業務への組み込み例

外国語の問い合わせにも当日中に返す。旅館の返事をAIで下書きする仕組み

この記事で変わる経営指標

この記事では、旅館や小さなホテルで、外国語で届いた問い合わせに、AIが宿の基本情報をもとに同じ言葉で返事を下書きし、あわせて日本語の訳も作り、フロントが日本語の訳で中身を確かめてから送る仕組みの作り方を説明します。一言でいうと、外国語が得意な人がいなくても、「AIが外国語で書き、日本語の訳で人が確かめる」形にして、外国語の問い合わせにも日本語と同じ速さで返すという話です。小さな旅館・ホテルでAIが効く業務は、小さな旅館・ホテルの人手不足をAIで補う方法。返事と申し送りを速くするにまとめています。この記事は、その中の「予約前の問い合わせ」を、実際に動く仕組みにする話です。

AIの価値は、外国語を上手に書くことではありません。外国語を読めない人でも、日本語の訳で中身を確かめてから送れるようにし、翻訳に1件15分かけていた返事を、確かめる数分にすることです。

今は外国語の問い合わせだけ、返事が翌日になる

外国からのお客様を受け入れている小さな宿では、次のことが起きています。

  1. 予約サイトのメッセージやメールで、英語や中国語、韓国語などの問い合わせが届く(「駐車場はありますか」「食事でベジタリアンに対応できますか」「駅からの行き方は」)
  2. 外国語が得意なスタッフがいる日はその人が返すが、いない日は翻訳の道具に通しながら、1件15分ほどかけて返事を書く
  3. 忙しい日は後回しになり、返事が翌日になる
  4. 翻訳の道具に通した文が、宿の雰囲気に合わない固い言い回しや、意味のずれた文になっていても気づけない

日本語の問い合わせには当日中に返せても、外国語の問い合わせだけ遅れる、という宿は少なくないはずです。そのあいだに、お客様はほかの宿の予約を決めてしまうかもしれません。

ここで足りないのは、外国語の力ではありません。宿の決まった情報を、相手の言葉で正しく伝え、それを日本語で確かめられる流れです。

問い合わせへの返事は、早いほど話が進みやすい

問い合わせへの返事の速さについては、米国の調査があります。Harvard Business Review に2011年に載った調査では、問い合わせから1時間以内に連絡した会社は、それより遅い会社に比べて、相手の決め手になる人と話せた割合が約7倍だったと紹介されています(数字は CustomerThink などでも紹介されています)。会社どうしの取引のインターネットからの問い合わせについての米国の調査で、宿泊の予約の数字ではありません。

それでも、向きは同じだと考えるのが自然です。旅行の計画を立てているお客様は、いくつもの宿に同時に問い合わせています。先に、分かりやすい返事が届いた宿のほうが、予約の候補に残りやすくなります。言葉の違いで返事が遅れるのは、予約の機会を自分で手放しているのと同じです。

AIが同じ言葉で返事を書き、日本語の訳で人が確かめる

外国語の問い合わせへの返事の流れ。メールや予約サイトのメッセージで届いた問い合わせを、AIが宿の基本情報から同じ言葉で下書きし、日本語の訳も付ける。空室と料金はAIには書かせず予約の画面から入れ、フロントは日本語の訳で中身を確かめて送る
外国語の問い合わせへの返事の流れ。メールや予約サイトのメッセージで届いた問い合わせを、AIが宿の基本情報から同じ言葉で下書きし、日本語の訳も付ける。空室と料金はAIには書かせず予約の画面から入れ、フロントは日本語の訳で中身を確かめて送る

仕組みは4つの段でできています。

1. 問い合わせを1か所に集める(人)。 予約サイトのメッセージとメールの問い合わせを、1つの受け口(共有のメールアドレスや、予約サイトのメッセージを転送する先)に集めます。

2. AIが同じ言葉で返事を書き、日本語の訳も付ける(AI)。 問い合わせの文と、宿の基本情報(スキル)を渡すと、AIは問い合わせと同じ言葉で返事を下書きし、その日本語の訳と、問い合わせそのものの日本語の訳も付けます。空室と料金は【空室】【料金】のように空けておかせます。宿の基本情報に答えがない質問には、「確認して改めてご連絡します」と返す下書きにし、日本語の訳に「要確認」と書かせます。

