セキュリティの確認票に1日で答える。実施状況の表と過去の回答からAIが下書き
この記事では、取引先にセキュリティ対策を聞かれても困らない。社内の決まりと回答をAIで整えるの「AIは社内の決まりと、確認票への回答を下書きする」と「出した回答を貯める」を、仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、取引先から届いた確認票の項目を、1行ずつ表にする。会社の対策の実施状況の表と、過去に出した回答から、項目ごとに関係する行を拾う。AIが項目ごとの回答を下書きし、「している」と書いた回答が実施状況の表と合っているかを計算で照らす。社長が確かめて出し、出した回答を取引先ごとに残すという形です。確認票が届くたびに一から考え、取引先ごとに答えが食い違う状態をなくします。
確認票に正直に、早く答えることが、取引を守る
情報処理推進機構(IPA)が2024年10月から11月に全国の中小企業4,191社に行った調査では、2023年度に被害に遭った企業の、過去3期の被害額の平均は73万円、復旧までの期間の平均は5.8日でした(@IT、ScanNetSecurityの報道による)。取引先にとっても、仕入先や外注先が止まれば自社の仕事が止まります。
そのため、取引先が仕入先や外注先に、セキュリティ対策の確認票を送ることがあります。国も、IPAが運営する「SCS評価制度」で、会社の対策の水準を取引先に示せる仕組みを作っています。制度の細かい中身は2026年度に詳しく決めて公開するとされていて、使う前に最新の案内で確かめる必要があります。
確認票への答えで大事なのは、2つです。実際にしていることだけを書くこと(正直さ)と、待たせないこと(早さ)です。していない対策を「している」と書けば、あとで分かったときに信頼を失います。答えが遅ければ、対応できない会社だと見られます。
今は確認票が届くたびに、担当者が一から考えている
多くの小さな会社では、確認票への対応が次のように行われています。
- 取引先から、数十の項目がある表計算のファイルが届く
- 担当者が、項目の意味を調べながら、記憶と社内の人への聞き取りで答える
- 分からない項目は、社長やシステムの担当会社に聞く。返事を待つ間に期限が近づく
- 出した回答は、メールの送信済みに残るだけ。次の取引先から似た確認票が来ても、また一から考える
同じことを聞かれても、取引先Aには「している」、取引先Bには「一部している」と答えてしまうこともあります。どちらが本当かを、社内でも説明できなくなります。
項目を表にし、表と過去の回答を拾い、AIが書き、社長が出す
仕組みは4つの段でできています。
1. 集める:確認票の項目を1行ずつ表にする。 届いた確認票のファイルから、項目を1行ずつ取り出して表にします。項目の番号、聞かれていること、答え方の指定(はい・いいえ、選択肢、自由記述)を並べます。
2. 拾う:実施状況の表と過去の回答から、関係する行を拾う。 ここはAIの仕事ではありません。
- 項目ごとに、実施状況の表(対策の中身、しているか、確かめた日、担当者)から、関係する行を言葉で探して拾う
- 過去に出した回答の台帳から、似た項目への回答を拾う
- 実施状況の表で「最後に確かめた日」が1年を過ぎている行には、印を付ける
3. 下書きする:AIが項目ごとの回答を書く。 AIに、項目と、拾った実施状況の行と、過去の回答を渡し、回答を下書きさせます。
- 答えは「している」「一部」「していない」「確認」のどれかと、短い説明
- 説明には、実施状況の表のどの行をもとにしたかを添える
- 拾った行がない項目は、回答を空けて「確認」と書く
4. 照らして出す:計算で照らし、社長が確かめて出す。 AIの下書きで「している」と書いた項目が、もとにした実施状況の行でも「している」になっているかを、計算で照らします。合わないもの、確かめた日が古いもの、「確認」のものに印を付けます。社長と担当者が、印の付いた項目を実際に確かめ、表を直してから回答を埋めて出します。出した回答は、取引先ごとに台帳に残します。
回答の型をスキルにし、実施状況と照らし合わせはAIの外に置く
この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
回答の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 回答の型:「している」「一部」「していない」「確認」と、短い説明の書き方
- 言葉の言い換え:確認票でよく使われる言い方(多要素認証、脆弱性の管理、インシデントの対応など)と、会社の実施状況の表の言い方の対応
- 過去に出した良い回答の見本
- 書いてはいけないこと:実施状況の表にない対策、使っていない製品の名前、取っていない認証や評価、「万全」「完全」などの言い切り
実施状況の表と、照らし合わせは、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、実施状況の表を社長と担当者が持つこと、項目ごとに関係する行を拾うこと、「している」と書いた回答を表と照らして合わないものに印を付けること、出した回答を取引先ごとに残すことが、それに当たります。AIが言葉の似た対策を取り違えて「している」と書いても、ここで止まります。
回答の台帳が、取引先ごとの食い違いを防ぐ
この仕組みでいちばん効くのは、出した回答の台帳です。
- 取引先ごとに、いつ、どの項目に、どう答えたかを残します
- 次の確認票では、過去の回答が拾われるので、同じことに同じ答えを出せます
- 実施状況の表を直したら(新しい対策を始めた、など)、過去の回答で古くなったものを一覧にできます。取引先に更新を伝えるかどうかを、社長が決めます
確認票を何度か出すと、聞かれることの多い項目が分かります。それが、次に手を付ける対策の優先順位の材料にもなります。
社長の仕事は、印の付いた項目を確かめることになる
仕組みが入ると、確認票への対応は次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 項目の意味 | 一つずつ調べる | 言い換えの表から、社内の言葉に結びつく |
