タクシー会社のAI活用|記録と苦情の返事を整え、運転者を道路に出す
この記事で変わる経営指標
この記事では、小さなタクシー会社を営む社長に向けて、AIが効く業務を4つ挙げ、どう使うかを説明します。一言でいうと、苦情の返事、乗務の記録、事故の記録、運転者への指導の記録を、AIに下書きや整理をさせる。点呼と酒気帯びの確認、運行の指示は運行管理者が行うという話です。
AIの価値は、運転や運行管理の代わりをすることではありません。法律で決まった記録と、お客さまへの返事のように、事務所に残る書きものを減らし、運行管理者が運転者と向き合う時間を増やすことです。
経営への効果は、少ない人数で記録を守り、運転者を道路に出すこと
全国ハイヤー・タクシー連合会が国土交通省の審議会に出した資料によると、令和5年度の法人タクシーの事業者は5,549社、車両は168,836台です。同じ資料では、東京ハイヤー・タクシー協会のデータとして、運転者の数はコロナ禍の直後の令和2年3月末と比べて約86%まで戻ったとされています。まだ元の数には届いていません。
運転者が足りないと、車があっても走らせられません。そして小さな会社では、運行管理者や事務の人が、点呼のほかに記録づくりや苦情の対応まで受け持っています。記録が月末に残ると、運転者の話を聞く時間や、新しい運転者を育てる時間が削られます。
AIで書きものの下書きと整理を引き受ければ、運行管理者は点呼と指導に時間を使えます。記録がそろっていれば、苦情や事故をあとで振り返るときにも、すぐに経緯をたどれます。
| 業務 | 今のやり方(よくある形) | AIで変わること | 経営効果 |
|---|---|---|---|
| 苦情の返事 | 電話を受けた人が覚えている範囲で返す | 経緯を整理して返事と記録を下書き | 信頼 |
| 乗務の記録 | 運転者の日報を事務が写す | 日報を決まった欄に整え、空欄に印 | 業務の無駄 |
| 事故の記録 | 事故報告書と別に手で書く | 8つの項目に並べ、空欄に印 | 安全 |
| 指導の記録 | 話したことが記録に残らない | 話した内容を記録の形に整える | 安全 |
苦情は1年、乗務は1年、事故と指導は3年残す
e-Gov法令検索で旅客自動車運送事業運輸規則を確かめると、タクシー会社が残す記録が決まっています。
| 記録 | 条文 | 中身 | 保存 |
|---|---|---|---|
| 苦情 | 第3条 | 苦情の内容、原因究明の結果、弁明の内容、改善措置、担当者 | 営業所ごとに1年 |
| 点呼 | 第24条 | 点呼を行った者と受けた運転者、車両、日時、方法、報告・確認・指示の内容 | 1年 |
| 乗務 | 第25条 | 運転者の氏名、車両、業務の開始と終了の地点と日時、休憩、事故や異常、乗車した区間、走行距離の積算キロ数 | 車両ごとに整理して1年 |
| 事故 | 第26条の2 | 乗務員の氏名、車両、日時、場所、当事者の氏名、概要、原因、再発防止対策 | 営業所で3年 |
| 指導監督 | 第38条 | 日時、場所、内容、行った者、受けた者 | 営業所で3年 |
近畿運輸局の「運行管理業務について」(2026年)でも、事故の記録は3年、業務の記録は1年、指導監督の記録は営業所に3年保存すると説明されています。事故の記録は、自動車事故報告書を利用してもよいとされています。
苦情を申し出た人には、遅滞なく弁明しなければなりません(第3条)。第38条では、新しく雇い入れた運転者や65歳以上の運転者などには、特別な指導を行い、適性診断を受けさせることも決まっています。
細かな決まりは、営業所のある地方運輸局の案内で確かめてください。2026年10月時点の情報です。
点呼と酒気帯びの確認は、運行管理者が行う
第24条では、運行の前と後に、対面などで点呼を行い、酒気帯びの有無や、病気・疲れ・睡眠不足で安全に運転できないおそれがないかを確かめることとされています。営業所にアルコール検知器を備え、目で見ることとあわせて検知器で確かめます。
点呼は、運転者の顔と様子を見て、走らせるかを決める仕事です。AIにはさせません。AIが手伝えるのは、点呼が終わったあとの記録の清書や、記録の空欄に印を付けることまでです。
苦情の返事は、経緯を整理してから下書きする
人がすること(最初に)。 苦情を受けた人が、聞いたことをそのままメモします。運転者からも話を聞き、乗務の記録と照らします。
AIに頼むこと。 メモと運転者の話と記録を渡し、経緯を時系列に並べてもらいます。そのうえで、お客さまへの返事の下書きと、第3条の5つの項目の記録の下書きを作ってもらいます。
人がすること(そのあと)。 運行管理者か社長が、事実と合っているかを確かめ、改善措置を決めてから返します。誰が悪いかの判断や、お金の話はAIに書かせません。メモの欄と記録の5つの項目、返事の見本は、タクシーの苦情の返事|経緯を整理してAIで下書きし、5つの項目を1年残すで説明しています。