3. 空室と料金を差し込む(AIの外)。 空室と料金は、予約の画面で確かめてから入れます。予約の仕組みとつながっている場合は、日付と人数から自動で差し込みます。AIには書かせません。

4. フロントが日本語の訳で確かめて送る(人)。 フロントは、問い合わせの日本語の訳と、返事の日本語の訳を並べて読み、質問に答えているか、間違ったことを約束していないかを確かめて送ります。外国語の文そのものは読めなくても、中身は確かめられます。

AIへの指示の見本は次のとおりです(見本。内容は架空です)。

あなたはこの宿のフロントです。下の問い合わせに、問い合わせと同じ言葉で返事を書いてください。答えは、スキルの「宿の基本情報」に書かれていることだけにしてください。基本情報にないことは推測せず、「確認して改めてご連絡します」と書いてください。空室と料金は書かず、【空室】【料金】と書いておいてください。そのあとに、①問い合わせの日本語の訳、②返事の日本語の訳、③基本情報で答えられなかった質問の一覧、を付けてください。

返ってくる下書き(見本の一部):

(英語の返事)Thank you for your inquiry. We have free parking for up to 10 cars on site. For vegetarian meals, we will confirm with our kitchen and get back to you shortly. … ①問い合わせの訳:駐車場はありますか。ベジタリアンの食事に対応できますか。 ②返事の訳:お問い合わせありがとうございます。敷地内に10台まで無料の駐車場があります。ベジタリアンのお食事は、調理場に確認して改めてご連絡します。… ③答えられなかった質問:ベジタリアンの食事への対応

フロントは③を見て、調理の担当に確認します。

宿の基本情報をスキルにし、空室と約束はAIの外で確かめる

AIに下書きさせるだけなら、指示の見本で今日からでも試せます。毎日、誰がフロントに立っても同じ質で返すには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

宿の基本情報を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「宿の基本情報(駐車場、送迎、チェックインとチェックアウト、食事、お風呂、子ども連れ、ペット、支払い方法、駅からの行き方)」「できないことの断り方」「宿の言葉づかいの見本(日本語と英語)」をスキルにします。基本情報が変わったら、その日のうちにスキルを直します。

空室・料金・約束は、AIの外で確かめる。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、空室と料金を予約の画面から差し込むこと、返事の下書きに数字や日付が入っていたら印を付けること、AIに日本語の訳を必ず付けさせて人が中身を確かめられるようにすることがそれに当たります。食事のアレルギーや宗教上の配慮、送迎の約束のように、守れないと困ることは、基本情報にない限り「確認します」と返させ、決めるのは人です。

フロントの仕事は、日本語の訳で確かめて送るだけになる

仕組みが動くと、仕事の分け方はこうなります。

今まで 仕組みのあと
外国語の問い合わせを読む 翻訳の道具に通して読む 日本語の訳が付いて届く
返事を書く 外国語が得意な人か、翻訳の道具で1件15分 AIが同じ言葉で下書き
中身を確かめる 外国語の文は確かめにくい 日本語の訳で確かめる
返事までの時間 外国語だけ翌日になることがある 日本語と同じく当日中

時間の目安は、前提を置いて計算します。仮に、月に200件の問い合わせがあり、そのうち80件が外国語、120件が日本語だとします。今は外国語に1件15分、日本語に1件6分かけているとすると、月に32時間です。仕組みのあとは、どちらも下書きを確かめる1件3分になり、月に10時間です。浮く時間は月に22時間です。

経営への効果は、外国語の問い合わせを予約に変えやすくなること

効果は2つあります。

1. フロントの時間が戻る。 上の計算で月に22時間です。仮に1時間の人件費を2,000円とすると、月に約4万4,000円分の時間です。チェックインのお迎えや、館内の見回りに使えます。

2. 外国語の問い合わせから予約になる件数が増える。 返事が当日中に届けば、お客様がほかの宿で予約を決める前に、候補に残れます。どれだけ予約が増えるかは宿によって違うので、この記事では数字を置きません。下の「見込み」で、自分の宿で測る方法を書きます。仮に、1泊2名で数万円の予約が月に1件増えるだけでも、下の費用は十分に取り戻せます。

