休眠客から返事が来たら15分で準備する。過去の注文からAIが訪問の紙を下書き
この記事で変わる経営指標
この記事では、休眠客をAIで掘り起こし、新規営業より安く売上を取り戻す方法の「AIは返事が来た会社に、何を提案するかの下準備をそろえる」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、休眠客から返事が来たら、過去の注文と見積、担当者のメモ、返事の文を集める。最後の注文日、年ごとの金額、当時と今の単価の差は表計算で出す。AIが話す順番、聞くこと、今の商品で置き換えられるものを1枚の準備の紙に下書きする。営業が確かめて訪ね、止まった理由を記録するという形です。せっかく来た返事を、準備不足の訪問で終わらせないための仕組みです。
休眠客は、新しいお客様より取り戻しやすい
親の記事で触れたとおり、マーケティングでは、新しいお客様を1社獲得するには、今のお客様を1社保つ5倍のコストがかかるという「1:5の法則」が知られています(NTT東日本の用語解説)。2014年の Harvard Business Review の記事は、調査や業種によって5倍から25倍と幅があると紹介しています。
休眠客は、一度は御社を選んで注文した会社です。担当者の名前も、届け先も、支払いの条件も、台帳に残っています。声かけに返事が来たら、そこは新しいお客様を探すより、ずっと取引に近い場所です。
今は返事が来ても、準備に時間がかかり、訪問が遅れる
多くの小さな会社では、休眠客から返事が来たあと、次のように動いています。
- 営業が、過去の注文の記録を台帳や会計のソフトから探す
- 当時の見積を、紙のファイルやメールから探す
- 前の担当者に、当時のことを聞いて回る
- 準備に時間がかかり、訪問が1〜2週間後になる。あるいは準備のないまま電話して、話が広がらない
せっかく返事をくれた相手も、時間がたつと気持ちが冷めます。準備のないまま話すと、「前に何を買っていただいたか覚えていない会社」と思われます。
集め、表で数え、AIが紙を書き、営業が訪ねる
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:過去の注文と見積と返事の文を集める。 返事が来た日に、その会社について次のものを1つにまとめます。
- 過去の注文の一覧(日付、商品、数量、金額)
- 当時の見積
- 担当者のメモ(当時の窓口の人、話していたこと)
- 今回の声かけの文と、相手からの返事の文
2. 計算する:最後の注文日と金額と単価の差を表で出す。 ここは計算の仕事です。
- 最後の注文日と、取引が止まってからの月数を出します
- 年ごとの取引の金額と、よく買っていただいていた商品を出します
- 当時の単価と、今の単価の差を出します。値上げをしている商品は、ここで分かります
3. 下書きする:AIが1枚の準備の紙を書く。 AIが、集めた資料と表から、訪問の準備の紙を下書きします。
- 話す順番:お礼、当時のお取引の振り返り、近況を聞く、提案、次の約束
- 聞くこと:取引が止まった理由、今困っていること、今の仕入れ先との取引の様子
- 置き換えの候補:当時の商品が今は扱っていない場合の、今の商品の候補
- 気をつけること:値上げしている商品、当時の不具合やお叱りの記録
4. 訪ねる:営業が確かめて訪ね、止まった理由を記録する。 営業が準備の紙を読み、記録と合っているかを確かめて訪ねます。訪問のあと、取引が止まった理由を決まった分け方で記録します。
止まった理由を記録すると、次の声かけが変わる
親の記事でも触れたとおり、取引が止まった理由が分かれば、次に何をすればいいかが決まります。理由は、決まった分け方で記録しておくと、あとで集計できます。
- 担当者が替わり、引き継ぎで漏れた:こちらから定期的に連絡していれば防げた
- 値段でほかの会社に移った:値段以外の良さを伝える提案が要る
- 品質や対応に不満があった:まずお詫びと、直したことを伝える
- 仕事の量が減った:相手の事業の変化で、こちらでは変えられない
理由ごとの数を数えれば、ほかの休眠客への声かけの仕方も変わります。「引き継ぎで漏れた」が多ければ、今のお客様への定期的な連絡を強めるべきだと分かります。毎月の連絡の作り方は、毎月1日に取引先への便りの下書きが並ぶ。担当者は確かめて送るだけの仕組みで説明しています。
準備の型をスキルにし、金額と値段の約束はAIの外で持つ
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
準備の紙の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 準備の紙の型:話す順番、聞くこと、置き換えの候補、気をつけることの順番と長さ
- 商品の置き換えの一覧:扱いをやめた商品と、今の商品の対応
- 止まった理由の分け方:上の4つの分け方
- 書いてはいけないこと:値引きや特別な条件の提案、表にない金額、相手の会社の事情の推測
金額と、値段の約束は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、金額と単価の差を表計算で出すこと、置き換えの候補を会社の一覧から選ぶこと、値引きの判断を営業と社長が行うことがそれに当たります。取り戻したい気持ちから値引きを約束するのは、営業と社長が決めることで、AIの紙には書かせません。
営業の仕事は、紙を確かめて、話を聞くことになる
仕組みが入ると、返事が来たあとの動きは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 準備 | 台帳と紙のファイルを探す | 返事が来た日に紙ができる |
| 当時の取引 | 前の担当者に聞いて回る | 表と記録から振り返れる |
| 値段の変化 | 訪問先で聞かれて慌てる | 単価の差が紙に入っている |
