業務への組み込み例

名刺の写真を送れば翌朝お礼の下書きが並ぶ。展示会のフォローをAIで回す仕組み

この記事で変わる経営指標

この記事では、展示会のブースで、営業が名刺の写真と一言メモをスマホから送るだけで、AIが名刺を表の1行にし、メモに触れたお礼のメールを一人ずつ下書きし、翌朝に営業が確かめて送る仕組みの作り方を説明します。一言でいうと、展示会のあとに溜まる名刺の束と、全員に同じ文面で送るお礼を、「当日に撮る、夜のうちにAIが下書く、翌朝に営業が確かめて送る」という流れに変えるという話です。展示会の名刺を商談につなげる考え方は、展示会の名刺を3日で商談につなげる。お礼のメールをAIで一人ずつ書く方法にまとめています。この記事は、その中の「本格的にやるなら」を、実際に動く仕組みにする話です。

AIの価値は、名刺を読み取る速さではありません。ブースで聞いた一言を、翌朝のお礼に必ず入れられることです。その一言があるかどうかで、相手がお礼を読んでくれるかが変わります。

今は展示会が終わってから、名刺の束を前に手が止まる

前の記事で、展示会の名刺を20枚、AIで表にしてお礼を下書きする試し方を紹介しました。試して効果が分かっても、展示会のたびに手でやると、次のことが起きます。

  1. ブースでは名刺を受け取るのが精一杯で、話したことのメモが残らない。残っても名刺の裏に走り書き
  2. 展示会が終わってから、名刺の束を撮ってAIに貼る作業に半日かかる。その間に、たまった仕事が待っている
  3. 同じ人の名刺を2人の営業が受け取っていて、同じ人に2通のお礼が届く
  4. すでに取引のあるお客様にも、初めての人と同じお礼が届いてしまう

展示会のあとの数日は、相手がブースでの会話を覚えている大事な時間です。その時間を、名刺の束の整理に使ってしまうのはもったいないことです。

ここで足りないのは、営業のやる気ではありません。ブースで受け取ったその場から、お礼の下書きまでが自動で流れる道筋です。

相手が覚えているうちに、その人に向けたお礼を届ける

フォローを早くする理由は、連絡が早いほど話が進みやすいからです。Harvard Business Review に2011年に載った米国の調査では、問い合わせから1時間以内に連絡した会社は、それより遅い会社に比べて、相手の決め手になる人と話せた割合が約7倍だったと紹介されています(数字は CustomerThink などでも紹介されています)。インターネットからの問い合わせについての調査で、展示会の名刺そのものの数字ではありませんが、相手の記憶が新しいうちの連絡が効くという向きは同じです。

この仕組みは、展示会の翌朝には、全員分のお礼の下書きがそろっている状態を目指します。

撮る、AIが下書く、計算で照らす、営業が送る

展示会の名刺の仕組み。ブースで名刺の写真と一言メモをスマホから送る。AIが名刺を表の1行にし、メモに触れたお礼を下書きする。重複や既存のお客様、メールアドレスの形はAIの外で計算して照らし、営業が翌朝、名前を確かめて送る
展示会の名刺の仕組み。ブースで名刺の写真と一言メモをスマホから送る。AIが名刺を表の1行にし、メモに触れたお礼を下書きする。重複や既存のお客様、メールアドレスの形はAIの外で計算して照らし、営業が翌朝、名前を確かめて送る

仕組みは4つの段でできています。

1. ブースで撮って送る(人)。 名刺を受け取ったら、スマホの入力フォームから、名刺の写真と、話したことの一言メモ(「来春に検査の設備を入れ替え予定」)、受け取った営業の名前を送ります。1枚あたり30秒ほどです。メモは、その場で思い出せることだけでかまいません。

2. AIが名刺を表にし、お礼を下書きする(AI)。 送られた写真をAIが読み、会社名、部署、名前、役職、電話、メールアドレスを表の1行にします。読み取りに自信がない欄には印を付けます。続けて、一言メモと、紹介した製品の説明(スキル)から、その人に向けたお礼のメールを下書きし、メモから「時期や予算の話が出た」「情報を集めている」「名刺交換だけ」のどれに当たるかも付けます。

