重要事項説明の下準備で見落とさない。食い違いをAIが挙げ宅建士が確かめる
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さな不動産会社の反響を逃さない。AIで物件紹介文と返事を速くする方法の「重要事項説明の下準備は、AIが資料の食い違いを挙げる」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、契約の前に、登記の記録、役所で調べた法令の制限のメモ、売主や貸主から聞いた条件、契約の条件を1つにまとめる。面積や地番、所有者の名前は表で照らす。AIが、資料どうしの食い違いと、説明書の項目で埋まっていないものを一覧に挙げる。宅地建物取引士(宅建士)が元の資料で確かめて調べ直すという形です。説明書を作ること、説明すること、記名することは、宅建士だけが行います。
重要事項の説明と記名は、宅建士だけができる仕事
親の記事で触れたとおり、宅地建物取引業法の第35条では、宅地建物取引業者は、契約が成り立つまでの間に、宅建士に重要事項を書いた書面を交付して説明させなければならないと決められています。三井住友トラスト不動産の用語集でも、重要事項の説明と書面への記名は宅建士だけができる仕事と説明されています。
つまり、AIに重要事項説明書を作らせたり、説明させたりすることはできません。この記事でAIに任せるのは、宅建士が説明書を作る前の、資料を照らし合わせる下準備のうち、「食い違いと抜けを挙げる」ところだけです。
今は資料の照らし合わせに時間がかかり、見落としも起きる
多くの小さな不動産会社では、重要事項説明の下準備が次のように行われています。
- 登記の記録を取り、面積、地番、所有者の名前、権利の内容を見る
- 役所で法令の制限(用途地域、建ぺい率、容積率、道路との関係)を調べ、メモに残す
- 売主や貸主から、設備の状態や過去の修繕、境界のことを聞く
- 契約の条件(代金、手付金、引き渡しの日)を確かめる
- これらを宅建士が頭の中で照らし合わせ、説明書の項目を埋めていく
資料が紙やPDFでばらばらにあり、照らし合わせは宅建士の注意力に頼っています。登記の面積と広告の面積が違う、売主の名前と登記の名前が違う、といった食い違いを見落とすと、契約のあとの問題になります。
まとめ、表で照らし、AIが挙げ、宅建士が確かめる
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:登記の記録と法令の調べと契約の条件をまとめる。 1つの物件ごとに、次の資料を1つのフォルダにまとめます。
- 登記の記録(PDF)
- 役所で調べた法令の制限のメモ
- 売主や貸主から聞いた条件のメモ(設備、修繕、境界)
- 契約の条件(代金、手付金、引き渡しの日)
- 広告や物件資料に書いた内容
2. 照らす:面積や地番、所有者の名前を表で照らす。 ここは決まりと表の仕事です。
- 登記の面積、地番、所有者の名前を表に書き出し、物件資料や契約の条件の数字と並べて、合っているかを式で照らします
- 合わないものに印をつけます
3. 挙げる:AIが食い違いと埋まっていない項目を一覧にする。 AIに資料を渡し、次の2つを一覧にさせます。
- 資料どうしの食い違い:「登記の所有者の名前と、売主のメモの名前の字が違う」「法令のメモの道路の幅と、物件資料の書き方が違う」
- 説明書の項目で、資料から埋まっていないもの:会社で使っている説明書の項目と照らし、資料にない項目を挙げる
それぞれに、どの資料のどこを見たかを書かせます。
4. 調べ直す:宅建士が元の資料で確かめる。 宅建士が一覧を見て、挙がった箇所を元の資料で確かめます。必要なら、役所や売主に聞き直します。説明書を作り、説明し、記名するのは宅建士です。
説明書の項目をスキルにし、数字と判断はAIの外で持つ
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
説明書の項目と照らし方を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 説明書の項目の一覧:会社で使っている重要事項説明書の項目
- 照らす組み合わせ:登記と物件資料、法令のメモと物件資料、売主のメモと契約の条件、のように照らす組み合わせ
- 一覧の型:食い違いの中身、見た資料と場所、確かめる先
- 書いてはいけないこと:説明書の文、どう説明するかの提案、法令の解釈、食い違いの原因の推測
数字と、説明の判断は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、面積や地番を表で照らすこと、AIの一覧の箇所を宅建士が元の資料で確かめること、説明書に何を書くかを宅建士が決めることがそれに当たります。AIの一覧に挙がらなかったことは、問題がない証拠になりません。
長い資料をAIに読ませるときのコツは、長いPDFはAIに要約させる前に質問を決める。公募要領や契約書の読み方で説明しています。
宅建士の仕事は、挙がった箇所を確かめ、説明に集中することになる
仕組みが入ると、重要事項説明の下準備は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 資料 | 紙やPDFでばらばら | 物件ごとに1つにまとまる |
| 数字の照らし合わせ | 宅建士が目で見比べる | 表で照らし、合わないものに印 |
| 食い違いの見つけ方 | 宅建士の注意力に頼る | AIの一覧から確かめる |
| 埋まらない項目 | 説明書を作る途中で気づく | 下準備の段階で分かる |
| 宅建士の時間 | 照らし合わせに追われる | 調べ直しと説明の準備に使える |
