70歳までの就業確保の措置|5つの違いをAIで表にし、社労士と選ぶ
この記事で変わる経営指標
この記事では、高齢社員を戦力にする方法|70歳まで働くベテランの仕事の切り出し方の「働き方と賃金の判断は、AIに任せない」のうち、70歳までの就業を確保する措置の選び方を、社長が決めるまでの手順にして説明します。
一言でいうと、社長が、今の定年と60代の社員の希望を書き出す。AIが、法律にある5つの措置の違いを比べる表にする。社長が、社会保険労務士と確かめて措置を決める。社長が就業規則を直し、社員に説明する。どの措置にするかは社長が決めるという形です。
経営への効果は、経験のある社員に長く働いてもらうこと
小さな会社では、60代の社員が現場の要になっていることが少なくありません。65歳で辞めてもらうと、その経験が会社から消えます。若い人を採るのも簡単ではありません。
70歳まで働ける仕組みを決めておけば、ベテランは先の見通しを持って働けます。会社は、経験を若手に引き継ぐ時間を取れます。決めるのが遅れると、本人も会社も、その場しのぎの話し合いを毎年くり返すことになります。
65歳までは義務、70歳までは努力義務
e-Gov法令検索で高年齢者雇用安定法を確かめると、次の決まりがあります。
| 決まり | 中身 |
|---|---|
| 第9条 | 65歳未満の定年を定めている会社は、65歳までの雇用を確保するため、定年の引上げ、継続雇用制度、定年の廃止のいずれかを講じなければならない |
| 第10条の2 | 65歳以上70歳未満の定年を定めている会社などは、70歳までの就業を確保する措置を講じるよう努めなければならない |
報道によると、厚生労働省の令和7年「高年齢者雇用状況等報告」の集計では、70歳までの就業を確保する措置を実施済みの企業は34.8%で、前の年より2.9ポイント増えました(かいけつ!人事労務、労務ドットコムによる)。2026年10月時点の情報です。
70歳までの措置には、雇う形と雇わない形がある
第10条の2にある措置は、次の5つです。
| 措置 | 中身 | 働き方 |
|---|---|---|
| 定年の引上げ | 定年を70歳まで引き上げる | 雇用 |
| 65歳以上継続雇用制度 | 本人が希望すれば、定年後も続けて雇う。グループ会社や他の会社での継続雇用も含む | 雇用 |
| 定年の廃止 | 定年をなくす | 雇用 |
| 創業支援等措置(業務委託) | 本人が希望すれば、新しく事業を始めた本人と業務委託などの契約を結ぶ | 雇用でない |
| 創業支援等措置(社会貢献事業) | 本人が希望すれば、会社が行う、または支援する社会貢献事業に従事する機会を、委託契約などで提供する | 雇用でない |
雇用でない2つの措置(創業支援等措置)を選ぶときは、労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の同意を得ることが必要です。
雇用でない措置では、働く人は社員ではなくなり、会社との関係は委託などの契約になります。働く時間や仕事の進め方、収入の決まり方も変わります。本人がその違いを分かったうえで選べるよう、説明を丁寧にします。
今は、毎年その人ごとに話し合っている
小さな会社では、60代の社員が65歳に近づくたびに、社長が本人と話し合い、その都度条件を決めていることがあります。人によって条件が違い、あとから不公平だと感じる社員も出てきます。
措置を1つ決め、就業規則に書いておけば、誰に対しても同じ考えで話せます。措置の違いを比べる表をAIで作れば、社長が考える材料がそろいます。
書き出し、AIが下書きし、決めて、説明する
1 書き出す(社長)。 今の定年と継続雇用の決まり、60代の社員の人数と仕事、本人から聞いている希望を書き出します。
2 下書きする(AI)。 書き出したことと、法律にある5つの措置を渡し、自社に当てはめたときの違いを比べる表を下書きしてもらいます。
3 決める(社長)。 表をもとに、社会保険労務士と確かめて、措置を決めます。
4 説明する(社長)。 就業規則を直し、社員に説明します。
比べる表は、この5つの観点で作る
| 観点 | 考えること(例) |
|---|---|
| 働き方 | 雇用か、雇用でない契約か |
| 対象 | 全員か、希望する人か |
| 仕事の中身 | 今の仕事を続けるか、仕事を切り出すか |
| 会社の手続き | 就業規則の変更、過半数代表者の同意など |
| 本人への影響 | 社会保険、収入の見通し |
社会保険や賃金の扱いは、措置によって大きく変わります。表のこの欄は、AIの下書きをそのまま使わず、社会保険労務士に確かめます。
