危ない取引先の兆しが毎月社長に届く。売掛金と日報からAIがまとめる仕組み
この記事で変わる経営指標
この記事では、取引先の倒産に巻き込まれない。売掛金と入金の変化からAIで兆しを知るの「売掛残高と入金の遅れと注文の増減は、計算で毎月出す」と「営業の日報やメールの気になる言葉は、AIが拾ってまとめる」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、毎月1日に、売掛残高、入金の記録、注文の記録、営業の日報を集める。取引先ごとの残高と上限、入金の遅れ、注文の増減を計算で出し、上限を超えたものなどに印を付ける。AIが日報とメールから気になる話を拾い、どの日報の何から来たかを付けて添える。社長は届いた一覧を読んで、取引の条件を見直すかを決めるという形です。親の記事のやり方を、毎月手で集めなくても回るようにします。
今は毎月の一覧づくりが、経理と社長の手作業になっている
親の記事でも触れたとおり、東京商工リサーチの集計によると、2025年度の全国の企業倒産は1万505件で、2年続けて1万件を超えました(共同通信、ビジネス+ITの報道)。取引先の倒産は、売掛金が戻らないだけでなく、仕入れや売上の予定も崩します。
親の記事のやり方で、売掛残高の大きい取引先の一覧と、営業の日報の気になる話を毎月そろえ始めると、次の壁に当たります。
- 経理が、会計のソフトと販売の記録から残高と入金の遅れを毎月写すのに時間がかかる
- 営業の日報が人によって書き方も置き場所も違い、AIに貼る材料を集めるのが手間になる
- 忙しい月は一覧づくりが後回しになり、続かない
- 社長が決めた上限や条件の変更が、記録に残らない
数字を集めて並べること、日報を集めて渡すことは、毎月の決まった作業です。ここを仕組みにします。
毎月集めて、計算で並べ、AIが話を拾い、社長が決める
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:売掛金、入金、注文、日報を集める。 毎月1日に、次のものを読み込みます。
- 会計のソフトや販売管理から、取引先ごとの売掛残高と、請求ごとの入金予定日と入金日
- 販売の記録から、取引先ごとの月ごとの注文の金額
- 営業の日報(社内のチャットや共有のフォルダに書かれたもの)と、取引先とのメールの要点
- 取引先の一覧(社長が決めた上限、支払いの条件、担当の営業)
2. 計算する:残高、遅れ、増減を出し、印を付ける。 ここはすべて計算です。取引先ごとに次のものを出し、売掛残高の大きい順に並べます。
- 売掛残高と、社長が決めた上限。上限を超えていれば印
- この3か月で、入金予定日から遅れた回数と、いちばん長い遅れの日数。遅れがあれば印
- この3か月の注文の合計を、前の年の同じ時期と比べた増減。決めた幅(たとえば半分以下、2倍以上)を超えれば印
3. 拾う:AIが日報とメールから気になる話を拾う。 AIが、取引先ごとに、その月の日報とメールの要点から、支払い、注文、担当者、取引先の会社の様子についての気になる話を拾い、1社2〜3行でまとめます。話ごとに、どの日報の何日の記録から来たかを付けます。日報に書かれていないことや、うわさ、推測は書きません。
4. 決める:社長が一覧を読み、条件を決めて記録する。 社長に、印の付いた取引先を上に並べた一覧と、AIのまとめが届きます。社長は取引先ごとに、続ける、営業に様子を聞いてもらう、上限を下げる、支払いの条件を短くする、信用調査の会社の調べを使う、のどれにするかを決め、取引先の一覧に記録します。
拾う話の種類をスキルにし、残高と日数と出どころはAIの外で持つ
この仕組みが毎月正しく回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の計算で決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
拾う話とまとめ方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 拾う話の種類:支払いの相談、注文の変化、担当者や窓口の交代、取引先の会社の様子
- まとめの型:1社2〜3行、話ごとに出どころ
- 書いてはいけないこと:うわさ、推測、取引先を決めつける言い方、「危ない」「倒産しそう」のような判断
- 社内の言葉:取引先の略称、営業の日報でよく使う言い方
残高、日数、増減、出どころは、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、売掛残高と入金の遅れの日数と注文の増減を計算すること、上限を超えたものに印を付けること、AIのまとめに付いた出どころの日報が本当にあり、その日報に同じ話が書かれているかを照らすことがそれに当たります。出どころが見つからない話は、社長に届ける前に消します。
社長の仕事は、月に一度、一覧を読んで決めることになる
仕組みが入ると、取引先の様子の見方は次のように変わります(想定です)。
| 今まで(親の記事のやり方) | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 数字の一覧 | 経理が毎月写して作る | 毎月1日に計算で届く |
| 日報の話 | 社長がAIのチャットに貼る | 取引先ごとに出どころ付きで届く |
| 続くか | 忙しい月は止まる | 毎月決まった日に届く |
| 社長の判断 | メモに残らない | 取引先の一覧に記録が残る |
経営への効果は、焦げ付きを1件でも防ぐこと
