経営課題×AI

送る前の書類のミスを止める。AIを「二人目の確認者」にする方法

この記事で変わる経営指標

この記事では、見積書・請求書・納品書・案内文などを社外に送る前に、AIを二人目の確認者として使い、ミスを止める方法を説明します。一言でいうと、人手が足りずに続かなかったダブルチェックを、AIに「送る前の1分の点検」として受け持たせ、宛先・金額・日付・品名の食い違いを、送る前に人に知らせるという話です。その結果、送ったあとの訂正やお詫び、作り直しが減り、取引先からの信用を守れます。

AIの価値は、書類を正しく作ることではありません。作った本人とは別の目で、元の情報と書類を見比べる「二人目」を、いつでも、何度でも置けることです。

経営への効果は、送ったあとの手戻りとお詫びが減ること

書類のミスは、気づく時点が遅いほど高くつきます。

本人だけで確かめる AIを二人目の確認者にする
ミスに気づく時点 取引先から指摘されたとき 送る前
気づいたあとの手間 訂正の連絡、作り直し、お詫び、ときに値引き その場で直す
確認の手間 忙しいと省かれる 1通1分ほどで毎回できる
取引先からの見え方 「また間違えている」 間違いの少ない会社

効果の大きさは、次の式で考えます。

防げる損 = 月に送る書類の数 × ミスの割合 × 送ったあとに気づいたときの1件の手間と損

仮に、月に300通の見積書・請求書・案内を送り、そのうち1%(3通)に、金額や日付や宛先の間違いがあるとします。送ったあとに気づくと、訂正の連絡と作り直しとお詫びで1件1時間、請求の金額の間違いなら入金が1か月遅れることもあります。送る前に止められれば、その手間と遅れがまるごとなくなります。

AIの費用は、法人向けのプランで1人あたり月数千円です。

ミスは、入り口で止めるほど安く済む

品質管理の分野には「1-10-100の法則」という経験則があります。誤ったデータを入り口で防ぐ費用を1とすると、入ったあとで直す費用は10、誤ったまま進んで問題が起きると100になるという考え方で、オーストラリア政府のAI活用の案内や、米国の MarTech の記事でも紹介されています。倍率は測った値ではなく目安ですが、向きははっきりしています。

書類に当てはめると、次のようになります。

気づいた時点 起きること
送る前 その場で直す。数十秒
送ったあと、取引先が気づく前 訂正の連絡を入れ、作り直して送り直す
取引先が気づいたあと お詫び、作り直し、場合によっては値引き。「この会社は間違える」という印象が残る

請求書の金額の間違いは、入金の遅れにつながります。見積書の単価の間違いは、そのまま受注すれば赤字の仕事になります。宛先の間違いは、ほかの取引先の情報が外に出ることになります。送る前に止めるのが、いちばん安い防ぎ方です。

ダブルチェックが大事だと分かっていても、人手が足りずに続かない

ミスを止める方法は、昔から分かっています。作った人とは別の人が、元の情報と見比べることです。それでも多くの会社で続かないのには理由があります。

  • 二人目がいない。 事務が1人の会社では、確かめてくれる人がいません。社長に頼むと、社長の時間が書類の確認に消えます
  • 忙しい日から省かれる。 月末や繁忙期ほど書類が多く、確認の時間が取れません。ミスが起きやすい日ほど、確認が省かれます
  • 見慣れて見落とす。 自分で作った書類は、思い込みで読んでしまいます。同じ人が何度見ても、同じところを見落とします
  • 何を確かめればいいか、人によって違う。 確認の決まりがないと、人によって見るところが変わります

AIは、この「二人目」を、いつでも、何度でも、同じ決まりで受け持てます。

AIは、元の情報との食い違いと失礼な表現を挙げる

送る前の書類の点検。今までは作った本人だけが確かめ、ミスに気づくのは取引先から指摘されたあとだった。AIが元の情報と書類を見比べ、宛先・金額・日付・品名の食い違いと失礼な表現に印を付け、本人が直してから送る
送る前の書類の点検。今までは作った本人だけが確かめ、ミスに気づくのは取引先から指摘されたあとだった。AIが元の情報と書類を見比べ、宛先・金額・日付・品名の食い違いと失礼な表現に印を付け、本人が直してから送る

AIに頼めることは、大きく3つです。

1. 元の情報と書類を見比べ、食い違いを挙げる。 AIに頼むこと:送る書類と、その元になった情報(注文書、見積の依頼のメール、受注表の行など)を一緒に渡し、「宛先・品名・数量・単価・金額・日付・納期が、元の情報と合っているか」を確かめてもらう。 返ってくるもの:合わない箇所の一覧と、どちらが正しそうかの理由。 人がすること:挙がった箇所を元の情報で確かめて直す。 何が変わるか:作った本人が見落としやすい、思い込みのミスが送る前に見つかります。

2. 書類の中の計算と、決まりの守り漏れを挙げる。 AIに頼むこと:書類の中の「数量×単価=金額」「合計」「消費税」が合っているか、会社の決まり(支払期日の書き方、振込先、登録番号の記載)が守られているかを確かめてもらう。 返ってくるもの:計算が合わない箇所、決まりと違う箇所の一覧。 人がすること:計算は表計算でもう一度確かめ、直す。 何が変わるか:計算の取り違えや、書き忘れが送る前に見つかります。

