停電作業の手順書|ベテランの話からAIで下書きし、安衛則の措置と照らす
この記事で変わる経営指標
この記事では、設備工事店のAI活用|職人が現場に出る時間を増やす4つの書く仕事の「施工と安全の手順書は、ベテランの話からAIが下書きする」を、停電して行う作業の手順書に絞って説明します。
一言でいうと、ベテランが、停電作業の順番を話して録音する。AIが、録音を文字にしたものから手順書を下書きする。社長が、労働安全衛生規則で決まっている措置と照らして、漏れを見つける。作業の指揮者が、手順書で順番を周知する。作業の着手の指示は、指揮者が出すという形です。
経営への効果は、ベテランが付きっきりにならずに若手が育つこと
停電して行う作業は、順番を1つ飛ばすと感電につながります。ブレーカーを切った、札を掛けた、残った電気を逃がした、電気が来ていないことを確かめた。この順番は、ベテランの体に入っていても、紙になっていないことが多くあります。
紙がないと、若手はベテランの横に立って覚えるしかありません。ベテランは自分の作業の手を止めて、毎回同じ説明をします。小さな会社ほど、ベテランの時間が受けられる工事の数を決めています。
ベテランが話すだけで手順書の下書きができれば、若手は手順書を見ながら覚えられます。ベテランは、下書きを直す時間と、現場で確かめる時間だけを使えば済みます。そして、法令で決まっている措置と照らしておけば、ベテランの癖ではなく、会社の決まりとして残せます。
開路したら、施錠か表示、放電、検電と接地を行う
e-Gov法令検索で労働安全衛生規則の第339条を確かめると、電路を開路して、電路やその支持物の敷設、点検、修理などの電気工事の作業を行うときは、開路したあとに次の措置を講じることとされています。
- 開閉器の扱い。 開路に使った開閉器に、作業中は施錠するか、通電禁止に関する事項を表示するか、監視人を置きます
- 残留電荷の放電。 電力ケーブルや電力コンデンサーなどがあり、残った電気で危険が生じるおそれがあるものは、安全な方法で確実に放電させます
- 検電と短絡接地。 開路した電路が高圧または特別高圧だったものは、検電器具で停電を確かめ、短絡接地器具で確実に短絡接地します
作業の途中や終わったあとに電気を通すときは、作業する人に感電の危険がないことと、短絡接地器具を取り外したことを、先に確かめなければなりません。
作業の指揮者を定め、順番を知らせてから着手させる
同じ規則の第350条では、停電作業などを行うとき、作業する人に、作業の期間、作業の内容、取り扱う電路と近くの電路の系統を知らせ、作業の指揮者を定めることとされています。指揮者がすることは次のとおりです。
- 作業の方法と順序を前もって知らせ、作業を直接指揮する
- 電路を開路して作業するときは、停電の状態、開閉器の施錠や表示や監視人の状態、短絡接地器具の取り付けの状態を確かめてから、作業の着手を指示する
手順書は、この「方法と順序を前もって知らせる」ための道具になります。
また、第36条第4号では、低圧の充電電路の敷設や修理の業務などが、特別教育を必要とする業務とされています。手順書は、特別教育の代わりにはなりません。教育を受けた人が、現場の順番を確かめるために使うものです。
広島労働局の死亡災害等速報(令和4年8月)では、キュービクルの保守点検作業中に充電部に触れて感電した災害について、検電器具による停電の確認、短絡接地、作業の指揮者による方法と順序の周知などが再発防止策として挙げられています。2026年10月時点の情報です。
今は、ベテランの頭の中にだけ順番がある
小さな電気工事の会社では、次のような形が多いと思います。
- 停電の順番は、ベテランが現場で口で教える
- 書いた手順書はあるが、何年も前のもので、今の現場の道具と合っていない
- 札を掛ける、鍵をかけるのは「いつもやっている」が、誰がやったかを確かめる場がない
- 若手が1人で現場に出るとき、何を見ればよいかが決まっていない
この形だと、ベテランがいない日は順番が人によって変わります。
話し、AIが下書きし、照らして、教える
1 話す(ベテラン)。 実際の現場か練習の場で、作業をしながら順番と注意を話し、スマホで録音します。「なぜそうするか」も一言ずつ話してもらいます。
2 下書きする(AI)。 録音を文字にしたものを渡し、手順書の形に下書きしてもらいます。
3 照らす(社長)。 下書きを、第339条と第350条の措置の表と照らし、抜けている手順に印を付けます。抜けていたら、ベテランに聞いて足します。
4 教える(作業の指揮者)。 作業の前に、手順書で方法と順序を知らせます。着手の指示は、停電と施錠などの状態を確かめてから、指揮者が出します。
手順書の項目は、この表で照らす
| 手順書の項目 | 照らす決まり | 中身の例(想定) |
|---|---|---|
| 作業の期間・内容・電路の系統を知らせる | 第350条 | 図面で切る回路と近くの回路を示す |
| 作業の指揮者 | 第350条 | 現場ごとに名前を書く |
| 開路する開閉器 | 第339条第1項第1号 | 開閉器の場所と番号 |
| 施錠・通電禁止の表示・監視人 | 第339条第1項第1号 | 鍵と札を誰が掛けたか |
| 残留電荷の放電 | 第339条第1項第2号 | ケーブルやコンデンサーがあるときの手順 |
| 検電と短絡接地(高圧・特別高圧) | 第339条第1項第3号 | 使う器具と、確かめた人 |
