業務への組み込み例

歯科医院のお知らせを医療広告のルールに沿って書く。AIが下書きし院長が確かめる

この記事で変わる経営指標

この記事では、小さな歯科医院の定期検診の案内と事務をAIで回す。広告のルールも守るの「ホームページの文章はAIが下書きし、院長がルールを確かめる」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、院長がお知らせや診療の案内のメモを書く。診療時間と料金は院の表から入れる。AIが文章を下書きし、医療広告のルールに触れそうな言い回しに印をつける。院長がルールの原文に照らして確かめ、直して載せるという形です。診療のあとの夜に一から書いていた文章を、メモを残して確かめる仕事にします。

ホームページの文章も、医療広告のルールの対象になる

親の記事で触れたとおり、厚生労働省の「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」によると、2018年(平成30年)6月1日に施行された医療法の改正で、規制の対象が「広告」から「医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」に広がり、ウェブサイトなども対象になりました。

事例解説書(第6版、2026年3月。神戸市が掲載している第3版でも同じ)では、次のような例が挙げられています。

  • 患者さんの体験談を、医院への誘引を目的に載せることは、省令で禁止されている。口コミサイトからの転載、スタッフによる記載、体験談の編集も例として挙げられている
  • 加工・修正した治療の前後の写真の掲載は、虚偽広告に当たる
  • 治療のあとに定期的な処置が必要なのに、すべての治療が短期間で終わるような表現は、虚偽広告として扱われる
  • 費用を強調した書き方も、事例として挙げられている

ルールの細かいところは、厚生労働省の医療広告ガイドラインと事例解説書の原文で確かめます。この記事は、原文で確かめる手間を減らすのではなく、原文で確かめるべき言い回しを見落とさないための仕組みです。

今は院長が夜に一から書き、不安なまま載せている

多くの小さな歯科医院では、ホームページの文章が次のように作られています。

  1. 休診のお知らせ、新しい診療の案内、院内の取り組みを、院長が診療のあとに一から書く
  2. 一般の宣伝の書き方をまねて、「痛くない」「1回で終わる」のような言葉を使ってしまう
  3. ルールに触れていないか不安なまま載せるか、不安で更新そのものが止まる
  4. 診療時間や料金を書き換え忘れ、古い情報が残る

ホームページが古いままだと、患者さんは医院が今どうしているかが分かりません。かといって、ルールを気にしながら毎回一から書くのは、院長の大きな負担です。

メモを書き、表から入れ、AIが書き、院長が確かめる

院長がお知らせや診療の案内のメモを書き、診療時間と料金は院の表から入れる。AIが文章を下書きし、体験談や「痛くない」のような医療広告のルールに触れそうな言い回しに印をつける。院長がルールの原文に照らして確かめ、直して載せる
院長がお知らせや診療の案内のメモを書き、診療時間と料金は院の表から入れる。AIが文章を下書きし、体験談や「痛くない」のような医療広告のルールに触れそうな言い回しに印をつける。院長がルールの原文に照らして確かめ、直して載せる

仕組みは4つの段でできています。

1. メモ:院長が伝えたいことを短く書く。 院長が、載せたいことを箇条書きで残します。

  • 「年末年始の休診。12月29日〜1月3日」
  • 「小児の定期検診を土曜の午前にも受けるようにした。予約制」
  • 「院内の器具の滅菌の手順を紹介したい」

2. 確かめる:診療時間と料金は院の表から入れる。 ここは決まりと表の仕事です。

  • 診療時間、休診日、自費の治療の料金は、院で管理している表からそのまま入れます。メモの数字は使いません
  • 患者さんの声や口コミは、AIに渡しません。体験談を載せないためです
  • 治療の前後の写真は、この仕組みでは扱いません

3. 下書きする:AIが院の言葉で文章にし、危ない言葉に印をつける。 AIが、メモと表から文章を下書きします。あわせて、医療広告のルールに触れそうな言い回しに印をつけます。印をつける言葉の一覧は、院長が事例解説書を読んで作り、スキルに入れておきます。

4. 載せる:院長がルールで確かめて載せる。 院長が下書きと印のついたところを読み、事例解説書の原文に照らして直します。判断に迷うときは、載せずに保健所や歯科医師会に相談します。

院の言葉と危ない言葉をスキルにし、数字と判断はAIの外で

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

院の言葉と危ない言葉の一覧を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 文章の型:お知らせ、診療の案内、院内の取り組みの紹介ごとの順番と長さ
  • 院の言葉:患者さんへの呼びかけ方、院の方針の書き方
  • 印をつける言葉の一覧:体験談に当たる書き方、「痛くない」「必ず」「1回で終わる」のような効果を言い切る言葉、費用を強調する言葉、ほかの医院と比べる言葉
  • 書いてはいけないこと:患者さんの声、治療の効果の約束、メモにない診療の内容

