営業の生成AI研修を助成金の対象で組む|10時間の時間割と出す書類
この記事では、生成AI研修に助成金は使える?|経費の75%、8月から汎用の講座は対象外の「業務と担当者を書き出し、研修の計画をAIで下書きする」を、営業担当者の研修で具体的に組む方法を説明します。
一言でいうと、営業の提案書の業務に絞って、10時間の研修の時間割を作る。研修は勤務時間の中で、自社の商品資料を教材にして行う。研修を始める日の1か月前までに労働局へ計画届を出し、研修のあと2か月以内に支給を申請する。AIは時間割の下書きと、対象外になりそうな点の点検を手伝い、対象になるかの確認は社長が労働局で行うという形です。
対象になるかは、研修の中身が営業の業務に直結しているかで決まる
厚生労働省の人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」は、会社のデジタル化(DX)などに必要な専門の知識や技能を身につける研修に、経費と賃金の一部を助成します。中小企業は、研修の経費の75%と、研修の時間1人1時間あたり1,000円が対象です(厚生労働省のご案内、Uravationの解説による)。
2026年8月3日以降に出す計画から、職種を問わない汎用の内容は対象外になりました。厚生労働省の案内では、生成AIのための汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ研修は対象外、営業担当者が生成AIで商品提案書の構成案を作り、文章を作って直す方法を学ぶ研修は対象の例として挙げられています。
この記事では、その対象の例に沿って、営業担当者3人が受ける研修を組みます。条件は2026年10月時点のもので、最終の判断は管轄の労働局が行います。
今は、研修会社の講座をそのまま申し込んでいる
AIの研修を考えた社長がよくやるのは、研修会社の「生成AI入門」の講座を探し、社員を何人か申し込ませることです。ここには3つの落とし穴があります。
- 講座の中身が汎用的。 「プロンプトの基本」「AIでできること」だけの講座は、8月の改正で対象外の例に当たります
- 受ける人と中身が合っていない。 営業の研修を、事務や人事の担当者も一緒に受けると、その人の分は対象外になります
- 申し込んでから計画を考える。 計画届は研修を始める日の1か月前までに出す必要があり、気づいたときには間に合わないことがあります
業務を書き出し、AIが時間割を下書きし、人が詰めて出す
1 書き出す(社長)。 研修の対象にする業務を「新しい引き合いへの提案書の作成」のように1つに絞ります。受ける社員(営業担当3人など)、今の提案書づくりにかかっている時間、研修のあと何ができるようになってほしいかをメモにします。
2 下書きする(AI)。 メモと研修会社の講座の案内をもとに、10時間の時間割と、対象外になりそうな点の一覧を下書きしてもらいます。
3 詰める(人)。 社長が研修会社と話し、自社の商品資料や過去の提案書(お客さまの名前を消したもの)を教材にした演習に変えてもらいます。
4 出す(人)。 研修を始める日の6か月前から1か月前までに、計画届を管轄の労働局へ出します。厚生労働省のご案内によると、主な書類は職業訓練実施計画届、事業展開等実施計画、対象労働者の一覧、研修の中身が分かるカリキュラムです。
研修が終わったら、経費を全額払い、終了日の翌日から2か月以内に支給を申請します。
時間割は、自社の資料を使う演習を中心にする
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、当社の社長のメモと研修会社の講座の案内です。営業担当者3人が、生成AIで商品提案書を作れるようになるための10時間の研修の時間割を、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースに出す前提で下書きしてください。時間ごとに、中身と、自社のどの資料を教材に使うかを書いてください。そのあと、職種を問わない汎用の内容になっている時間と、昼食や移動の時間が10時間に混ざっていないかを点検してください。メモにないことは書かず、社員とお客さまの名前は書かないでください。
返ってくる時間割(見本):
| 時間 | 中身 | 教材 |
|---|---|---|
| 1日目 2時間 | 自社の提案書の型と、AIに渡す材料(商品資料、引き合いのメモ)の整え方 | 過去の提案書3件(名前を消したもの) |
| 1日目 2時間 | 引き合いのメモから提案書の構成案を作る演習 | 自社の商品資料 |
| 2日目 3時間 | 構成案から本文を作り、数字と言い回しを直す演習 | 自社の価格表、納期の資料 |
| 2日目 2時間 | お客さまの業種ごとの書き分けの演習 | 業種ごとの引き合いのメモ |
| 2日目 1時間 | 演習で作った提案書の発表と、講師からの直し | 演習の成果物 |
点検の結果の見本:
- 講座の案内の「AIの仕組みと歴史」(1時間)は、どの職種にも共通する内容に見えます。この時間割では外しています
- 合計は10時間で、昼食と移動を含めていません。下限ちょうどなので、当日の遅れで10時間を割らないよう、研修会社と余裕を確かめてください
時間割の型をスキルにし、対象の判断はAIの外に置く
時間割の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「時間割の型(時間、中身、教材)」「点検の項目(汎用の内容がないか、受ける社員と中身が合っているか、10時間以上か、昼食と移動を含めていないか、勤務時間の中か)」「書いてはいけないこと(社員とお客さまの名前、メモにない数字)」をスキルにします。営業のあとに事務の研修を組むときも、同じ型で下書きできます。
対象の判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、研修の対象にする業務を社長が決めること、計画届を出す前に労働局に相談すること、計画届の提出日と支給申請の期限を社内の表で管理することがそれに当たります。