AIへの頼み方と、返ってくる表はこうなる
AIに渡す指示(見本):
下は、当社の今の定年と継続雇用の決まり、60代の社員の仕事と希望の一覧、高年齢者雇用安定法第10条の2にある5つの措置です。5つの措置を、「働き方」「対象」「仕事の中身」「会社の手続き」「本人への影響」の観点で比べる表を作ってください。法律や社会保険の判断が要る所は「社労士に確認」と書いてください。どの措置がよいかは書かないでください。
返ってくる表(見本の一部。内容は架空です):
| 措置 | 働き方 | 会社の手続き |
|---|---|---|
| 65歳以上継続雇用制度 | 雇用 | 就業規則の変更(社労士に確認) |
| 創業支援等措置(業務委託) | 雇用でない契約 | 過半数組合か過半数代表者の同意(手続きは社労士に確認) |
確かめるときは、法律の言い過ぎと抜けを見る
AIの下書きは、渡した中身と一般的な知識をもとにしています。法律や社会保険の細かい扱いは、間違えることがあります。
- 「義務」と「努力義務」が取り違えられていないかを見る
- 創業支援等措置に過半数代表者などの同意が要ることが抜けていないかを見る
- 社会保険や賃金の説明は、社会保険労務士に確かめる
- AIが「おすすめ」を書いていないかを見る。 どの措置にするかは社長が決めます
決めたら、就業規則を直して社員に説明する
措置を決めたら、就業規則を直し、社員に説明します。
- 就業規則の直し方は、社会保険労務士と決める
- 社員への説明の文はAIで下書きしてよい。 決めた中身だけを書かせ、約束にない条件を足させません
- 60代の社員とは、一人ずつ話す時間を取る。 仕事の中身と体の具合を聞いて決めます
ベテランの仕事を切り出す前の棚卸しは、ベテランの業務の棚卸しは1週間で|毎日5分話して引き継ぐ順番を決めるで説明しています。
比べる表の型をスキルにし、選ぶ判断はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「5つの措置の一覧」「比べる5つの観点」「書いてはいけないこと(おすすめの措置、社会保険や賃金の断定、社員の名前や健康の情報)」をスキルにします。
選ぶ判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、社長が措置を選ぶこと、社会保険労務士に確かめること、60代の社員と一人ずつ話すことがそれに当たります。
費用は、AIの利用料が表1回で数円
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| 比べる表の下書き | 書き出しと措置と指示(入力3千トークンほど)から表(出力2千トークンほど)を作ると、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1回4円ほど |
| 法人向けプラン | チャットで使うなら1人あたり月数千円 |
| 社会保険労務士への相談 | 顧問の契約の中で頼めるかを確かめる |
必要な人は2役で、措置は社長が決める
- 社長:書き出し、措置を選び、就業規則を直し、社員と話す
- 社会保険労務士:措置ごとの手続きと社会保険の扱いを確かめ、就業規則の直し方を助言する
3か月で措置を決め、就業規則に書ける見込み
- 1か月目:今の決まりと60代の社員の希望を書き出し、AIで比べる表を作る
- 2か月目:社会保険労務士と表を確かめ、措置を決める
- 3か月目:就業規則を直し、社員に説明する。創業支援等措置なら同意の手続きをとる
- その後:毎年、65歳に近づく社員と一人ずつ話す
人ごとにその場で決めると失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 人ごとにその場で条件を決める。 不公平だと感じる社員が出てきます
- 雇用でない契約を、同意の手続きなしに始める。 創業支援等措置には過半数代表者などの同意が要ります
- AIの表の社会保険の欄をそのまま使う。 措置によって扱いが変わるので、社会保険労務士に確かめます
まとめ
- 高年齢者雇用安定法第9条で65歳までの雇用確保は義務、第10条の2で70歳までの就業確保は努力義務
- 70歳までの措置は、定年の引上げ、65歳以上継続雇用制度、定年の廃止、創業支援等措置(業務委託、社会貢献事業)の5つ
- 雇用でない創業支援等措置には、過半数組合か過半数代表者の同意が要る
- AIで5つの措置を自社に当てはめて比べる表を作り、社会保険と手続きは社会保険労務士に確かめる
- 措置は社長が決め、就業規則を直して社員に説明する