経営課題×AI

毎月の便りで注文を思い出してもらう。取引先ごとの一言をAIで書く方法

この記事で変わる経営指標

この記事では、取引先や常連のお客様に毎月送る挨拶やお知らせのメールを、AIを使って一社ずつ書き分ける方法を説明します。一言でいうと、売上の記録と担当者のメモから、前回の取引や先方の近況に触れた一言をAIが下書きし、そこに今月のお知らせを1つだけ添えて、担当者が確かめて送るという話です。全員に同じ文を送る一斉メールではなく、「うちのことを覚えてくれている」と感じてもらえる便りを、毎月続けられるようにします。

AIの価値は、文章をうまく書くことではありません。担当者が忙しくて止まっていた「ご無沙汰しています」の連絡を、毎月、取引先の数だけ続けられるようにすることです。

経営への効果は、思い出してもらう回数が増え、注文が戻ること

取引先への毎月の便りは、AIを使うと次のように変わります。

今まで AIで一社ずつ書き分ける
送る相手 気になった数社だけ、思い出したときに 決めた取引先すべてに、毎月
文面 一斉送信の同じお知らせ。読まれない 前回の取引や近況に触れた一言+お知らせ1つ
担当者の手間 1通に10分以上。忙しい月は止まる 下書きを確かめて直すだけ
返事が来たとき 誰が対応するか決まっていない 担当者に届き、人が答える

効果は、前提を置いて考えます。取引先が注文を出すとき、頭に浮かんだ会社に声をかけます。毎月便りが届く会社は、浮かびやすくなります。仮に、取引先100社に毎月便りを送り、そのうち年に5社が、便りをきっかけに1回10万円の注文を追加で出したとすると、年50万円の売上です。逆に、便りがないあいだにほかの会社に流れていた注文が戻る分も加わります。

AIの利用料は小さく済みます。1通あたり、取引の記録とメモとスキルを合わせて1,500トークンを読ませ、400トークンを書かせると見積もると、2026年10月7日時点のClaude(Sonnet 5.5)の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力100万トークンあたり10ドル)、1ドル150円で約1円、100社で月100円ほどです。

取引先は、忘れたころにほかの会社から買っている

注文が減った取引先に理由を聞くと、「不満があったわけではない。たまたま別の会社から案内が来たので、そちらに頼んだ」という答えが返ってくることがあります。

  • 取引先の担当者は忙しい。 発注先を毎回比べて選んでいるわけではなく、そのとき頭に浮かんだ会社や、直近で連絡をくれた会社に声をかけがちです
  • こちらの担当者も忙しい。 目の前の注文に追われ、注文のない取引先に連絡する時間がありません。連絡が止まるのは、注文が少ない取引先からです
  • 一斉送信のお知らせは読まれにくい。 全員に同じ新商品の案内を送っても、自分宛ての連絡だと感じてもらえません

注文が止まった取引先に声をかけ直す方法は、休眠客をAIで掘り起こし、新規営業より安く売上を取り戻す方法で、止まりかけに気づく方法は、取引先の注文が止まる前に気づく。毎月の売上からAIが知らせる仕組みで説明しています。この記事は、その手前で、注文が続いているうちから、毎月思い出してもらうための方法です。

手書きの一言は効くが、続かない

「前回の〇〇はいかがでしたか」「〇〇の展示会でお見かけしました」といった、相手のことに触れた一言は、一斉送信の文より読まれます。ただ、取引先の数だけ手で書くと続きません。

仮に、1通10分で100社なら、月に約17時間です。担当者が数人いる会社でも、毎月この時間を取るのは難しく、忙しい月から止まります。

AIは、この「相手のことに触れた一言」の下書きを、取引先の数だけ作れます。担当者は、下書きを読んで、事実が合っているかを確かめ、言い回しを自分の言葉に直して送ります。1通1〜2分で済みます。

AIは前回の取引と担当者のメモから、一社ずつ一言を書く

取引先への毎月の便り。今までは一斉送信の同じお知らせか、気になった数社に手で書くだけで、忙しい月は止まっていた。AIを入れたあとは、売上の記録と担当者のメモからAIが一社ずつ一言を下書きし、担当者が確かめて毎月送る
取引先への毎月の便り。今までは一斉送信の同じお知らせか、気になった数社に手で書くだけで、忙しい月は止まっていた。AIを入れたあとは、売上の記録と担当者のメモからAIが一社ずつ一言を下書きし、担当者が確かめて毎月送る

AIに頼めることは、大きく3つです。

1. 一社ずつの一言を下書きする。 AIに頼むこと:取引先ごとに、前回の取引(何を、いつ)、担当者のメモ(先方の近況、話したこと)を渡し、それに触れた2〜3行の一言を下書きしてもらう。 返ってくるもの:取引先ごとの書き出しの一言。 人がすること:事実が合っているか、言ってはいけないことが入っていないかを確かめる。 何が変わるか:「いつもお世話になっております」だけで始まる便りが、「先月の〇〇の納品のあと、ラインの立ち上げは順調でしょうか」で始まる便りになります。

2. 今月のお知らせを、相手に合わせて1つ選んで添える。 AIに頼むこと:今月のお知らせの候補(新商品、価格の改定、年末年始の営業日、季節の注意)と、取引先の取引の内容を渡し、その取引先に関係がありそうなものを1つ選んで、短く添えてもらう。 人がすること:選ばれたお知らせが合っているかを確かめる。 何が変わるか:全員に全部を送るのではなく、相手に関係のある1つだけが届くので、読まれやすくなります。

3. 返事が来たら、次の一手の材料をそろえる。 返事が来た取引先について、AIに過去の取引と今回の返事を渡し、何を提案できそうか、何を確かめるべきかの材料を短くまとめてもらいます。返事そのものは、担当者が書きます。