研修の前に、社内の2つの準備をそろえる
厚生労働省の詳細版のご案内によると、このコースを使う会社は、次の2つを計画届を出す日までにそろえる必要があります。
- 職業能力開発推進者を決める。 社内で研修の計画を進める担当者です。厚生労働省のご案内では、研修や人事を担当する課長などを選ぶとしています
- 事業内職業能力開発計画を作り、社員に知らせる。 会社として、どんな人材を育てるかの基本の計画です。各都道府県の労働局で作り方の相談を受け付けています
研修の形も確かめます。研修会社が企画して開く講座に社員を出すのは「事業外訓練」、会社が企画して講師を呼ぶのは「事業内訓練」で、要件が違います。事業内訓練は、通学か、オンラインで講師とやりとりできる形に限られ、講師にも経験などの要件があります。
社長の仕事は、業務を1つ選び、勤務時間の中で受けさせることになる
社長がすることは、次の3つです。
- 研修の対象にする業務を1つ選ぶ。 提案書の作成のように、研修のあと毎週使う業務を選びます
- 勤務時間の中で受けさせる。 厚生労働省の詳細版のご案内によると、勤務時間の外や休日に行った研修の時間は、賃金助成の対象外です。年次有給休暇を使って受けさせる研修は、助成の対象になりません
- 研修のあと、使っているかを見る。 研修で作った提案書の型を、翌月の引き合いで使っているかを確かめます
経営への効果は、提案書を作る力を4分の1の費用で身につけること
計算の例です(前提はすべて仮定で、実際の助成額は労働局の審査で決まります)。中小企業で、営業担当3人が通学型の研修を10時間受け、受講料が1人10万円だったとします。
- 経費助成:10万円の75%で1人7.5万円、3人で22.5万円(1人あたりの上限30万円の内側)
- 賃金助成:10時間×1,000円×3人で3万円
- 会社の受講料の負担:30万円−22.5万円で7.5万円。ほかに賃金助成の3万円が入る
研修の中身が自社の提案書なので、研修で作った型をそのまま翌月から使えます。引き合いへの返事が早くなれば、商談の機会を逃しにくくなります。どのくらい早くなるかは会社ごとに違うので、研修の前後で、提案書1件にかかる時間を記録して比べます。
費用は受講料の4分の1と、AIの利用料が数十円ほど
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| 研修の受講料(会社の負担) | 上の例で7.5万円(受講料30万円の4分の1) |
| 研修中の賃金 | 勤務時間の中なので普段どおり払う。1人1時間1,000円の賃金助成が入る |
| 時間割の下書きと点検のAIの利用料 | 1回あたり入力1万字・出力3千字ほどを3回やり直すとして、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で20円ほど |
| 社長の時間 | 業務の書き出しと研修会社との打ち合わせで数時間 |
厚生労働省の詳細版のご案内では、内容が同じなのに助成金を申請する場合だけ受講料が通常より著しく高いときは、差額を経費として認めない場合があるとしています。また、2026年5月14日の支給要領の改正で、受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号)の提出が必要になりました。同じ講座の通常の受講料と比べて、不自然に高くないかを確かめます。
必要な人は3役で、決めるのは社長
- 社長:研修の対象にする業務を決め、研修会社と中身を詰め、労働局に相談する
- 職業能力開発推進者:計画届と支給申請の書類をそろえ、期限を管理する
- 受ける営業担当者:演習で作った提案書を、研修のあとの引き合いで使う
書類が多いと感じたら、社会保険労務士に申請の手続きを頼む方法もあります。頼む費用は、助成額と比べて決めます。
1か月で準備し、研修の1か月前までに計画を出す見込み
日程の目安です。研修を始める日を基準に、逆算します。
- 1〜2週目:業務の書き出し、AIでの時間割の下書き、研修会社との打ち合わせ
- 3〜4週目:職業能力開発推進者を決め、事業内職業能力開発計画を作って社員に知らせる。労働局に相談する
- 研修を始める1か月前まで:計画届を出す
- 研修:2日間で10時間
- 研修が終わった翌日から2か月以内:経費を全額払ってから、支給を申請する
このコースは令和8年度末までの時限措置です。2026年10月時点では、年内に計画を出せば、年度内に研修を終えられる日程を組みやすくなります。2027年度以降の扱いは、厚生労働省の発表を確かめてください。
汎用の時間と、勤務時間の外の研修が混ざると失敗する
よくある失敗は次の4つです。
- 汎用の時間が混ざる。 「AIの基本」の時間が多いと、研修の目的が営業の業務から外れて見えます。自社の資料を使う演習を中心にします
- 10時間を割る。 昼食や移動の時間は数えません。下限ちょうどで組むと、当日の遅れで割ることがあります
- 営業の現場で行う。 営業の同行や、営業中の店舗で行う研修は、通常の業務と区別できないため対象外です。会議室など業務と分けた場所で行います
- 教材を使わない。 文章や図で中身を示した教材を使わない講習は、対象外になります。演習の手順書を教材として用意します
社内でAIを使うときの決まりは、生成AIの社内ルールの作り方|A4で1枚、社員が安心して使える3つの決めごとにまとめています。研修の前に配っておくと、演習で何を入れてよいかに迷いません。
まとめ
- 営業の生成AI研修は、提案書の作成のように業務を1つに絞り、自社の資料を使う演習を中心に10時間で組む
- AIには時間割の下書きと、汎用の時間や10時間を割る点の点検を任せ、対象かどうかの確認は社長が労働局で行う
- 計画届は研修を始める日の6か月前から1か月前までに出し、研修のあと2か月以内に支給を申請する
- 研修は勤務時間の中で行い、業務と分けた場所で、教材を使う
- 上の例では、受講料30万円のうち会社の負担は7.5万円で、ほかに賃金助成が3万円入る