業務への組み込み例

電気や燃料の使用量を毎月表に残す。請求書の読み取りはAI、排出量は計算で

この記事で変わる経営指標

この記事では、取引先にCO2の量を聞かれても慌てない。計算は表で、回答はAIでの「毎月、使用量を記録する」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、電気・ガス・ガソリンなどの請求書を、毎月1つのフォルダに集める。AIが、決まった表の形に、使用量と期間を1行ずつ下書きする。人が請求書と照らして確かめ、国が公表している係数で排出量を表で計算する。前の年の同じ月と大きく違う行は、計算で知らせるという形です。取引先から排出量を聞かれたときに、請求書の山を探さずに済みます。

要請の中身は、まず排出量の把握と報告

日本商工会議所と東京商工会議所の「2026年度中小企業の脱炭素に関する実態調査」(2026年7月公表、回答2,497社)では、取引先などから脱炭素の要請を受けている会社に、要請の中身を聞いています。最も多かったのは「温室効果ガスの排出量の把握・報告」で58.0%でした。

同じ調査で、脱炭素に取り組んでいる会社のうち、エネルギーの使用量や排出量の把握・測定をしている会社は37.3%でした。取り組む目的で最も多かったのは「光熱費・燃料費の削減」で68.5%です(LOGISTICS TODAY の記事も同じ数字を伝えています)。

つまり、使用量を把握することは、取引先への報告のためでもあり、光熱費を減らすためでもあります。電気の使用に伴う排出量の計算に使う電力会社ごとの係数は、環境大臣と経済産業大臣が毎年度公表しています(環境省の発表、国の資料をもとにした秋田県の一覧)。2026年10月時点の情報です。

今は、質問が来てから1年分の請求書を探している

多くの小さな会社では、排出量を聞かれたとき、次のように動いています。

  1. 取引先から質問票が届く
  2. 経理の棚やメールから、電気、ガス、燃料の請求書を1年分探す
  3. 使用量を手で表に書き写す。月が抜けていたり、事業所の分が漏れていたりする
  4. 期限ぎりぎりに計算して答える。翌年は、どう計算したかを忘れている

請求書は毎月届いているので、届いたときに1行ずつ表に残しておけば、この手間はなくなります。手で書き写すのが面倒で続かないところを、AIに手伝わせます。

集めて、AIが表の形にし、人が照らして確かめる

担当者が毎月、電気・ガス・燃料の請求書を1つのフォルダに集め、表の形と事業所や燃料の呼び方をそろえておく。AIが請求書から使用量と期間を表の1行に下書きして読めない欄は空け、担当者が請求書と照らして確かめ、排出量は国の係数で表で計算する
担当者が毎月、電気・ガス・燃料の請求書を1つのフォルダに集め、表の形と事業所や燃料の呼び方をそろえておく。AIが請求書から使用量と期間を表の1行に下書きして読めない欄は空け、担当者が請求書と照らして確かめ、排出量は国の係数で表で計算する

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:請求書を毎月1つのフォルダに入れる。 電気、都市ガスやLPガス、ガソリンや軽油の給油カードの明細を、届いたらそのまま月ごとのフォルダに入れます。紙で届くものは、スマートフォンで撮って入れます。ウェブの明細はPDFで保存します。

2. そろえる:表の形と呼び方を決めておく。 ここは人が最初に1回だけ決めます。

  • 表の列:対象の月、事業所、種類(電気、都市ガス、LPガス、ガソリン、軽油など)、使用量、単位、使用期間、請求書のファイル名
  • 事業所と種類の呼び方(「本社」「第2工場」「社用車」など)
  • どこまでを含めるか(算定の範囲)

3. 下書きする:AIが請求書から表の1行を書く。 AIに、その月のフォルダの請求書と、表の形と呼び方だけを渡し、1枚につき1行を下書きさせます。読めない数字や、請求書に書いていない欄は空けさせます。金額は表に入れても入れなくてもかまいませんが、使用量と単位は必ず請求書のとおりにします。

4. 確かめる:担当者が請求書と照らす。 担当者が、AIが書いた行を請求書と1枚ずつ照らし、使用量と単位と期間が合っているかを確かめてから、表に足します。確かめた行だけが、排出量の計算に使われます。

排出量は、表の中で計算します。使用量に、種類ごとの係数を掛けるだけです。電気は契約している電力会社の係数を使い、何年度の係数かを表に書いておきます。

表の形と呼び方をスキルにし、計算と点検はAIの外に置く

この仕組みが毎月同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

表の形と呼び方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 表の形:列の並び、単位の書き方(kWh、立方メートル、リットル)
  • 呼び方の一覧:事業所の名前、種類の名前、請求書の会社名と事業所の対応
  • 書き方の見本:電気、ガス、給油カードの請求書を1枚ずつ、正しく1行にした例
  • 書いてはいけないこと:請求書にない数字、読めない数字を推しはかって埋めること、排出量の計算

計算と点検は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、担当者が請求書と照らして確かめること、排出量を表で計算すること、次の節の「前の年との比べ」を表で計算することがそれに当たります。AIは数字の読み取りや単位を取り違えることがあるので、確かめた行だけを使い、計算はさせません。