乗務の記録は、運転者の日報を欄に整える
AIに頼むこと。 運転者の手書きの日報の写真や、メモを渡し、乗務の記録の欄(開始と終了の地点と日時、休憩、乗車した区間など)に並べてもらいます。足りない欄には印を付けさせます。
人がすること(そのあと)。 事務が運行記録計の記録や日報の原本と照らし、空欄を運転者に聞いて埋めます。走行距離の積算キロ数のような数字は、原本から写し、AIに書かせません。
事故の記録は、8つの項目に並べて空欄に印を付ける
AIに頼むこと。 運転者の話と現場の写真のメモから、第26条の2の8つの項目(乗務員の氏名、車両、日時、場所、当事者、概要、原因、再発防止対策)の欄に並べてもらいます。
人がすること(そのあと)。 原因と再発防止対策は、運行管理者と社長が話し合って決めます。AIが書いた原因をそのまま使いません。
指導の記録は、話した内容を記録の形に整える
AIに頼むこと。 運行管理者が運転者に話したことを、スマホで録音するかメモにして渡し、第38条の記録(日時、場所、内容、行った者、受けた者)の形に整えてもらいます。
人がすること(そのあと)。 運行管理者が確かめて残します。何を指導するかは、運行管理者が決めます。
新しい運転者の育て方も、記録から見えてくる
指導の記録がそろってくると、新しく入った運転者に何を、いつ、誰が教えたかが一覧で見えます。
- 教えたことの抜けが分かる。 第38条の特別な指導のうち、まだ記録がない人に印を付けます
- よく出る苦情を教える材料にする。 苦情の記録から、道順や接客で多い申し出を拾い、次の指導で話します
- ベテランの話を残す。 地理や乗り場のコツを、ベテランが話したメモからAIに手引きの形に整えさせます
教える中身と順番を決めるのは、運行管理者です。
運行の判断と、事故の責任はAIに任せない
AIに任せないことを、先に決めておきます。
- 点呼と、走らせるかの判断。 酒気帯びや体調の確認は、運行管理者が行います
- 運行の指示と、乗務の割り振り
- 事故の原因と責任の判断。 保険会社や警察とのやりとりも人が行います
- 苦情への最終の返事と、改善措置の決定
- お客さまの情報を入れすぎない。 名前や電話番号は消すか、会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱います
型をスキルにし、判断はAIの外に置く
型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「苦情の記録の5項目と返事の型」「乗務の記録の欄」「事故の記録の8項目」「指導の記録の欄」「させないこと(数字を書く、原因を決める、責任に触れる)」をスキルにします。
判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、運行管理者が点呼と指導を行うこと、数字を運行記録計や日報の原本から写すこと、原因と対策を人が決めることがそれに当たります。
始める順番は、毎日の量が多く、間違えても直せる仕事から決める
- 乗務の記録:毎日あり、原本と照らせば間違いを直せる
- 指導の記録:話したあとに整えるだけで、すぐに効く
- 苦情の返事:件数は少ないが、経緯の整理に時間がかかる
- 事故の記録:起きたときに慌てないよう、型だけ先に作っておく
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
記録と返事の下書きは、会社で契約した、入力をAIの学習に使わない法人向けのプランのチャットで足ります。費用は1人あたり月数千円です。配車や運行管理の仕組みとつなぐ場合は、その仕組みの会社に、つなげるかと費用を確かめます。
明日からは、1台分の日報を1週間、欄に整えてみる
- 運転者1人の日報を1週間分集める
- AIに乗務の記録の欄に並べさせ、空欄に印を付けさせる
- 事務が原本と照らして直した時間と、これまで写していた時間を比べる
苦情の返事の型は、その次に作ります。
効果は、記録にかかる時間と、運行管理者が運転者と話す時間で測る
| 測るもの | 見方 |
|---|---|
| 記録の時間 | 乗務の記録と指導の記録にかけた時間(事務と運行管理者が測る) |
| 空欄の数 | 月末に見つかる記録の空欄の数 |
| 苦情の返事 | 申し出から弁明までの日数 |
| 運転者と話す時間 | 運行管理者が指導や面談に使った時間 |
始める前の1か月を、先に測っておきます。
まとめ
- 旅客自動車運送事業運輸規則で、苦情は1年、点呼と乗務の記録は1年、事故と指導監督の記録は3年保存すると決まっている
- AIが効くのは、苦情の返事、乗務の記録、事故の記録、指導の記録の4つ
- 数字は原本から写し、事故の原因と対策は人が決める
- 点呼と酒気帯びの確認、運行の指示は運行管理者が行い、AIに任せない
- まずは1台分の日報を1週間、欄に整えるところから始める