朝の欠員の穴埋めを10分で。空いている人を表で選び、AIが依頼文を下書き
この記事で変わる経営指標
この記事では、ビルメンテナンス・清掃の人手不足をAIで補う方法。報告書と欠員の連絡を速くするの「欠員の連絡は、代わりに入れる人への依頼文をAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、朝にスタッフから休みの連絡が来たら、シフト表から、その時間に空いていて、その現場に入ったことがあり、働く時間の上限を超えない人を計算で選ぶ。AIが現場の場所、時間、作業の内容、鍵の受け取り場所などの注意を書いた依頼文を下書きし、責任者が確かめて、選ばれた人に送るという形です。電話を1人ずつかけていた穴埋めを、10分ほどで済ませられるようにします。
人が足りない業界ほど、欠員の穴埋めが責任者の時間を奪う
帝国データバンクの2026年4月の調査では、メンテナンス・警備・検査の業種で正社員が足りないと答えた企業は65.9%、非正社員が足りないと答えた企業は55.5%でした(PR TIMESと財経新聞に掲載された同社の発表による)。どちらも、全体の数字を大きく上回っています。
人に余裕がない現場では、1人の急な休みがそのまま穴になります。清掃や点検は、決まった日時に決まった場所でやることが契約で決まっています。穴が埋まらなければ、責任者が自分で現場に入るか、作業を減らしてお客様に謝ることになります。どちらも、会社の利益と信頼を削ります。
今は責任者が、朝に1人ずつ電話をかけている
多くの小さなビルメンテナンス・清掃の会社では、欠員の穴埋めが次のように進みます。
- 朝、スタッフから「熱が出たので休みます」と連絡が来る
- 責任者がシフト表を見て、入れそうな人を思い浮かべる
- 1人ずつ電話やメッセージで頼む。断られると次の人へ
- やっと見つかったら、現場の場所、鍵の受け取り場所、作業の内容を口で説明する
30分以上かかることもあります。その現場に入ったことがない人に頼んでしまい、当日に「鍵の場所が分からない」と電話が来ることもあります。
表で選び、AIが書き、責任者が送り、返事を集める
仕組みは4つの段でできています。
1. 入れる:休みの連絡を、決まった形で入れる。 休みの連絡を受けた人が、誰が、どの現場の、何時から何時までを休むかを入れます。
2. 選ぶ:代わりに入れる人を、シフト表から計算で選ぶ。 ここはAIの仕事ではありません。シフト表と、スタッフごとの条件の表から、次の条件を満たす人を選びます。
- その時間に、ほかの現場の予定がない
- その現場に入ったことがある(または、その現場の手順を知っている)
- 資格や講習が要る作業なら、それを持っている
- その日と、その週に働く時間が、上限を超えない
- 移動にかかる時間を見て、間に合う
労働基準法第32条は、休憩時間を除いて1週間に40時間、1日に8時間を超えて働かせてはならないと定めています(e-Gov法令検索で確認)。会社が結んでいる時間外労働の取り決めの範囲も含めて、その人の今週の働いた時間を表で足し、上限に近い人は候補から外します。
3. 下書きする:AIが依頼文を書く。 AIに、休む人の現場の情報(場所、時間、作業の内容、鍵の受け取り場所、注意すること)を渡し、依頼文を下書きさせます。
- 現場の名前と場所、入る時間と終わる時間
- 作業の内容(「1階から3階の共用部の清掃。ゴミの回収は2階の倉庫へ」)
- 注意すること(「鍵は管理室で受け取る。8時までは裏口から」)
- 受けられるかどうかの返事の仕方
4. 送る:責任者が確かめて送り、最初に受けた人に決める。 責任者が依頼文を確かめ、選ばれた人に一斉に送ります。最初に「受けます」と返事をくれた人に決め、ほかの人には「決まりました」と知らせます。シフト表を書き換えます。
依頼文の型をスキルにし、誰に頼むかはAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
依頼文の型と現場の情報を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 依頼文の型:現場、時間、作業、注意、返事の仕方の順で短く書く
- 現場ごとの情報:場所、入り方、鍵の受け取り場所、作業の手順、お客様の決まり
- 会社の言葉づかい:責任者が実際に送っている依頼の見本を3つ
- 書いてはいけないこと:休んだ人の理由や体調、ほかのスタッフの名前、時給や手当の約束
誰に頼むかと時間の計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、候補の人をシフト表と条件の表から計算で選ぶこと、今週の働いた時間を表で足して上限に近い人を外すこと、依頼文の時間と現場がシフト表と一致しているかを照らすことが、それに当たります。誰に頼むかをAIに任せると、資格のない人や、働く時間が上限を超える人を選んでしまうおそれがあります。
休んだ人の事情は書かず、受けた人にお礼を返す
依頼文に書くのは、現場の情報だけです。
- 休んだ人の理由や体調は書きません。スタッフの事情は、責任者だけが知っていればよいことです
- 受けてくれた人には、その日のうちにお礼を返します。急な依頼を受けてくれる人を大事にすることが、次の穴埋めを楽にします
- 同じ人にばかり頼まないよう、月ごとに代わりに入った回数を数えておきます
作業のあとの報告書の作り方は、清掃・点検の報告書を作業の日に届ける。点検表と写真からAIで下書きする仕組みで説明しています。代わりに入った人も、同じ報告書の型で報告できます。
責任者の仕事は、選ばれた候補を見て送ることになる
仕組みが入ると、欠員の穴埋めは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 候補の選び方 | 責任者が思い浮かべる | 空き、経験、資格、時間で計算して選ぶ |
| 頼み方 | 1人ずつ電話 | 候補に一斉に送る |