前の年の同じ月と比べると、間違いと使いすぎの両方に気づく

この仕組みでいちばん効くのは、表の中で、前の年の同じ月と使用量を比べることです。

  • 事業所と種類ごとに、前の年の同じ月の使用量と比べ、大きく違う行(たとえば3割以上の増減。幅は会社で決めます)に印が付くようにします
  • 印が付いた行は、まず読み取りの間違いを疑います。桁がずれていないか、単位が違っていないか、2か月分の請求ではないかを請求書で確かめます
  • 間違いでなければ、使い方が変わったということです。設備の故障、空調の設定、新しい機械、車の使い方など、理由を担当者が書き添えます

この「理由」の欄が、光熱費を減らす手がかりになります。月に一度、表と理由から、AIに社長向けの1枚のまとめ(使用量の多い月、去年との差、理由)を下書きさせると、見直す設備や使い方が見えてきます。

担当者の仕事は、月に一度、請求書と照らすことになる

仕組みが入ると、使用量の記録は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
請求書 棚とメールにばらばら 月ごとのフォルダに
表への書き写し 質問が来てから1年分 AIが毎月下書き
確かめ方 書き写した人の記憶 請求書と照らし、前の年と比べる
排出量 期限前に慌てて計算 表で毎月計算済み
光熱費 合計額を見るだけ 増えた月の理由が残る

経営への効果は、すぐ答えられることと、光熱費の手がかり

効果は、前提を置いて考えます。

記録で浮く時間 = 質問が来てから1年分を探して書き写す時間 -(毎月照らす時間 × 12か月)

仮に、1年分の請求書を探して書き写すのに2日(16時間)かかっていたものが、毎月30分の確認になれば、年に6時間で済み、10時間ほどが浮きます。ただ、時間よりも大きいのは、取引先の質問にすぐ根拠のある数字で答えられることと、使いすぎた月に理由と一緒に気づけることです。

費用はほとんど要らず、AIの利用料は月20円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 表の形、呼び方、算定の範囲を決める(会社:担当者、2時間)。ここがいちばん大事です
  2. 去年1年分の請求書を集め、表に入れる(会社:担当者、1日。最初の1回だけ、AIの下書きを使っても使わなくてもかまいません)
  3. 排出量と前の年との比べを計算する表を作る(会社:担当者、2時間。表計算で作れます)
  4. 読み取りの型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

スキルにする場合で、作る側の目安は0.5人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 請求書8枚の読み取りと月のまとめ 月約20円(下の計算)
表計算・フォルダ すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 係数の年度の更新、事業所が増えたときの見直し 年に1回

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。請求書1枚の読み取りに、請求書とスキルで3,500トークンを読ませ、400トークンを書かせると約1.7円です。月に8枚で約13円、月のまとめに12,000トークンを読ませ、1,200トークンを書かせると約5円、合わせて月約19円、年に約220円です(1ドル150円で計算)。

何か月で取り戻せるか

費用はほとんどかかりません。浮く時間は年に10時間ほどなので、スキルを作り込むと、その手間を取り戻すのに時間がかかります。請求書が月に数枚の会社なら、スキルにせず、会社で契約したAIのチャットに表の形と呼び方を貼って頼むだけで十分です。

必要な人は2役で、確かめるのは担当者

役 誰が すること 時間
集めて確かめる人 総務か経理の担当者 請求書をフォルダに入れ、AIの下書きを照らして表に足す。印の付いた行の理由を書く 月30分
見る人 社長 月のまとめを読み、見直す設備や使い方を決める 月10分

計算の仕方や係数の選び方に迷ったら、商工会議所や、取引先が案内する算定の窓口に相談します。

3か月で記録が回り、1年で前の年と比べられる見込み

どこまでいけるかは、毎月の確認を続けられるかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 去年1年分が表に入り、排出量が出る
3か月後 毎月の読み取りと確認が30分で回る
1年後 前の年の同じ月と比べられ、増えた月の理由がそろう

効果を確かめるには、次の3つを記録します。

  • 毎月の確認にかかった時間:最初の3か月で記録します
  • 読み取りの間違いの数:照らしたときに直した行の数です。多い請求書は、見本を足してスキルを直します
  • 取引先の質問に答えるまでの日数:前の年と比べます

AIに読み取らせたまま使うと失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • AIの下書きを照らさずに使う。 桁や単位の取り違えは、そのまま排出量の間違いになります。確かめた行だけを使います
  • AIに排出量を計算させる。 係数の取り違えが起きます。計算は表で行います
  • 係数の年度を書かない。 翌年、どの係数で計算したかが分からなくなります
  • 算定の範囲を途中で変える。 事業所や車を足したら、いつから足したかを表に書きます

請求書には、契約の番号や住所が書かれています。AIに渡すのは会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランだけにします。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 電気・ガス・燃料の請求書を、毎月1つのフォルダに集める
  • 表の形、呼び方、算定の範囲を決め、スキルにする
  • AIが請求書から使用量と期間を表の1行に下書きし、読めない欄は空ける。担当者が請求書と照らして確かめる
  • 排出量は、確かめた使用量に国の係数を掛けて表で計算し、係数の年度を残す
  • 前の年の同じ月と比べて大きく違う行は計算で知らせ、読み取りの間違いと使いすぎの両方に気づく

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