経営への効果は、契約のあとの問題を減らし、宅建士の時間を守ること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の下準備の照らし合わせに3時間かかっていたものが、一覧を見て確かめる1時間半になれば、1件1時間半が浮きます。月8件なら月12時間、宅建士の1時間あたりの人件費を仮に3,000円として月3万6,000円分です。
ただ、この仕組みの価値は時間だけではありません。資料の食い違いを契約の前に見つけられれば、契約のあとに「聞いていた話と違う」という問題が起きにくくなります。小さな不動産会社では、宅建士が営業や案内も兼ねていることが多く、照らし合わせの時間が減れば、お客様と向き合う時間が増えます。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月70円ほど
作る順番と、かかる日数
- 説明書の項目の一覧と、照らす組み合わせを決める(会社:宅建士、1日)。これまでに見落としかけた食い違いを書き出します。ここがいちばん大事です
- 物件ごとに資料をまとめる決まりを作る(会社:事務、半日)
- 面積や地番を表に書き出し、照らす式を作る(作る人、1人日)
- AIの食い違いと抜けの一覧、宅建士への届け方を作る(作る人、1.5人日)
- 1か月、賃貸の物件で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計3人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1件の資料の照らし合わせごとにかかる | 月8件で70円ほど(下の計算) |
| 表計算・フォルダ | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 項目の一覧と照らす組み合わせの更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり登記の記録とメモとスキルで20,000トークンを読ませ、2,000トークンを書かせると見積もると、0.06ドル、1ドル150円で約9円です。月8件で70円ほどです。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が18万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を3,100円とすると、月3万6,000円分が浮く会社でおよそ6か月です。契約が月に数件の会社なら、項目の一覧と照らす組み合わせだけ作り、宅建士が会社で契約したAIのチャットに資料を渡して一覧を出させるやり方で十分です。
必要な人は3役で、説明するのは宅建士
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 資料をまとめる人 | 事務か営業 | 物件ごとに資料をフォルダにまとめる | 1件15分 |
| 確かめて説明する人 | 宅建士 | 一覧の箇所を元の資料で確かめ、説明書を作って説明する | 1件1時間半(照らし合わせ) |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 表、照合、一覧、届け方を作る | 最初の3人日 |
いちばん大事なのは、宅建士がこれまでの経験から「見落としやすい食い違い」を書き出すことです。挙がった食い違いが本当にあったかを記録していけば、照らす組み合わせが育ちます。
1か月で一覧が使える形になり、半年で見落としの変化が分かる見込み
どこまでいけるかは、資料がどれだけそろうかと、照らす組み合わせがどれだけ育つかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 賃貸の物件で試す。宅建士がいつもどおり確かめ、AIの一覧と比べる |
| 3か月 | 売買の物件にも広げる。照らす組み合わせを足す |
| 半年 | 下準備の時間と、契約のあとの問い合わせや問題の数を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。
- 1件の下準備にかかる時間:宅建士の時間を記録します
- 下準備で見つかった食い違いの数:一覧から見つかったものを数えます
- 契約のあとの問題:「聞いていた話と違う」と言われた件数を数えます
説明書や説明の判断をAIに任せると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 説明書の文をAIに書かせる。 説明書を作り、説明し、記名するのは宅建士です。AIには食い違いと抜けを挙げさせるだけにします
- AIの一覧に挙がらなければ大丈夫だと思う。 AIは見落とすことがあります。宅建士はいつもどおり全体を確かめます
- 法令の解釈をAIに任せる。 用途地域や道路の決まりの読み方は、宅建士が役所の調べで確かめます
- 古い登記の記録を使う。 資料の日付をフォルダに残し、新しいものに取り直す決まりを作ります
お客様や売主の情報は、とても大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 契約の前に、登記の記録、法令の調べ、売主や貸主の条件、契約の条件を物件ごとに1つにまとめる
- 面積、地番、所有者の名前は表で照らし、合わないものに印をつける
- AIが資料どうしの食い違いと、説明書の項目で埋まっていないものを一覧に挙げ、宅建士が元の資料で確かめる
- 重要事項説明書を作り、説明し、記名するのは宅建士だけ。AIの一覧に挙がらないことは問題がない証拠にならない
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は3人日。AIの利用料は月70円ほど。効果は下準備の時間、見つかった食い違い、契約のあとの問題で確かめる