| 訪問の時期 | 1〜2週間後 | 数日以内 |
| 止まった理由 | 記録に残らない | 決まった分け方で残り、集計できる |
経営への効果は、来た返事を取引の再開につなげること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、1社の訪問の準備に60分かかっていたものが、紙を確かめる15分になれば、1社45分が浮きます。月10社に返事が来るなら月7時間半、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約1万9,000円分です。
ただ、この仕組みの価値は時間だけではありません。返事が来たら数日以内に、当時の取引を覚えている会社として訪ねられます。準備の紙があれば、話の流れで値引きに逃げずに、相手の困りごとを聞くことに時間を使えます。1社でも取引が戻れば、その売上は新しいお客様を探すよりずっと安く取り戻した売上です。注文が止まる前に気づく仕組みは、取引先の注文が止まる前に気づく。毎月の売上からAIが知らせる仕組みで説明しています。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月40円ほど
作る順番と、かかる日数
- 準備の紙の型と、止まった理由の分け方を決める(会社:社長と営業、半日)。過去に取引が戻った会社の話を思い出して書き出します。ここがいちばん大事です
- 商品の置き換えの一覧を作る(会社:営業、半日)
- 過去の注文と見積を集め、金額と単価の差を出す仕組みを作る(作る人、1人日)
- AIの準備の紙の下書きと、営業への届け方を作る(作る人、0.5人日)
- 1か月、返事が来た会社で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1社の準備の紙の下書きごとにかかる | 月10社で40円ほど(下の計算) |
| 台帳・表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 型と置き換えの一覧の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1社あたり記録と表とスキルで6,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると見積もると、0.027ドル、1ドル150円で約4円です。月10社で40円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が12万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を2,500円とすると、月約1万9,000円分が浮く会社でおよそ7か月です。取引が戻った分の売上は、この計算に入れていません。返事が月に数社の会社なら、準備の紙の型だけ作り、営業が会社で契約したAIのチャットに注文の一覧と返事の文を貼って下書きするやり方で十分です。
必要な人は3役で、提案を決めるのは営業と社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 準備して訪ねる人 | 営業 | 紙を確かめ、訪ね、止まった理由を記録する | 1社15分の準備 |
| 値段を決める人 | 社長 | 値引きや条件を変えるかを決める | 必要なとき |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 集める、計算、紙の下書き、届け方を作る | 最初の2人日 |
いちばん大事なのは、止まった理由を記録し続けることです。理由がたまると、休眠客を減らすために会社が何を直すべきかが見えてきます。
1か月で紙がそろい、半年で取引の戻り方が分かる見込み
どこまでいけるかは、過去の記録がどれだけ残っているかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 返事が来た会社で試す。営業が直したところを型に足す |
| 3か月 | 止まった理由が集まり始め、声かけの文を変える材料になる |
| 半年 | 返事から訪問までの日数と、取引が戻った会社の数を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。
- 返事から訪問までの日数:返事の日と訪問の日を記録します
- 取引が戻った会社の数:訪問から3か月以内に注文があった会社を数えます
- 止まった理由の内訳:分け方ごとに数えます
値引きをAIに書かせると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 値引きや特別な条件をAIに提案させる。 値段は営業と社長が決めます。準備の紙には書かせません
- 金額をAIに書かせる。 過去の注文の金額と単価の差は、表から入れます
- 当時の不具合やお叱りを見落とす。 過去の記録にお叱りがあれば、紙の「気をつけること」に必ず入れます
- 止まった理由を記録しない。 記録がなければ、同じことを繰り返します
取引先の情報は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 休眠客から返事が来たら、過去の注文と見積、担当者のメモ、返事の文をその日に集める
- 最後の注文日、年ごとの金額、当時と今の単価の差は表計算で出す
- AIが話す順番、聞くこと、置き換えの候補、気をつけることを1枚の紙に下書きし、営業が確かめて訪ねる
- 止まった理由を決まった分け方で記録し、ほかの休眠客への声かけに生かす。値引きはAIに書かせない
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2人日。AIの利用料は月40円ほど。返事が少ない会社は型とチャットで十分