小さな会社の新人の離職を減らす方法。聞きにくい質問はAIが受ける
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さな会社で新人が辞めるのを減らすために、AIをどう使うかを説明します。一言でいうと、新人が「こんなことを聞いていいのか」とためらう社内の決まりや手順の質問はAIが受け、先輩と社長は、AIには任せられない「新人の話を聞くこと」に時間を使うという話です。その結果、採用にかけたお金と教えた時間が無駄にならず、人を採り直す手間も減ります。
AIの価値は、新人を教えることではありません。教える人が足りない小さな会社でも、新人が困ったときにすぐ答えが返ってくる状態を作り、先輩の時間を、新人の不安を聞くことに回せるようにすることです。
経営への効果は、採用と育成にかけたお金が無駄にならないこと
新人が1人辞めると、その人の採用と育成にかけたものがまとめて消えます。
| 人の手だけ | AIを使う | |
|---|---|---|
| 新人の小さな質問 | 先輩が忙しそうで聞けず、ためこむ | AIにいつでも聞ける。答えに使った資料も分かる |
| 先輩の時間 | 同じ質問に何度も答える | 同じ質問はAIが受け、先輩は話を聞く時間に回す |
| 育てる計画 | 先輩の頭の中にあり、人によって違う | AIが下書きし、社長と先輩が直して紙に残る |
| 新人の困りごとに気づく時点 | 辞めると言われたとき | 週1回の面談で、早めに |
効果の大きさは、次の式で考えます。
新人1人が辞めると失うもの = 採用にかかった費用 + 戦力になる前に払った給与 + 教えた先輩の時間
仮に、求人広告などの採用費が50万円、戦力になるまでの3か月の給与と社会保険料が75万円、先輩が教えた時間が3か月で100時間(時給2,500円で25万円)なら、1人が辞めると150万円が消えます。そのうえで、同じだけの費用をかけて採り直すことになります。
新人を1人でも辞めずに残せれば、この150万円が無駄にならず、採り直しの費用もかかりません。AIの費用は、法人向けのプランで1人あたり月数千円です。
小さな会社ほど、新人は3年で半分辞める
厚生労働省の調べでは、2022年3月に大学を卒業して就職した人のうち、3年以内に辞めた人は33.8%でした。これを働く事業所の規模で分けると、差がはっきり出ます。
| 事業所の規模 | 大学卒の3年以内の離職率 |
|---|---|
| 全体 | 33.8% |
| 5〜29人 | 52.0% |
従業員5〜29人の事業所では、新人の半分が3年以内に辞めています。同じ調べでは、事業所の規模が大きいほど離職率は低くなっています。
大きな会社と小さな会社で違うことの1つは、新人を受け止める仕組みです。大きな会社には、研修の担当、決まりをまとめた資料、同期、相談の窓口があります。小さな会社では、それを先輩1人か社長が、自分の仕事の合間に担っています。
先輩は忙しく、新人は小さな質問を聞けずにためこむ
小さな会社で新人が辞める流れには、よくある形があります。
- 聞きにくい。 「交通費の精算はどうするのか」「このお客様にはどう電話すればいいのか」「この書類はどこにあるのか」。小さな質問ほど、忙しそうな先輩に聞きにくく、新人はためこみます
- 同じことを何度も聞くのが申し訳ない。 一度聞いたことを忘れると、もう一度聞くのが怖くなります。分からないまま進めて失敗し、注意され、ますます聞けなくなります
- 教え方が人によって違う。 育てる計画が先輩の頭の中にしかないので、何をいつまでにできればいいのかが新人に見えません。先輩が変わると、言うことも変わります
- 困っていることに誰も気づかない。 先輩は自分の仕事で手一杯で、新人の様子を見る余裕がありません。気づいたときには、「辞めたい」と言われています
先輩も社長も、新人を大事にしたくないわけではありません。時間が足りないのです。ここで、AIに任せられる部分と、人にしかできない部分を分けます。
AIに頼めるのは、質問への答えと計画と面談の準備
AIに頼めることは、大きく3つです。
1. 社内の決まりや手順の質問に、AIが答える。 AIに頼むこと:就業規則、経費の精算の手順、よく使う書類の場所、お客様への電話のしかた、先輩が書いた手順書などをAIに読ませておき、新人の質問に答えてもらう。答えには、どの資料のどこを見たかを付けさせる。 返ってくるもの:質問への答えと、根拠になった資料の名前。資料に書いていないことは「資料にはありません。〇〇さんに聞いてください」と返す。 人がすること:AIが答えられなかった質問を週1回見て、資料に書き足す。 何が変わるか:新人は小さな質問をためこまずに済みます。先輩は同じ質問に何度も答えずに済みます。手順書の作り方は、ベテランの技能をAIで手順書に残し、新人を早く一人立ちさせる方法で説明しています。
2. 最初の3か月の、育てる計画を下書きする。 AIに頼むこと:その職種で新人に覚えてほしい仕事と、先輩のメモを渡し、週ごとに「何ができればいいか」「誰が教えるか」を並べた計画を下書きしてもらう。 返ってくるもの:最初の3か月の週ごとの計画。 人がすること:社長と先輩が、自社の実際に合わせて直し、新人に渡す。 何が変わるか:新人が、今週何ができればいいかを分かって働けます。先輩が変わっても、計画は変わりません。
3. 週1回の面談の準備をする。 AIに頼むこと:新人が書いた1週間の日報と、AIに聞いた質問の一覧を渡し、「つまずいていそうなこと」「できるようになったこと」をまとめ、面談で聞くとよいことを挙げてもらう。 返ってくるもの:A4で半分ほどのまとめと、面談で聞くことの案。 人がすること:先輩か社長が、そのまとめを手元に置いて、15分の面談をする。まとめは新人本人にも見せる。 何が変わるか:短い時間でも、新人の困りごとに具体的に触れた面談ができます。
AIへの頼み方と、返ってくる答えはこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
あなたは〇〇株式会社の新人の質問に答える担当です。答えるときは、添付の社内資料(就業規則、経費の精算の手順、お客様対応の手順書、書類の置き場所の一覧)だけを使ってください。答えの最後に、使った資料の名前と見出しを書いてください。資料に書いていないことは推測せず、「資料にはありません。〇〇さん(教える担当)に聞いてください」と答えてください。新人が同じ質問をしても、ていねいに答えてください。
新人の質問と、返ってくる答え(見本):
質問:お客様の会社に行ったときの電車代は、どうやって精算すればいいですか?
