業務への組み込み例

取引先のCO2の質問票に1日で答える。項目の整理と回答の下書きはAIで

この記事で変わる経営指標

この記事では、取引先にCO2の量を聞かれても慌てない。計算は表で、回答はAIでの「取引先から質問票が届いたら、質問の整理と回答文を下書きさせる」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、取引先の質問票をAIに読ませ、聞かれている項目を一覧にする。項目ごとに、自社の排出量の表のどの数字で答えるかを対応づけ、表にないものは「未算定」と残す。AIはその対応から回答を下書きし、社長が表と照らして確かめてから送る。送った回答と対応表は、翌年のために残すという形です。

要請の中身は、まず排出量の把握と報告

日本商工会議所と東京商工会議所の「2026年度中小企業の脱炭素に関する実態調査」(2026年7月公表)によると、取引先などから脱炭素の要請を受けている会社は14.2%でした。要請を受けた会社のうち42.8%が、対応が取引の条件か事実上求められていると答え、取引先などから支援を受けている会社は27.6%にとどまりました。要請の中身で最も多かったのは、温室効果ガスの排出量の把握・報告で58.0%です(LOGISTICS TODAY の記事も同じ数字を伝えています)。

取引先から届く質問票は、会社ごとに形が違います。表計算のファイル、ウェブのフォーム、文書など、聞き方も項目もばらばらです。7割の会社が支援なしで自社だけで答えている中で、質問票を読み解く手間を減らすことが、早く正確に答える近道になります。2026年10月時点の情報です。

今は、質問票を前に、何を聞かれているかで手が止まる

多くの小さな会社では、質問票への回答は次のように進みます。

  1. 取引先から、数十の項目がある質問票が届く
  2. 「算定の範囲」「基準年」「削減目標」など、慣れない言葉が並ぶ
  3. どの項目に、自社のどの数字で答えればよいかが分からない
  4. 期限ぎりぎりに、分かる項目だけ埋めて送る

去年の回答が残っていないと、翌年も同じ手間がかかります。項目と自社の数字の対応を、表に残しておきます。

集めて、表で数字を出し、AIが整理と回答を書く

取引先の質問票と自社の排出量の表を集め、排出量と算定の範囲は表で計算しておく。AIが質問票から聞かれている項目を一覧にして表の数字と対応づけ、表にないものは未算定と残して回答を下書きし、社長が表と照らして確かめて送る
取引先の質問票と自社の排出量の表を集め、排出量と算定の範囲は表で計算しておく。AIが質問票から聞かれている項目を一覧にして表の数字と対応づけ、表にないものは未算定と残して回答を下書きし、社長が表と照らして確かめて送る

仕組みは4つの段でできています。

1. 集める:質問票と自社の表をそろえる。 取引先から届いた質問票と、自社の排出量の表(使用量、係数とその年度、算定の範囲、年ごとの排出量)を、1つのフォルダに入れます。去年の回答があれば、それも入れます。

2. 計算する:答えに使う数字を表で出しておく。 ここはAIの仕事ではありません。自社の表で、次のものを出しておきます。

  • 対象の期間の排出量(電気によるもの、燃料によるもの、合計)
  • 算定の範囲(どの事業所、どの車を含めたか)
  • 使った係数と、その年度
  • 前の年との差

3. 整理して下書きする:AIが項目の一覧と回答を書く。 AIに、質問票と、表で出した数字の一覧だけを渡し、次のものを下書きさせます。

  • 項目の一覧:質問票で聞かれている項目を1行ずつ並べ、慣れない言葉にはやさしい説明を付ける
  • 対応表:項目ごとに、自社の表のどの数字で答えるか。表にないものは「未算定」、判断が要るものは「社長が決める」と印を付ける
  • 回答の下書き:対応表の数字だけを使った回答。表にない数字は書かない

4. 送る:社長が照らして確かめる。 社長が、回答の数字を自社の表と照らし、算定の範囲に漏れがないかを確かめます。「社長が決める」の印の項目(削減の目標など)は、社長が決めて書きます。送ったら、回答と対応表を同じフォルダに残します。

整理と回答の型をスキルにし、数字はAIの外に置く

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

整理と回答の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 項目の一覧の型:質問、やさしい説明、答えの種類(数字、はい・いいえ、文章)
  • 対応表の型:項目、使う数字、自社の表の場所、印(未算定、社長が決める)
  • 回答の型:対象期間、算定の範囲、排出量、算定の方法、未算定の項目
  • 書いてはいけないこと:表にない数字、削減の約束、根拠のない「環境にやさしい」といった言い方、算定の範囲の書き換え