| 回答の元 | 担当者の記憶と聞き取り | 実施状況の表と過去の回答 |
| していない対策 | 「している」と書いてしまうおそれ | 表と照らして印が付く |
| 取引先ごとの答え | 食い違うことがある | 台帳で同じ答えにそろう |
| かかる日数 | 数日から1週間 | 印の項目を確かめて1日ほど |
経営への効果は、取引先を待たせず、正直さで信頼を得ること
効果は、前提を置いて計算します。仮に、確認票が年に4回届き、1回あたり60項目、1項目に6分かかっていたものが、下書きを確かめる1分半になれば、1回で4時間半、年に18時間が浮きます。1時間あたりの人件費を仮に2,000円として、年3万6,000円分、月にならすと月約3,000円分です。
時間だけを見ると、大きな額ではありません。この仕組みの価値は、取引先を待たせないことと、どの取引先にも同じ正直な答えを出せることです。確認票に早く、筋の通った答えを返せる会社は、取引を続けてもらいやすくなります。印の付いた項目から、足りない対策も見えます。
費用は作る費用が中心で、AIの利用料は1回70円ほど
作る順番と、かかる日数
- 実施状況の表を整え、回答の型と書いてはいけないことを決める(会社:社長と担当者、半日)。ここがいちばん大事です
- 確認票でよく使われる言い方と、社内の言い方の対応の表を作る(会社:担当者、1時間。システムの担当会社に見てもらうと確かです)
- 確認票の項目を表にし、実施状況の表と過去の回答から行を拾う仕組みを作る(作る人、0.5人日)
- AIの下書きと、表との照らし合わせと、回答の台帳を作る(作る人、0.5人日)
- 過去の確認票で試して直す(作る人、0.5人日)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
上の手順3〜5で、作る側の目安は合計1.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 項目ごとの回答の下書きにかかる | 60項目の確認票1回で約70円(下の計算) |
| 表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守 | 実施状況の表と言い換えの表の更新 | 半年に1時間 |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。1項目あたり、項目と拾った行と過去の回答とスキルで3,000トークンを読ませ、200トークンを書かせると見積もると、0.008ドル、1ドル150円で1.2円です。60項目で約72円です。
何か月で取り戻せるか
取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)
仮に作る費用が9万円とすると、月約3,000円分が浮く会社では、取り戻すのに2年以上かかります。確認票が年に数回の会社なら、仕組みを作るより、実施状況の表と言い換えの表と回答の型だけを作り、会社で契約したAIのチャットに確認票と表を貼って下書きさせ、表と照らすのを人が行うやり方で十分です。確認票が毎月のように届く会社や、取引先が多い会社ほど、仕組みにする意味が大きくなります。
必要な人は3役で、答えを決めるのは社長
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 決めて出す人 | 社長 | 印の付いた項目を確かめ、答えを決めて出す | 1回1〜2時間 |
| 表を保つ人 | 総務やシステムの担当者 | 実施状況の表と回答の台帳を保ち、確かめた日を直す | 月30分 |
| 作る人 | 社内の詳しい人か、外の作り手 | 項目の取り出し、行の拾い出し、照らし合わせ、台帳を作る | 最初の1.5人日 |
いちばん大事なのは、実施状況の表を、実際に確かめて直し続けることです。表が古いと、AIは古い表のとおりに答えます。
1回目で表の穴が見え、1年で答えがそろう見込み
どこまでいけるかは、実施状況の表がどれだけ正しく保たれるかで決まります。目安は次のとおりです。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 1回目の確認票 | 「確認」の項目が多く出る。確かめた結果を実施状況の表に足す |
| 3回目ごろ | 多くの項目が表と過去の回答から答えられ、1日ほどで出せる |
| 1年 | 取引先ごとの答えがそろい、聞かれることの多い対策から手を付けられる |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- 確認票が届いてから出すまでの日数:回ごとに記録します
- 「確認」になった項目の数:実施状況の表の穴を見る材料にします
- 表と照らして印が付いた数:AIの取り違えと、表の古さを見る材料にします
していない対策を「している」と書かせると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- AIが、言葉の似た対策を取り違えて「している」と書く。 表と照らす計算で印を付け、社長が確かめます
- 実施状況の表を直さない。 確かめた日が1年を過ぎた行に印を付け、確かめ直します
- 取引先ごとに答えが食い違う。 回答の台帳から過去の回答を拾い、同じ答えにそろえます
- 技術の項目をAIの一般論で答える。 設定や製品のことは、システムの担当会社に確かめます
取引先の確認票や、自社の実施状況の表は、外に出してはいけない情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。
まとめ
- 取引先から届いた確認票の項目を、1行ずつ表にする
- 実施状況の表と過去に出した回答から、項目ごとに関係する行を拾う
- AIが項目ごとに「している」「一部」「していない」「確認」と短い説明を下書きし、もとにした行を添える
- 「している」と書いた回答を表と計算で照らし、印の付いた項目を社長が確かめて出し、回答を取引先ごとに残す
- 作る側の目安は1.5人日だが、確認票が少ない会社はAIのチャットと表で十分。AIの利用料は1回70円ほど