社長が決めます。
返事の型をスキルにし、到着の見込みと空きの計算はAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
返事の型と荷主ごとの決まりを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 返事の型:問い合わせの種類ごとの、答え方と順番
- 荷主ごとの決まり:呼び方、届け先の名前、連絡の締め切り時刻
- 会社の言葉づかい:配車担当が実際に送っている返事の見本を3つ
- 書いてはいけないこと:確約の言い方、運賃、事故や破損の原因の説明、運転者の名前や連絡先
到着の見込みと空きの計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、到着の見込みを運行の状況と区間の所要時間から計算すること、空きを配車表と運転者の拘束時間から数えること、AIの下書きに入った時刻と台数が計算と一致しているかを照らすことが、それに当たります。AIが「間に合います」と書いてしまえば、運転者に無理な運行をさせることになりかねません。
運賃と事故の連絡は、人がすぐに答える
問い合わせのうち、運賃と、事故や破損の連絡は、AIの下書きに任せません。
- 運賃の問い合わせは、自社の運賃表で計算し、社長が金額を決めて答えます。見積の作り方は、運送の見積を当日中に出す。運賃は表で計算し、AIが内訳と条件を下書きで説明しています
- 事故や破損の連絡は、配車担当か社長がすぐに電話をかけ、状況を聞きます
- どちらも、一覧に「人が対応中」と印を付け、返事を忘れないようにします
配車の案を作る仕組みは、配車をベテラン1人の頭から出す。AIが案と理由を出し、配車担当が決めるで説明しています。配車表が整っていれば、空きの計算もそのまま使えます。
配車担当の仕事は、下書きを確かめて確約を決めることになる
仕組みが入ると、荷主の問い合わせへの返事は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 問い合わせの置き場 | 電話、メール、FAXにばらばら | 1つの一覧 |
| 到着の見込み | 運転者に電話して確かめる | 運行の状況から計算して出る |
| 空きの確認 | その場で答えきれない | 配車表と拘束時間から数えて出る |
| 返事の書き方 | 確約か曖昧のどちらか | 見込みと確定の時期を分けて書く |
| 返事の時期 | 夕方は遅れる | 当日中 |
経営への効果は、荷主に頼られ、無理な運行を防げること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の問い合わせに6分かかっていたものが、下書きを確かめて送る2分になれば、1件4分が浮きます。月200件の問い合わせがある会社なら月約13時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約3万3,000円分です。
ただ、大きいのは時間だけではありません。返事が早く、見込みと確定がはっきりしている会社は、荷主にとって頼みやすい会社です。運転者の拘束時間を見て空きを数えるので、無理な仕事を受けて運転者の時間を超えることも防げます。配車担当が問い合わせに取られる時間が減れば、配車そのものの質も上がります。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月400円ほど
作る順番と、かかる日数
- 返事の型と、荷主ごとの決まりと、書いてはいけないことを決める(会社:社長と配車担当、半日)。ここがいちばん大事です
- 区間ごとのふだんの所要時間と、運行の状況の入れ方を決める(会社:配車担当、半日)
- 問い合わせの一覧と種類分け、到着の見込みと空きの計算を作る(作る人、1人日)
- AIの返事の下書きと、時刻と台数の照らし合わせを作る(作る人、1人日)
- 1か月、実際の問い合わせで試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1件の返事の下書きごとにかかる | 月200件で400円ほど(下の計算) |
| 配車表・メール | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 返事の型と区間の所要時間の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり問い合わせと計算した数字とスキルで4,000トークンを読ませ、500トークンを書かせると見積もると、0.013ドル、1ドル150円で約2円です。月200件で400円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が15万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,900円とすると、月約3万3,000円分が浮く会社でおよそ4.9か月です。問い合わせが少ない会社なら、返事の型をスキルにして、会社で契約したAIのチャットに問い合わせと配車表の該当部分を貼って下書きさせるやり方で十分です。そのときも、時刻と空きは配車担当が表で確かめます。
必要な人は3役で、空きを確約するのは配車担当
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 確かめて送る人 | 配車担当か事務 | 下書きを確かめ、空きを確約できるか決めて送る | 1件2分 |
| 運賃と事故に答える人 | 社長か配車担当 | 運賃を決め、事故や破損の連絡に電話で対応する | その都度 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 一覧、種類分け、計算、下書き、照らし合わせを作る | 最初の2.5人日 |
いちばん大事なのは、運行の状況を新しく保つことです。運転者からの「いまどこ」の連絡が入っていなければ、到着の見込みは出せません。
1か月で返事がそろい、半年で荷主の反応が分かる見込み
どこまでいけるかは、運行の状況と配車表がどれだけ新しく保たれるかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 実際の問い合わせで試す。答えられなかった質問を型に足す |
| 3か月 | 到着の見込みと空きの計算が定着し、当日中に返せる |
| 半年 | 問い合わせから返事までの時間と、荷主ごとの依頼の数を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 問い合わせから返事までの時間:件ごとに記録します
- 到着の見込みと実際の到着の差:見込みの出し方を直す材料にします
- 荷主ごとの依頼の数:半年ごとに比べます
確約や運賃をAIに書かせると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 到着や空きをAIが確約する。 見込みと確定の時期を分けて書き、確約は配車担当がします
- 運転者の拘束時間を見ずに空きを数える。 上限に近い運転者は空きに数えません
- 運賃をAIが書く。 運賃表で計算し、社長が決めます
- 事故や破損の連絡をAIの返事で済ませる。 人がすぐに電話をかけます
荷主の名前や届け先の情報は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 荷主からの問い合わせを1つの一覧に集め、到着の見込み、空きの確認、運賃、そのほかに分ける
- 到着の見込みは運行の状況と区間の所要時間から、空きは配車表と運転者の拘束時間から計算する
- AIが計算した数字で返事を下書きし、見込みと確定の時期を分けて書く。確約の言い方はさせない
- 運賃と事故や破損の連絡は、配車担当と社長がすぐに対応する
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2.5人日。AIの利用料は月400円ほど