経営課題×AI

人事評価の面談を社員が納得する場にする。日々の記録と準備をAIで

この記事で変わる経営指標

この記事では、小さな会社の人事評価を、社員が納得する仕組みにする方法を、AIを使う前提で説明します。一言でいうと、上司が日々、部下の良かった行動や困りごとを一言ずつ記録に残し、評価の時期にはAIがその記録から「この半年に何があったか」の一覧と評価のコメントの下書きを作る。評価の点数や昇給の額は人が決め、面談では記録の事実をもとに話すという話です。

AIの価値は、社員を評価することではありません。上司が忘れていた半年分の事実を、評価の時期に手元にそろえ、面談を「印象の話」から「事実の話」に変えることです。

経営への効果は、評価の準備が短くなり、社員が辞めにくくなること

人事評価の進め方は、AIを使うと次のように変わります。

今まで 日々の記録とAIを使う
評価の材料 評価の時期に、上司が思い出せることだけ 半年分の一言の記録
評価のコメント 上司が一から書く。直前の出来事に引っぱられる 記録から事実の一覧とコメントの下書きをAIが作り、上司が直す
面談 「最近がんばっているね」のような印象の話 「6月の〇〇の件で、こう動いてくれた」という事実の話
次の目標 毎回同じような目標になる 記録の困りごとから、具体的な目標の案を作る
決めること 上司と社長 変わらず上司と社長。AIは決めない

効果の大きさは、前提を置いて考えます。仮に、社員30人の会社で、年に2回評価をしているとします。評価のコメントを書くのに1人60分、面談の準備に1人30分かかっていたものが、記録とAIの下書きを使ってそれぞれ20分と10分になれば、1回の評価で30時間、年に60時間が上司の手に戻ります。1時間あたりの人件費を仮に2,500円とすると、年15万円分です。

ただ、大きいのは時間ではありません。評価に納得できない社員は、黙って辞めていきます。新しい人を採るのに手間とお金がかかる今、評価の面談で「自分のことをちゃんと見てくれている」と社員が感じられることは、人を残すための大事な手です。

評価に納得できないのは、上司が半年分を覚えていないから

小さな会社の人事評価がうまくいかない理由は、だいたい次のどれかです。

  • 上司が覚えていない。 半年前に部下がしてくれた良い仕事を、評価の時期に思い出せません。覚えているのは、直前の失敗や目立った出来事だけです
  • 書く時間がない。 上司は自分の仕事も抱えています。部下の人数分のコメントを書く時間が取れず、短い決まり文句になります
  • 面談が印象の話になる。 事実が手元にないので、「もう少し積極的に」のような、何をすればよいか分からない話になります
  • 次の目標がぼんやりする。 何に困っていたかが記録にないので、毎回同じような目標が並びます

社員の側から見ると、「ちゃんと見てもらえていない」と感じる評価になります。AIは、このうち「半年分の記録を整理する」「コメントと面談の準備を下書きする」を手伝えます。

上司は、部下の良かった行動と困りごとを一言ずつ残す

人事評価の進め方。今までは評価の時期に上司が思い出せることだけで書き、面談が印象の話になっていた。日々の記録を使ったあとは、上司が一言ずつ残した半年分の記録からAIが事実の一覧とコメントを下書きし、上司が直して事実をもとに面談する
人事評価の進め方。今までは評価の時期に上司が思い出せることだけで書き、面談が印象の話になっていた。日々の記録を使ったあとは、上司が一言ずつ残した半年分の記録からAIが事実の一覧とコメントを下書きし、上司が直して事実をもとに面談する

仕組みの土台は、上司が日々残す一言の記録です。

記録すること。 部下ごとに、気づいたときに一言ずつ残します。

  • 良かった行動(「お客様の急ぎの注文に、残って対応してくれた」「新人に手順を教えてくれていた」)
  • 困っていたこと(「見積の計算で手が止まっていた」「朝の段取りが遅れがち」)
  • 本人が話していたこと(「来年は資格を取りたいと言っていた」)

記録の仕方。 スマホのメモやフォームに、日付と部下の名前と一言を書くだけです。1回30秒で済みます。週に1回、部下ごとに1つ書ければ、半年で20以上の事実がたまります。

記録しないこと。 性格の決めつけ(「やる気がない」)、私生活のこと、ほかの社員との比較です。記録は事実だけにします。

評価の時期には、記録からAIが事実の一覧とコメントを下書きする

AIに頼むこと。 評価の時期に、部下1人分の半年の記録と、会社の評価の項目(たとえば「仕事の質」「お客様への対応」「チームへの貢献」「成長」)を渡し、項目ごとに当てはまる事実を並べ、評価のコメントの下書きを作ってもらいます。 人がすること。 上司が、事実が合っているかを確かめ、コメントを自分の言葉に直します。評価の点数と昇給の額は、上司と社長が決めます。 何が変わるか。 一から書いていたコメントが、記録をもとにした下書きを直す仕事になります。直前の出来事に引っぱられず、半年全体を見た評価になります。記録が続き、評価の時期に下書きが届く仕組みの作り方と費用は、評価の時期に部下ごとの事実の一覧が届く。日々の記録からAIで下書きする仕組みで説明しています。