数字と、ルールの判断は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、診療時間と料金を表から入れること、患者さんの声を渡さないこと、印のついた言い回しを院長が原文で確かめることがそれに当たります。ルールに沿っているかどうかを、AIに決めさせることはしません。AIの印は「ここを見てください」という合図で、印がないことはルールに沿っている証拠になりません。

院長の仕事は、メモを書いて、印のところを確かめることになる

仕組みが入ると、ホームページの更新は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
書き始め 夜に一から書く メモから下書きが出る
診療時間と料金 手で書き直し、古いものが残る 院の表から入る
ルールの確かめ 全文を不安なまま読む 印のついたところから原文で確かめる
更新の回数 不安と手間で止まりがち 伝えたいときに出せる
言葉づかい その日の気分でばらばら 院の言葉でそろう

経営への効果は、ルールを守りながら患者さんに今の医院が伝わること

効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の文章に院長が60分かかっていたものが、メモを書いて下書きを確かめる20分になれば、1件40分が浮きます。月10件なら月約7時間、院長の1時間あたりの価値を仮に5,000円として月約3万3,000円分です。

ただ、この仕組みの価値は時間だけではありません。ホームページが新しく保たれると、患者さんは休診や新しい診療の案内を見て、迷わず予約できます。定期検診に戻ってもらう案内と合わせて、患者さんとのつながりを保つ材料になります。案内の作り方は定期検診の時期が来た患者さんに案内が届く。予約の記録からAIで下書きする仕組みで説明しています。そして、ルールに触れそうな言い回しを毎回見落とさずに確かめる手順があることは、医院を守ることにもなります。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月30円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 院長が事例解説書を読み、印をつける言葉の一覧を作る(医院:院長、半日〜1日)。ここがいちばん大事です
  2. 文章の型と院の言葉を決める(医院:院長と受付、半日)
  3. メモを受け取り、院の表から時間と料金を入れる仕組みを作る(作る人、0.5人日)
  4. AIの下書きと、危ない言葉の印、院長への届け方を作る(作る人、1人日)
  5. 1か月、お知らせだけで試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の医院での目安
AIの利用料 1件の文章の下書きごとにかかる 月10件で30円ほど(下の計算)
ホームページ すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 型と印をつける言葉の一覧の更新 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたりメモとスキルで4,000トークンを読ませ、1,000トークンを書かせると見積もると、0.018ドル、1ドル150円で約2.7円です。月10件で30円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が12万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を5,000円とすると、月約3万3,000円分が浮く医院でおよそ4か月です。更新が月に数件の医院なら、印をつける言葉の一覧と文章の型だけ作り、院長が医院で契約したAIのチャットにメモを貼って下書きするやり方で十分です。

必要な人は3役で、判断するのは院長

役 誰が すること 時間
メモを書く人 院長か受付 伝えたいことを箇条書きで残す 1件5分
確かめて載せる人 院長 印のところを原文で確かめ、直して載せる 1件15分
作る人 院内の詳しい人か、外の作り手 受け取り、表からの差し込み、下書き、印を作る 最初の2人日

いちばん大事なのは、印をつける言葉の一覧を院長が作り、ガイドラインや事例解説書が新しくなったら見直すことです。

1か月で型がそろい、半年で更新の続き方が分かる見込み

どこまでいけるかは、メモがどれだけ残るかと、一覧と型がどれだけ育つかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 休診などのお知らせだけで試す。院長が直したところを型と一覧に足す
3か月 診療の案内や院内の取り組みの紹介にも広げる
半年 更新の回数と、ホームページを見て予約した患者さんの数を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 月の更新の回数:お知らせが遅れなかったかも見ます
  • 1件にかかる院長の時間:院長の時間を記録します
  • ホームページを見て予約した患者さんの数:初診のときに「何を見て来たか」を聞きます

体験談や効果の言い切りをAIに書かせると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 患者さんの声をAIに渡す。 体験談を誘引のために載せることは禁止されています。患者さんの声は、この仕組みに入れません
  • AIの印がなければ大丈夫だと思う。 印は見るところの合図です。載せる前に、院長が全文を読みます
  • 料金や診療時間をAIに書かせる。 院の表から入れます
  • ガイドラインの改訂を見落とす。 事例解説書は版を重ねています。新しい版が出たら、一覧を見直します

患者さんの情報は、とても大事な個人の情報です。この仕組みには患者さんの情報を入れませんが、医院で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、院内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 院長が、お知らせや診療の案内で伝えたいことを箇条書きで残す
  • 診療時間と料金は院の表から入れ、患者さんの声や治療の前後の写真はこの仕組みに入れない
  • AIが院の言葉で文章を下書きし、医療広告のルールに触れそうな言い回しに印をつける
  • 院長が印のところをガイドラインと事例解説書の原文で確かめ、全文を読んで載せる。判断はAIに任せない
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2人日。AIの利用料は月30円ほど。更新が少ない医院はチャットで十分

CONTACT

自社の業務にも、AIを組み込めるか

記事のような組み込みを、御社の業務と予算に合わせて設計・実装しています。何から手を付ければいいか分からない段階でも大丈夫です。

AI活用を相談する