業務への組み込み例

歯科医院の予約と問い合わせに早く返す。医院の決まりからAIが下書き

この記事で変わる経営指標

この記事では、小さな歯科医院の定期検診の案内と事務をAIで回す。広告のルールも守るの「予約と問い合わせへの返事は、医院の決まりからAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、ホームページのフォーム、メール、メッセージで届いた問い合わせを1つの一覧に集める。痛みや腫れなど症状の相談は、言葉の一覧で拾ってAIの外に分ける。それ以外は、診療時間や料金の目安を医院の決まりの表から差し込み、AIが返事を下書きする。受付が予約の空きを確かめて送るという形です。返事を早くして、初めての患者さんを逃さないことが狙いです。

歯科医院は減っており、来てくれた患者さんを逃せない

厚生労働省の調査では、2024年10月1日時点の歯科診療所は66,378施設で、前の年より440施設減りました。この1年で1,363施設が開き、1,748施設が閉じています。2025年12月末の概数では65,475施設です。開く医院と閉じる医院が毎年千を超える中で、患者さんは医院を選べる立場にあります。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、新しいお客様を得るには、今のお客様を保つより5〜25倍の費用がかかるとされています(2014年。NTT東日本の用語解説でも、同じ考え方が「1:5の法則」として紹介されています)。

問い合わせをしてくる人は、すでにこの医院に関心を持っている人です。初めての患者さんなら、ホームページを見て、ほかの医院と比べている途中かもしれません。返事が翌日になれば、先に返事をくれた医院で予約を取ってしまうこともあります。通っている患者さんでも、予約の変更に返事がなければ、そのまま来なくなることがあります。

今は診療の合間に、受付が1件ずつ書いている

多くの小さな歯科医院では、問い合わせが次のように扱われています。

  1. ホームページのフォーム、メール、メッセージで、予約の変更や「土曜は何時までですか」「駐車場はありますか」と届く
  2. 受付が、会計や電話の合間に読み、予約の台帳を見て、一から返事を書く
  3. 午後の混む時間帯は、返事が夕方や翌日になる
  4. 「歯が痛い」という相談には、どう答えてよいか分からず、院長に聞くまで止まる

保険と自費の違いや、初診の持ち物のように、毎回同じことを聞かれる問い合わせも、そのたびに書いています。受付の人によって、答え方が少しずつ違うこともあります。

集め、症状の相談を分け、AIが書き、受付が確かめる

問い合わせを1つの一覧に集め、痛みや腫れなど症状の相談は言葉の一覧で拾って院長と受付に回す。それ以外は医院の決まりの表から診療時間や料金の目安を差し込み、AIが返事を下書きし、受付が予約の空きを確かめて送る
問い合わせを1つの一覧に集め、痛みや腫れなど症状の相談は言葉の一覧で拾って院長と受付に回す。それ以外は医院の決まりの表から診療時間や料金の目安を差し込み、AIが返事を下書きし、受付が予約の空きを確かめて送る

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:問い合わせを1つの一覧に集める。 フォーム、メール、メッセージで届いた問い合わせを、1つの一覧に集めます。電話で受けて折り返すものも、受付が一言で入れておきます。

2. 拾う:症状の相談と、医院の決まりを表から拾う。 ここはAIの仕事ではありません。

  • 「痛い」「腫れ」「血が出る」「取れた」「折れた」などの言葉を一覧にしておき、含む問い合わせは「症状の相談」として、AIに渡さず受付と院長に回す
  • それ以外の問い合わせには、医院の決まりの表から、診療時間、休診日、駐車場、初診の持ち物、支払いの方法、料金の目安を拾って添える
  • 予約の変更なら、その患者さんの今の予約の日時を予約の台帳から拾う

3. 下書きする:AIが返事を書く。 AIに、問い合わせと、拾った決まりと予約の日時を渡し、返事を下書きさせます。

  • 診療時間や駐車場などは、表にある内容だけで答える
  • 予約の変更は「ご希望の日時を確かめてお返事します」と書き、日時を約束しない
  • 保険と自費の違いは、表にある一般的な説明と料金の目安だけを書き、「詳しくは来院時に歯科医師がご説明します」と添える

4. 確かめて送る:受付が予約の空きと内容を確かめて送る。 受付が予約の台帳で空きを確かめ、日時を入れて送ります。下書きに表にない内容が混じっていれば消します。

返事の型をスキルにし、症状の振り分けはAIの外に置く

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

返事の型と医院の言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 返事の型:予約の変更、診療時間、駐車場、保険と自費、初診の持ち物、それぞれの答え方
  • 医院の言葉:あいさつと結びの言葉、医院らしい言葉づかいの見本を3つ
  • 書いてはいけないこと:病名、治療の方法やすすめ、「痛くない」「すぐ終わる」などの効果の言い切り、表にない料金、予約の日時の約束

症状の振り分けと予約の空きは、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、症状の言葉の一覧で問い合わせを分けること、医院の決まりの表から答えを拾うこと、予約の台帳から今の予約の日時を拾うことが、それに当たります。症状の相談をAIの前で分けておけば、AIが診断や対処を書いてしまうことは起きません。

症状の相談には、受診の案内と急ぎの連絡先だけを返す

症状の相談は、この仕組みでいちばん気をつけるところです。

  • AIの下書きは作りません。受付が、決まった文(受診の案内、予約の取り方、急ぎのときの電話番号、休診日の夜間や休日の歯科の窓口)を送ります
  • 急ぎかどうかの判断が必要なものは、院長か歯科医師に回します
  • 言葉の一覧で拾えなかった症状の相談がAIに渡ったときに備え、スキルの「書いてはいけないこと」にも、診断と対処を入れておきます

