業務への組み込み例

毎月1日に取引先への便りの下書きが並ぶ。担当者は確かめて送るだけの仕組み

この記事で変わる経営指標

この記事では、毎月の便りで注文を思い出してもらう。取引先ごとの一言をAIで書く方法の「本格的にやるなら、毎月の初めに下書きが並ぶ形にする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、毎月1日に、送り先の一覧と売上の記録と担当者のメモから、AIが取引先ごとの便りの下書きを作り、担当者ごとに並べる。送ってよい相手か、今月すでに送っていないか、文中の日付と金額が合っているかは計算で照らし、担当者は確かめて「送る」を押すだけ。送った記録と返事は一覧に残り、翌月の材料になるという形です。

今は便りが、担当者の手が空いた月にだけ出ている

親の記事では、取引の多い20社に、AIのチャットで一社ずつ下書きを作って送るやり方を紹介しました。取引先が数十社なら、これで回ります。

取引先が数百社になると、手で回すやり方には限りがあります。

  1. 担当者が、売上の表から取引先の前回の取引を探して書き写す
  2. 自分のメモから近況を探して書き写す
  3. AIのチャットに貼り付けて下書きを作らせ、メールソフトに貼り直す
  4. 送ってよい相手か、今月すでに送っていないかを、一覧で確かめる
  5. 送ったことを一覧に書き、返事が来たらメモに足す

1通あたりの手間は数分でも、取引先が多いと月に何時間にもなり、忙しい月から止まります。止まると、親の記事で説明した「毎月思い出してもらう」効果がなくなります。

毎月1日に下書きが並び、担当者が確かめて送る

毎月1日に、送り先の一覧と売上の記録と担当者のメモをそろえ、AIが取引先ごとの便りを下書きする。送ってよい相手か、二重送信でないか、日付と金額は計算で照らし、合わない下書きは赤くなる。担当者が確かめて送ると、送った記録と返事が一覧に残り、翌月の材料になる
毎月1日に、送り先の一覧と売上の記録と担当者のメモをそろえ、AIが取引先ごとの便りを下書きする。送ってよい相手か、二重送信でないか、日付と金額は計算で照らし、合わない下書きは赤くなる。担当者が確かめて送ると、送った記録と返事が一覧に残り、翌月の材料になる

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:送り先の一覧と、売上の記録と、メモをそろえる。 毎月1日の朝に、次の3つを自動で読み込みます。

  • 送り先の一覧:取引先ごとに、担当者、送り先のアドレス、送ってよい理由(取引あり、名刺、同意)、断られたかどうか、前回送った日
  • 売上の記録:取引先ごとの直近の取引(何を、いつ)
  • 担当者のメモ:商談や電話のあとに担当者が書いた一言(先方の近況、話したこと)

2. 読む:AIが取引先ごとの便りを下書きする。 AIが、取引先ごとに、前回の取引とメモに触れた2〜3行の一言を書き、今月のお知らせの候補から関係のありそうなものを1つ選んで添えます。メモに書かれていないことは書かず、選んだお知らせには理由を一言付けます。

3. 照らす:送ってよい相手か、二重送信か、日付と金額は計算で確かめる。 ここから先は計算です。次のものは下書きを作らないか、赤くします。

  • 送り先の一覧で、送ってよい理由が空欄、または断られた相手(下書きを作らない)
  • 今月すでに送った相手(下書きを作らない)
  • 文中の日付と金額が、売上の記録や社内の予定と合わないもの(赤くする)
  • メモが古く、半年以上更新されていない相手(赤くして、担当者に近況の確認を促す)

4. 確かめる:担当者が確かめて送ると、記録が残る。 担当者は、自分の担当の下書きを一覧で見て、赤いものから確かめ、言い回しを直して「送る」を押します。送ったメールには、送り主の名前と受信を断るための連絡先が自動で入ります。送った日が一覧に残り、返事が来たら担当者に届き、メモに足されます。翌月の下書きは、その返事も材料にします。

書き方の決まりをスキルにし、送ってよい相手はAIの外で決める

この仕組みが毎月同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の点検で決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

会社の書き方と、書いてはいけないことを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 会社の挨拶の言い回しと、担当者ごとの書き癖(「〜させていただきます」を使うか、など)
  • 書いてはいけないこと:売り込みの言葉、値引きや納期の約束、メモにない出来事
  • お知らせの選び方:取引の内容とお知らせの組み合わせの例
  • 担当者が直した下書きの見本:直した前と後を並べて足していく

送ってよい相手、二重送信、日付と金額は、AIに判断させない。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、送り先の一覧の「送ってよい理由」と「断られた」で下書きの対象を決めること、前回送った日で二重送信を止めること、文中の日付と金額を売上の記録や社内の予定と照らすこと、送り主の名前と受信拒否の連絡先を決まった形で入れることがそれに当たります。

総務省と消費者庁の資料によると、広告や宣伝のメールは原則として同意した人にだけ送れ、取引関係にある人や名刺などでアドレスを知らせてくれた人は例外とされています。送り主の名前と受信拒否の連絡先の表示、同意の記録、断られたら送らないことも求められます(ECのミカタの解説でも同じ内容が説明されています)。これらは、一覧と決まった形で守ります。自社の送り先が当てはまるかは、資料を確かめ、迷うときは専門家に相談します。

