経営課題×AI

70歳まで働くベテランを戦力のままに。仕事の切り出しと教え役をAIで支える

この記事で変わる経営指標

この記事では、60代、70代まで働くベテラン社員を、会社の戦力のままにする方法を説明します。一言でいうと、ベテランが今している仕事を一覧にする。その一覧を、本人にしかできない仕事、若手に渡せる仕事、体の負担が大きい仕事にAIで仕分けの案を出し、社長と本人で決める。ベテランは、本人にしかできない仕事と、若手に教える役に時間を使う。教えるための手順書や、パソコンへの入力は、話したことからAIが下書きするという話です。

AIの価値は、ベテランの代わりをすることではありません。ベテランの時間を、ベテランにしかできない仕事と、それを次の人に渡すことに集めることです。

経営への効果は、経験を失わず、若手が早く育つこと

ベテランの働き方は、AIを使うと次のように変わります。

今まで 仕事を一覧にし、AIで仕分けと下書き
ベテランの仕事 若いころと同じ仕事を全部 本人にしかできない仕事と教え役に集める
体の負担 本人が無理をする 負担の大きい仕事を一覧で見て、分け直す
若手への教え方 横で見て覚える ベテランの話から手順書を下書き
パソコンの入力 苦手な人には負担 話した記録からAIが下書き
引き継ぎ 辞める直前に慌てる 一覧から、少しずつ渡していく
ベテラン社員の働き方の変化。今までは若いころと同じ仕事を全部抱え、教え方は横で見て覚える形だった。仕事を一覧にしてAIが仕分けの案を出し、社長と本人で決め、ベテランは本人にしかできない仕事と教え役に回り、手順書や入力は話したことからAIが下書きする
ベテラン社員の働き方の変化。今までは若いころと同じ仕事を全部抱え、教え方は横で見て覚える形だった。仕事を一覧にしてAIが仕分けの案を出し、社長と本人で決め、ベテランは本人にしかできない仕事と教え役に回り、手順書や入力は話したことからAIが下書きする

経営の効果は3つあります。

  • 経験を失わない。 ベテランの頭の中にある、お客様との関係、機械のくせ、段取りのこつは、辞めたら会社から消えます。働き続けてもらいながら、それを手順書と若手に移していけます
  • 若手が早く育つ。 ベテランが教え役に時間を使えるので、若手が一人で仕事を回せるまでの期間が短くなります
  • 人手が足りない会社が回り続ける。 新しく人を採るのが難しい中で、経験のある人に長く、無理なく働いてもらうことは、人手不足への手堅い手です

70歳までの就業確保の措置は、実施済みの企業が34.8%

厚生労働省が2025年12月に公表した令和7年「高年齢者雇用状況等報告」の集計(2025年6月1日時点)では、65歳までの雇用を確保する措置を実施済みの企業は99.9%でした。70歳までの就業を確保する措置を実施済みの企業は34.8%で、前の年より2.9ポイント増えています(かいけつ!人事労務、労務ドットコムの報道による)。

65歳までの雇用の確保は会社の義務で、ほとんどの会社が対応しています。70歳までの就業の確保は、今は会社の努力義務です。それでも、実施する会社は増えています。

働く期間が延びると、会社が考えることも変わります。60歳を過ぎた社員に、若いころと同じ仕事を同じ量だけ続けてもらうのか。それとも、経験を生かせる仕事に寄せ、体の負担が大きい仕事は分け直すのか。多くの小さな会社では、これが決まらないまま、本人の頑張りに頼っています。

決まらないのは、ベテランの仕事が見えていないから

ベテランの仕事の分け直しが進まない理由は、たいてい、ベテランが何をしているかが一覧になっていないことです。

  • ベテランは、言われなくても気づいて片づける仕事を、たくさん抱えています。本人も全部は書き出していません
  • どの仕事が、本人にしかできないのか、若手でもできるのかが、社長にも分かりません
  • 体の負担が大きい仕事を、本人は「まだできる」と言い、周りも頼み続けます

まず、ベテランの仕事を一覧にすることから始めます。一覧があれば、社長と本人で、どの仕事を続け、どの仕事を誰に渡すかを話し合えます。

AIは仕事の一覧の仕分けと、教えるための手順書を下書きする

AIに頼むこと。 次の3つを下書きしてもらいます。

  • 仕事の一覧の仕分けの案:ベテランに1週間の仕事を話してもらった記録から、仕事を一覧にし、「本人にしかできない」「若手に渡せる」「体の負担が大きい」「やめてもよいかもしれない」に分けた案を作る。仕分けの理由も添える
  • 教えるための手順書:若手に渡す仕事について、ベテランが作業をしながら話した記録から、手順書を下書きする
  • 入力の下書き:日報や点検の記録など、パソコンへの入力が負担になっている仕事は、ベテランがスマホに話した一言から、入力する形の下書きを作る

