仕事が止まった朝、取引先への第一報を1時間で出す。受注の表からAIが下書き
この記事では、災害の翌日も取引先への供給を止めない。事業継続の計画をAIで1枚から作るの「取引先への第一報の文」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、仕事が止まった朝、責任者が「止まった仕事」「再開の見込み」「次の連絡の時刻」の3つの欄を入れる。受注と出荷の予定表から、影響する注文を取引先ごとに計算で拾う。AIが取引先ごとの第一報を下書きし、営業の責任者が確かめて送るという形です。災害だけでなく、システムの停止や仕入先の停止のときにも使えます。いちばん人手が足りない朝に、取引先を待たせないことが狙いです。
止まった朝は人が足りず、取引先は情報を待っている
帝国データバンクが2026年5月に行った調査(全国2万2,749社が対象、1万521社が回答)では、事業継続の計画を作ろうとしている企業が想定するリスクは、「自然災害」が最も多く、「情報セキュリティ上のリスク」が続きました。「物流の混乱」を挙げる企業も前年より増えています(LOGISTICS TODAYとHRプロの報道による)。地震や水害だけでなく、システムや物流が止まって、自社の仕事が止まる場面が増えると見ている会社が多いということです。
仕事が止まった朝、会社の中は手が足りません。社員の安否を確かめ、設備や建物の様子を見て、仕事を再開できるかを決める。その間にも、取引先は「今日の納品は来るのか」を知りたがっています。連絡が遅れれば、取引先は自分で代わりの仕入先を探し始めます。いったん移った注文は、戻ってこないこともあります。
第一報は、完全な情報でなくてかまいません。「何が起きたか」「どの注文に影響しそうか」「次にいつ連絡するか」が早く届くことが大事です。
今は営業が一社ずつ、注文を調べて電話している
多くの小さな会社では、仕事が止まった朝の連絡は次のように行われています。
- 社長や工場長が、止まった仕事と再開の見込みを営業に口頭で伝える
- 営業が、受注の表を見て、影響する注文がある取引先を探す
- 取引先ごとに、注文の番号と納期を確かめて、電話かメールで連絡する
- 取引先が30社あれば、昼を過ぎても連絡が終わらない。誰に連絡したかが分からなくなる
取引先によって伝える内容がばらつき、ある取引先には「明日には再開」と言い、別の取引先には「未定」と言ってしまうこともあります。言った内容が食い違うと、あとで信頼を失います。
状況を入れ、影響する注文を拾い、AIが書き、責任者が送る
仕組みは4つの段でできています。
1. 入れる:責任者が状況を3つの欄に入れる。 社長か工場長が、次の3つを入れます。
- 止まった仕事:「工場の生産と出荷」「受注のシステム」など
- 再開の見込み:「未定」か、決まっていれば日付
- 次の連絡の時刻:「本日15時」など
この3つは、会社として決めた1つの答えです。営業がそれぞれ違うことを言わないようにします。
2. 拾う:影響する注文を、取引先ごとに計算で拾う。 ここはAIの仕事ではありません。
- 受注と出荷の予定表から、止まった仕事にかかわる注文で、納期が今日から決めた日数(たとえば7日)以内のものを拾う
- 取引先ごとに、注文の番号、品名、数量、納期を並べる
- 連絡先の表から、取引先ごとの担当者と連絡の手段を拾う
3. 下書きする:AIが取引先ごとの第一報を書く。 AIに、3つの欄と、取引先ごとに拾った注文を渡し、第一報を下書きさせます。
- 何が起きたか(入れた「止まった仕事」の言葉で)
- 影響しそうな注文(拾った表をそのまま差し込む)
- 再開の見込み(入れたとおり。「未定」なら未定と書く)
- 次の連絡の時刻と、急ぎの問い合わせ先
4. 確かめて送る:営業の責任者が確かめて送り、記録を残す。 営業の責任者が、取引先ごとの下書きを確かめて送ります。大事な取引先には、送ったあとに電話もします。送った時刻を記録し、次の連絡の時刻が来たら、同じ仕組みで続報を出します。
第一報の型をスキルにし、注文と見込みはAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
第一報と続報の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 第一報の型:起きたこと、影響しそうな注文、再開の見込み、次の連絡の時刻、の並べ方
- 続報の型:前の連絡からの変化、新しい見込み、次の連絡の時刻
- 会社の言葉:おわびの言葉、取引先の呼び方、会社らしい言葉づかいの見本
- 書いてはいけないこと:入れていない再開の日、補償や値引きの約束、被害の大きさの推測、ほかの取引先の名前や事情
影響する注文と再開の見込みは、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、責任者が入れる3つの欄を1つの答えとして持つこと、受注と出荷の予定表から影響する注文を計算で拾うこと、送った記録と次の連絡の時刻を表で持つことが、それに当たります。AIが注文の番号や納期を書き間違えたり、再開の日を「明日」と書いてしまったりすることを防ぎます。
送った記録が、続報の漏れと言い違いを防ぐ
この仕組みでいちばん効くのは、送った記録です。
- 取引先ごとに、送った時刻、送った人、伝えた再開の見込みを残します
- 次の連絡の時刻が近づいたら、まだ続報を出していない取引先を計算で一覧にします
- 取引先から電話で聞かれたときも、記録を見れば、前に何を伝えたかが分かります
止まった状態が何日か続くと、続報の数が増えます。記録がないと、どの取引先にいつ何を伝えたかが分からなくなり、言い違いが起きます。
営業の責任者の仕事は、確かめて送り、電話をすることになる
仕組みが入ると、仕事が止まった朝の連絡は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 伝える内容 | 営業ごとにばらつく | 責任者が入れた3つの欄にそろう |
| 影響する注文 | 受注の表を一社ずつ調べる | 取引先ごとに計算で並ぶ |