担当者の仕事は、赤いものから確かめて送るだけになる

仕組みが入ると、担当者の毎月の仕事は次のように変わります(想定です)。

手で回す(親の記事のやり方) 仕組みが入ったあと
材料を集める 売上の表とメモから探して書き写す 毎月1日に自動で読み込まれる
下書き AIのチャットに貼り付けて作らせる 担当者ごとに一覧で並んでいる
送ってよいか 一覧を見て確かめる 一覧の欄で決まり、対象外には下書きを作らない
送ったあと 一覧に手で書く 送った日と返事が自動で残る
翌月 また一から集める 返事とメモの更新が材料になる

担当者は、毎月初めの数日のうちに、自分の担当の下書きを確かめて送ります。返事が来た取引先に、すぐに電話や訪問の段取りができます。

経営への効果は、便りが止まらず、返事が商談につながること

効果は、前提を置いて計算します。仮に、取引先が300社あり、親の記事の手で回すやり方では1通あたり4分(材料集め、貼り付け、確認、記録)かかり、仕組みが入ったあとは1通1.5分になるとします。浮く時間は月12.5時間です。1時間あたりの人件費を仮に2,500円とすると、月約3万1,000円分です。

ただ、この仕組みの価値は、時間よりも便りが止まらないことにあります。手で回すと、忙しい月や担当者が休んだ月に止まります。仕組みにすれば、毎月1日に下書きが並ぶので、担当者は確かめて送るだけです。返事が担当者に届き、メモに残るので、商談につなげる次の一手も打ちやすくなります。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は300社で月300円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 送り先の一覧を整える(社内:営業と事務、1〜2日)。担当者、アドレス、送ってよい理由、断られたかどうかの欄をそろえます。ここがいちばん手間がかかり、いちばん大事です
  2. 担当者のメモを書く場所を1つに決める(社内:営業、半日)。商談や電話のあとに一言を書く習慣を作ります
  3. 材料の読み込みと、AIの下書きを作る(作る人、1.5人日)
  4. 送ってよい相手と二重送信の判定、日付と金額の照らし合わせ、送信と記録を作る(作る人、1.5人日)
  5. 1か月、20社ほどで試して直す(作る人、1人日)。担当者が直した下書きを、スキルの見本に足します

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計4人日です。顧客管理のソフトをすでに使っていれば、送り先の一覧とメモはそこから読み込む形にすると早く作れます。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 便り1通の下書きごとにかかる 300社で月300円ほど(下の計算)
メールの送信 すでに使っているメール 追加0円の想定
保守 送り先の一覧の更新、スキルの見直し 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。親の記事と同じく、1通あたり1,500トークンを読ませ、400トークンを書かせると見積もると、約0.007ドル、1ドル150円で約1円です。300社で月300円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が25万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)が3,000円とすると、上の月約3万1,000円の効果では、およそ9か月で取り戻す計算です。取引先が数十社なら、仕組みを作らず、親の記事の手で回すやり方で十分です。

必要な人は3役で、送るボタンは担当者が押す

役 誰が すること 時間
確かめて送る人 営業の担当者 自分の担当の下書きを確かめ、直して送る。返事に答える 1通1.5分
一覧を守る人 事務の担当者 送り先の一覧の追加と、断られた相手の記録 月1時間
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 読み込み、下書き、判定、照らし合わせ、送信と記録を作る 最初の4人日

いちばん大事なのは、担当者のメモです。メモがない取引先は、AIが「いつもお世話になっております」しか書けず、一斉送信と変わらなくなります。担当者には、「商談や電話のあとに、先方の近況を一言書く。それが翌月の便りになる」と伝えておきます。

1か月で20社に届き、半年で返事と注文の変化が分かる見込み

どこまでいけるかは、送り先の一覧とメモがどれだけ整っているかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 20社ほどで試す。担当者が下書きの半分ほどを直す。直したものをスキルに足す
3か月 送ってよい相手すべてに広がる。メモが古い取引先が赤くなり、担当者が近況を確かめる習慣ができる
半年 返事の数と、返事のあとの商談や注文を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 毎月送れた取引先の数:送った日の記録から数えます
  • 返事の数と、その後の商談や注文:返事が来た取引先に印を付けて数えます
  • 担当者が便りに使った時間:1か月だけ記録します

送ってよい相手をAIに決めさせたり、確かめずに送ると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 送ってよい相手をAIに決めさせる。 「この会社は前に取引があったはず」というAIの推測で送ると、断られた相手や同意のない相手に届きます。送ってよいかは、一覧の欄で決めます
  • 確かめずに自動で送る。 「先月はありがとうございました」と書いて、実際には先月の取引がなかったら、信用を失います。送るのは担当者です
  • 毎月のお知らせを詰め込む。 1通に1つまでにします。広告ばかりになると、読まれなくなり、断られます
  • 返事をAIに任せる。 便りへの返事は、取引先からの大事な連絡です。担当者が中身を読み、自分で答えます

取引の記録や担当者のメモは、取引先の大事な情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 毎月1日に、送り先の一覧と売上の記録と担当者のメモから、AIが取引先ごとの便りを下書きし、担当者ごとに並べる。担当者は確かめて送るだけ
  • 送ってよい相手、二重送信、日付と金額は、AIではなく一覧と計算で決める。送り主の名前と受信拒否の連絡先は決まった形で入れ、断られた相手には下書きを作らない
  • 送った記録と返事は一覧に残り、翌月の下書きの材料になる。いちばん大事なのは、担当者が商談のあとに書く一言のメモ
  • 作る費用の目安は4人日、AIの利用料は300社で月300円ほど。仮に300社なら、月約3万1,000円分の手間が減り、およそ9か月で取り戻す。数十社なら手で回すやり方で十分
  • 返事には担当者が自分で答える

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