数字は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、排出量と算定の範囲を自社の表で計算しておくこと、AIに渡すのは表で出した数字の一覧だけにすること、社長が回答の数字を表と照らすことがそれに当たります。AIは数字を取り違えたり、もっともらしい数字を作ったりすることがあるので、計算はさせず、表にない数字は書かせません。

対応表を残すと、翌年も別の取引先にもすぐ答えられる

この仕組みでいちばん効くのは、項目と自社の数字の対応表を残すことです。

  • 翌年、同じ取引先から同じ質問票が届けば、対応表の数字を新しい年のものに替えるだけで、回答の下書きができます
  • 別の取引先の質問票でも、聞かれることの多くは同じです。対応表があれば、AIに「この対応表をもとに、新しい質問票の項目を対応づけて」と頼めます
  • 「未算定」の項目がたまってくると、次に何を算定すればよいかが見えます。取引先から何度も聞かれる項目から、算定を広げます

社長の仕事は、照らして確かめ、決める項目を書くことになる

仕組みが入ると、質問票への回答は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
質問票を読む 何を聞かれているか分からない AIが項目を一覧にし、言葉を説明
答える数字 項目ごとに探す 対応表で自社の表とつながる
答えられない項目 空欄のまま 「未算定」と正直に書く
削減の目標 AIや担当者が書いてしまう 社長が決めて書く
翌年 また一から 対応表の数字を替えるだけ

経営への効果は、早く正確に答え、取引の条件を満たすこと

効果は、前提を置いて考えます。

早く答えて守れるもの = 回答を条件にしている取引先との取引 + 回答の手直しにかかる時間

調査では、要請を受けた会社の4割が、対応が取引の条件か事実上求められていると答えています。期限までに、根拠のある数字で答えられることは、取引を守ることにつながります。社長の時間も、質問票を読み解いて数字を探していた時間が、対応表を照らす時間になります。

費用はほとんど要らず、AIの利用料は1件10円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 自社の排出量の表を整える(会社:担当者、親の記事の手順で。すでにあれば不要)
  2. 答えに使う数字の一覧を表で出す(会社:担当者、1時間)
  3. 項目の一覧、対応表、回答の型を決める(会社:社長と担当者、1時間)
  4. 型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

スキルにする場合で、作る側の目安は0.5人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の会社での目安
AIの利用料 質問票1件の整理と回答の下書き 1件約8円(下の計算)
表計算 すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 係数の年度の更新、対応表の見直し 年に1回

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。質問票の整理に、質問票とスキルで8,000トークンを読ませ、1,000トークンを書かせると約4円、回答の下書きに6,000トークンを読ませ、1,500トークンを書かせると約4円、合わせて1件約8円です(1ドル150円で計算)。

何か月で取り戻せるか

AIの利用料はわずかです。質問票が年に1〜2件なら、スキルにせず、会社で契約したAIのチャットに型を貼って頼むだけで十分です。取引先が多く、質問票が何件も届く会社ほど、対応表を育てる意味が大きくなります。

必要な人は2役で、決めるのは社長

役 誰が すること 時間
まとめる人 総務か経理の担当者 質問票と表をそろえ、AIの一覧と対応表を確かめる 1件1〜2時間
決める人 社長 回答の数字を照らし、削減の目標など決める項目を書いて送る 1件30分

計算の仕方や係数に迷ったら、商工会議所や、取引先が案内する算定の窓口に相談します。

最初の1件で対応表ができ、2件目から早くなる見込み

どこまでいけるかは、自社の排出量の表が整っているかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1件 項目の一覧と対応表ができ、期限内に回答する
2件目から 対応表を使い、整理と下書きが早くなる
翌年 同じ取引先には、数字を替えるだけで回答できる

効果を確かめるには、次の3つを記録します。

  • 1件の回答にかかった時間:最初と2件目以降を比べます
  • 「未算定」の項目の数:減らしていく目安にします
  • 期限までに回答できた割合:100%を目指します

AIに数字を埋めさせると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • AIに空欄の数字を埋めさせる。 もっともらしい数字が作られることがあります。表にない数字は「未算定」とします
  • 削減の目標をAIに書かせる。 目標と約束は社長が決めます
  • 対応表を残さない。 翌年も一から読み解くことになります
  • 算定の範囲をあいまいにする。 どこまでを含めたかを、回答に必ず書きます

取引先の質問票には、取引先の社内の情報が含まれることがあります。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 取引先の質問票と自社の排出量の表をそろえ、答えに使う数字は表で計算しておく
  • AIが質問票から聞かれている項目を一覧にし、自社の表の数字と対応づける。表にないものは「未算定」と残す
  • AIは対応表の数字だけで回答を下書きし、社長が表と照らして確かめ、決める項目を書いて送る
  • 対応表を残すと、翌年も別の取引先にもすぐ答えられる
  • 数字の計算と削減の約束はAIにさせない

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