この仕組みの効果は、浮く時間よりも、焦げ付きを防ぐことにあります。親の記事のとおり、仮に売掛残高300万円の取引先が倒産して戻らなければ、粗利率20%の会社では1,500万円の売上でようやく埋まる計算です。毎月の一覧で早めに気づき、上限を下げたり支払いの条件を短くしたりしていれば、戻らない額を小さくできます。
時間の効果も、前提を置いて考えます。仮に、経理が一覧を作り、社長が日報を読み直すのに合わせて月6時間かかっていたものが、届いた一覧を読む1時間になれば、月5時間が浮きます。1時間あたり2,500円として月1万2,500円分です。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月30円ほど
作る順番と、かかる日数
- 取引先の一覧に、上限、支払いの条件、担当の営業を書き込む(社内:社長と経理、1日)。上限は社長が決めます。ここがいちばん大事です
- 営業の日報の置き場所と書き方をそろえる(社内:営業、半日)
- 会計と販売の記録の読み込み、残高・遅れ・増減の計算と印を作る(作る人、1.5人日)
- 日報とメールの読み込み、AIのまとめ、出どころの照らし合わせ、社長への届け方を作る(作る人、1.5人日)
- 3か月分の過去の記録で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計3.5人日です。会計や販売のソフトが取引先ごとの残高と入金の記録を書き出せれば、読み込みは早く作れます。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 月に一度のまとめ | 月30円ほど(下の計算) |
| 会計・販売のソフト | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 取引先の一覧と、拾う話の種類の見直し | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。仮に、営業3人の1か月分の日報とメールの要点とスキルで7万トークンを読ませ、まとめに3,000トークンを書かせると見積もると、約0.17ドル、1ドル150円で約26円です。
何で元を取るか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が20万円、浮く時間が月1万2,500円分、毎月の費用が5,000円なら、時間だけで取り戻すには2年以上かかります。この仕組みは、時間ではなく、焦げ付きを防いだ分で元を取るものです。取引先が10社ほどの会社なら、親の記事のやり方(表計算の一覧と、AIのチャットに日報を貼る)で十分です。
必要な人は3役で、決めるのは社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 決める人 | 社長 | 毎月の一覧を読み、取引の条件を決めて記録する | 月1時間 |
| 記録を守る人 | 経理と営業 | 入金の記録を正しく付ける。日報を決めた場所に書く | 毎日の仕事の中で |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 読み込み、計算、まとめ、照らし合わせを作る | 最初の3.5人日 |
いちばん大事なのは、営業が日報に「取引先で聞いた話」を書くことです。書かれていない話は、AIも拾えません。
3か月で一覧が回り、1年で上限の見直しの効果が分かる見込み
どこまでいけるかは、日報と入金の記録がどれだけそろっているかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 過去3か月分で試し、印の幅と拾う話の種類を直す |
| 3か月 | 毎月1日に一覧が届き、社長の判断が記録に残るようになる |
| 1年 | 上限を下げた取引先と焦げ付きの有無を見て、上限の決め方を見直せる |
効果を確かめるには、次の3つを見ます。
- 焦げ付いた売掛金の額:前の年と比べます
- 上限を超えた取引先の数と、その残高の合計:毎月の一覧から見ます
- 印の付いた取引先のうち、社長が手を打った数:取引先の一覧の記録から数えます
AIに危ないかを判断させたり、うわさを広げたりすると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- AIに「危ないか」を判断させる。 決めるのは社長です。AIのまとめは、営業が聞いた話を拾うところまでにします
- うわさや推測を一覧に載せる。 出どころのない話は消します。一覧は社長と決めた人だけが見ます
- 入金の記録が遅れる。 入金を付けるのが遅れると、遅れていない取引先に印が付きます。経理の記録を先に整えます
- 一度の遅れで態度を変える。 印が付いても、まず営業が様子を聞きます。長い付き合いの取引先を失わないようにします
取引先の情報は、会社の大事な情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。入金の遅れを毎週知る方法は、入金の遅れに翌週気づく。売掛金の消し込みをAIで毎週回す仕組みで説明しています。
まとめ
- 毎月1日に、売掛残高、入金の記録、注文の記録、営業の日報を集める
- 取引先ごとの残高と上限、入金の遅れ、注文の増減を計算で出し、印を付けて残高の大きい順に並べる
- AIが日報とメールから気になる話を拾い、出どころを付ける。出どころは照らし合わせ、見つからない話は消す
- 社長が一覧を読み、取引の条件を決めて記録する。AIに危ないかを判断させない
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は3.5人日。AIの利用料は月30円ほど。元は時間ではなく、焦げ付きを防いだ分で取る