AIへの頼み方と、返ってくる下書きはこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、社員Aさんの4月から9月までの上司の記録です。会社の評価の項目「仕事の質」「お客様への対応」「チームへの貢献」「成長」ごとに、当てはまる記録を日付つきで並べてください。記録にないことは書かないでください。どの項目にも当てはまらない記録は「その他」にしてください。最後に、項目ごとに2〜3行の評価のコメントを、本人に伝える言葉で下書きしてください。点数や順位は書かないでください。

返ってくる下書き(見本):

お客様への対応

  • 6月12日:お客様の急ぎの注文に、残って対応してくれた
  • 8月3日:クレームの電話で、事実を確かめてから上司に引き継いでくれた

コメントの下書き:急ぎの注文やクレームの電話で、お客様の困りごとを先に考えて動いてくれました。特に8月のクレームの電話では、事実を確かめてから引き継いでくれたので、その後の対応がスムーズでした。

成長

  • 5月20日:見積の計算で手が止まっていた
  • 9月10日:見積を一人で作れるようになった

コメントの下書き:春は見積の計算で迷う場面がありましたが、9月には一人で作れるようになりました。次は、利益の出る見積の組み方を身につけてほしいと考えています。

上司は、日付と事実を記録と見比べ、言い回しを直します。

面談は、記録の事実をもとに話し、次の目標を一緒に決める

AIに頼むこと。 面談の前に、評価のコメントと記録の困りごとから、面談で話す順番(良かったこと、伸ばしてほしいこと、次の目標の案)と、本人に聞きたい質問の候補を作ってもらいます。 人がすること。 上司が順番と質問を確かめ、面談では本人の話をよく聞きます。次の目標は、AIの案をたたき台に、本人と一緒に決めます。 面談のあと。 上司が話したことを一言ずつメモし、AIに面談の記録として整えてもらいます。次の評価の材料になります。

面談は、評価を伝える場であると同時に、本人の困りごとや希望を聞く場です。記録の事実があれば、「6月の件はどうだった?」と具体的に聞けます。新人の離職を減らす考え方は、小さな会社の新人の離職を減らす方法。聞きにくい質問はAIが受けるで説明しています。

評価の項目と書き方をスキルにし、点数と昇給はAIの外で決める

ここまでの使い方は、1回ずつ頼んだ場合です。上司のみんなが同じ質で使うには、もう一段の工夫が要ります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

評価の項目と書き方の決まりを Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「会社の評価の項目と、それぞれで見ていること」「コメントの書き方(事実→良かった点→次に期待すること)」「書いてはいけないこと(性格の決めつけ、ほかの社員との比較、私生活)」「上司が直した良いコメントの見本」をスキルにします。上司によってコメントの質がばらつかなくなります。

点数、昇給、記録の数は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、評価の点数と昇給の額を上司と社長が決めて表に入れること、部下ごとの記録の数を数えて記録が少ない部下に印を付けること、AIの下書きに出てきた日付が記録にあるかを照らすことがそれに当たります。記録が少ない部下は、上司が見ていない部下です。評価の前に気づけます。

明日からは、部下3人について、1週間に1つずつ記録する

  1. 上司を1人選び、部下3人について、1週間に1つずつ、良かった行動か困っていたことを一言で記録してもらう
  2. 記録の場所は、スマホのメモやフォームで十分。日付と名前と一言だけ
  3. 1か月たったら、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、上の見本の指示で、1人分の記録を項目ごとに並べさせる
  4. 並んだ事実を見て、上司が「思い出せていなかったこと」がいくつあったかを数える
  5. 次の評価の時期までこの記録を続け、コメントの下書きに使う

最初から全員に広げなくて大丈夫です。1人の上司が「記録があると楽だ」と感じれば、ほかの上司にも広げやすくなります。

AIに評価を決めさせたり、記録で監視したりしない

  • 評価の点数や昇給をAIに決めさせない。 AIは、記録を並べてコメントを下書きするまでです。点数と昇給は、上司と社長が決め、理由を本人に説明できるようにします
  • 記録を監視の道具にしない。 記録は、良かった行動を忘れないためのものです。失敗ばかりを記録すると、社員は記録されることを嫌がります。良かった行動を多めに書くように、上司に伝えておきます
  • 記録を本人に見せられるものにする。 本人に見せられないことは書きません。面談で「こういう記録がある」と見せられる内容にしておくと、納得につながります
  • 社員の情報の扱いを決める。 評価の記録は、社員の大事な個人情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、見られる人を上司と社長に限ります。社内ルールの決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 人事評価に社員が納得できないのは、上司が半年分の事実を覚えていないから。上司が日々、部下の良かった行動と困りごとを一言ずつ記録に残す
  • 評価の時期には、AIが記録から項目ごとの事実の一覧と評価のコメントを下書きし、上司が直す。仮に社員30人・年2回なら、年に60時間ほどが上司の手に戻る
  • 面談は記録の事実をもとに話し、次の目標を本人と一緒に決める。面談の記録も次の評価の材料にする
  • 評価の点数と昇給はAIに決めさせない。記録の数を数え、記録が少ない部下に気づく
  • まずは上司1人が、部下3人について1週間に1つずつ記録することから始める

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