答え:月末までに、精算の表に日付・行き先・金額を書いて、領収書がない電車代は「領収書なし」の欄に印を付けて、経理の△△さんに出してください。ICカードの履歴を印刷して付けると確かめやすいです。 (使った資料:経費の精算の手順「交通費」)
質問:お客様に初めて電話するとき、最初に何と言えばいいですか?
答え:資料には、初めてのお客様への電話の言い方は書いてありません。教える担当の〇〇さんに聞いてください。
2つ目のように、資料にないことは答えさせないことが大事です。もっともらしい答えを作らせると、新人は間違ったやり方を覚えます。
資料をスキルにまとめ、答えられない質問は人に回す
AIに新人の質問に答えさせるだけなら今日からでもできますが、毎日同じ質で答え続けるには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
社内の資料と答え方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。新人の質問なら、「社内の資料の一覧」「答え方の決まり(資料の名前を必ず付ける、資料にないことは人に回す)」「よくある質問と、良い答えの見本」をスキルにしておきます。誰が聞いても、同じ質の答えが返ってきます。
資料にない答えは、AIの外の決まりで止める。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、答えに資料の名前が付いていなければ新人に見せない、答えられなかった質問を一覧にして先輩に週1回届ける、という決まりがそれに当たります。AIに「推測しないで」と頼むだけでは、いつか推測が混ざります。資料の名前が付いているかを、AIの外で確かめます。答えられなかった質問は、資料に足していくと、次の新人からはAIが答えられるようになります。
明日からは、新人がよく聞く質問を10個集めることから始める
- 先輩に、新人からよく聞かれる質問を10個書き出してもらう(15分)
- その質問に答えるための社内の資料(就業規則、精算の手順、書類の置き場所など)を集める。資料がない質問は、先輩に答えを数行で書いてもらう
- 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに資料を渡し、上の見本の指示で10個の質問に答えさせる
- 答えを先輩が読み、間違いや足りないところを資料に書き足す
- 次の新人が入ったら、「まずAIに聞いて、分からなければ先輩に」と伝えて使ってもらう
本格的にやるなら、社内の資料を1か所に集めて育てる
新人が毎年入る会社や、店舗や現場が複数ある会社なら、社内の資料を1か所に集め、AIがそこから探して答える形にできます。答えられなかった質問が先輩に届き、先輩が答えを書き足すと、次からAIが答えられるようになります。資料は使うほど育ちます。作らずに始める段階から、組み方・費用・必要な人までは、先輩が同じ質問に答える時間を減らす。社内の資料からAIが答える仕組みで説明しています。
この形は、新人だけでなく、異動してきた人やパートの方にも使えます。社内の資料からAIが答える仕組みにするときの費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。採用の入り口で応募を増やす方法は、求人の応募をAIで増やす方法。現場の1日を求人票に書くだけで変わるで説明しています。
人と話す時間はAIに任せず、新人の記録の扱いを決めておく
- 面談そのものをAIに任せない。 新人が辞めるかどうかを分けるのは、自分を見てくれている人がいるかどうかです。AIは面談の準備までで、話を聞くのは先輩か社長です
- AIのまとめで新人を評価しない。 週1回のまとめは、困りごとに気づくためのものです。評価に使うと、新人は日報に本当のことを書かなくなります。まとめは本人にも見せ、「困っていることを早く知るため」と伝えます
- 資料にないことを答えさせない。 もっともらしい間違った答えは、新人にとって答えがないより悪い結果になります。資料にないことは人に回す決まりを崩しません
- 個人情報の扱いを決めておく。 新人の日報や質問、就業規則以外の人事の情報は、扱いに注意が要ります。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、入れてよい情報を先に決めます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
- AIを入れても、先輩の負担がゼロになるわけではない。 答えられなかった質問を資料に書き足す時間は要ります。その時間を、教える担当の仕事として認めておきます
まとめ
- 新人が1人辞めると、採用と育成にかけたお金がまとめて消える。仮の前提で1人150万円。辞めずに残せれば、採り直しの費用もかからない
- 大学卒の新人の3年以内の離職率は33.8%、従業員5〜29人の事業所では52.0%。小さな会社ほど辞めやすい
- 小さな会社では、先輩が忙しく、新人は小さな質問を聞けずにためこむ。育てる計画も先輩の頭の中にしかない
- AIに、社内の決まりや手順の質問への答え、育てる計画の下書き、週1回の面談の準備を任せ、先輩と社長は新人の話を聞く
- 資料と答え方はスキルにまとめ、資料にない質問は人に回す。面談そのものと評価はAIに任せない
- まずは、新人がよく聞く質問を10個集めて、AIに答えさせてみる