バックアップは戻せて初めて役に立つ。戻す練習の手順と記録をAIで
この記事では、ランサムウェアで仕事を止めない。機器の台帳と初動の1枚をAIで整えるの「バックアップから戻す練習をする」を、毎回同じ形で続けられる仕組みとして作る方法を説明します。
一言でいうと、台帳の表に、守るデータごとのバックアップの取り方と、最後に戻せるかを試した日を持つ。今回戻すものは、表で日付の古い順に選ぶ。AIは、保守の業者と決めたことから、練習の手順書と、戻した後に業務で確かめることの一覧を下書きする。業者と担当者が実際に戻し、かかった時間と困ったことを表に残すという形です。バックアップを「取っているはず」から「戻せると分かっている」に変えます。
バックアップは、取るだけでは戻せないことがある
警察庁によると、令和8年上半期のランサムウェアの被害は国内で123件で、半期ごとでは過去最多でした(警察庁のレター、栃木県警察の資料による)。
警察庁の対策のページは、バックアップからの復旧が一般的な手段である一方、バックアップのデータまで暗号化される例が多く確認されているとしています。そのうえで、バックアップはこまめに取り、ネットワークから切り離して保存するなど、暗号化されないよう備えることをすすめています。日頃の運用の問題で、バックアップから戻すことがうまくいかない例もあるとし、被害を想定した訓練で、バックアップから戻す手順を確かめておくようすすめています。
IPAの教訓集(2026年9月)も、被害にあった会社への聞き取りから、次のことを挙げています。
- バックアップは、汚れている(攻撃者の手が入っている)おそれがあると、復旧に使えない。いつ侵入されたかを調べられるよう、記録(ログ)を残しておく
- バックアップから戻すと、戻した時点より後の入力が消える。その分を手作業で補うことが、現場の大きな負担になった会社がある
- バックアップを守り、戻せるかを試しておく
つまり、戻す練習で確かめたいのは、「戻せるか」だけでなく、「どのくらい時間がかかるか」「戻した後に業務で何を補うか」です。細かい中身は、警察庁とIPAの最新の資料で確かめ、保守の業者に見てもらってください。2026年10月時点の情報です。
今は、バックアップを取っているが、戻したことがない
多くの小さな会社では、バックアップは次のように扱われています。
- 保守の業者が設定した仕組みで、毎晩どこかにバックアップが取られている
- 社長は「バックアップはある」と聞いている
- 実際に戻したことは、一度もない
- 何かあって初めて、戻せない、時間がかかる、戻した後の補い方が分からない、と分かる
練習は、大げさなものでなくてかまいません。守るデータを1つ選び、業者と一緒に別の場所へ戻してみて、かかった時間と困ったことを残す。これを決まった間隔で繰り返します。
表で選び、AIが手順書を書き、人が実際に戻す
仕組みは4つの段でできています。
1. 書き出す:守るデータとバックアップの取り方を台帳に置く。 社長と業者で、守るデータ(受注と売上の記録、会計のデータ、顧客の一覧、図面や見積の共有フォルダなど)を書き出します。データごとに、バックアップの取り方(どこに、どのくらいの間隔で、ネットワークから切り離しているか)と、最後に戻せるかを試した日を台帳の表に入れます。
2. 選ぶ:今回戻すものを表で決める。 ここはAIの仕事ではありません。表で、最後に試した日が古い順に並べ、今回戻すものを1つ選びます。決めた間隔(たとえば3か月)を過ぎたものには印が付くようにします。
3. 下書きする:AIが練習の手順書を書く。 AIに、選んだデータの名前、バックアップの取り方、業者と決めた戻し方の要点だけを渡し、次のものを下書きさせます。
- 練習の手順書:当日の流れ(戻す先の準備、戻す、開けるか確かめる、片付ける)と、誰が何をするか
- 業務で確かめることの一覧:戻したデータを担当者が開いて見る点(最後の日付の取引が入っているか、ファイルが開けるか)と、本番で戻した場合に手で補うことになる入力の一覧
- 記録の欄:始めた時刻、終わった時刻、困ったこと、次に直すこと