| 第一報 | 一社ずつ電話とメールを書く | 下書きを確かめて送る |
| 30社への連絡 | 昼を過ぎても終わらない | 1時間ほどで送り終える |
| 続報 | 誰に送ったか分からなくなる | 送った記録から、まだの取引先が並ぶ |
経営への効果は、取引先を待たせず、注文を移されないこと
効果は、前提を置いて考えます。仮に、1社あたり、注文を調べて連絡を書くのに12分かかっていたものが、下書きを確かめて送る2分になれば、取引先30社で6時間かかっていた連絡が、1時間ほどで終わります。
この5時間は、ふだんの5時間とは違います。仕事が止まった朝の5時間は、安否の確かめ、設備の確かめ、再開の判断に使いたい時間です。そして、取引先にとっては、情報が5時間早く届くことになります。取引先が代わりの仕入先を探し始める前に、影響する注文と次の連絡の時刻を伝えられれば、注文を移されるおそれを小さくできます。
止まったときの損は、次の式で考えます。
止まったときの損 = 1日あたりの粗利 × 止まった日数 + 取引先が離れた分
この仕組みが小さくするのは、式の最後の「取引先が離れた分」です。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は1回50円ほど
作る順番と、かかる日数
- 第一報と続報の型と、書いてはいけないことを決める(会社:社長と営業の責任者、半日)。ここがいちばん大事です
- 3つの欄の入れ方と、誰が入れるかを決める(会社:社長、30分。事業継続の計画の「最初の1日にすること」に書きます)
- 受注と出荷の予定表から、影響する注文を取引先ごとに拾う仕組みを作る(作る人、0.5人日)
- AIの下書きと、送った記録の表を作る(作る人、0.5人日)
- 訓練のときに、実際の受注の表で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計1.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 取引先1社の第一報の下書きごとにかかる | 30社への第一報で約45円(下の計算) |
| 受注の表・メール | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 型と連絡先の表の更新 | 半年に1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1社あたり3つの欄と拾った注文とスキルで2,500トークンを読ませ、500トークンを書かせると見積もると、0.01ドル、1ドル150円で1.5円です。30社で約45円です。ふだんは使わないので、毎月の利用料はかかりません。
何か月で取り戻せるか
この仕組みは、ふだんの時間を浮かせて取り戻すものではありません。作る費用は、仕事が止まったときに取引先を待たせないための備えです。年1回の訓練で動かしておけば、止まった朝にも迷わず使えます。訓練の進め方は、災害の訓練を年1回30分で。AIが筋書きを作り、止まった所から計画を直すで説明しています。
必要な人は3役で、見込みを決めるのは社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 決める人 | 社長か工場長 | 3つの欄を入れ、見込みが変わったら入れ直す | 1回5分 |
| 送る人 | 営業の責任者 | 下書きを確かめて送り、大事な取引先に電話する | 1社2分 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 注文の拾い出し、下書き、送った記録を作る | 最初の1.5人日 |
いちばん大事なのは、3つの欄を入れるのを1人に決めておくことです。何人もが違う見込みを入れると、取引先への言い違いが起きます。
訓練で一度動かし、半年ごとに表を確かめる見込み
どこまでいけるかは、受注の表と連絡先の表がどれだけ正しく保たれているかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 作ってから1か月 | 訓練で、実際の受注の表から第一報を作ってみる。送るのは社内の宛先にする |
| 半年 | 連絡先の表を確かめ、担当が替わった取引先を直す |
| 止まったとき | 1時間ほどで第一報を送り終え、続報も記録から漏れなく出せる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 止まってから第一報を送り終えるまでの時間:訓練でも記録します
- 続報を出し忘れた取引先の数:送った記録から数えます
- 取引先から「連絡がない」と言われた数:止まったときに数えます
再開の日や補償をAIに書かせると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- AIが再開の日を書く。 再開の見込みは責任者が入れたとおりにし、入れていなければ「未定」と書かせます
- AIが補償や値引きを約束する。 スキルの「書いてはいけないこと」に入れ、必要なら社長が個別に話します
- ほかの取引先の名前が混ざる。 取引先ごとに拾った注文だけを渡し、送る前に宛先と中身を照らします
- ふだん使わず、いざというときに動かない。 年1回の訓練で動かし、受注の表の形が変わったら拾い出しを直します
取引先の名前や注文の中身は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、どこまでAIに渡すかを会社の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 仕事が止まった朝、責任者が「止まった仕事」「再開の見込み」「次の連絡の時刻」の3つの欄を入れ、会社としての答えを1つにする
- 受注と出荷の予定表から、影響する注文を取引先ごとに計算で拾う
- AIが取引先ごとの第一報を下書きし、再開の日や補償は書かせない
- 営業の責任者が確かめて送り、送った記録から続報の漏れを防ぐ
- 作る側の目安は1.5人日。AIの利用料は30社への第一報で約45円。年1回の訓練で動かしておく