3. 重複と既存のお客様とアドレスの形を照らす(AIの外)。 表に足す前に、同じメールアドレスの行がすでにないか(2人の営業が同じ人の名刺を受け取った場合)、顧客台帳にある会社か(既存のお客様か)、メールアドレスの形が正しいかを、計算で確かめます。重複していれば1行にまとめ、メモを両方残します。既存のお客様には、担当の営業に知らせ、初めての人向けのお礼は送りません。

4. 営業が翌朝確かめて送る(人)。 翌朝、営業は自分が受け取った名刺のお礼の下書きを確かめます。いちばん大事なのは、名前の漢字と会社名とメールアドレスを名刺の写真と見比べることです。確かめたら送ります。送り主の名前と、受け取りを断る連絡先は、決まった文で末尾に差し込まれています。

AIへの指示の見本は次のとおりです(見本。内容は架空です)。

添付の名刺の写真を読み、会社名・部署・名前・役職・電話・メールアドレスを答えてください。読み取りに自信がない項目には「要確認」と書いてください。次に、「ブースでのメモ」に触れたお礼のメールを200字ほどで書いてください。メモにないことは書かず、売り込みの言葉は控え、メモの話題について次に何ができるかを1つだけ提案して締めてください。最後に、メモが「時期や予算の話が出た」「情報を集めている」「名刺交換だけ」のどれに当たるかと、その理由を1行で書いてください。

製品ごとの提案をスキルにし、名前と重複はAIの外で確かめる

AIに下書きさせるだけなら、指示の見本で今日からでも試せます。展示会のたびに、何人の営業が使っても同じ質で回すには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

製品ごとの「次に提案できること」を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「展示会で紹介する製品ごとの説明」「製品ごとに次に提案できること(使い方の例を見せる、見学、試用)」「返事が多かったお礼の見本」「使ってはいけない言い方」をスキルにします。展示会の前にスキルを更新しておけば、当日からその展示会向けのお礼が出ます。

名前とアドレスと重複は、AIの外で確かめる。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、メールアドレスの形を計算で確かめること、同じアドレスの重複を除くこと、顧客台帳と照らして既存のお客様を見分けること、送り主と受け取りを断る連絡先を決まった文で差し込むこと、営業が名前とアドレスを名刺の写真と見比べてから送ることがそれに当たります。名前の漢字を間違えたお礼は、送らないほうがましです。

名刺のアドレスにお礼を送ることについては、広告や宣伝のメールの決まり(特定電子メール法)があります。総務省と消費者庁の資料では、名刺などの書面でメールアドレスを知らせた人への送信は、あらかじめの同意がなくても送れる例外とされています(ECのミカタの解説でも名刺の例が挙げられています)。それでも、送り主の名前と受け取りを断る連絡先の表示は必要で、断られたら以後は送れません。この仕組みでは、断りの連絡があったら、表のその行に印を付け、以後の追いかけから外します。

営業の仕事は、翌朝に下書きを確かめて送ることと電話になる

仕組みが動くと、仕事の分け方はこうなります。

手でAIに貼る形 撮って送る形
名刺の整理 展示会のあとに、名刺の束を撮ってAIに貼る ブースで1枚30秒、写真とメモを送る
一言メモ 名刺の裏に走り書き。残らないことも 写真と一緒に、その場で送る
重複と既存のお客様 気づかずに2通送ることがある 計算で照らし、1行にまとめる
お礼が届く日 展示会の数日後 展示会の翌朝

時間の目安は、前の記事と同じ前提で計算します。仮に、1回の展示会で200枚の名刺を集めるとします。手で名刺を1枚2分で表にし、お礼を1通10分で書くと、200枚で40時間です。前の記事の「AIに貼る形」では約8時間でした。この仕組みでは、ブースで1枚30秒送り、翌朝に1通2分で確かめるとして、約8時間です。時間は前の記事と大きく変わりませんが、展示会のあとに名刺の束を整理する時間がなくなり、お礼が翌朝に届くのが違いです。

経営への効果は、出展の費用を翌朝から商談に変えられること

効果の中心は、出展にかけたお金が、名刺の束で終わらずに商談につながることです。前の記事では、仮に出展に50万円かかり、200枚の名刺を集めたなら、名刺1枚あたり2,500円になるという計算を紹介しました。

どれだけの名刺が商談になり、受注になるかは、業種や展示会によって違うので、この記事では数字を置きません。代わりに、作る費用を何件の受注で取り戻せるかで考えます。

取り戻すのに要る受注の数 = 作る費用 ÷ 1件の受注で残る粗利

仮に、作る費用が25万円、1件の受注で残る粗利が50万円なら、展示会から1件の受注が増えれば取り戻せる計算です。年に何回も展示会に出る会社ほど、早く元が取れます。

