AIの使い方を取引先に説明する|情報の扱いを1枚にまとめて渡す
この記事では、AI法で中小企業がすること|罰則はないが、使い方の決めごとは要るの「取引先や社員に聞かれたら、決めごとの表で答える」を、取引先に渡せる1枚として形にする方法を説明します。
一言でいうと、社長が、社内でAIを使う業務と、AIに入れない情報を表にする。AIがその表から、取引先向けの説明の1枚を下書きする。社長が、約束しすぎていないか、守れることだけが書かれているかを確かめる。取引先に聞かれたら担当者が渡し、年に1回見直す。守れない約束は書かないという形です。
経営への効果は、聞かれたときにすぐ答えて、信頼を保つこと
AIを使う会社が増えると、取引先から「御社ではAIをどう使っていますか」「預けた図面や名簿をAIに入れていませんか」と聞かれることが出てきます。その場で担当者が口ごもると、取引先は不安になります。
1枚の説明があれば、聞かれたその日に渡せます。社内でどの業務にAIを使い、どの情報を入れないかがはっきりしていれば、取引先も安心して仕事を任せられます。新しい取引の前に先に渡しておけば、AIを使っていることを隠しているような印象も避けられます。
AI法は、透明性の確保を基本理念に挙げている
総務省の令和8年版情報通信白書によると、2025年9月に全面施行されたAI法は、適正な研究開発と利用のための透明性の確保などを基本理念に挙げています。BUSINESS LAWYERSの解説によると、AIを事業で使う会社には、AIの活用で事業を効率化するよう努めることと、国の施策に協力することが求められていますが、罰則はありません。
取引先への説明の1枚は、法律で求められている書類ではありません。それでも、自社のAIの使い方を説明できるようにしておくことは、透明性という考え方に沿った、小さな会社でもできる取り組みです。
PwC Japanグループの解説によると、AI事業者ガイドラインは、部署の中や会社どうしの共通言語として使いやすくなったとされています。AIを使う側の会社には、AIのサービスを届ける会社が示す利用のルールを守ることや、異常があったときに早く知らせることが大事だとしています。取引先への説明でも、この考え方が役に立ちます。
今は、聞かれるたびに担当者がその場で答えている
小さな会社では、AIの使い方を文書にしていないことがあり、聞かれた担当者が自分の知っている範囲で答えることになります。担当者によって答えが違うと、取引先は「本当に管理されているのか」と疑問を持ちます。
逆に、安心させようとして「AIには一切入れていません」と言い切ってしまうこともあります。社員の誰かが使っていれば、その約束は守れていません。守れる範囲を社長が決め、それを文書にしておくことが大事です。
書き出し、AIが下書きし、確かめて、渡す
1 書き出す(社長)。 社内の決めごとの表をもとに、使う業務、使う道具、AIに入れない情報、人が確かめる所を書き出します。
2 下書きする(AI)。 表を渡し、取引先向けの説明の1枚を下書きしてもらいます。
3 確かめる(社長)。 約束しすぎていないか、社内で本当に守れていることだけが書かれているかを見ます。
4 渡す(担当者)。 取引先に聞かれたら渡します。社長が年に1回見直します。
説明の1枚は、この5つの欄で作る
| 欄 | 中身の例(想定) |
|---|---|
| 使っている業務 | 社内の文書の下書き、議事録の要約、問い合わせの返事の下書き |
| 使っている道具 | 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプラン |
| AIに入れない情報 | お預かりした図面、名簿、契約書の原本など |
| 人が確かめる所 | 外に出す文書は、担当者が読んでから送る |
| 問い合わせ先 | 担当の部署と連絡先 |
「AIに入れない情報」の欄は、取引先が一番気にする所です。自社でお預かりしている情報の種類ごとに、入れるか入れないかを決めておきます。
AIへの頼み方と、返ってくる1枚はこうなる
AIに渡す指示(見本):
下は、当社の生成AIの使い方の決めごとの表です。取引先の方にお渡しする「当社の生成AIの利用について」という説明を、A4で1枚に下書きしてください。上の5つの欄の順に書いてください。表に書いてあることだけを使い、「一切使っていない」「絶対に漏れない」のような言い切りは書かないでください。法律に合っているかの判断も書かないでください。表で決まっていない所は「要確認」と書いてください。
返ってくる1枚(見本の一部。内容は架空です):
