業務への組み込み例

運送の見積を当日中に出す。運賃は表で計算し、AIが内訳と条件を下書き

この記事で変わる経営指標

この記事では、運送会社の人手不足をAIで補い、同じ台数で運べる量を増やす方法の「運賃の見積と改定の資料は、AIが下書きする」のうち、新しい荷主への見積を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、見積の依頼が来たら、発着地、車の大きさ、時間帯、荷役の有無、待機の見込みを受付の表に入れる。運賃と、待機時間料・積込料・取卸料・高速代などの料金は、自社の運賃表で計算する。社長が金額を決めたうえで、AIが内訳の説明と見積の条件を下書きし、当日中に送るという形です。運賃の中身を荷主に分かる形で示し、荷待ちや荷役の分も含めて受け取れる見積にします。

運賃の中身を示すことが、適正な運賃を受け取る近道になる

国土交通省は、トラック運送事業者が自社の適正な運賃を出し、荷主との運賃の交渉に臨むための参考の指標として、「標準的運賃」を告示しています。2024年3月には、荷待ちや荷役にかかる費用、燃料の高騰分などを適正に転嫁できるよう、運賃を平均約8%引き上げるなどの見直しが行われました(国土交通省「標準的運賃について」令和8年7月の資料。LNEWSの2024年3月の報道でも同じ内容が伝えられています)。

標準的運賃では、運賃とは別に、待機時間料(30分を超えるごとに金額を設定)、積込料・取卸料などの附帯業務の料金、有料道路の利用料などの実費、燃料サーチャージを受け取る考え方が示されています。

また、2024年4月からは、トラックの運転者の時間外労働に年960時間の上限がかかり、年の拘束時間は原則3,300時間になりました(近畿運輸局の資料による)。待たされる時間や荷役の時間は、運転者の時間を使います。見積の段階で、運賃と料金を分けて示し、待機や荷役の条件をはっきりさせることが、時間と利益の両方を守ることにつながります。

今は見積が、社長の頭の中の相場で「一式」になっている

多くの小さな運送会社では、新しい荷主への見積が次のように作られています。

  1. 電話やメールで依頼を受け、発着地と荷物をメモする
  2. 社長や配車担当が、距離と時間と車の大きさから、頭の中の相場で金額を出す
  3. 見積書には「〇〇〜〇〇 一式 〇〇円」と書く
  4. 実際に運んでみると、荷待ちが2時間、手で積み込みがあり、見積の金額では割に合わない

「一式」の見積では、荷待ちや荷役の分を後から請求しにくくなります。見積に時間がかかれば、荷主はほかの会社に決めてしまうこともあります。

条件を入れ、表で計算し、社長が決め、AIが説明を書く

見積の依頼が来たら条件を受付の表に入れ、運賃と待機時間料・積込料・取卸料・高速代などの料金は自社の運賃表で計算する。社長が金額を決め、AIが内訳の説明と見積の条件を下書きし、社長が確かめて当日中に送る
見積の依頼が来たら条件を受付の表に入れ、運賃と待機時間料・積込料・取卸料・高速代などの料金は自社の運賃表で計算する。社長が金額を決め、AIが内訳の説明と見積の条件を下書きし、社長が確かめて当日中に送る

仕組みは4つの段でできています。

1. 入れる:依頼の条件を受付の表に入れる。 依頼を受けた人が、決まった項目を表に入れます。

  • 発地と着地、距離の見込み
  • 車の大きさ、荷物の種類と量
  • 時間帯(積み込みと届けの時刻、曜日、深夜や早朝か)
  • 荷役の有無(手で積むか、フォークリフトか、運転者が行うか)
  • 待機の見込み(荷主に聞いた積み込みの待ち時間)
  • 有料道路を使うか

2. 計算する:運賃と料金を、自社の運賃表で計算する。 ここはAIの仕事ではありません。自社の原価をもとにした運賃表で、運賃と料金をそれぞれ計算します。

  • 距離と時間と車の大きさから運賃
  • 待機時間料(何分を超えたらいくらか)
  • 積込料・取卸料、附帯作業の料金
  • 有料道路の利用料などの実費
  • 燃料サーチャージ(燃料の値段に応じた加算)

国の標準的運賃は、自社の運賃表を作るときや見直すときの参考にします。

3. 決める:社長が金額を決める。 計算した金額を見て、社長が今回の見積の金額を決めます。継続の仕事か、帰り便に使えるかなど、表に出ない事情も社長が考えます。

4. 下書きする:AIが内訳の説明と見積の条件を書く。 AIに、受付の表と、社長が決めた運賃と料金の内訳を渡し、見積書に添える説明と条件を下書きさせます。

  • 内訳の説明(運賃と、待機時間料・積込料などの料金を分けて書く)
  • 見積の条件(待機が何分を超えたら待機時間料がかかるか、荷役は誰が行う前提か、燃料の値段が変わったときの扱い)
  • 荷主に確かめたいこと(積み込みの時刻の幅、荷役の範囲)

社長が読んで直し、見積書と一緒に当日中に送ります。

説明の型をスキルにし、金額の計算はAIの外に置く

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

説明と条件の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 説明の型:運賃、料金、実費、燃料サーチャージを分けて書く順番と言葉
  • 見積の条件の型:待機、荷役、時間帯、燃料、キャンセルの扱い
  • 会社の言葉づかい:社長が過去に書いた見積の説明の見本を3つ
  • 書いてはいけないこと:金額の変更、表にない値引き、運転者の時間を超える約束、「必ず間に合わせます」などの約束

