業務への組み込み例

オーナー報告を月末の夜に書かない。台帳と対応の記録からAIが下書き

この記事で変わる経営指標

この記事では、小さな賃貸管理会社の事務をAIで減らす。入居者の対応とオーナー報告を速くの「オーナーへの定期報告は、台帳と対応の記録からAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、月末に、管理の台帳と、修繕と問い合わせの対応の記録、入居者からの苦情の記録を集める。入金と滞納と修繕費は表で集計し、報告の期限は契約日から出す。AIがオーナーごとの報告書の文を下書きし、担当者が確かめて説明して渡すという形です。月末に台帳と記録をひっくり返して書いていた報告を、確かめて直す仕事にします。

報告の中身と時期は、省令で決まっている

親の記事で触れたとおり、管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理業者は登録が必要で、管理を任されたオーナーへの定期報告が求められます(国土交通省)。

その中身と時期は、国土交通省の省令(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律施行規則)の第40条に書かれています。条文と、税理士法人の解説で確かめると、次のとおりです。

  • 時期:管理を任される契約を結んだ日から1年を超えない期間ごとに、そして契約の期間が終わったあと遅れずに
  • 中身:報告の対象の期間、管理の仕事の実施状況、入居者からの苦情の発生状況と対応状況
  • 渡し方:管理業務報告書を作ってオーナーに渡し、説明する。オーナーの承諾があれば、メールなどの電子の方法でも渡せる

解説では、1年ごとは上限で、毎月や3か月ごとに報告してもよいこと、送金の明細だけでは苦情の状況が抜けやすいことが指摘されています。200戸に届かない会社に登録の義務はありませんが、同じ中身で毎月報告すれば、オーナーに選ばれ続ける助けになります。この記事は、その報告を毎月出す前提で書きます。

今は月末に、台帳と記録を集めて一から書いている

多くの小さな管理会社では、オーナーへの報告が次のように作られています。

  1. 月末に、管理の台帳から物件ごとの入居と空室、家賃の入金と滞納を拾う
  2. 修繕の記録や、業者からの請求書を見て、その月にかかった金額を書き写す
  3. 入居者からの問い合わせや苦情を、電話のメモやメールから思い出して書く
  4. オーナーごとに、言い回しを変えながら文章にする

記録があちこちに散っているので、集めるだけで時間がかかります。苦情は電話で受けてその場で片づけることが多く、報告を書くときには記録が残っていないこともあります。

月末に集め、表で数え、AIが書き、担当者が渡す

管理の台帳と、修繕と問い合わせの対応の記録、入居者からの苦情の記録を月末に集め、入金と滞納と修繕費は表で集計し、報告の期限は契約日から出す。AIがオーナーごとの報告書の文を下書きし、担当者が確かめて説明して渡す
管理の台帳と、修繕と問い合わせの対応の記録、入居者からの苦情の記録を月末に集め、入金と滞納と修繕費は表で集計し、報告の期限は契約日から出す。AIがオーナーごとの報告書の文を下書きし、担当者が確かめて説明して渡す

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:台帳と、対応の記録と、苦情の記録を集める。 月末に、次のものをオーナーごとにまとめます。

  • 管理の台帳(物件、部屋、入居者の入居と退去、家賃の入金と滞納)
  • 修繕の記録(いつ、どの部屋で、何を直し、いくらかかったか)
  • 入居者からの問い合わせと苦情の記録(受けた日、部屋、内容の種類、対応したこと、終わった日)

苦情の記録は、受けたときに一行残すのが前提です。電話のあとに「何号室、何の件、どうしたか」を残すだけで、報告の材料になります。

2. 確かめる:数字を表で集計し、期限と漏れを点検する。 ここは計算と決まりで行います。

  • 入居と空室の数、入金と滞納の額、修繕にかかった金額は、台帳と記録から表計算で出します
  • オーナーごとの契約日から、法令の報告の期限を出し、期限が近い契約に印をつけます
  • 苦情の記録のうち、対応が終わっていないものに印をつけ、報告に「対応中」と書けるようにします

3. 下書きする:AIがオーナーごとの報告書の文を書く。 AIが、その月の対応の記録と苦情の記録から、報告書の文を下書きします。対象の期間、管理の仕事の状況、苦情の発生と対応の状況、来月の予定の順番に書きます。数字は表から決まった欄に差し込み、AIには数字を書かせません。入居者の名前は、部屋の番号に置き換えてから渡します。

4. 渡す:担当者が確かめて説明して渡す。 担当者が下書きを読み、数字と言い回しを確かめます。オーナーの承諾がある相手にはメールで送り、それ以外は印刷して渡します。電話や訪問で、気になる点を一言説明します。

報告の型と会社の言葉をスキルにし、数字と期限はAIの外で持つ

この仕組みが毎月同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

報告の型と会社の言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 報告書の型:省令の3つの中身(期間、実施状況、苦情の状況)に来月の予定を加えた順番と長さ
  • 会社の言葉:オーナーへの呼びかけ方、修繕を勧めるときの書き方
  • オーナーごとの好み:短くまとめてほしい人、写真を添えてほしい人
  • 書いてはいけないこと:入居者の名前や家庭の事情、確かめていない原因の推測、修繕の費用を誰が持つかの約束