人がすること。 仕分けの案は、社長と本人で話し合って決めます。手順書は、ベテランが中身を確かめます。入力の下書きは、本人か担当者が確かめて入れます。

何が変わるか。 ベテランの仕事が見えるようになり、続ける仕事と渡す仕事を決められます。渡す仕事は、手順書と一緒に若手に移っていきます。

ベテランの話から手順書を作る考え方は、ベテランの技能をAIで手順書に残し、新人を早く一人立ちさせる方法で説明しています。

AIへの頼み方と、返ってくる仕分けの案はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、工場のベテラン社員が話した、1週間の仕事の記録です。仕事を1つずつ一覧にし、「本人にしかできない」「若手に渡せる」「体の負担が大きい」「やめてもよいかもしれない」のどれかに分けた案を作ってください。それぞれ、そう分けた理由を一言添えてください。記録にない仕事は書かず、判断できないものは「話し合い」と書いてください。

返ってくる仕分けの案(見本の一部):

仕事 仕分けの案 理由
古い機械の異音の聞き分け 本人にしかできない 記録で「音で分かる」と話している。手順書にしにくい
毎朝の材料の受け入れの確認 若手に渡せる 確かめる項目が決まっている
材料の袋(20kg)の運び込み 体の負担が大きい 毎日、何度も運んでいる
週1回の手書きの集計 話し合い ほかの記録と重なっているかもしれない

社長と本人で一覧を見て、続ける仕事、渡す仕事、分け直す仕事を決めます。

仕事の一覧は表で持ち、仕分けの型はスキルにする

ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。ベテランが何人もいる会社なら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

仕分けと手順書の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「仕分けの4つの分け方と理由の書き方」「手順書の型」「会社の言葉(機械や工程の呼び方)」「書いてはいけないこと(年齢を理由に能力を決めつける言い方、本人の健康についての推測、賃金や雇用の条件についての判断)」をスキルにします。

仕事の一覧と、誰に渡したかは、表で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、決まった仕事の一覧を表で持ち、「誰が担当か」「手順書があるか」「若手が一人でできるようになったか」の欄で、渡し具合を計算で見えるようにすることがそれに当たります。仕分けを決めるのはAIではなく、社長と本人です。

明日からは、ベテラン1人に1週間の仕事を話してもらう

  1. ベテラン1人に、「1週間にしている仕事を、思いつく順に全部話してほしい」と頼み、スマホで録音して文字にする
  2. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに記録を渡し、上の見本の指示で仕分けの案を作らせる
  3. 社長と本人で一覧を見て、続ける仕事、渡す仕事、分け直す仕事を決める。1週間、毎日話して抜けを拾うやり方は、ベテランの仕事を1週間で一覧に。話した記録からAIが仕分けと渡す順番を出すで説明しています
  4. 渡す仕事を1つ選び、ベテランが作業をしながら話した記録から、手順書を下書きさせる
  5. 若手に手順書を渡し、ベテランが横で1回見て、手順書を直す

本格的にやるなら、仕事の一覧を年1回見直し、教え役を評価する

一覧ができたら、次の形に育てます。

  • 仕事の一覧を年1回見直す。 本人の体の様子や希望、会社の仕事の変化に合わせて、続ける仕事と渡す仕事を見直します
  • 教え役を仕事として認める。 若手に教えた仕事の数や、若手が一人でできるようになった仕事の数を、ベテランの役割として評価に入れます。評価の考え方は、人事評価の面談を社員が納得する場にする。日々の記録と準備をAIでで説明しています
  • 入力の負担をなくす。 パソコンへの入力が負担になっている仕事は、話した一言からAIが下書きする形に変えていきます
  • 引き継ぎを少しずつ進める。 辞める時期が決まってから慌てないように、一覧の「渡す仕事」を、毎月1つずつ若手に移します。事業の承継の考え方は、事業を継ぐ人が困らない会社にする。社長の頭の中をAIで書き残すで説明しています

働き方と賃金の判断は、AIに任せない

  • 仕分けは社長と本人で決める。 AIの案は話し合いの材料です。本人の希望と体の様子を聞いて決めます
  • 年齢で決めつけない。 「年だからできない」ではなく、仕事ごとに負担と必要な経験で考えます。AIにも、年齢を理由にした言い方をさせません
  • 雇用と賃金の条件は専門家と確かめる。 定年、継続雇用、賃金の決め方は、就業規則と法律にかかわります。社会保険労務士に確かめます
  • 本人の情報に気をつける。 健康や家族の事情は、大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、AIに渡す情報を社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 70歳までの就業確保の措置を実施済みの企業は34.8%で、増えている(厚生労働省 令和7年の集計)
  • ベテランの仕事の分け直しが進まないのは、仕事が一覧になっていないから
  • ベテランが話した1週間の仕事から、AIが一覧と仕分けの案を作り、社長と本人で決める
  • ベテランは本人にしかできない仕事と教え役に回り、手順書と入力は話したことからAIが下書きする
  • 仕分けと働き方、賃金の判断は社長と本人と専門家で行い、年齢で決めつけない

CONTACT

自社の業務にも、AIを組み込めるか

記事のような組み込みを、御社の業務と予算に合わせて設計・実装しています。何から手を付ければいいか分からない段階でも大丈夫です。

AI活用を相談する