AIは何の業務から始める?|時間×回数×間違いの影響で1つ選ぶ
この記事では、AIを会社に入れるとき、どの業務から始めるかの選び方を説明します。一言でいうと、話題の道具から試すのではなく、業務から選ぶ。社員が1週間の業務を書き出し、月の合計時間(1回の時間×月の回数)、毎回同じ形か、間違えたときに人が確かめられるか、の3つで候補を3つに絞る。社長が1つ選び、1か月試して、減った時間を数えるという話です。
AIの価値は、新しい道具を持つことではありません。会社の中で、毎月いちばん多くの時間を使っている、決まった形の仕事を見つけ、そこから時間を取り戻すことです。
経営への効果は、元が取れる業務から始めて、続けられること
AIの始め方は、次のように変わります。
| 道具から始める | 業務から選ぶ | |
|---|---|---|
| 最初にすること | 話題の道具を契約する | 1週間の業務を書き出す |
| 試す業務 | 担当者が思いついたもの | 月の時間が多く、型がある業務 |
| 効果の測り方 | なんとなく便利 | 減った時間を数える |
| 1か月後 | 使われなくなる | 次の業務に広げる |
最初の業務の選び方で、その後が決まります。時間がかかっている業務で効果が出れば、費用の元が取れ、社員も「使える」と感じて次の業務に広がります。逆に、月に数回しかない業務や、AIに向かない業務から始めると、効果が見えず、使われなくなります。AIの導入でよくある失敗の型は、AI導入で失敗する中小企業の5つの型|使われないまま終わらない避け方にまとめています。
計算の例です(数字はすべて仮定です)。見積書の作成に1回30分かかり、月に40回あるとします。月の合計は20時間です。AIの下書きで時間が半分になれば、月に10時間が浮きます。1時間2,500円で計算すると、月に2万5,000円分の時間です。
月の時間が多く、形が決まり、人が確かめられる業務を選ぶ
候補の業務は、次の3つの物差しで比べます。
月の合計時間(1回の時間×月の回数)。 1回は短くても回数が多い業務(問い合わせの返事、日報のまとめ)と、1回が長い業務(見積、報告書)の両方が候補になります。月の合計が多いほど、効果も大きくなります。
毎回同じ形か。 見積書、議事録、問い合わせの返事、申請の書類のように、毎回の形が決まっている業務ほど、AIの下書きが安定します。形が決まっていれば、見本を渡して頼めるからです。
間違えたときに人が確かめられるか。 AIの下書きには間違いが混ざることがあります。送る前や出す前に、人が確かめられる業務を選びます。確かめる人がいない業務や、間違えたときの影響が大きい業務(お金の支払い、安全に関わる判断)は、最初には選びません。
迷ったときは、3つの物差しを点数にして比べる方法もあります。月の合計時間が10時間以上なら2点、5時間以上なら1点。毎回同じ形なら1点。出す前に確かめる人が決まっていれば1点。合計の点が高い業務から候補にします。点の付け方は会社に合わせて変えてかまいません。大切なのは、社長の思いつきではなく、同じ物差しで並べて比べることです。
AIに向かないのは、判断そのものと、1回きりの仕事
次の業務は、最初の業務には向きません。
- 判断そのもの:採用するか、値引きするか、どの取引先と付き合うか。判断は人が行い、AIは判断の材料を整えるところまでにします
- 1回きりの仕事:年に1回しかない仕事は、型を作る手間に見合いません
- 間違いが大きな事故につながる仕事:安全、法律、健康の判断。人が確かめる仕組みができてから考えます
- 材料がない仕事:過去の見積や手順書など、AIに渡す材料がまったくない仕事は、先に材料を集めます
1週間の業務を書き出し、AIが候補を絞る
人がすること(最初に)。 社員に1週間、自分の業務を書き出してもらいます。列は、業務の名前、1回の時間、その週の回数、毎回同じ形か(はい・いいえ)、出す前に確かめる人、です。社長も自分の業務を書きます。
表でする計算。 1週間の回数から月の回数を見積もり、月の合計時間(1回の時間×月の回数)を表の計算式で出します。
AIに頼むこと。 表を渡し、候補を3つに絞ってもらいます。
下は、当社の社員が1週間書き出した業務の表です。月の合計時間が多く、毎回同じ形で、出す前に人が確かめられる業務を、候補として3つ選んでください。それぞれ、選んだ理由と、AIに渡す材料(過去の書類など)として何があればよいかを書いてください。判断そのもの(採用、値引き、取引先の選定)や、お金の支払い、安全に関わる業務は候補にしないでください。月の合計時間は表の数字をそのまま使い、計算し直さないでください。