数字、期限、名前は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、入金や修繕費を表で集計して差し込むこと、契約日から期限を出すこと、名前を部屋の番号に置き換えること、苦情の記録が報告に入っているかを照らすことがそれに当たります。報告の数字をAIに計算させることはしません。

担当者の仕事は、記録を一行残し、下書きを直すことになる

仕組みが入ると、オーナー報告の作り方は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
材料集め 月末に台帳と記録をひっくり返す 月末に表へまとまる
数字 台帳と請求書から書き写す 表から差し込まれる
苦情の状況 思い出して書く。抜けることがある 受けたときの一行から入る
期限 契約ごとに覚えておく 契約日から出て、近いものに印がつく
担当者の時間 1件ごとに一から書く 下書きを確かめて直す

経営への効果は、オーナーに任せ続けてもらうこと

効果は、前提を置いて計算します。仮に、オーナー1人分の報告に担当者が60分かかっていたものが、下書きを確かめて直す20分になれば、1人あたり40分が浮きます。報告するオーナーが30人なら月20時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月5万円分です。

ただ、この仕組みの価値は時間だけではありません。管理会社の売上は、管理を任されている戸数で決まります。毎月決まった時期に、苦情への対応まで分かる報告が届けば、オーナーは「任せていて安心だ」と感じやすくなり、管理を任せ続けてもらいやすくなります。登録している会社にとっては、法令の報告の期限と中身を落とさないことにもなります。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月110円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 報告書の型と、書いてはいけないことを決める(会社:社長と担当者、半日)。オーナーに評判の良かった過去の報告を見本に集めます。ここがいちばん大事です
  2. 台帳と、修繕と苦情の記録の形をそろえる(会社:事務、1日)。苦情を受けたら一行残す決まりもここで作ります
  3. 記録を集め、表で集計し、期限を出し、名前を置き換える仕組みを作る(作る人、1.5人日)
  4. AIの下書き、数字の差し込み、担当者への届け方を作る(作る人、1人日)
  5. 1か月、オーナー数人で試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計3人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 1件の報告書の下書きごとにかかる 月30件で110円ほど(下の計算)
台帳・表計算 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 型とオーナーごとの好みの更新 月2時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり記録とスキルで5,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると見積もると、0.025ドル、1ドル150円で約3.8円です。月30件で110円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が18万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を6,000円とすると、月5万円分が浮く会社でおよそ4か月です。報告するオーナーが10人ほどの小さな会社なら、報告書の型と表だけ作り、担当者が会社で契約したAIのチャットに、名前を置き換えた記録と集計表を貼って下書きするやり方で十分です。

必要な人は3役で、渡すのは担当者

役 誰が すること 時間
記録を残す人 入居者の対応をする社員 問い合わせと苦情を受けたら一行残す 1件1分
確かめて渡す人 オーナーの担当者 数字と言い回しを確かめ、説明して渡す 1件20分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 集める、集計、下書き、届け方を作る 最初の3人日

いちばん大事なのは、苦情と対応を受けたときに残す習慣です。記録がなければ、AIも書けません。

1か月で型がそろい、半年でオーナーの反応が分かる見込み

どこまでいけるかは、記録がどれだけ残るかと、型がどれだけ育つかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 オーナー数人で試す。担当者が直したところを型と見本に足す
3か月 すべてのオーナーに広がる。報告の書き方と届く時期がそろう
半年 報告にかかる時間と、オーナーからの問い合わせや解約の数を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 1件の報告にかかる時間:担当者の時間を記録します
  • 報告の遅れ:決めた日までに届かなかった件数を数えます
  • オーナーの解約:管理の契約を終えたオーナーの数と理由を記録します

数字や原因をAIに書かせると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 数字をAIに書かせる。 入金、滞納、修繕費は、表から差し込みます。AIは数字を写し間違えることがあります
  • 苦情の記録を残さないまま始める。 苦情の状況は省令で求められる中身の一つです。受けたときに一行残す決まりを先に作ります
  • 原因や費用の負担をAIに推測させる。 「設備の古さが原因」「費用は入居者の負担」のような判断は、担当者と社長が契約と決まりで確かめて書きます
  • 入居者の名前をそのままAIに渡す。 部屋の番号に置き換えてから渡します

入居者とオーナーの情報は、大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。入居者への返事の考え方は、工事店の例ですが修理の依頼に当日中に候補日を返す。問い合わせからAIが返事を下書きで説明しています。

まとめ

  • 月末に、管理の台帳と、修繕と問い合わせの対応の記録、入居者からの苦情の記録をオーナーごとに集める
  • 入金、滞納、修繕費は表で集計し、報告の期限は契約日から出す。名前は部屋の番号に置き換えてから渡す
  • AIがオーナーごとの報告書の文を下書きし、担当者が確かめて説明して渡す
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は3人日。AIの利用料は月110円ほど。小さな会社は型と表だけ作り、チャットで十分
  • 効果は、1件にかかる時間、報告の遅れ、オーナーの解約の数で確かめる

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