入居者の修繕の連絡に、その日のうちに返す。返事と業者への依頼をAIで
この記事では、小さな賃貸管理会社の事務をAIで減らす。入居者の対応とオーナー報告を速くの「入居者の問い合わせには、返事と修繕の手配をAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、入居者からの修繕の連絡を1つの一覧に集める。水漏れやガスなどの急ぎと、騒音などの近隣の相談は、言葉の一覧で拾って担当者に回す。それ以外は、設備の台帳と業者の一覧から情報を差し込み、AIが入居者への返事と業者への依頼を下書きする。担当者が費用の負担と手配を決めて送り、対応の日数は台帳で数えるという形です。連絡を受けたその日に返事をし、修繕が止まったままにならないようにします。
修繕が遅れると、入居者が自分で直し、家賃も減ることがある
民法では、貸す側(オーナー)は、住むために必要な修繕をする義務を負います(第606条。入居者のせいで必要になった修繕は除きます)。
2020年4月に施行された改正で、入居者が自分で修繕できる場合が条文になりました(第607条の2)。入居者が修繕が必要だと伝えたのに、オーナーが相当の期間内に修繕しないときと、急ぎの事情があるときです。入居者が払った必要な費用は、オーナーに直ちに請求できます(第608条)。
部屋の一部が使えなくなったときは、入居者のせいでなければ、使えない部分の割合に応じて家賃が減ります(第611条)。国土交通省が掲載している相談対応の事例集(平成30年3月)は、この改正を受けて国の賃貸住宅標準契約書も改められ、減る程度や期間を貸主と借主が話し合うことが定められたと説明しています。同じ事例集は、話し合いによって、速やかな修繕や代わりの手段の用意などの対応が決まるとしています。
つまり、修繕の連絡への対応が遅れると、管理会社が預かるオーナーの家賃と費用に、そのまま響くおそれがあります。返事が遅いことは、入居者の不満と退去にもつながります。
管理戸数が200戸以上で登録した管理業者は、オーナーに出す管理業務報告書に、入居者からの苦情の発生と対応の状況を書きます(賃貸住宅管理業法の施行規則第40条。税理士法人の解説でも同じ中身が紹介されています)。修繕の連絡を記録に残しておくことは、この報告の材料にもなります。
今は担当者が、連絡を受けるたびに一から書いている
多くの小さな賃貸管理会社では、修繕の連絡が次のように扱われています。
- 入居者から電話、メール、メッセージで「台所の水の出が悪い」「エアコンが動かない」と届く
- 担当者が、物件の資料と契約書を探し、設備の型番や設置した年を確かめる
- 入居者に返事を書き、業者にも依頼を一から書く
- 外回りの日は、返事が翌日以降になる。業者の返事を待つ間に、どこまで進んだかが分からなくなる
連絡がメールと電話のメモに分かれていると、ほかの担当者には進み具合が見えません。入居者から「その後どうなりましたか」と聞かれて、初めて止まっていたことに気づくこともあります。
集め、急ぎを分け、AIが書き、担当者が決めて送る
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:連絡を1つの一覧に集める。 電話、メール、メッセージで届いた連絡を、物件と部屋ごとに1つの一覧に集めます。電話で受けたものは、受けた人が一言で入れます。受けた日が自動で残ります。
2. 拾う:急ぎと近隣の相談を分け、台帳から情報を拾う。 ここはAIの仕事ではありません。
- 「水漏れ」「ガス」「焦げ臭い」「漏電」「鍵が開かない」など、会社で決めた急ぎの言葉を含む連絡は、担当者がすぐに電話する側に分ける。AIの下書きは待たない
- 「音」「におい」「隣の」など、近隣の相談の言葉を含む連絡は、担当者が自分で対応する側に分ける
- それ以外は、設備の台帳から、その部屋の設備の型番、設置した年、保証の期限を拾い、業者の一覧から、その設備を頼む業者を拾う
3. 下書きする:AIが返事と依頼を書く。 AIに、連絡と、拾った設備と業者の情報を渡し、2つの下書きを作らせます。
- 入居者への返事:受け付けたことと、確かめたいこと(いつから、どの場所、写真があれば)と、次に何をするかを書く。費用を誰が負担するかは書かない
- 業者への依頼:物件、部屋、症状、設備の型番と設置した年、入居者の都合のよい日時を聞く欄
4. 決めて送る:担当者が費用の負担と手配を決めて送る。 担当者が、契約と特約、保証の期限を確かめて、修繕を誰の費用で行うか、業者に頼むかを決めます。オーナーの了解が要る金額なら、先にオーナーに連絡します。それから返事と依頼を送ります。
返事の型をスキルにし、急ぎの仕分けと日数はAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
返事と依頼の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 返事の型:設備の故障、水回り、建具、共用部、それぞれで入居者に確かめたいこと
- 業者への依頼の型:業者ごとに欲しい情報の並べ方
- 会社の言葉:あいさつと結びの言葉、会社らしい言葉づかいの見本を3つ
- 書いてはいけないこと:費用の負担の約束、修理の日時の約束、故障の原因の決めつけ、家賃の減額についての判断
急ぎの仕分けと対応の日数は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、言葉の一覧で急ぎと近隣の相談を分けること、設備の台帳と業者の一覧から情報を拾うこと、連絡を受けた日からの日数を数えることが、それに当たります。急ぎの連絡をAIの前で分けておけば、下書きを待って電話が遅れることは起きません。
対応の台帳が、止まっている修繕を見つける
この仕組みでいちばん効くのは、AIの下書きよりも、受けた日と進み具合を残す台帳です。
- 連絡ごとに、受けた日、返事を送った日、業者に頼んだ日、直った日を残します
- 受けた日から決めた日数(たとえば3日)が過ぎても直っていない件には、計算で印を付け、毎朝の一覧の上に出します
- 月末には、この台帳から件数と対応の日数を数え、オーナーへの報告の材料にします
オーナーへの報告の作り方は、オーナー報告を月末の夜に書かない。台帳と対応の記録からAIが下書きで説明しています。修理の依頼に候補日を返す考え方は、工事店の側の例ですが、修理の依頼に当日中に候補日を返す。問い合わせからAIが返事を下書きで説明しています。
