業務への組み込み例

欠品が分かったその日に取引先へ知らせる。在庫と受注からAIで連絡を下書き

この記事で変わる経営指標

この記事では、小さな卸売会社の事務をAIで減らす。受注の入力と値上げの案内から始めるの「欠品と納期の連絡は、在庫と入荷予定からAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、毎朝、在庫と入荷予定と受注の表から、足りなくなる品目と、それを注文している取引先を計算で洗い出す。AIが取引先ごとの連絡と、代わりに出せる品の提案を下書きして担当の営業に届け、営業が確かめて送るという形です。欠品が分かってから取引先に連絡が届くまでを、その日のうちにします。

今は欠品の連絡が、取引先からの問い合わせで始まっている

親の記事でも触れたとおり、2024年4月からトラックの運転手の時間外労働に年960時間の上限がかかり、何も対策しなければ2030年度に営業用トラックの輸送能力が34.1%不足するおそれがあるという試算があります(近畿運輸局の資料、LOGISTICS TODAY の報道、経団連の資料)。仕入れ先からの入荷が予定どおりに届かない場面は、これから増えることはあっても減りにくいと考えておくほうが安全です。

ところが多くの小さな卸売会社では、欠品の連絡は次のように進んでいます。

  1. 倉庫の担当者が、出荷の準備をしていて在庫が足りないことに気づく
  2. 事務の担当者が、その品目を注文している取引先を受注の表から探す
  3. 担当の営業に伝える。営業は外回り中で、夕方まで連絡できない
  4. 取引先から「まだ届かないのか」と問い合わせが来て、初めて説明する

取引先は、届くはずの品が届かないと、店の売り場や厨房の段取りが狂います。連絡が遅れるほど、取引先の困りごとは大きくなり、ほかの卸に問い合わせるきっかけになります。

毎朝計算で洗い出し、AIが連絡を下書きし、営業が送る

毎朝、在庫と入荷予定と受注の表を集め、足りなくなる品目と、それを注文している取引先を計算で洗い出す。AIが取引先ごとの連絡と代わりの品の提案を下書きし、担当の営業が入荷日と代わりの品の在庫を確かめて送る
毎朝、在庫と入荷予定と受注の表を集め、足りなくなる品目と、それを注文している取引先を計算で洗い出す。AIが取引先ごとの連絡と代わりの品の提案を下書きし、担当の営業が入荷日と代わりの品の在庫を確かめて送る

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:在庫と入荷予定と受注を、毎朝読み込む。 毎朝、販売管理や在庫の表から、次の3つを読み込みます。

  • 品目ごとの今の在庫
  • 仕入れ先からの入荷予定(品目、数量、予定日)。仕入れ先から遅れの連絡があれば、その予定日に直す
  • 取引先ごとの受注(品目、数量、納品日)

2. 計算する:足りなくなる品目と、注文している取引先を出す。 ここはすべて計算です。品目ごとに、納品日の順に受注を並べ、在庫と入荷予定から足りるかを計算します。足りなくなる受注について、次のものを出します。

  • 取引先、品目、注文の数量、納品日
  • 足りない数量と、次の入荷予定日(いつなら出せるか)
  • 代わりに出せる品の候補(同じ分類で在庫がある品。社内で決めた「代わりに出せる品の表」から選ぶ)

3. まとめる:AIが取引先ごとの連絡を下書きする。 AIが、計算の結果と、取引先ごとの呼び方や過去のやり取りのメモを読み、取引先ごとに連絡を下書きします。お詫び、何がいくつ足りないか、いつなら出せるか、代わりの品の提案、返事の頼み方(分けて出すか、代わりの品にするか、待つか)を書きます。数量と日付は、AIが書かず、計算の結果を決まった場所に差し込みます。

4. 手を打つ:営業が確かめて送り、返事を受注に反映する。 担当の営業のスマホに、自分の取引先の下書きが届きます。営業は、入荷日と代わりの品の在庫を確かめ、言い回しを直して送ります。取引先から返事が来たら、事務の担当者が受注の表を直します(分けて出す、代わりの品に替える、納品日を延ばす)。

代わりの品の表と連絡の型をスキルにし、数量と日付はAIの外で持つ

この仕組みが毎日正しく回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の計算で決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

連絡の型と取引先の言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 連絡の型:お詫び、何がいくつ足りないか、いつなら出せるか、代わりの品、返事の頼み方
  • 取引先ごとの呼び方と言葉づかい:長い付き合いの取引先と、新しい取引先で言い回しを変える
  • 書いてはいけないこと:仕入れ先の名前や事情の詳しい説明、確かめていない入荷日、値引きの約束
  • 代わりの品の勧め方:味や規格の違いを正直に書く見本

数量、日付、代わりの品の在庫は、AIに計算させない。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、受注を納品日の順に並べて在庫と入荷予定から足りるかを計算すること、足りない数量と次に出せる日を計算すること、「代わりに出せる品の表」から在庫のある品を選ぶこと、計算の結果を連絡の決まった場所に差し込むことがそれに当たります。取引先に伝える数量と日付は、AIの文から取りません。

「代わりに出せる品の表」は、営業と仕入れの担当者が作ります。AIに「似た品」を探させると、規格やアレルゲンが違う品を勧めてしまうことがあります。

営業の仕事は、届いた下書きを確かめて送ることになる

仕組みが入ると、欠品の連絡は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
気づく 出荷の準備のとき、倉庫で 毎朝、計算で
取引先を探す 事務が受注の表から手で探す 計算で一覧が出る
連絡 営業が外回りから戻ってから 朝のうちに下書きが営業のスマホに届く
代わりの品 営業の記憶に頼る 代わりに出せる品の表から、在庫のある品が添えられる
返事の反映 口頭で事務に伝える 返事の内容を受注の表に直す

