AI×業種

整備士が足りなくても車を回す。整備工場の事務をAIに任せる方法

この記事では、整備士が数人ほどの自動車整備工場で、AIが効く業務を4つ挙げ、それぞれが経営の何に効くかを説明します。一言でいうと、整備士とフロントが閉店後や作業の合間にこなしている「説明を書く・案内を出す・返事をする・記録を清書する」仕事をAIに下ごしらえさせ、整備士がピットで車を見る時間を増やすという話です。その結果、整備士が足りないままでも受けられる台数が増え、車検と点検のお客様が離れにくくなります。故障の診断をAIに任せることや、写真だけで修理代を見積もらせることは、今はまだ後回しでかまいません。

AIの価値は、車を直すことではありません。車を直す人が、車の前にいられる時間を増やすことです。

経営への効果は、同じ人数で受けられる台数が増えること

4つの業務と、それぞれが経営の何に効くかを先にまとめます。

業務 AIで変わること 経営効果 始めやすさ
整備の見積の説明 点検の写真と整備士のメモから、お客様向けの説明文をAIが下書きする 売上(納得して頼んでもらえる) 始めやすい
車検・点検の案内 満了日が近い車を計算で選び、前回の整備に触れた案内をAIが下書きする 売上(お客様が離れにくい) 始めやすい
予約と問い合わせへの返事 電話のあとのメッセージやメールの返事をAIが下書きする 業務の無駄(フロントの手が空く) 始めやすい
整備記録の清書 整備士が話したメモから、記録の下書きをAIが作る 人手不足(整備士の事務の時間が減る) 少し準備が要る
故障の自動診断・写真だけの査定 診断や修理代をAIに任せる 準備と責任が大きい 後回しでいい
自動車整備工場でAIが効く4つの業務と経営効果。整備の見積の説明と車検・点検の案内は売上、予約と問い合わせへの返事は業務の無駄、整備記録の清書は人手不足に効く。故障の自動診断と写真だけの査定は後回し
自動車整備工場でAIが効く4つの業務と経営効果。整備の見積の説明と車検・点検の案内は売上、予約と問い合わせへの返事は業務の無駄、整備記録の清書は人手不足に効く。故障の自動診断と写真だけの査定は後回し

効果の大きさは、次の式で考えます。

月に戻る時間 = 業務ごとの(今の時間 − AIを使ったあとの時間)の合計

仮に、整備士4人とフロント1人の工場で、月に次の量があるとします。

業務 月の量 今 AIを使ったあと 浮く時間
見積の説明 120台 1台10分(20時間) 1台4分(8時間) 12時間
車検・点検の案内 80台 1台5分(約7時間) 1台1分(約1時間) 約5時間
予約と問い合わせへの返事 150件 1件5分(12.5時間) 1件2分(5時間) 7.5時間
整備記録の清書 120台 1台8分(16時間) 1台3分(6時間) 10時間

合わせて、月に約35時間です。そのうち整備記録の清書と見積の説明の多くは整備士の時間なので、整備士の手が月に20時間ほど空く計算です。1台の整備に2時間かかるなら、月に10台ほど多く受けられる時間です。

整備士の求人倍率は5倍を超え、人は簡単には増えない

自動車整備の人手不足は、数字ではっきり出ています。共同通信が厚生労働省への取材で伝えたところでは、自動車整備・修理工の2024年度の有効求人倍率は5.09倍で、全職種の平均の1.14倍を大きく上回りました。2020年度の4.50倍から毎年上がっています。国土交通省の講演を伝えた業界紙の記事でも、2022年度末の自動車整備士の有効求人倍率は4.72倍(全産業の平均は1.19倍)とされていて、5倍前後の状態が続いていることが分かります。

求人を出しても、整備士はほとんど来ません。同じ共同通信の記事では、帝国データバンクの集計として、2024年度の自動車整備事業者の休廃業・解散・倒産が445件と過去最多だったと伝えています。納期の遅れや、受ける台数を絞る工場も目立つとされています。

人が増えないなら、今いる整備士の時間を、整備そのものに使えるようにするしかありません。整備士が夕方に事務所でしている書きものをAIに下ごしらえさせるのは、人を増やさずに受ける台数を増やす、いちばん手軽な方法です。

見積の説明は、写真とメモからAIが下書きする

今のやり方。 点検で見つかった不具合を、整備士がフロントに口頭で伝え、フロントがお客様に電話で説明しています。「ブレーキパッドが残り3ミリで」と言われても、お客様には、今すぐ替えるべきかどうかが分かりません。分からないので「今回はいいです」と断られることもあります。

