AI法で中小企業がすること|罰則はないが、使い方の決めごとは要る
この記事で変わる経営指標
この記事では、AIを業務で使い始めた、またはこれから使う中小企業の社長に向けて、AI法とAI基本計画が会社に何を求めているかを説明します。一言でいうと、2025年9月に全面施行されたAI法は、AIを事業で使う会社に、AIの活用で事業を効率化するよう努めることと、国の施策に協力することを求めている。罰則はないが、国が決めた指針に沿って、使う業務と使い方の決めごとを社長が決めておくことが大切。使い方の表や見本の下書きはAIに頼めるという話です。
AIの価値は、法律への対応を代わりに考えることではありません。法律や指針の要点から、自社で決めることの一覧を下書きし、社長の時間を、どの業務でどう使うかを決めることに使えるようにすることです。
経営への効果は、AIを使う方向に安心して踏み出せること
| 法律ができる前 | AI法とAI基本計画のあと | |
|---|---|---|
| 国の向き | はっきりしない | 「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」へ |
| 事業者の責務 | 法律の定めはない | AIの活用で効率化に努め、国の施策に協力する |
| 罰則 | — | なし |
| 会社がすること | 各自の判断 | 使う業務と使い方の決めごとを決める |
国がAIの活用を進める方向をはっきり示したことで、中小企業も「AIを使ってよいのか」と迷う理由が一つ減りました。そのうえで、使い方の決めごとを持っておけば、社員も取引先も安心できます。
AI法は2025年9月に全面施行され、12月に基本計画ができた
BUSINESS LAWYERSの解説によると、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法)は、2025年5月28日に成立し、6月4日に公布されました。基本計画と戦略本部の章を含めた全体が、2025年9月1日から施行されています。総務省の令和8年版情報通信白書も、AI法が2025年5月に成立し、9月に全面施行されたとしています。
同じ解説によると、AI法に基づいて、2025年12月19日に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」(適正性指針)が決まり、12月23日に人工知能基本計画(AI基本計画)が閣議決定されました。
情報通信白書によると、AI基本計画は「信頼できるAI」を軸に、次の4つの基本的な方針を掲げています。
- AI利活用の加速的推進(AIを使う)
- AI開発力の戦略的強化(AIを創る)
- AIガバナンスの主導(AIの信頼性を高める)
- AI社会に向けた継続的変革(AIと協働する)
2026年10月時点の情報です。
事業者の責務は、活用に努めることと、国の施策に協力すること
BUSINESS LAWYERSの解説によると、AI法の第7条は、AIを事業で使う会社などを「活用事業者」とし、次の2つの責務を定めています。
- 自ら積極的にAIを活用して、事業活動の効率化や高度化、新しい産業の創出に努めること(努力義務)
- 国や地方公共団体が実施する施策に協力すること
情報通信白書の図でも、事業者は国などの施策に協力しなければならないとされ、国による事業者などへの指導・助言・情報提供が基本的施策に挙がっています。
罰則はないが、協力しないと指導・助言の対象になり得る
同じ解説によると、これらは法律の目的を実現するために各主体の役割を示す責務の規定で、違反しても罰金などの罰則の対象にはなりません。ただし、「協力しなければならない」は「努める」より強い書き方で、国の施策に協力しない場合は、国による指導・助言などの対象になり得るとしています。
解説は、企業にとって重要な国の施策として、国による調査研究と、国による指針の整備を挙げています。小さな会社にとっては、国が出す指針やガイドラインを知り、自社の使い方を合わせておくことが、現実的な「協力」の形になります。AIを使う側の会社向けの指針としては、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインがあります。第1.2版の要点は、AI事業者ガイドライン第1.2版|AIを使う側の中小企業が見直すことで説明しています。
小さな会社がすることは、使う業務を選び、使い方を決めること
AI法が事業者に求める「活用して効率化に努める」を、小さな会社に置き換えると、次の3つになります。