営業は、外回りの合間に、下書きを確かめて送るだけです。取引先からの「まだ届かないのか」という問い合わせを待たずに、こちらから先に知らせられます。

経営への効果は、取引先を待たせず、注文を手放さないこと

効果は、前提を置いて計算します。親の記事では、欠品と納期の連絡に1件10分かかっていたものが、AIの下書きで3分になると見積もりました。仕組みが入ると、取引先を探す手間もなくなります。仮に、欠品や納期遅れの連絡が月60件なら、浮く時間は月7時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約1万7,500円分です。月150件なら、月17.5時間、月約4万4,000円分です。

ただ、この仕組みの価値は、時間よりも取引先を待たせないことにあります。欠品は避けきれなくても、朝のうちに知らせて、代わりの品や分けて出す案を示せば、取引先は段取りを組み直せます。問い合わせを受けてから謝るのと、こちらから先に知らせるのとでは、取引先が次の注文を出すときの気持ちが違います。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月60件で70円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 代わりに出せる品の表を作る(社内:営業と仕入れの担当者、1〜2日)。品目ごとに、代わりに出せる品と、違い(規格、量、価格)を書きます。ここがいちばん手間がかかり、いちばん大事です
  2. 在庫、入荷予定、受注の表の書き出し方を決める(社内:事務、半日)
  3. 足りなくなる受注の計算と、代わりの品の選び出しを作る(作る人、1.5人日)
  4. AIの下書きと、数量と日付の差し込み、営業への届け方を作る(作る人、1.5人日)
  5. 1か月、過去の欠品の記録で試して直す(作る人、1人日)。計算で出した欠品が、実際に起きた欠品と合うかを確かめます

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計4人日です。販売管理のソフトが在庫と受注の書き出しに対応していれば、読み込みは早く作れます。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 1件の連絡の下書きごとにかかる 月60件で70円ほど(下の計算)
販売管理・在庫の表 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 代わりに出せる品の表の更新、スキルの見直し 月2時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり、計算の結果とメモとスキルを合わせて2,000トークンを読ませ、400トークンを書かせると見積もると、約0.008ドル、1ドル150円で約1.2円です。月60件で70円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が25万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を5,000円とすると、月150件の会社(月約4万4,000円分)ではおよそ6〜7か月、月60件の会社(月約1万7,500円分)ではおよそ20か月です。欠品の連絡が月に数十件の会社なら、まず「代わりに出せる品の表」だけを作り、親の記事のやり方(AIのチャットで下書き)で回すほうが合うことが多いはずです。

必要な人は3役で、送るのは担当の営業

役 誰が すること 時間
確かめて送る人 担当の営業 入荷日と代わりの品の在庫を確かめ、直して送る 1件3分
表を守る人 事務と仕入れの担当者 入荷予定の変更を表に入れる。取引先の返事を受注に反映する。代わりの品の表を更新する 毎日15分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 計算、下書き、届け方を作る 最初の4人日

いちばん大事なのは、入荷予定の表を正しく保つことです。仕入れ先から遅れの連絡を受けたら、その日のうちに表を直します。表が古いと、計算も連絡も外れます。

1か月で朝のうちに届き、半年で取引先の離れ方の変化が分かる見込み

どこまでいけるかは、入荷予定の表と代わりに出せる品の表が、どれだけ正確に保たれるかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 欠品の多い品目から試す。計算で出した欠品と実際の欠品のずれを直す
3か月 扱う品目の多くに広がる。欠品が分かってから連絡までの時間が、その日のうちになる
半年 欠品のあとに注文が減った取引先の数を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 欠品が分かってから取引先に連絡するまでの時間:送った時刻から数えます
  • 取引先からの「まだ届かないのか」という問い合わせの数:記録から数えます
  • 欠品のあとの取引先の注文:欠品のあった取引先の、翌月の注文を比べます

代わりの品をAIに選ばせたり、確かめずに送ったりすると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 代わりの品をAIに選ばせる。 規格、量、アレルゲンが違う品を勧めると、取引先の信用を失います。代わりの品は、社内で作った表から選びます
  • 確かめていない入荷日を伝える。 仕入れ先の予定が変わっていたのに古い日付を伝えると、二度謝ることになります。営業は送る前に入荷日を確かめます
  • 確かめずに自動で送る。 長い付き合いの取引先には、営業が電話で伝えたほうがよい場合もあります。送り方を決めるのは営業です
  • 入荷予定の表を更新しない。 表が古いと、欠品を見落としたり、ない欠品を知らせたりします。表を守る担当を決めます

取引先の名前と取引の量は、会社の大事な情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 毎朝、在庫と入荷予定と受注の表から、足りなくなる品目と注文している取引先を計算で洗い出す。AIが取引先ごとの連絡と代わりの品の提案を下書きし、担当の営業が確かめて送る
  • 数量、日付、代わりの品の在庫はAIに計算させない。代わりに出せる品は、営業と仕入れの担当者が作った表から選ぶ
  • 作る費用の目安は4人日、AIの利用料は月60件で70円ほど。仮に月150件なら月約4万4,000円分の手間が減り、およそ6〜7か月で取り戻す
  • 入荷予定の表を正しく保つことが、仕組みの土台
  • 問い合わせを待たずに、こちらから先に知らせることが、取引先を手放さない一番の手

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