返ってくる候補(見本の一部):
- 見積書の作成(月の合計20時間)…毎回同じ形で、社長が出す前に確かめている。過去の見積書と単価の表があれば下書きできる
- 問い合わせメールの返事(月の合計15時間)…よくある質問が多く、担当者が送る前に読める。よくある質問の答えの表が要る
- 現場の日報のまとめ(月の合計12時間)…毎日同じ形。社長が読む
人がすること(そのあと)。 社長が3つから1つを選びます。迷ったら、確かめる人が決まっていて、材料がそろっている業務を選びます。
選んだ業務は、1か月試して、減った時間を数える
選んだ業務は、1か月試します。
- 始める前の1週間、その業務にかかった時間を数える
- AIへの頼み方の見本を1つ作り、担当者に配る
- 1か月、AIの下書きを使い、担当者が確かめて出す
- 最後の1週間、かかった時間を数え、始める前と比べる
- 減った時間と、直した箇所の多さを見て、続けるか、頼み方を直すか、次の業務に移るかを決める
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頼み方の見本を先に配る進め方は、生成AIの始め方|使ったことがない社長の最初の1週間、1日ずつの手順でも説明しています。
頼み方をスキルにし、選ぶ判断はAIの外に置く
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。次の業務に広げるときに、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
頼み方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。1か月試してうまくいった頼み方を、業務ごとに「手順、見本、書いてはいけないこと」としてスキルにします。次の業務も同じ形でスキルを足していきます。
選ぶ判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、月の時間を表で計算すること、どの業務から始めるかを社長が決めること、出す前に確かめる人を決めること、減った時間を数えることがそれに当たります。
明日からは、社員に1週間の業務を書き出してもらう
- 業務の名前、1回の時間、その週の回数、毎回同じ形か、確かめる人の5つの列の表を配る
- 社員と社長が、1週間書き出す
- 表の計算式で、月の合計時間を出す
- 上の見本の指示で、AIに候補を3つ選ばせる
- 社長が1つ選び、始める前の1週間の時間を数える
本格的にやるなら、1業務ずつ広げ、担当者と費用を決める
一度うまくいったら、次の形に育てます。
- 1業務ずつ広げる。 業務の表の次の候補に移ります。同時に何業務も始めず、1か月に1業務ずつ広げます
- 社内で旗を振る人を決める。 業務を知っている人が向きます。選び方はAI推進の担当者は詳しい若手より業務を知る人|社内に広げる選び方で説明しています
- 費用の元が取れるかを計算する。 費用の内訳と計算式は中小企業のAI導入費用はいくら?3つの内訳と元が取れるかの計算式にまとめています
- 迷ったら無料で相談する。 どの業務から始めるかを国の無料の相談所で相談する方法は、AI導入の相談はどこへ?|無料で何度でも使える、よろず支援拠点の使い方で紹介しています
業務を選ぶ判断と、社員の情報はAIに任せない
- どの業務から始めるかは社長が決める。 AIの候補は、比べる材料です
- 時間は表で計算する。 月の合計時間はAIに計算させず、表の計算式で出します
- 業務の表で社員を評価しない。 書き出してもらう目的は、AIを入れる業務を選ぶためと伝えます。時間の多い少ないで社員を評価しません
- 社員や取引先の情報を入れない。 業務の表には、名前や取引先の名前を書かないようにします
まとめ
- AIは話題の道具からではなく、業務から選んで始める
- 物差しは、月の合計時間(1回の時間×月の回数)、毎回同じ形か、間違えたときに人が確かめられるかの3つ
- 判断そのもの、1回きりの仕事、間違いが大きな事故につながる仕事は、最初には選ばない
- 社員が1週間の業務を書き出し、表で月の時間を計算し、AIが候補を3つに絞り、社長が1つ選ぶ
- 1か月試して減った時間を数え、1業務ずつ広げる