4. 試す:業者と担当者が実際に戻し、表に残す。 業者が、本番とは別の場所にデータを戻します。担当者が手順書の一覧で中身を確かめます。かかった時間と困ったことを記録の欄に書き、試した日を台帳の表に入れます。記録のメモから、AIに振り返りの1枚を下書きさせ、社長が読みます。
手順書の型をスキルにし、選ぶ作業と記録はAIの外に置く
この仕組みが同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
手順書の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。
- 手順書の型:当日の流れ、役割、業務で確かめることの一覧、記録の欄の並び
- 振り返りの型:かかった時間、困ったこと、次に直すこと、業者に頼むことを、A4で1枚に
- 書いてはいけないこと:業者と決めていない設定の変更や操作の手順、本番のデータを上書きする手順、機器のパスワードや接続先の情報
選ぶ作業と記録は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、台帳の表で今回戻すものを選ぶこと、試した日と時間を表に残すこと、実際の操作は業者が行うことがそれに当たります。AIには、データの名前と戻し方の要点だけを渡し、機器の設定やパスワードは渡しません。AIはそれらしい操作の手順を作ることがあるので、手順の中身は業者が確かめます。
かかった時間と、戻した後に補う入力を必ず残す
この仕組みでいちばん効くのは、戻せたかどうかだけでなく、かかった時間と、戻した後に補う入力を残すことです。
- かかった時間:受注のデータを戻すのに半日かかるなら、その間の受注をどう受けるかを事業継続の計画に書きます
- 戻した後に補う入力:毎晩のバックアップなら、本番で戻すと、その日の入力が消えます。消えた分を、紙の控えやメールから入れ直す手順を、担当者と決めておきます
- 困ったこと:戻す先の場所が足りなかった、ファイルが開けなかった、などを業者に伝え、次の練習までに直してもらいます
IPAの教訓集が挙げる「戻した後の補いが現場の負担になった」という点は、練習でしか前もって分かりません。
社長の仕事は、練習の日を決めて振り返りを読むことになる
仕組みが入ると、バックアップの扱いは次のように変わります(想定です)。
| 今まで | 仕組みが入ったあと | |
|---|---|---|
| 戻せるか | 分からない | 試した日が台帳にある |
| 戻すのにかかる時間 | 分からない | データごとに記録がある |
| 戻した後に補うこと | 考えていない | 担当者と手順を決めてある |
| 練習の手順 | ない | 手順書の下書きを業者と確かめる |
| 社長が知ること | 「バックアップはある」 | 振り返りの1枚で、直すことが分かる |
経営への効果は、止まる時間を見通せること
効果は、前提を置いて考えます。
戻す練習で守れるもの = 仕事が止まる日数を短くすること + 戻せないと分かったときに前もって直せること
ランサムウェアで仕事が止まると、その間の受注や出荷が止まり、取引先にも迷惑がかかります。戻すのにかかる時間を前もって知っていれば、その間の代わりの手段を決めておけます。戻せないと練習で分かれば、被害にあう前に業者と直せます。
社長が判断に使える材料も変わります。「バックアップはある」という言葉ではなく、試した日と時間の記録で、守りが足りているかを見られます。
費用はほとんど要らず、AIの利用料は年に30円ほど
作る順番と、かかる日数
- 台帳の表に、守るデータとバックアップの取り方、試した日の列を足す(会社:社長と業者、1時間。親の記事の台帳を使えます)
- 戻し方の要点を業者と決める(会社:社長と業者、1時間)
- 型をスキルにする(作る人、0.5人日。会社で契約したAIのチャットに型を保存して使うなら不要)
作る費用
作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価
スキルにする場合で、作る側の目安は0.5人日です。
毎月の費用
| 費用 | 中身 | 想定の会社での目安 |
|---|---|---|