AIを使うと。 整備士が、不具合の写真と、短いメモ(「Fパッド残3mm。次の車検までもたない。ローターは問題なし」)を送ります。AIは、お客様に送る説明文を下書きします。「今回替えたほうがよいもの」「次回まで様子を見てよいもの」を分け、なぜそうなのかを、専門用語を言い換えて書きます。金額は、AIに書かせず、見積のソフトの数字を差し込みます。フロントは確かめて、写真と一緒にお客様に送ります。

何が変わるか。 お客様は、写真と説明を見て、納得して頼めます。電話での長い説明が減り、フロントの手が空きます。

つまずきどころ。 「安全のためにすぐ交換が必要です」のような言い切りは、整備士の判断です。AIが判断を足さないよう、メモに無い判断は書かせません。

車検と点検の案内は、前回の整備に触れて出す

今のやり方。 車検の満了日が近いお客様に、はがきか、同じ文面のメッセージを送っています。お客様から見ると、どこの工場からも同じような案内が届きます。

AIを使うと。 お客様の台帳から、車検の満了日が2か月以内の車を計算で選びます。AIは、前回の整備の記録(「前回、タイヤの溝が少なめとお伝えしました」など)に触れた案内を下書きします。フロントは確かめて送ります。メールやメッセージで送る場合は、送り主の名前と、受け取りを断る連絡先を末尾に入れます。広告や宣伝のメールの決まりは、展示会の名刺を3日で商談につなげる。お礼のメールをAIで一人ずつ書く方法で説明しています。

何が変わるか。 「この工場は、うちの車のことを覚えている」と思ってもらえます。車検の時期にほかの工場へ流れるお客様が減ります。組み方・費用・必要な人は、車検のお客様をほかの工場に取られない。前回の整備に触れた案内をAIで出す仕組みで説明しています。

つまずきどころ。 満了日を選ぶのは、AIではなく計算です。満了日をAIに読ませると、日付を取り違えることがあります。

予約と問い合わせへの返事は、AIが下書きする

今のやり方。 フロントが、電話を受けながら、メッセージやメールの問い合わせ(「タイヤ交換の予約をしたい」「オイル交換はいくら」)に1件ずつ返事を書いています。作業が混む日は、返事が夕方になります。

AIを使うと。 問い合わせの文と、空いている予約の枠と、よくある作業の料金表を渡し、返事を下書きさせます。フロントは確かめて送ります。

何が変わるか。 返事が早くなり、予約につながりやすくなります。返事を早くする考え方は、問い合わせに1時間以内に返す会社が商談を取る。AIで返事を速くする方法で説明しています。

つまずきどころ。 予約の枠と料金は、AIの文をそのまま使わず、予約表と料金表で確かめます。

整備記録の清書は、整備士が話したメモからAIが下書きする

今のやり方。 整備士が、作業が終わったあと、事務所で整備の記録を書いています。1台8分でも、1日に何台もあれば、夕方の1時間が記録に消えます。

AIを使うと。 整備士は作業の直後に、スマホに向かって、交換した部品、測った値、気になったことを話します。AIはそれを、工場で使っている記録の形に整えて下書きします。整備士は、値と部品を確かめて直し、記録として残します。

何が変わるか。 記録を書く時間が短くなり、整備士が夕方までピットにいられます。記録の言葉がそろうので、次の点検のときに前回の状態が読みやすくなります。

つまずきどころ。 点検や整備の記録は、整備士が責任を持つものです。測った値や交換した部品は、AIの下書きをそのまま使わず、整備士が必ず確かめます。話したメモに無い値をAIが埋めないよう、無い欄は空けておかせます。話したことを記録の下書きにする考え方は、介護の例ですが介護記録を話すだけで下書きにする。職員の残業を減らすAIの仕組みが参考になります。

故障の自動診断と、写真だけの査定は後回しでいい

AIで何でもできそうに見えても、次の2つは後回しをすすめます。

  • 故障の自動診断。 症状や診断機の結果からAIに原因を決めさせる仕組みは、間違えたときに安全に関わります。原因を決めるのは整備士です。AIは、過去の似た記録を探して並べる程度にとどめます
  • 写真だけの修理代の査定。 板金や修理の金額を写真からAIに出させる仕組みは、見えない傷や部品の値段の変化で外れることがあります。金額は、整備士が車を見て、見積のソフトで出します