| 着手の指示 | 第350条第3号 | 状態を確かめてから指揮者が指示する |
| 通電の前の確認 | 第339条第2項 | 人がいないこと、接地器具を外したこと |
AIの下書きでよく抜けるのは、最後の「通電の前の確認」です。作業が終わった安心から、話す人も飛ばしやすい手順です。
AIへの頼み方と、返ってくる手順書はこうなる
AIに渡す指示(見本):
下に貼ったのは、電気工事のベテランが停電作業をしながら話した録音を文字にしたものです。これを、若手が作業の前に読む手順書の形に整えてください。順番は、話した順を変えないでください。話していない手順を足さないでください。話の中で順番があいまいなところ、道具の名前が分からないところには「確認」と印を付けてください。
返ってくる手順書(見本。内容は架空です):
1 作業の指揮者が、切る回路と近くの回路を図面で全員に示す 2 開閉器を開く。開閉器に鍵をかけ、「作業中 通電禁止」の札を掛ける 3 (確認)ケーブルの残った電気を逃がす手順が話されていない 4 検電器で、電気が来ていないことを確かめる 5 指揮者が、鍵と札と検電の結果を見てから「始め」と言う 6 作業が終わったら、全員が離れたことを確かめてから通電する
この見本では、AIが「確認」の印を付けたところを、社長がベテランに聞いて足します。
照らすときは、抜けと順番と言い方を見る
AIの下書きは、渡した話をもとにしています。それでも、言葉を補う中で、話していない手順が足されたり、順番が入れ替わったりすることがあります。
- 措置の表と1つずつ照らす。 抜けている項目があれば、ベテランに聞いてから足します。AIに埋めさせません
- 順番が話と同じかを見る。 録音を聞き直して確かめます
- 道具の名前を見る。 会社で実際に使っている器具の名前に直します
- 「たぶん」「通常は」を消す。 手順書には、やることだけを書きます
- 高圧の作業を含むかを見る。 含むなら、検電と短絡接地の手順が入っているかを確かめます
手順書は、現場で使ってから毎年直す
一度作った手順書も、道具や現場が変わると合わなくなります。
- 若手に読んでもらい、分からない言葉に印を付けてもらう
- ヒヤリとしたことがあったら、その日のうちに手順書に足す
- 年に1回、ベテランと読み合わせて直す。 直した日を手順書の最後に書きます
型をスキルにし、照らす表はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「手順書の形」「見本」「させないこと(話していない手順を足す、順番を変える、あいまいなところを埋める)」をスキルにします。
照らす表は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、社長が持つ措置の表で照らすこと、抜けをベテランに聞くこと、指揮者が状態を確かめてから着手を指示することがそれに当たります。録音からの手順書づくりの考え方は、技能継承にAIを使う|ベテランが話すだけで手順書が残り、新人が早く育つで説明しています。
費用は、AIの利用料が手順書1つ数円ほど
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| 手順書の下書き | 録音の文字(入力4千トークンほど)から手順書(出力1千トークンほど)を作ると、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1回3円ほど |
| 法人向けプラン | チャットで使うなら1人あたり月数千円 |
| ベテランの時間 | 話して録音するのに作業1回分、直すのに数十分(想定) |
必要な人は3役で、着手の指示は指揮者が出す
- ベテラン:順番を話して録音し、下書きの抜けを足す
- 社長:措置の表で照らし、手順書を会社の決まりとして決める
- 作業の指揮者:作業の前に手順書で方法と順序を知らせ、状態を確かめてから着手を指示する
社長がベテランを兼ねる会社では、照らす役を別の人に頼むと、抜けに気づきやすくなります。
1か月で1つ目の手順書ができる見込み
- 1週目:よく行う停電作業を1つ選び、ベテランが話して録音する
- 2週目:AIに下書きさせ、社長が措置の表で照らす
- 3週目:ベテランと読み合わせ、若手に読んでもらって分からない言葉を直す
- 4週目以降:作業の前に使い、ヒヤリとしたことを足す。次の作業の手順書に進む
AIに抜けを埋めさせると失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 抜けた手順をAIに考えさせる。 もっともらしい手順が入り、現場と合わなくなります。抜けはベテランに聞きます
- 手順書を渡しただけで教えたことにする。 第350条は、指揮者が方法と順序を知らせ、直接指揮することを求めています
- 通電の前の確認を書かない。 作業の終わりは、気がゆるむところです。人がいないことと接地器具を外したことを、手順書の最後に必ず書きます
まとめ
- 電路を開路して作業するときは、開閉器の施錠か表示か監視人、残留電荷の放電、高圧なら検電と短絡接地を行う
- 作業の指揮者を定め、方法と順序を知らせ、状態を確かめてから着手を指示する
- ベテランが話した録音から、AIが手順書を下書きする
- 社長が措置の表で照らし、抜けはAIでなくベテランに聞いて足す
- 手順書は特別教育の代わりではなく、教育を受けた人が順番を確かめるために使う