言葉の一覧は、はじめは広めに作ります。症状の相談でないものまで拾っても、受付が見て普通の返事に戻せば済みます。逆に、拾い漏らした相談は、受付が確かめる段で気づけるように、一覧の画面に「症状の言葉なし」と分かる印を出します。

受付の仕事は、空きを確かめて送ることになる

仕組みが入ると、問い合わせへの返事は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
問い合わせの置き場 フォーム、メール、メッセージにばらばら 1つの一覧
よくある質問 毎回一から書く 医院の決まりの表から入る
症状の相談 院長に聞くまで止まる 言葉で分け、決まった文で受診を案内
答え方 受付の人によって違う 返事の型でそろう
返事の時期 混む時間帯は夕方や翌日 手が空いたらすぐ、確かめて送る

経営への効果は、初めての患者さんを他院に取られないこと

効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の返事に4分かかっていたものが、下書きを確かめて送る1分半になれば、1件2分半が浮きます。月200件の問い合わせがある医院なら月約8.3時間、1時間あたりの人件費を仮に2,000円として月約1万7,000円分です。

ただ、大きいのは時間ではありません。早く返事をすれば、ほかの医院と比べている途中の患者さんに、先に選んでもらえる機会が増えます。予約の変更にすぐ返事がくれば、通っている患者さんも途切れません。新しいお客様を得るのは、今のお客様を保つより何倍もお金がかかるのですから、問い合わせに早く答えることは、患者さんを集める費用を抑えることにつながります。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月300円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 医院の決まりの表と、返事の型と、書いてはいけないことを決める(医院:院長と受付、半日)。ここがいちばん大事です
  2. 症状の言葉の一覧と、症状の相談に送る決まった文を決める(医院:院長、1時間)
  3. 問い合わせの一覧と、症状の振り分けと、表と予約の台帳からの拾い出しを作る(作る人、1人日)
  4. AIの返事の下書きを作る(作る人、0.5人日)
  5. 1か月、実際の問い合わせで試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の医院での目安
AIの利用料 1件の返事の下書きごとにかかる 月200件で300円ほど(下の計算)
予約の台帳・連絡の手段 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 返事の型と医院の決まりの更新 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり問い合わせと拾った決まりとスキルで2,500トークンを読ませ、400トークンを書かせると見積もると、0.009ドル、1ドル150円で約1.4円です。月200件で270円、300円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が12万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,300円とすると、月約1万7,000円分が浮く医院でおよそ8.3か月です。時間だけで見ると取り戻すのに時間がかかります。初めての患者さんが月に1人でも増えれば、その分は早まります。問い合わせが少ない医院なら、医院の決まりの表と返事の型だけ作り、医院で契約したAIのチャットに問い合わせと表を貼って下書きさせるやり方で十分です。

必要な人は3役で、症状の相談を決めるのは歯科医師

役 誰が すること 時間
確かめて送る人 受付 予約の空きを確かめ、下書きを直して送る。症状の相談に決まった文を送る 1件1分半
決まりを保つ人 院長 医院の決まりの表と返事の型を保ち、急ぎの相談を判断する 週15分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 一覧、振り分け、拾い出し、下書きを作る 最初の2人日

いちばん大事なのは、休診日や料金の目安が変わったら、その日に医院の決まりの表を直すことです。表が古いと、AIは古い内容で返事を書きます。

1か月で返事がそろい、半年で初診の変化が分かる見込み

どこまでいけるかは、医院の決まりの表と症状の言葉の一覧がどれだけ整うかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 実際の問い合わせで試す。表にない質問と、拾い漏らした症状の言葉を足す
3か月 よくある質問が表でほぼ答えられ、受付による答え方の違いがなくなる
半年 問い合わせから初診の予約になった数を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを記録します。

  • 問い合わせから返事までの時間:件ごとに記録します
  • 問い合わせから予約になった数:初診と再診に分けて、月ごとに数えます
  • 症状の言葉で分けた数と、拾い漏らした数:言葉の一覧を見直す材料にします

診断や予約の約束をAIに任せると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • 症状の相談にAIが答える。 言葉の一覧でAIの前に分け、受付が決まった文で受診を案内します
  • AIが予約の日時を約束する。 受付が予約の台帳で空きを確かめてから入れます
  • 「痛くない治療」などの言い切りを返事に書く。 スキルの「書いてはいけないこと」に入れ、受付も確かめます。ホームページに載せる文章は医療広告のルールの対象になるため、歯科医院のお知らせを医療広告のルールに沿って書く。AIが下書きし院長が確かめるの進め方で院長が確かめます
  • 医院の決まりの表を直さない。 変わった日に直す担当を決めます

患者さんの名前や連絡先、問い合わせに書かれた体の様子は、外に出してはいけない情報です。医院で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、どこまでAIに渡すかを医院の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • フォーム、メール、メッセージの問い合わせを1つの一覧に集める
  • 痛みや腫れなど症状の相談は、言葉の一覧でAIの前に分け、受付が受診の案内と急ぎの連絡先を送る
  • それ以外は、医院の決まりの表から答えを拾い、AIが返事を下書きする。予約の日時は約束させない
  • 受付が予約の空きを確かめて送り、表が変わったらその日に直す
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2人日。AIの利用料は月300円ほど

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