取引先にCO2の量を聞かれても慌てない。計算は表で、回答はAIで
この記事では、取引先から「御社のCO2(温室効果ガス)の排出量を教えてください」と聞かれたときに、慌てずに答える仕組みの作り方を説明します。一言でいうと、電気代やガソリン代の請求書から使用量を表に集め、国が公表している係数を掛けて、排出量を表で計算する。AIは、取引先の質問票から何を聞かれているかを整理し、計算した表だけをもとに回答文と説明の資料を下書きする。数字の確認と回答の送付は、社長か担当者が行うという話です。
AIの価値は、排出量を計算することではありません。取引先の質問に、毎年同じ形で、根拠のある数字ですばやく答え、取引を守ることです。そして、使用量の表を作ることは、そのまま光熱費を減らす手がかりにもなります。
経営への効果は、取引を守り、答える手間が減ること
取引先からの排出量の質問への答え方は、AIを使うと次のように変わります。
| 今まで | 計算は表で、回答はAIで | |
|---|---|---|
| 何を聞かれているか | 質問票を読んでも分からない | AIが質問を一覧に整理 |
| 排出量の数字 | 毎回、請求書を探して計算 | 使用量の表から係数で計算 |
| 回答文 | 一から書き、期限ぎりぎり | 計算した表から下書き |
| 翌年の質問 | また一から | 表に1年分を足して出し直す |
| 光熱費 | 請求書を見るだけ | 月ごとの使用量の変化が見える |
経営の効果は3つあります。
- 取引を守れる。 取引先の中には、仕入先の排出量を集めて、自社の排出量として報告する会社があります。聞かれたときに根拠のある数字で答えられる会社は、取引先にとって安心して頼める会社です
- 答える手間が減る。 使用量の表と回答の型があれば、毎年の質問に同じ形で答えられます。社長が請求書の山と向き合う時間が減ります
- 光熱費の無駄に気づく。 月ごとの電気や燃料の使用量を並べると、季節や設備による変化が見えます。どこで使いすぎているかが分かれば、削減の手を打てます
要請を受けた会社の4割が、取引の条件になっていると答えた
日本商工会議所と東京商工会議所が2026年7月に公表した「2026年度中小企業の脱炭素に関する実態調査」(回答2,497社、2026年5月7日〜29日)の結果です(LOGISTICS TODAY の記事も同じ数字を伝えています)。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 脱炭素の取り組みをしている会社 | 52.9% |
| 取引先などから脱炭素の要請を受けている会社 | 14.2% |
| 要請を受けた会社のうち、対応が取引の条件か、事実上求められている | 42.8% |
| 要請の中身で最も多いもの | 温室効果ガスの排出量の把握・報告(58.0%) |
| 要請を受けた会社のうち、取引先などから支援を受けている | 27.6%(約7割は自社だけで対応) |
| 取り組んでいる会社で、使用量・排出量の把握・測定をしている | 37.3% |
| 取り組んでいる会社の目的で最も多いもの | 光熱費・燃料費の削減(68.5%) |
要請を受けている会社は、まだ約1割です。ただ、受けた会社の4割は「対応しないと不利になる」状態にあり、7割は取引先の手助けなしに自社だけで対応しています。要請の中身は、まず排出量を把握して報告することです。調査では、製造業や建設業で要請を受けている割合が高いと報告されています。
排出量の計算の基本は、電気や燃料の使用量に係数を掛けることです。電気の使用に伴う排出量の計算に使う、電力会社ごとの排出係数は、環境大臣と経済産業大臣が公表しています(環境省の発表、国の資料をもとにした秋田県の一覧)。係数は年度ごとに変わるので、必ず最新の年度のものを使ってください。2026年10月時点の情報です。
小さな会社ほど、聞かれてから請求書を探すことになる
取引先から排出量を聞かれたとき、小さな会社が困るのは次の3つです。
- 何を聞かれているかが分からない。 質問票には、「スコープ1・2」「算定の範囲」「基準年」など、慣れない言葉が並びます。どこまで答えればよいのかが分からず、手が止まります
- 数字を出すのに手間がかかる。 電気、ガス、ガソリン、軽油の請求書が、年に何十枚もばらばらにあります。期限が近づいてから探し始めると、1年分をそろえるだけで何日もかかります
- 毎年、一から作り直す。 去年どう計算したかの記録が残っていないと、翌年また同じ手間がかかり、年によって計算の仕方が変わってしまいます
計算の方法そのものは決まっているので、使用量を表に集めておけば、数字は毎年同じ形で出せます。回答文も、聞かれることはだいたい同じです。ここは、表とAIで手伝いやすい仕事です。
排出量は表で計算し、AIは質問の整理と回答文を受け持つ
人がすること(最初に)。 電気、都市ガスやLPガス、ガソリン、軽油、灯油の請求書から、月ごとの使用量(kWh、立方メートル、リットル)を表に書き写します。どの事業所と車を含めるか(算定の範囲)を決めて、表の上に書いておきます。
計算で行うこと。 使用量に、国が公表している係数を掛けて、月ごと・年ごとの排出量を表で計算します。電気は契約している電力会社の排出係数を使います。どの係数を使ったか、何年度のものかを表に残します。計算の仕方に迷ったら、商工会議所や、取引先が案内する算定の窓口に相談します。
AIに頼むこと。 次のものを下書きしてもらいます。
- 質問の整理:取引先の質問票を渡し、何を聞かれているか、どの数字が要るか、期限はいつかを一覧にしてもらう。慣れない言葉は、やさしい言葉で説明してもらう
- 回答文:計算した表だけをもとに、取引先への回答と、算定の範囲・使った係数の説明を下書きしてもらう
