業務への組み込み例

事業計画と実績の差を毎月知る。試算表から銀行への報告をAIで下書きする仕組み

この記事で変わる経営指標

この記事では、銀行に出す事業計画書をAIで下書きする。数字は試算表から計算で出すの続きとして、融資を受けたあとに、計画と実績の差を毎月知り、銀行への報告を楽にする仕組みの作り方を説明します。

一言でいうと、毎月、試算表が締まったら、事業計画の数字と実績の数字を表計算で並べ、差と差の割合を計算する。差の大きい項目に印を付け、社長が「なぜずれたか、どうするか」を一言ずつ書く。AIがその一言と数字の表から、銀行への業況報告と社内の振り返りの文章を下書きするという形です。

今は計画を作ったあと、実績と見比べる人がいない

親の記事では、銀行に出す事業計画書を、数字は計算で、文章はAIで作る方法を紹介しました。ところが、多くの会社では、計画書は融資の相談のときに作って終わりになりがちです。

  1. 融資の相談のときに計画書を作る
  2. 融資を受けたあとは、毎月の試算表を見ても、計画と並べて見比べない
  3. 銀行から「最近の業況はいかがですか」と聞かれて、試算表を見ながらその場で説明する
  4. 決算になってから、売上や利益が計画から大きくずれていたことに気づく

計画とのずれに早く気づけば、手を打てます。売上が計画に届いていない月が2か月続いたら、その理由を確かめ、営業の手を変えるか、費用を抑えるかを決められます。銀行にも、ずれた理由と対応を自分から説明できれば、次の相談がしやすくなります。

試算表が締まったら、差が計算され、AIが報告を下書きする

毎月、試算表が締まったら、事業計画の数字と実績の数字を表計算で並べ、差と差の割合を計算する。差の大きい項目には印が付き、社長が理由と対応を一言ずつ書く。AIが一言と数字の表から銀行への業況報告と社内の振り返りを下書きし、社長が直して送る
毎月、試算表が締まったら、事業計画の数字と実績の数字を表計算で並べ、差と差の割合を計算する。差の大きい項目には印が付き、社長が理由と対応を一言ずつ書く。AIが一言と数字の表から銀行への業況報告と社内の振り返りを下書きし、社長が直して送る

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:計画の数字と、毎月の試算表を並べる。 事業計画書を作ったときの数字(月ごとの売上、粗利、主な費用、利益、借入の返済)を表にしておきます。毎月、試算表が締まったら、実績の数字を同じ表の隣の列に写します。会計ソフトから書き出せる場合は、書き出したファイルを読み込みます。

2. 計算する:差と差の割合を出し、印を付ける。 ここはすべて計算です。項目ごとに、その月と、期首からの累計について、次のものを出します。

  • 計画と実績の差(金額)
  • 差の割合(実績 ÷ 計画)
  • 差が決めた幅(たとえば計画の1割)を超えた項目に印
  • 2か月続けて計画を下回った項目に印
  • 借入の返済に回せるお金(利益と減価償却など)が、返済額を下回りそうなら印

3. 書く:社長が理由と対応を一言ずつ書き、AIが文章にする。 印の付いた項目について、社長が「なぜずれたか」「どうするか」を一言ずつ書きます。たとえば、「売上:〇〇工業の取引開始が1か月遅れた。来月から始まる」「材料費:仕入れ値が上がった。来月、取引先に値上げをお願いする」のような一言です。 AIが、この一言と数字の表から、銀行への業況報告の文章と、社内の振り返りの文章を下書きします。数字は、AIに書かせず、表の数字を差し込みます。

4. 送る:社長が直して、銀行と社内に使う。 社長が下書きを確かめ、自分の言葉に直します。銀行への業況報告は、定期的に報告を求められている場合や、担当者と会うときの資料として使います。社内の振り返りは、幹部の会議で使います。

報告の型をスキルにし、差の計算と印はAIの外で行う

この仕組みが毎月同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の計算で決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

報告の型と書き方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 業況報告の型:今月の要点、計画との差の大きい項目、その理由、これからの対応、返済の見通し
  • 書き方の決まり:数字は表にあるものだけを使う。社長の一言にない理由を補わない。悪い数字を隠したり、ぼかしたりしない
  • 社内の振り返りの型:数字の差、理由、次の月に誰が何をするか
  • 社長が直した報告の見本

差の計算と印は、AIに任せない。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、計画と実績の差と割合を計算すること、決めた幅を超えた項目や2か月続けて下回った項目に印を付けること、返済に回せるお金を計算すること、AIの下書きに出てくる数字を表と照らすことがそれに当たります。

社長の仕事は、印の付いた項目に一言書き、下書きを直すことになる

仕組みが入ると、毎月の振り返りと銀行への報告は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
計画との比較 していない。決算で初めて気づく 毎月、差と割合が計算される
気づくきっかけ 社長の感覚 決めた幅を超えた項目に印が付く
理由の整理 頭の中だけ 印の付いた項目に一言ずつ書く
銀行への説明 聞かれてから試算表を見ながら話す 業況報告の下書きがあり、自分から説明できる
社内の共有 社長だけが知っている 振り返りの文章を幹部の会議で使える