- 使う業務を1つ選ぶ。 時間がかかっていて、間違えても人が直せる業務から始めます。選び方はAIは何の業務から始める?|時間×回数×間違いの影響で1つ選ぶで説明しています
- 使い方の決めごとを作る。 使う道具、入れてよい情報、確かめ方を決めます。作り方は生成AIの社内ルールの作り方|A4で1枚、社員が安心して使える3つの決めごとで説明しています
- 国の指針が変わったら見直す。 年に1回、ガイドラインの改定を確かめ、決めごとを直します
決めごとの一覧は、AIに下書きさせて社長が決める
人がすること(最初に)。 社長か担当者が、社内でAIを使っている業務と、使いたい業務を書き出します。
AIに頼むこと。 書き出した業務と、AI法の事業者の責務、AI事業者ガイドラインの要点を渡し、自社で決めることの一覧を下書きしてもらいます。
下は、当社でAIを使っている業務と使いたい業務の一覧、AI法の事業者の責務、AI事業者ガイドラインの要点です。当社が決めておくことを、「使う業務」「使う道具」「入れてよい情報」「人が確かめる所」「見直しの時期」の欄で表にしてください。法律の解釈や、義務かどうかの判断は書かないでください。迷う所は「要相談」と書いてください。
人がすること(そのあと)。 社長が「要相談」の行を決め、表を社員に配ります。法律の解釈で迷うことは、専門家に確かめます。
取引先や社員に聞かれたら、決めごとの表で答える
AIを使う会社が増えると、取引先から「御社ではAIをどう使っていますか」「預けた情報をAIに入れていませんか」と聞かれることが出てきます。社員からも「この仕事にAIを使ってよいか」と聞かれます。
- 取引先には、決めごとの表の要点を見せる。 どの業務で使い、どの情報を入れないか、誰が確かめるかを、1枚で説明できるようにしておきます
- 社員には、表に載っていない業務は相談するよう伝える。 表にない使い方は、社長か推進役に聞いてから始める決まりにします
- 答え方の文はAIに下書きさせる。 決めごとの表から、取引先への説明の文を下書きさせ、社長が確かめてから使います
AI法の基本理念には、適正な研究開発と活用のための透明性の確保が挙がっています。小さな会社にとっては、自社の使い方を聞かれたときに説明できることが、その第一歩になります。
取引先に渡す説明の1枚の作り方は、AIの使い方を取引先に説明する|情報の扱いを1枚にまとめて渡すで説明しています。
法律の解釈と、使い方の判断は、AIに任せない
- 法律の解釈は人が確かめる。 AIの要約だけで、義務かどうかを判断しません。迷うときは専門家に聞きます
- 使う業務は社長が決める。 どの業務にAIを使うかは、業務を知る社長が決めます
- 最新の情報は公的な資料で確かめる。 指針やガイドラインは改定されます。AIの知識が古いことがあるので、総務省や内閣府の資料で確かめます
- 入れる情報に気をつける。 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで使います
決めごとをスキルにし、判断はAIの外に置く
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。社内でAIを使う業務が増えてきたら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
決めごとを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、社内の決めごとの表(使う業務、入れてよい情報、人が確かめる所)をスキルにしておくと、社員が誰でも同じ範囲でAIを使えます。
判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、法律の解釈を専門家に確かめること、使う業務を社長が決めること、指針の改定を年に1回人が確かめることがそれに当たります。
明日からは、社内でAIを使っている業務を書き出す
- 社内でAIを使っている業務と、使いたい業務を書き出す
- 上の見本の指示で、決めておくことの表を下書きさせる
- 「要相談」の行を社長が決め、社員に配る
- AI事業者ガイドラインの要点を読み、表を見直す
- 年に1回、国の指針の改定を確かめる
まとめ
- AI法は2025年9月に全面施行され、12月にAI基本計画が閣議決定された
- AIを事業で使う会社には、AIの活用で効率化に努めることと、国の施策に協力することが求められている
- これらは責務の規定で罰則はないが、協力しない場合は国の指導・助言の対象になり得る
- 小さな会社は、使う業務を選び、使い方の決めごとを作り、国の指針が変わったら見直す
- 決めごとの一覧はAIに下書きさせ、法律の解釈と使い方の判断は人が行う