| 現場の説明 | 口で説明する | 依頼文に書いてある |
| 働く時間の確かめ | 気づかないことがある | 上限に近い人は候補から外れる |
| 穴が埋まるまで | 30分以上かかることもある | 10分ほど |
経営への効果は、現場に穴を開けず、責任者が本来の仕事に戻れること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、1回の穴埋めに30分かかっていたものが10分になれば、1回20分が浮きます。月20回の欠員がある会社なら月約6.7時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約1万7,000円分です。
ただ、大きいのは時間ではありません。穴が早く埋まれば、責任者が自分で現場に入る回数が減り、営業や品質の確認など本来の仕事に時間を使えます。決まった日時に作業ができれば、お客様との契約を守れ、信頼を失わずに済みます。急な依頼の負担が一部の人に偏らないように回せれば、スタッフが辞めにくくなります。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月50円ほど
作る順番と、かかる日数
- スタッフごとの条件の表(入ったことがある現場、資格、移動の手段)と、現場ごとの情報をまとめる(会社:責任者、1〜2日)。ここがいちばん大事です
- 依頼文の型と、書いてはいけないことを決める(会社:責任者、1時間)
- シフト表と条件の表から候補を選び、働く時間を足す仕組みを作る(作る人、1人日)
- AIの依頼文の下書きと、一斉に送って返事を集める仕組みを作る(作る人、0.5人日)
- 1か月、実際の欠員で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1回の依頼文の下書きごとにかかる | 月20回で50円ほど(下の計算) |
| シフト表・連絡の道具 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | スタッフの条件と現場の情報の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1回あたり現場の情報とスキルで4,000トークンを読ませ、800トークンを書かせると見積もると、0.016ドル、1ドル150円で約2.4円です。月20回で50円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
時間だけで見ると、仮に作る費用が12万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,500円とすると、月約1万7,000円分が浮く会社でおよそ8.5か月です。責任者が現場に入らずに済んだ回数や、作業を減らさずに済んだ回数まで含めれば、もっと早く取り戻せます。スタッフが十数人の会社なら、条件の表と現場の情報だけ作り、会社で契約したAIのチャットに現場の情報を貼って依頼文を下書きさせるやり方で十分です。
必要な人は3役で、誰に頼むかを決めるのは責任者
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 受けて確かめる人 | 責任者 | 休みの連絡を入れ、候補と依頼文を確かめて送り、決まった人に知らせる | 1回10分 |
| 条件を保つ人 | 責任者か事務 | スタッフの条件と現場の情報を新しく保つ | 月1時間 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 候補の選び方、時間の計算、依頼文、返事の集め方を作る | 最初の2人日 |
いちばん大事なのは、スタッフの条件の表と現場の情報を新しく保つことです。新しい現場が増えたら、その日のうちに足します。
1か月で穴埋めが速くなり、半年で偏りの変化が分かる見込み
どこまでいけるかは、条件の表と現場の情報がどれだけそろうかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 実際の欠員で試す。依頼文で聞き返されたことを現場の情報に足す |
| 3か月 | 穴埋めにかかる時間が短くなり、責任者が現場に入る回数が減る |
| 半年 | 代わりに入った回数の偏りと、スタッフの定着を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 休みの連絡から穴が埋まるまでの時間:回ごとに記録します
- 責任者が自分で現場に入った回数:月ごとに数えます
- スタッフごとの代わりに入った回数:偏りがないかを見ます
誰に頼むかや時間の計算をAIに任せると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 誰に頼むかをAIに選ばせる。 シフト表と条件の表から計算で選びます
- 働く時間を足さずに頼む。 今週の働いた時間を表で足し、上限に近い人は外します
- 休んだ人の事情を依頼文に書く。 書いてはいけないことに入れます
- 同じ人にばかり頼む。 代わりに入った回数を数え、偏りを見ます
スタッフの連絡先や働いた時間は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 朝に休みの連絡が来たら、誰が、どの現場の、何時から何時までを休むかを入れる
- 代わりに入れる人は、空き、入ったことのある現場、資格、移動の時間、今週の働いた時間からシフト表で計算して選ぶ
- AIが現場の場所、時間、作業、鍵の受け取り場所などの注意を書いた依頼文を下書きし、休んだ人の事情は書かない
- 責任者が確かめて候補に一斉に送り、最初に受けた人に決め、受けてくれた人にお礼を返す
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2人日。AIの利用料は月50円ほど