社長は、月に一度、印の付いた項目に一言ずつ書き、下書きを直すだけです。

経営への効果は、ずれに早く気づき、銀行との話がしやすくなること

効果は、前提を置いて考えます。仮に、今は毎月、試算表を見ながら計画と見比べて銀行への報告を書くのに社長が3時間かけていて、仕組みが入ったあとは一言を書いて下書きを直す1時間になるとします。月に2時間が社長の手に戻ります。

ただ、この仕組みの価値は、時間よりもずれに早く気づくことにあります。売上が計画を下回る月が続けば、決算を待たずに手を打てます。返済に回せるお金が足りなくなりそうなら、早めに銀行に相談できます。銀行にとっても、計画とのずれとその理由を毎月自分から説明してくれる会社は、話しやすい相手です。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は1回4円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 計画の数字を月ごとの表にする(社内:社長と経理、半日)。事業計画書の年の数字を月に割ります。季節で売上が変わる会社は、前の年の月ごとの割合で割ります
  2. 差の幅と、印を付ける条件を決める(社内:社長、1時間)
  3. 試算表の読み込みと、差の計算、印の付け方を作る(作る人、1人日)
  4. AIの下書きと、数字の差し込み、照らし合わせを作る(作る人、1人日)
  5. 過去3か月の試算表で試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2.5人日です。表計算だけで作ることもでき、その場合はもっと短くなります。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 月1回の下書きごとにかかる 1回4円ほど(下の計算)
会計ソフト・表計算 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 計画の数字の見直し(年1回)、スキルの見直し 月30分

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1回あたり、数字の表と社長の一言とスキルを合わせて5,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると見積もると、約0.025ドル、1ドル150円で約4円です。

何か月で取り戻せるか

この仕組みは、AIの利用料がほとんどかからず、作る費用も小さく済みます。表計算が得意な社員がいれば、社内で作れることも多いはずです。外に頼む場合は、浮く時間(月2時間)と、ずれに早く気づける価値を合わせて判断してください。まずは表計算で計画と実績を並べ、差を計算するところだけを作り、文章はAIのチャットで下書きする形から始めても十分です。

必要な人は3役で、理由を書くのは社長

役 誰が すること 時間
理由を書く人 社長 印の付いた項目に、理由と対応を一言ずつ書く。下書きを直す 月1時間
写す人 経理 試算表が締まったら、実績を表に写す(または書き出す) 月30分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 差の計算、印、下書き、照らし合わせを作る 最初の2.5人日

顧問の税理士には、計画の数字と試算表の数字の扱いが合っているかを、最初に一度見てもらうと安心です。

1か月で差が見え、半年で計画の立て方が変わる見込み

どこまでいけるかは、計画の数字がどれだけ現実に近く作られているかと、社長が毎月一言を書く習慣を続けられるかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 計画と実績の差が見え、印の付いた項目に社長が一言を書く
3か月 同じ項目が続けてずれていることに気づき、手を打つ
半年 ずれの理由の記録から、次の計画の立て方(季節の割り方、取引先ごとの見込み)を直せる

効果を確かめるには、次の3つを比べます。

  • 計画とのずれに気づいた時期:決算で気づいていたものが、月の途中で気づけるようになったか
  • 銀行への報告にかかった時間:月ごとに記録します
  • 計画と実績の差の大きさ:次の計画で、差が小さくなったかを比べます

AIに理由を作らせたり、悪い数字をぼかしたりすると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • ずれた理由をAIに作らせる。 社長の一言がない項目について、AIが「市況の影響」のような理由を補うと、銀行に根拠のない説明をすることになります。理由は社長が書きます
  • 悪い数字をぼかす。 計画を下回った項目を目立たなくする書き方は、あとで信頼を失います。差は表のとおりに書き、対応を添えます
  • 計画の数字を毎月書きかえる。 実績に合わせて計画を直すと、ずれが見えなくなります。計画の見直しは年に一度、理由を書いて行います
  • 試算表が締まる前の数字を使う。 締まる前の数字で報告すると、あとで数字が変わります。試算表が締まってから写します

試算表や計画の数字は、会社の大事な情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。お金の出入りを先まで見る方法は、お金が足りなくなる月を先に知る。資金繰り表をAIで毎週更新する方法で説明しています。

まとめ

  • 毎月、試算表が締まったら、事業計画の数字と実績を表計算で並べ、差と差の割合を計算する。決めた幅を超えた項目や2か月続けて下回った項目に印を付ける
  • 印の付いた項目に社長が理由と対応を一言ずつ書き、AIがその一言と数字の表から、銀行への業況報告と社内の振り返りを下書きする
  • 差の計算と印、返済に回せるお金の計算はAIに任せない。AIの下書きの数字は表と照らす
  • 作る費用の目安は2.5人日、AIの利用料は1回4円ほど。まずは表計算で差を出すところから始めてもよい
  • ずれた理由はAIに作らせず、悪い数字もぼかさない

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