送ってよい相手と、断られたときの扱いを先に決める

毎月の便りに宣伝が入るなら、決まりを守る必要があります。総務省と消費者庁の資料によると、広告や宣伝のメールは、原則としてあらかじめ同意した人にだけ送れます。例外として、取引関係にある人や、名刺などの書面でアドレスを知らせてくれた人には送れるとされています(ECのミカタの解説でも同じ内容が説明されています)。

送るときは、次のことが必要です。

  • 送り主の名前と、受信を断るための連絡先を書く。
  • 同意をもらった記録を残す。
  • 断られたら、以後は送らない。

どこまでが「取引関係」に当たるかなど、自社の送り先が当てはまるかは、資料を確かめ、迷うときは専門家に相談します。送り先の一覧には、「同意あり」「取引あり」「名刺」「断られた」の欄を作り、送ってよい相手だけに下書きを作るようにしておきます。

AIへの頼み方と、返ってくる一言はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下の取引先について、毎月の挨拶メールの書き出しの一言を、2〜3行で下書きしてください。前回の取引と担当者のメモに書かれていることだけに触れ、書かれていないことは書かないでください。売り込みの言葉は入れないでください。最後に、今月のお知らせの候補から、この取引先に関係がありそうなものを1つ選び、1行で添えてください。選んだ理由も一言書いてください。 取引先:株式会社〇〇製作所 ご担当:山田様 前回の取引:9月20日 治具の追加製作 一式 担当者のメモ:10月から新しいラインを立ち上げると言っていた。年末に設備の点検がある 今月のお知らせの候補:①年末年始の営業日 ②材料費の改定のお知らせ(12月から) ③新しい加工機の導入

返ってくる下書き(見本):

山田様 いつもお世話になっております。9月に納めました治具の追加分、新しいラインの立ち上げでお役に立てていますでしょうか。調整が必要な箇所がありましたら、お気軽にお申し付けください。 なお、年末の設備点検に合わせて治具の手直しをご検討でしたら、年内の受付は12月10日までとさせていただいております(①年末年始の営業日)。 選んだ理由:年末に設備点検があるとメモにあるため

担当者は、日付と前回の取引の中身を確かめ、言い回しを自分の言葉に直して送ります。「12月10日まで」のような日付は、社内の予定と照らします。

頼み方をスキルにし、送り先と回数はAIの外で管理する

AIに頼むだけなら今日からでもできますが、毎月、取引先の数だけ続けるには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

会社の書き方と、書いてはいけないことを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「会社の挨拶の言い回し」「売り込みの言葉を入れない」「メモにないことを書かない」「値引きや納期を約束しない」という決まりと、取引先に喜ばれた便りの見本をスキルにしておきます。

送り先と回数と日付は、AIの外で管理する。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、送ってよい相手かを送り先の一覧で確かめること、断られた相手を下書きの対象から外すこと、今月すでに送った相手に二重に送らないこと、文中の日付と金額を社内の予定や料金表と照らすことがそれに当たります。誰に送ってよいかは、AIに判断させません。

明日からは、取引の多い20社に今月の一言を送ってみる

  1. 売上の記録から、取引の多い20社を選ぶ。送ってよい相手か(取引関係、名刺、同意)を一覧で確かめる
  2. 20社それぞれについて、前回の取引と、担当者が覚えている近況を一行ずつ書き出す
  3. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、上の見本の指示で一言を下書きさせる
  4. 担当者が確かめて直し、送る。返事が来た社と内容を記録する
  5. 3か月続けて、返事の数と、その後の注文を、送らなかった取引先と比べる

最初は20社で十分です。担当者が「この形なら続けられる」と思えるかを確かめてから広げます。

本格的にやるなら、毎月の初めに下書きが並ぶ形にする

取引先の多い会社なら、毎月の初めに、送り先の一覧と売上の記録と担当者のメモから、取引先ごとの下書きが担当者ごとに並ぶ形にできます。担当者は、下書きを確かめて「送る」を押すだけです。送った記録と返事は、送り先の一覧に自動で残り、翌月の下書きの材料になります。作り方と費用、必要な人、結果の見込みは、毎月1日に取引先への便りの下書きが並ぶ。担当者は確かめて送るだけの仕組みで説明しています。

お客様からの声を集めて離れる兆しに気づく方法は、黙って離れるお客様を減らす。アンケートの声をAIで全部読む方法で説明しています。仕組みにするときの費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。

売り込みを詰め込まず、返事には人が答える

  • 売り込みを詰め込まない。 お知らせは1通に1つまでにします。毎月の便りが広告ばかりになると、読まれなくなり、断られます
  • 返事には、人が答える。 便りへの返事は、取引先からの大事な連絡です。AIの下書きで返す場合も、担当者が中身を確かめてから送ります
  • メモにないことを書かせない。 「先日はありがとうございました」と書いて、実際には会っていなかったら、信用を失います。AIの一言は、記録とメモに書かれた事実だけにします
  • お客様の情報の扱いを決める。 取引の記録や担当者のメモは、取引先の大事な情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 取引先は、忘れたころにほかの会社から買っている。注文が続いているうちから、毎月の便りで思い出してもらう
  • 前回の取引や担当者のメモに触れた一言をAIが一社ずつ下書きし、今月のお知らせを1つだけ添え、担当者が確かめて送る。AIの利用料は100社で月100円ほど
  • 広告や宣伝を含むメールは、原則として同意した人に送る。取引関係にある人や名刺でアドレスを知らせてくれた人は例外。送り主と受信拒否の連絡先を書き、断られたら送らない
  • 送ってよい相手、二重送信、日付と金額の照らし合わせは、AIではなく一覧と計算で行う
  • まずは、取引の多い20社に、今月の一言を送ってみる

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