当社の生成AIの利用について 当社では、社内の文書の下書きや議事録の要約に、会社で契約した生成AIのサービスを使っています。このサービスは、入力した内容をAIの学習に使わない契約のものです。 お客さまからお預かりした図面や名簿は、生成AIに入力しません。 生成AIで下書きした文書のうち、お客さまにお送りするものは、担当者が内容を確かめてからお送りします。
社長が確かめるのは、守れているかと、言い切っていないか
AIの下書きは、表に書いたことを整えた文です。社長が確かめるときは、次の3つを見ます。
- 社内で本当に守れているか。 「名簿は入力しない」と書くなら、社員がそれを知っていて、守っているかを確かめます
- 言い切りすぎていないか。 「一切」「絶対に」のような言葉は、守れなかったときに信頼を大きく損ねます
- 使っているサービスの条件と合っているか。 契約しているサービスの利用規約で、入力が学習に使われないことを確かめておきます
取引先から、自社の情報の扱いについて個別の決まり(秘密保持の契約など)がある場合は、そちらが優先です。契約の内容と1枚の説明が食い違わないかも確かめます。
取引先からの質問票には、1枚をもとに答える
取引先によっては、決まった質問票(チェックシート)で、AIの使い方や情報の扱いを聞いてくることがあります。質問の数が多く、答えるのに時間がかかります。
- 質問票と1枚をAIに渡す。 説明の1枚と社内の決めごとの表を渡し、質問ごとの答えの案を下書きさせます
- 答えられない質問には印を付けさせる。 1枚や表に書いていないことを聞かれたら、AIに「要確認」と書かせ、社長が答えを決めます
- 決めた答えは1枚に足す。 新しく決めたことは、次の見直しを待たずに表と1枚に足します
質問票の答えも、守れることだけを書く点は同じです。
型をスキルにし、約束の範囲はAIの外で決める
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「社内の決めごとの表」「説明の1枚の5つの欄」「書いてはいけないこと(言い切り、法律の判断、表にないこと)」をスキルにします。取引先ごとに少し書き方を変えたいときも、同じ型から下書きできます。
約束の範囲は、AIの外で決める。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、何を約束するかを社長が決めること、社内で守れているかを社長が確かめること、年に1回見直すことがそれに当たります。
費用はAIの利用料が1回3円ほど
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| 説明の1枚の下書き | 決めごとの表(入力3千トークン・出力1,500トークンほど)から、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1回3円ほど |
| 法人向けプラン | チャットで使うなら1人あたり月数千円 |
| 社長の時間 | 表の書き出しと確かめで半日ほど(想定) |
| 専門家への相談 | 契約との食い違いが心配なときの確認(依頼先による) |
必要な人は2役で、約束を決めるのは社長
- 社長:使う業務と入れない情報を決め、説明の1枚を確かめ、年に1回見直す
- 営業や窓口の担当者:取引先に聞かれたら渡し、聞かれた内容を社長に伝える
1か月で1枚ができ、取引先からの質問に同じ答えを返せる見込み
- 1週目:社内の決めごとの表を見直し、取引先の情報の扱いを決める
- 2週目:AIで説明の1枚を下書きし、社長が確かめる
- 3〜4週目:営業や窓口の担当者に配り、聞かれたら渡す決まりにする
- 1年後:使う業務や道具が変わっていないかを見て、1枚を直す
取引先から聞かれた質問は記録しておき、次の見直しのときに、1枚に足すべきことがないかを見ます。
「一切使っていない」と書くと失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 「一切使っていない」と書く。 社員の誰かが使っていれば、約束を破ったことになります。使っている範囲を正直に書きます
- 作って配らない。 1枚を作っても、担当者が知らなければ渡せません。営業や窓口に配っておきます
- 見直さない。 使う道具や業務が変わったのに、古い1枚を渡し続けると、説明と実際が食い違います
まとめ
- 取引先から「AIをどう使っているか」と聞かれたときに渡せる、説明の1枚を用意しておく
- 社長が使う業務と入れない情報を表にし、AIが取引先向けの1枚を下書きする
- 社長が、約束しすぎていないか、社内で本当に守れているかを確かめる
- 「一切」「絶対に」のような言い切りは書かず、守れることだけを書く
- 聞かれたら担当者が渡し、年に1回見直す