- 社内向けのまとめ:月ごとの使用量の変化から、気づいたこと(使用量の多い月、去年との差)を、社長が読む1枚にまとめてもらう
人がすること(そのあと)。 社長か担当者が、回答の数字を計算した表と照らして確かめ、取引先に送ります。削減の目標や約束を書くかどうかは、社長が決めます。
AIへの頼み方と、返ってくる回答はこんな形になる
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、取引先から届いた排出量の質問票と、当社で計算した昨年度の排出量の表(算定の範囲、使った係数とその年度を含む)です。まず、質問票で何を聞かれているかを一覧にし、慣れない言葉をやさしく説明してください。次に、表にある数字だけを使って、回答文を下書きしてください。表にない数字は作らず、「未算定」と書いてください。削減の目標や約束は書かないでください。
返ってくる回答(見本の一部):
温室効果ガス排出量のご報告
- 対象期間:昨年度(○年4月〜○年3月)
- 算定の範囲:本社と工場の電気、社用車の燃料
- 排出量:電気の使用によるもの ○t、燃料の使用によるもの ○t、合計 ○t
- 算定の方法:使用量に、国が公表している係数(○年度)を掛けて計算しました
- 製品ごとの排出量:未算定です
社長は、表の数字と回答の数字が合っているかを確かめ、算定の範囲に漏れがないかを見てから送ります。
計算の表はAIの外に置き、回答の型はスキルにする
ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎年聞かれるなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
質問の整理と回答の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「質問票の整理の型」「回答文の型(対象期間、算定の範囲、排出量、算定の方法、未算定の項目)」「社内向けのまとめの型」「書いてはいけないこと(表にない数字、削減の約束、根拠のない『環境にやさしい』といった言い方)」をスキルにします。
排出量の計算は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、請求書から人が書き写した使用量の表、国の係数を使った表での計算、どの係数を使ったかの記録がそれに当たります。AIは計算や係数を取り違えることがあるので、数字は表で出し、AIには計算させません。回答の数字が表の数字と合っているかは、最後に人が照らして確かめます。
明日からは、去年1年分の電気の使用量を表にする
- 去年1年分の電気の請求書(検針票やウェブの明細)を集め、月ごとの使用量(kWh)を表に書き写す
- ガス、ガソリン、軽油など、ほかの燃料の使用量も同じ表に足す。社用車の給油の記録も集める
- 契約している電力会社の排出係数を、国の公表資料で確かめ、使用量に掛けて排出量を出す。使った係数と年度を表に書いておく
- 取引先から質問票が届いたら、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに質問票と表を渡し、上の見本の指示で質問の整理と回答文を下書きさせる
- 社長が数字を確かめて送る。送った回答と表は、翌年のために同じ場所に保存する
本格的にやるなら、毎月の使用量を記録し、削減につなげる
一度できたら、次の形に育てます。
- 毎月、使用量を記録する。 請求書が届いたら、その月の使用量を表に足します。年に一度まとめて探す手間がなくなり、質問が来たらすぐに答えられます。請求書の読み取りをAIに手伝わせて毎月の表を作る方法は、電気や燃料の使用量を毎月表に残す。請求書の読み取りはAI、排出量は計算でで説明しています
- 光熱費の削減につなげる。 月ごとの使用量と去年との差を並べると、設備の古さや使い方の癖が見えます。省エネの設備の更新や、運用の見直しを考える材料になります
- 取引先の質問票への答え方をそろえる。 排出量のほかにも、取引先からは情報の守り方や事業の続け方を聞かれます。社内の決まりから回答を作る考え方は、取引先にセキュリティ対策を聞かれても困らない。社内の決まりと回答をAIで整えるで説明しています
- 災害のときの備えとそろえる。 取引先が仕入先に求めることは、供給を止めないことでもあります。考え方は災害の翌日も取引先への供給を止めない。事業継続の計画をAIで1枚から作るで説明しています
数字の確定と、削減の約束はAIに任せない
- 数字は人が確かめる。 回答に書く排出量は、表で計算した数字だけです。AIが出した数字をそのまま送りません
- 削減の目標や約束は社長が決める。 取引先に「○年までに○割減らす」と書くかどうかは、設備と費用の見通しを見て社長が決めます。AIに書かせません
- 算定の範囲を偽らない。 計算に含めていないものは、「未算定」と正直に書きます。分からない点は、商工会議所や取引先の窓口に相談します
- 社内の情報に気をつける。 請求書には、契約や取引の情報が含まれます。AIに渡すのは使用量の表と質問票だけにします。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています
まとめ
- 日商・東商の2026年の調査では、取引先などから脱炭素の要請を受けている会社は14.2%。そのうち42.8%が、対応が取引の条件か事実上求められていると答え、約7割は自社だけで対応している
- 要請の中身で最も多いのは、温室効果ガスの排出量の把握・報告(58.0%)
- 排出量は、請求書から集めた使用量に、国が公表している係数を掛けて、表で計算する。使った係数と年度を残す
- AIは、取引先の質問票の整理と、計算した表だけをもとにした回答文の下書きを受け持つ
- 数字の確定、削減の目標や約束、回答の送付は、社長か担当者が行う