費用の大半は作る費用で、AIの利用料は月360円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 宿の基本情報を1枚にまとめる(社内:女将や支配人とフロント、半日)。よく聞かれる質問20個への答えを書き出します。ここが返事の質を決めます
  2. 問い合わせの受け口を1つにする(社内:フロント、半日)
  3. AIの下書きと日本語の訳を作る流れを作る(作る人、1.5人日)
  4. 空室と料金の差し込みと、数字の印付けを作る(作る人、1人日)。予約の仕組みとつなげられるかで日数が変わります
  5. 2週間、実際の問い合わせで試して直す(作る人、1人日)。フロントが直した言い回しを、スキルに足します

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計3.5人日です。予約サイトの管理画面にメッセージの返事の機能がある場合は、そこに貼り付けて送る形にすれば、つなぐ作業が少なくて済みます。

毎月の費用

費用 中身 想定の宿での目安
AIの利用料 返事1件の下書きと日本語の訳 月200件で360円ほど(下の計算)
受け口・保存場所 すでに使っているメールや表計算 追加0円の想定
保守 基本情報の更新、スキルの見直し 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり、宿の基本情報と指示と問い合わせを合わせて3,000トークンを読ませ、返事と日本語の訳で600トークンを書かせると見積もると、約0.012ドル、1ドル150円で約1.8円です。月200件で360円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が20万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)が3,000円とすると、上の月約4万4,000円の効果で、およそ5か月で取り戻す計算です。予約が増えれば、さらに早まります。

必要な人は3役で、送るのはフロントがする

役 誰が すること 時間
送る人 フロント 日本語の訳で確かめ、空室と料金を入れて送る。答えられなかった質問を担当に回す 1件3分
基本情報を守る人 女将や支配人 宿の基本情報とスキルを最新に保つ。食事や送迎の可否を決める 月1時間
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 受け口、AIの下書き、差し込みを作る 最初の3.5人日

外国語の文を読めなくても、日本語の訳で中身を確かめられるので、送るのはどのフロントでもかまいません。外国語が得意なスタッフがいる日は、外国語の文もあわせて読んでもらい、気になった言い回しをスキルに足します。

1か月で当日中に返せ、半年で予約の増え方が分かる見込み

どこまでいけるかは、宿の基本情報がどれだけ答えをそろえているかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 外国語の問い合わせに当日中に返せるようになる。答えられなかった質問を基本情報に足していく
3か月 「確認します」と返す質問が減り、多くの問い合わせに1回の返事で答えられる
半年 外国語の問い合わせから予約になった割合を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 外国語の問い合わせへの返事までの時間:受け取った時刻と送った時刻から出します
  • 外国語の問い合わせから予約になった件数:問い合わせたお客様の予約を記録します
  • 「確認します」と返した質問の数:基本情報の抜けが分かります

訳を確かめずに送ったり、推測で答えさせたりすると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 日本語の訳を確かめずに送る。 外国語の文は読めないからと、確かめずに送ると、間違った約束がそのままお客様に届きます。日本語の訳は必ず読みます
  • 基本情報にないことをAIに答えさせる。 「たぶん大丈夫」とAIが書くと、できないことを約束してしまいます。基本情報にないことは「確認します」と返させます
  • 空室と料金をAIに書かせる。 AIは日付や数字を取り違えることがあります。空室と料金は予約の画面から入れます
  • 基本情報を直さない。 お風呂の時間や送迎の時間が変わっても基本情報が古いままだと、AIは古い情報で答えます。変わったらその日のうちに直します

まとめ

  • 外国語の問い合わせに、AIが同じ言葉で返事を下書きし、日本語の訳も付ける。フロントは日本語の訳で中身を確かめて送るので、外国語が得意な人がいなくても当日中に返せる
  • 問い合わせから1時間以内に連絡した会社は、遅い会社より相手の決め手になる人と話せた割合が約7倍だったという米国の調査がある。返事の遅れは予約の機会を手放すことになる
  • 仮に月200件のうち80件が外国語なら、月32時間の返事が10時間になる。AIの利用料は月360円ほど
  • 宿の基本情報はスキルにまとめ、空室・料金・食事や送迎の約束はAIの外で確かめる。基本情報にないことは「確認します」と返させる

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