| AIの利用料 | 練習の手順書と振り返りの1枚 | 年に約30円(下の計算) |
| 表計算 | すでに使っているもの | 追加0円の想定 |
| 保守の業者 | 練習の立ち会い | 保守の契約による |
AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。手順書の下書きに、要点とスキルで4,000トークンを読ませ、2,000トークンを書かせると約4円、振り返りに3,000トークンを読ませ、1,000トークンを書かせると約2円、1回で約7円です。3か月に1回、年に4回で約30円です(1ドル150円で計算)。
何か月で取り戻せるか
AIの利用料はわずかです。かかるのは、練習の日に業者と担当者が使う数時間と、業者の立ち会いの費用です。守るデータが少ない会社は、スキルにする手間をかけず、会社で契約したAIのチャットに型を貼って頼むだけで十分です。大事なのは、AIではなく、決めた間隔で実際に戻してみることです。
必要な人は3役で、実際に戻すのは業者
| 役 | 誰が | すること | 時間 |
|---|---|---|---|
| 台帳を保つ人 | 総務の担当者 | 今回戻すものを選び、記録を表に残す | 練習ごとに1時間 |
| 戻す人 | 保守の業者 | 本番とは別の場所に戻し、困ったことを直す | 練習ごとに半日ほど |
| 決める人 | 社長 | 練習の日を決め、振り返りを読み、直すことを決める | 練習ごとに30分 |
1年で守るデータを一回りし、時間の見通しが立つ見込み
どこまでいけるかは、練習の日を予定に入れ続けられるかで決まります。目安は次のとおりです(想定です)。
| 時期 | 見込み |
|---|---|
| 最初の練習 | いちばん大事なデータを1つ戻す。手順書の型を直す |
| 3か月後 | 2つ目のデータを戻す。1回目に困ったことが直ったかを見る |
| 1年後 | 守るデータを一回りし、データごとの戻す時間が台帳にそろう |
効果を確かめるには、次の3つを記録します。
- データごとの、戻すのにかかった時間:練習ごとに残します
- 困ったことと、直した日:次の練習で直ったかを見ます
- 間隔を過ぎても試していないデータの数:台帳の印で数えます
本番のデータに上書きして練習すると失敗する
作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。
- 本番の場所に戻す。 練習で本番のデータを上書きすると、それ自体が事故になります。戻す先は、必ず本番とは別の場所にします
- 戻せたかだけを見る。 ファイルが開けても、最後の日付の取引が入っていないことがあります。担当者が業務の目で中身を確かめます
- バックアップをつなぎっぱなしにする。 ネットワークにつながったままのバックアップは、一緒に暗号化されるおそれがあります。切り離し方を業者と決めます
- AIの手順をそのまま実行する。 AIが書いた手順は下書きです。操作の中身は業者が確かめてから使います
台帳には、守るデータの場所など、攻撃者に知られたくない情報が入ります。AIに渡すのは、データの名前と戻し方の要点だけにし、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。台帳の作り方は外とつながる機器とバックアップを台帳に。期限は表、業者への依頼はAI、止まったときの代わりの手段は災害の翌日も取引先への供給を止めない。事業継続の計画をAIで1枚から作るで説明しています。
まとめ
- 警察庁とIPAは、バックアップまで暗号化される例や、日頃の運用の問題で戻せない例を挙げ、戻す手順を訓練で確かめるようすすめている
- 守るデータごとのバックアップの取り方と、最後に試した日を台帳の表に持ち、今回戻すものを日付の古い順に選ぶ
- AIは、業者と決めたことから、練習の手順書と、業務で確かめることの一覧を下書きする。操作の中身は業者が確かめる
- 業者が本番とは別の場所に戻し、担当者が中身を確かめ、かかった時間と困ったことを表に残す
- 戻した後に手で補う入力を、担当者と前もって決めておく