金額の計算と照らし合わせは、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、運賃と料金を運賃表で計算すること、AIの説明に書かれた金額が社長の決めた内訳と一致しているかを機械的に照らすこと、積み込みから届けまでの時間が運転者の1日の拘束時間の目安を超えないかを表で確かめることが、それに当たります。AIは、文章を書くのは得意ですが、金額の足し算や時間の計算を毎回正しく行うことは保証されません。

見積の条件は、荷待ちと荷役を先に書いておく

見積の説明でいちばん大事なのは、荷待ちと荷役の条件を先に書いておくことです。

  • 「積み込みの待ちが30分を超えた場合は、30分ごとに待機時間料をいただきます」のように、条件と金額を書きます
  • 荷役を運転者が行う場合は、その料金を運賃と分けて書きます
  • 燃料の値段が大きく変わったときの扱い(燃料サーチャージ)も書いておきます

見積の段階で条件を書いておけば、運んだあとに料金を相談しやすくなります。既存の荷主への運賃の改定のお願いは、取引先40社の値上げ資料を1週間でそろえる。単価表からAIで作る仕組みの作り方が使えます。

社長の仕事は、金額を決めて説明を確かめることになる

仕組みが入ると、見積は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
条件の聞き取り その場のメモ 受付の表の決まった項目
金額の出し方 頭の中の相場 自社の運賃表で計算し、社長が決める
見積書の中身 「一式」 運賃と料金と実費を分けた内訳
荷待ちと荷役 後から相談しにくい 見積の条件に書いてある
返事の時期 翌日以降 依頼の当日

経営への効果は、荷待ちと荷役の分も受け取れること

効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の見積に60分かかっていたものが、表で計算して下書きを確かめる20分になれば、1件40分が浮きます。月30件の見積の依頼がある会社なら月20時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約5万円分です。

ただ、大きいのは時間だけではありません。運賃と料金を分けて示せば、荷待ちや荷役の分を受け取る根拠ができます。「一式」で受けて割に合わない仕事を減らせば、同じ台数と同じ運転者で、利益が残る仕事を増やせます。運転者の時間を守る仕組みは、拘束時間の超過を月の途中で止める。運転日報をAIで毎日表にする方法で説明しています。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月100円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 受付の表の項目と、説明と条件の型と、書いてはいけないことを決める(会社:社長、半日)。ここがいちばん大事です
  2. 自社の原価をもとに、運賃と料金の運賃表を作るか見直す(会社:社長と経理、1〜2日。標準的運賃を参考にする)
  3. 受付の表から運賃と料金を計算する表を作る(作る人、1人日)
  4. AIの説明と条件の下書きと、金額の照らし合わせを作る(作る人、1人日)
  5. 1か月、実際の依頼で試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2.5人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 1件の見積の説明の下書きごとにかかる 月30件で100円ほど(下の計算)
表計算 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 運賃表と説明の型の更新 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり受付の表と内訳とスキルで5,000トークンを読ませ、1,200トークンを書かせると見積もると、0.022ドル、1ドル150円で約3.3円です。月30件で100円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が15万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,600円とすると、月約5万円分が浮く会社でおよそ3.2か月です。見積の依頼が月に数件の会社なら、運賃表と説明の型だけ作り、会社で契約したAIのチャットに表を貼って説明を下書きさせるやり方で十分です。

必要な人は3役で、金額を決めるのは社長

役 誰が すること 時間
受け付ける人 配車担当か事務 受付の表に条件を入れる 1件10分
決めて確かめる人 社長 計算した金額を見て決め、説明を直して送る 1件10分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 計算の表、説明の下書き、照らし合わせを作る 最初の2.5人日

いちばん大事なのは、自社の原価をもとにした運賃表を持つことです。運賃表がなければ、計算も説明もできません。

1か月で受付の表がそろい、半年で利益の変化が分かる見込み

どこまでいけるかは、運賃表と受付の表がどれだけ実際に合うかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 実際の依頼で試す。受付の表に足りない項目を足す
3か月 見積の条件が定着し、待機時間料や積込料を受け取れる仕事が増える
半年 見積から受注になった割合と、1運行あたりの利益を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを記録します。

  • 依頼から見積を返すまでの時間:件ごとに記録します
  • 待機時間料や積込料を受け取れた運行の数:月ごとに数えます
  • 1運行あたりの売上と、運転者の拘束時間:受注した仕事ごとに記録します

金額や約束をAIに任せると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 金額をAIに計算させる。 運賃と料金は運賃表で計算し、社長が決めます
  • 「一式」のまま説明を付ける。 運賃と料金と実費を分けて書きます
  • 運転者の時間を超える約束を書く。 積み込みから届けまでの時間を表で確かめます
  • 運賃表を見直さない。 燃料や人件費が変わったら、運賃表を見直します

荷主の名前や取引の条件は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 見積の依頼が来たら、発着地、車の大きさ、時間帯、荷役の有無、待機の見込み、有料道路を受付の表に入れる
  • 運賃と、待機時間料・積込料・取卸料・実費・燃料サーチャージは自社の運賃表で計算し、国の標準的運賃を運賃表の参考にする
  • 金額は社長が決め、AIが内訳の説明と見積の条件を下書きする。金額は社長の決めた内訳と照らす
  • 荷待ちと荷役の条件を見積に先に書き、運転者の時間を超える約束はしない
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2.5人日。AIの利用料は月100円ほど

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