まずは、間違えても人がすぐに気づけて直せる、書く仕事から始めます。

工場の言葉をスキルにし、日付と金額はAIの外で確かめる

ここまでの使い方は、1回ずつ頼んだ場合です。工場のみんなが毎日使うなら、もう一段の工夫で、誰が使っても同じ質の文が出るようにします。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

工場の言葉と説明の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。整備工場なら、「部品の名前のお客様向けの言い換え(ブレーキパッド=ブレーキの効きを生む消耗品)」「見積の説明の型(今回替えるもの、次回でよいもの、理由)」「車検の案内の見本」「記録の形」を、良い見本と一緒にスキルにしておきます。

日付と金額と測った値は、AIの外で確かめる。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。整備工場では、車検の満了日を台帳から計算で選ぶこと、見積の金額を見積のソフトから差し込むこと、記録の測った値を整備士のメモと照らすことがそれに当たります。お客様に伝える日付と金額と、記録に残す値だけは、AIの文をそのまま使いません。

始める順番は、毎日の量が多く、間違えても直せる仕事から決める

4つのうち、どれから始めるかは、次の基準で決めます。

  1. 毎日の量が多いか:毎日の書きものほど、浮く時間が大きい
  2. 間違えても直せるか:お客様に出す前に、人が確かめて直せる仕事から
  3. 材料がそろっているか:点検の写真、お客様の台帳、料金表など、AIに渡すものがすでにあるか
  4. 整備士が面倒だと感じているか:面倒な仕事ほど、使ってもらえる

多くの工場では、見積の説明と、予約と問い合わせへの返事が、この4つを満たします。整備記録の清書は、記録の形を決めてから進めます。

費用は、法人向けプランの月数千円から始められる

最初は、AIのチャットの画面に写真とメモや問い合わせの文を渡して使うだけで試せます。費用は、入力した内容をAIの学習に使わない法人向けプランの利用料で、1人あたり月数千円です。まずはフロントの分だけで十分です。

車検の満了日が近い車を自動で選んで案内の下書きを作る、整備士が話したメモから記録の下書きを自動で作る、といった仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。

お客様の名前や連絡先、車の登録の情報は、個人情報です。社内のルールは先に決めておきます。社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールが参考になります。整備士の採用そのものについては、求人の応募をAIで増やす方法。現場の1日を求人票に書くだけで変わるが参考になります。

効果は、整備士がピットにいる時間と、車検の戻り率で測る

業務ごとに、次の数字を始める前と後で比べます。

業務 測る数字
見積の説明 説明にかかる時間、追加の整備を頼んでもらえた割合
車検・点検の案内 案内した車のうち、自社で車検を受けた割合
予約と問い合わせへの返事 返事までの時間、問い合わせから予約につながった件数
整備記録の清書 記録1台にかかる時間
全体 月に受けた台数、整備士1人あたりの整備の売上

いちばん大事なのは、「月に受けた台数」と「車検で戻ってくる割合」です。整備士の時間が整備に戻り、お客様が車検のたびに戻ってくれば、人を増やさずに売上が伸びます。

最初の1か月は、見積の説明と問い合わせの返事だけ試す

  1. フロントの分の法人向けプランを用意する
  2. 1週目は、点検で見つかった不具合の説明を、写真と整備士のメモからAIに下書きさせて送る。金額は見積のソフトから写す
  3. 2週目からは、メッセージやメールの問い合わせへの返事も、AIに下書きさせる(予約の枠と料金は人が確かめる)
  4. 1か月の終わりに、説明と返事にかかった時間と、追加の整備を頼んでもらえた割合を、始める前と比べる
  5. 効果があれば、工場の言葉と説明の型をスキルにまとめ、車検の案内と整備記録に広げる

まとめ

  • 自動車整備工場のAI活用は、整備士とフロントの書きものの時間を減らし、整備士がピットにいる時間を増やすことに効く。仮の前提で、整備士4人の工場で月に約35時間が戻る
  • 自動車整備・修理工の有効求人倍率は2024年度に5.09倍(全職種平均1.14倍)。人は簡単には増えない
  • AIが効くのは、整備の見積の説明、車検と点検の案内、予約と問い合わせへの返事、整備記録の清書の4つ
  • 車検の満了日、金額、測った値はAIの外で確かめる。判断と記録の責任は整備士
  • 故障の自動診断と写真だけの査定は後回しでいい

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