費用の大半は作る費用で、AIの利用料は1回の展示会で700円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 製品ごとの説明と、次に提案できることを書き出す(社内:営業の責任者、半日)。展示会で紹介する製品ごとに書きます。お礼の質を決めるのはここです
  2. 入力フォームと、表の形を決める(社内:事務、半日)。顧客台帳と照らせるように、会社名とメールアドレスの列をそろえます
  3. 写真から表とお礼の下書きを作る流れを作る(作る人、1.5人日)
  4. 重複・既存のお客様・アドレスの形の照らし合わせと、末尾の差し込みを作る(作る人、1人日)
  5. 次の展示会で試して直す(作る人、1人日)。営業が直した言い回しを、スキルに足します

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計3.5人日です。すでに名刺管理のサービスを使っている場合は、名刺の読み取りはそちらに任せ、メモに触れたお礼の下書きと照らし合わせだけをAIで足すのが早道です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 名刺1枚の読み取り、お礼の下書き、温度の仕分け 1回の展示会(200枚)で700円ほど
フォーム・表 すでに使っている表計算やフォーム 追加0円の想定
保守 展示会ごとのスキルの更新 展示会の前に1時間

AIの利用料は、前の記事と同じ前提(名刺の写真の読み取りに約5,300トークン、お礼の下書きと温度の仕分けを合わせて、2026年10月7日時点の Claude Sonnet 5.5 の料金と1ドル150円で計算)で、1枚あたり約3.5円、200枚で700円ほどです。

必要な人は3役で、送るのは名刺を受け取った営業がする

役 誰が すること 時間
撮って送る人 ブースに立つ営業 名刺の写真と一言メモをその場で送る 1枚30秒
送る人 名刺を受け取った営業 翌朝、名前とアドレスを確かめて送る。「時期や予算の話が出た」人に電話する 1通2分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 フォーム、AIの下書き、照らし合わせを作る 最初の3.5人日

お礼は、名刺を受け取った営業の名前で送ります。返事が来たときに、ブースで話した本人が答えるほうが、相手は安心します。

次の展示会で翌朝に届き、半年で商談になった割合が分かる見込み

どこまでいけるかは、ブースで一言メモが残るかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の展示会 翌朝に全員分の下書きがそろう。営業が下書きの半分ほどを直す。直した言い回しをスキルに足す
2回目の展示会 一言メモを残すのが習慣になり、直しが一言二言で済む
半年 展示会ごとに、名刺から商談になった割合を比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 展示会からお礼が届くまでの日数:送った日を表に記録します
  • お礼への返事の数:返事が来た人に印を付けます
  • 名刺から商談になった数と、受注になった数:半年後に数えます

確かめずに送ったり、既存のお客様にも送ったりすると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 確かめずに自動で送る。 名前の漢字の読み違いや、別の人のメモの取り違えは、AIの下書きで起こり得ます。送るのは、名刺の写真と見比べた営業です
  • 既存のお客様を見分けない。 取引のある会社の担当者に「はじめまして」のお礼が届くと、「この会社は自分たちを覚えていない」と思われます。顧客台帳と照らして見分けます
  • 一言メモを盛る。 メモにないことをAIに足させると、「そんな話はしていない」と思われます。指示で「メモにないことは書かない」と決めておきます
  • 断りの連絡を表に戻さない。 断られたのに追いかけのメールが届くと、決まりにも反し、信用も失います。断りがあったら、その日のうちに表に印を付けます

まとめ

  • ブースで名刺の写真と一言メモを送るだけで、AIが名刺を表にし、メモに触れたお礼を下書きする。営業は翌朝確かめて送るので、相手が覚えているうちに全員へお礼が届く
  • 問い合わせから1時間以内に連絡した会社は、遅い会社より相手の決め手になる人と話せた割合が約7倍だったという米国の調査がある
  • 重複、既存のお客様、アドレスの形は計算で照らす。名前とアドレスは営業が名刺の写真と見比べる。送り主と受け取りを断る連絡先を必ず入れる
  • 費用の本体は作る費用(3.5人日)と、製品ごとの提案をスキルにまとめる手間。AIの利用料は200枚で700円ほど。仮に作る費用25万円なら、粗利50万円の受注が1件増えれば取り戻せる

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