3. 送ってはいけない表現と、宛先の取り違えを挙げる。 AIに頼むこと:案内文やメールの本文を渡し、「失礼な言い回し、強すぎる言い方、相手の名前や会社名の取り違え、ほかの取引先の名前が混ざっていないか」を確かめてもらう。 返ってくるもの:気になる表現と、言い換えの案。 人がすること:直すかどうかを自分で決める。 何が変わるか:前の取引先あての文面を使い回したときの、名前の取り違えなどが止まります。

AIへの頼み方と、返ってくる点検の結果はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

あなたは、社外に送る書類を、送る前に確かめる担当です。添付の「元の情報」(取引先からの見積の依頼のメール)と「送る書類」(見積書)を見比べて、次の点を確かめてください。①宛先の会社名と担当者名、②品名と数量、③単価と金額と合計、④納期と見積の有効期限。合わない箇所があれば、どちらの何が違うかを一覧にしてください。合っている箇所は書かなくてかまいません。書類を直したり、新しく書き足したりはしないでください。

返ってくる点検の結果(見本):

合わない箇所

  1. 数量:依頼のメールでは「部品B 200個」、見積書では「部品B 20個」
  2. 宛先の担当者名:依頼のメールの署名は「田中様」、見積書の宛名は「田村様」
  3. 納期:依頼のメールでは「11月末までに納品希望」、見積書には納期の記載なし

計算 数量×単価と金額は、見積書の中では合っています。ただし1の数量が違うため、金額も変わる可能性があります。

この3つは、どれも送ってから気づくと、取引先に「この会社は大丈夫か」と思われるミスです。

確認の決まりをスキルにし、計算はAIの外でもう一度確かめる

AIに点検させるだけなら今日からでもできますが、社内のみんなが毎日、同じ決まりで点検するには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

書類ごとの確認の決まりを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「見積書で確かめる項目」「請求書で確かめる項目(振込先、支払期日、登録番号)」「案内文で使わない言い回し」「過去に起きたミスの例」をスキルにしておきます。誰が点検しても、同じところを見るようになります。

金額の計算は、AIの外でもう一度確かめる。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、AIの点検とは別に、数量×単価や合計の計算を表計算の式でもう一度確かめること、宛先が取引先の一覧にある名前と一致するかを照らすことがそれに当たります。AIは計算を間違えることがあります。お金の計算だけは、AIの「合っています」を信じず、計算で確かめます。過去に起きたミスは、スキルの「確かめる項目」に足していきます。

明日からは、今週送る見積書を5通、AIに点検させてみる

  1. 今週送る予定の見積書か請求書を5通選ぶ
  2. それぞれ、元の情報(依頼のメール、注文書、受注表の行)をそろえる
  3. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、上の見本の指示で点検させる
  4. 挙がった箇所を元の情報で確かめ、直してから送る
  5. 1か月、点検で見つかったミスの数と、送ったあとに取引先から指摘されたミスの数を数える

1か月続けると、自社でどんなミスが多いかが見えてきます。それをスキルの「確かめる項目」に足すと、点検の精度が上がります。

本格的にやるなら、送る前に自動で点検が入る形にする

書類が多い会社なら、見積書や請求書を作ったら、送る前に自動でAIの点検が入り、合わない箇所があれば作った人に知らせる形にできます。届いた注文書を読み取って受注表に入れる仕組みと組み合わせると、受注から請求までの書類が、元の情報と照らされたまま流れるようになります。注文書の読み取りの仕組みは、FAX注文の入力ミスと手間をAIで減らす方法。月33時間の作業が10時間にで説明しています。

仕組みにするときの費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。

AIに直させず、送るかどうかは人が決める

  • AIに書類を直させない。 点検の役割は、合わない箇所を挙げることだけです。直すのは作った本人です。AIに直させると、直したところに新しい間違いが入ることがあります
  • 「問題なし」を信じすぎない。 AIが何も挙げなくても、見落としはあり得ます。金額と宛先だけは、本人が最後に見ます
  • 取引先の情報の扱いを決める。 見積や請求の書類は社外秘です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
  • ミスを責める道具にしない。 点検で見つかったミスの数は、決まりを直すための材料です。誰が間違えたかを責めると、点検に通さずに送る人が出てきます

まとめ

  • 書類のミスは、送る前に止めるほど安く済む(1-10-100の法則という経験則)。送ったあとの訂正・作り直し・お詫びが減り、取引先からの信用を守れる
  • ダブルチェックは、人手が足りず、忙しい日から省かれる。AIなら、二人目の確認者を、いつでも何度でも同じ決まりで置ける
  • AIに、元の情報との食い違い、書類の中の計算と決まりの守り漏れ、送ってはいけない表現と宛先の取り違えを挙げさせる
  • 確認の決まりはスキルにまとめ、金額の計算はAIの外でもう一度確かめる。直すのと送るのは人
  • まずは、今週送る見積書を5通、AIに点検させてみる

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