担当者の仕事は、負担を決めて手配することになる
仕組みが入ると、修繕の連絡への対応は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 連絡の置き場 | 電話のメモ、メール、メッセージにばらばら | 物件と部屋ごとの1つの一覧 |
| 設備の情報 | 資料と契約書を探す | 設備の台帳から入る |
| 急ぎの連絡 | ほかの連絡と同じ順番で見る | 言葉で分け、すぐに電話する |
| 業者への依頼 | 一から書く | 型にそろった下書きを確かめる |
| 進み具合 | 担当者の頭の中 | 台帳に日付が残り、止まった件に印 |
経営への効果は、オーナーの家賃と信頼を守ること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、1件の返事と業者への依頼に15分かかっていたものが、下書きを確かめて送る6分になれば、1件9分が浮きます。月60件の修繕の連絡がある会社なら月9時間、1時間あたりの人件費を仮に2,000円として月約1万8,000円分です。
ただ、大きいのは時間ではありません。修繕が遅れれば、入居者が自分で直してオーナーに費用を請求したり、使えない部分の家賃が減ったりするおそれがあります。返事が早く、進み具合をオーナーに報告できる管理会社は、オーナーから管理を任され続けます。管理を預かる戸数を保つことが、管理会社の売上を支えます。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月120円ほど
作る順番と、かかる日数
- 返事と依頼の型と、書いてはいけないことを決める(会社:社長と担当者、半日)。ここがいちばん大事です
- 急ぎと近隣の相談の言葉の一覧と、急ぎのときの電話の順番を決める(会社:社長、1時間)
- 設備の台帳と業者の一覧を整え、連絡の一覧と拾い出しを作る(作る人、1人日。台帳がない会社は、主な設備から入れ始めます)
- AIの下書きと、対応の日数の印を作る(作る人、0.5人日)
- 1か月、実際の連絡で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 1件の返事と依頼の下書きごとにかかる | 月60件で120円ほど(下の計算) |
| 連絡の手段・表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 型と設備の台帳と業者の一覧の更新 | 月1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1件あたり連絡と設備の情報とスキルで3,000トークンを読ませ、返事と依頼の2つで700トークンを書かせると見積もると、0.013ドル、1ドル150円で約2円です。月60件で約120円です。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が12万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を約2,100円とすると、月約1万8,000円分が浮く会社でおよそ7.6か月です。連絡が少ない会社なら、型と言葉の一覧と対応の台帳だけ作り、会社で契約したAIのチャットに連絡と設備の情報を貼って下書きさせるやり方で十分です。
必要な人は3役で、費用の負担を決めるのは担当者
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 決めて送る人 | 物件の担当者 | 費用の負担と手配を決め、返事と依頼を送る。急ぎは電話する | 1件6分 |
| 決まりを保つ人 | 社長 | 型と言葉の一覧を保ち、止まった件を毎朝確かめる | 週15分 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 一覧、拾い出し、下書き、日数の印を作る | 最初の2人日 |
いちばん大事なのは、設備の台帳を、交換や修理のたびに直すことです。台帳が古いと、業者に違う型番を伝えてしまいます。
1か月で返事がそろい、半年で対応の日数の変化が分かる見込み
どこまでいけるかは、設備の台帳と業者の一覧がどれだけ整うかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の1か月 | 実際の連絡で試す。型にない症状と、拾い漏らした急ぎの言葉を足す |
| 3か月 | 台帳の日付が定着し、止まった件が毎朝の一覧で見つかる |
| 半年 | 連絡から直るまでの日数と、入居者からの催促の数を、仕組みの前と比べられる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 連絡から最初の返事までの時間:件ごとに記録します
- 連絡から直るまでの日数:設備の種類ごとに月ごとにまとめます
- 入居者からの「その後どうなりましたか」の数:止まった件の見落としを測る材料にします
費用の負担や急ぎの判断をAIに任せると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- AIが費用の負担を書く。 契約と特約、保証を確かめて、担当者が決めます
- 急ぎの連絡にAIの下書きで返す。 言葉の一覧でAIの前に分け、すぐに電話します
- 家賃の減額にAIが触れる。 減額の程度や期間は、オーナーと入居者の話し合いで決まります。返事には書かせません
- 台帳に日付を入れない。 止まった件が見えなくなり、仕組みの効き目がなくなります
入居者の名前や連絡先は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、どこまでAIに渡すかを会社の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 入居者の修繕の連絡を、電話の分も含めて物件と部屋ごとの1つの一覧に集める
- 水漏れやガスなどの急ぎと近隣の相談は、言葉の一覧でAIの前に分け、担当者がすぐに対応する
- それ以外は、設備の台帳と業者の一覧から情報を拾い、AIが入居者への返事と業者への依頼を下書きする
- 費用の負担と手配は担当者が決め、受けた日から直った日までを台帳に残して、止まった件に印を付ける
- 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2人日。AIの利用料は月120円ほど